決別
劈くエンジン音にようやく耳が慣れた頃、境生達を乗せた軽トラックが青葉の家へと到着した。
庭には昨日、哉来を運んだ白い車が停まっていた。道明が気になって車内を良く見てみると、真っ白な運転手が微動だにせず座っていた。
「どうやらもう検査結果がでたみたいだな」
道明に少し遅れて車から降りてきた境生は煙草に火をつけようとして、やめた。
「帰ってきてるんですかね、哉来君」
「じゃないとあの車は使わないだろう」
「ですね……どうします?」
「おれは今から雅ちゃんの家に行ってくる。そうだな、お前は栄都を止めといてくれ」
「自信ないです」
止めるという行為が何を指すのか道明には良く分からなかったが、いずれにせよ道明が栄都の意思に反する行動は取り難いと思ったし、それは境生にしか出来ない仕事だと思った。
「じゃあ話を聞いとくだけで良いや」
「了解です」
「じゃ」
そう言って右手を軽く上げ、雅宅に歩いて向おうとする境生の背中に向って、道明が言った。
「先生……」
「ん」
「この件が終わったら、僕……辞めます」
振り返り、そうかとただ一言だけ言った境生の表情は、闇に消されて道明には確認できなかった。
「すいません」
「謝る事ないさ」
「でも……」
何か言おうとする道明を手で制し、境生は雅の家へと歩を進めた。
「分かってる、前にもあったから。じゃあまた後でな」
そう、前にもあった。だから、でも、早かった、早過ぎだ……。境生の舌打は湿った大気に干渉されて、あまり響かなかった。