好敵手
家まで送りますとの申し出を、丁重にしかしきっぱりと断った有紀の背中を、残念そうに見つめながら軽トラックに乗り込む境生に、「行くのですね」と道明が尋ねた。
「ああ」
「関係あると良いですね」
「ない方が良い」
「は? でも……」
相変わらず騒々しい音をたてる車の中で、道明はしばし考えた。
緩やかな景色の流れが思考のリズムを作る。
「でも、それだと先生が不利になりませんか。栄都さんは同じ情報を僕らより先に掴んでいる訳ですから」
「まあな」
「まあなって……」
どちらが勝つかという事は、道明にとっては既に興味を失いつつある事項であった。ただ、本人も知らず知らずのうちに境生に惹かれる部分もあったのであろう――そんな複雑な表情をした道明を、不満気だと勘違いしたのか、境生は足を組み煙草に火をつけて言った。
「トラブルを収斂させる力は、おれよりあいつの方が上だ」
何も言ってはいけない気がして、道明は答えなかった。
「解く力も多分、な」
暫く沈黙があり、道明が言った。
「それじゃあどうして勝負なんか?」
「なーんかな、今回のあいつ変な気がしてな」
「ああ、街をやるとか言ってましたもんね」
「いや、それはいつも」
「あ、そうなんですか……」
「焦ってるつーか、急いでるっつーか」
「仕事速かったですもんね」
「それもいつも」
今度は道明も何も言わなかった。ただ、きっと境生は栄都の事が好きなんだろう、そう思った。