音
栄都が呼び出してから三十分後、一台の真っ白な車が青葉邸に到着し、三秒間ほど奇妙なクラクションを鳴らした。
それは、女王陛下を迎えた近衛兵の鳴らすトランペットのような、あるいは死者に手向ける霊柩車の仰々しいクラクションのような、そんな複雑な音だった。尾を引きながら拡散したその響きは、静かな住宅街には異質の音のように道明は感じた。
それぞれ何かの切っ掛けを待っていたのであろう、室内にいた大人四人の動きは速かった。
なかでも栄都は素早く外に出ると、自ら車と運転手の姿を十分ほどかけて入念に点検し、満足そうに頷いた。
近くで見守っていた三人も特に文句を言うものはなかった。
「さ、行こうか」
栄都は薄く開かれた安友邸の玄関ドアを見ながら言った。
それは酷く緩慢だった。五センチ程動いては止まり、五センチ程動いてはまた止まった。長い時間をかけてギクシャクとドアが開いていく。まるでドアの開け方を忘れたみたいだ、そう道明が思った頃、扉は完全にその動きを止めた。
それは狭く、まるで外界から色が流れこんでくるのを拒むかのような、子供がなんとか通る事が出来るであろう最小限の隙間だった。
そこから出てきた少年、確かに人間の子供で、性は男性と聞いた、は、道明にはとてもこの世の生き物とは思えない姿をしていた。どうやったのかは知らないが、その白さは化粧などというレベルを超えいるように思えた。青葉が『塗った』ではなく『染めた』と言ったのも頷ける。それ程までに、少年の肌は自然で、滑らかで、そして白い。白は完全に少年と共に在った。道明は後部座席に乗り込む栄都と哉来という名称の少年を見やりながら、その思考回路の殆どを、先ほどのクラクションの正当性について考えるために使っていた。