密室
栄都は隣に座っている少年を隙間なく観察していた。横顔は凛として、美しい部類に入るだろう。もっとも人として見ているのか、それとも美術品として見ているのか、それは栄都自身にも判断出来なかった。
フム、僕が判断に迷うとは。
少年に対する興味が湧いたのもこのためである。
あいつみたいだな――
栄都は自分の中に巣食った境生を追い出すように頭を振ると、少年を見つめた。
少年は俯き加減で微動だにせず、ただ静かに、そこに存在した。
一人だけの世界にあって目は死んでいない。少年の眼は、目の前のただ一点を静かに見つめている。それはあたかもそこに自分の世界を構築する、そんな頑強な意思を感じさせるような視線だった。それは光りのようなのかもしれない。ただ真っ直ぐに、誰にも曲げられぬ、誰にも触れられぬ――栄都は少年の唇にそっと触れた。
慣性力だけが支配する遮断された車内に、突如、電話の鳴らす極めてシンプルな呼び出し音が鳴り響いた。
丁度沈黙に耐えかねた運転手が発言する機会を窺っていた時で、思わず肩をびくつかせたが、相変わらず少年は動かなかったし、栄都の受話器を持ち上げる動作にも全く澱みはなかった。
「来たか。良し、ちょっと待て」
そう言うと栄都は速やかに車を停めさせ、後部座席を降り助手席に乗り換えた。
「いいぞ、繋げ」
その言葉とほぼ同時に、車の後部座席を遮断するパネルが現れ、完全な密閉空間を作り上げたが、その間も、少年はやはり微動だにしなかった。