疑
人は皆、何かに囚われてる。例え望まないにしても。真の自由とは一体何だろうか。
暗い部屋の中で、冷たい布団の中で、僕は一人そんな事を考えていた。おそらくは僕も例外ではないだろう。寝返りをうちながら微睡む僕に、客観的な自分が諭してくれる。冷静でいられる瞬間、冷やかな指摘をされても特に悪い気はしない。
ただ、もう一人の僕も、僕が何に囚われているのかまでは教えてはくれない。それはきっと自分が何に囚われているのか知らない、気付けていないからだろう。
僕は一体、何に囚われてるのだろう。
心。感情。本能。脳内物質――呟いてみたけれど、言葉は口から零れるだけでぽとりと床へ落ちていく。
瑞々しく弾かれることもなく、何の痕跡を残さずに、吸い込まれるように消えていった言葉たち。
何だか自分が酷く陳腐に思え、もっとぴたっりくるものは無いだろうかとあたりを見回していると、鏡に映った自分に目が留まった。
落ち窪んだ眼窩に充血した瞳の黒さが、血の気の無い白い皮膚をより一層際立たせる。
かさつき、色素が欠落した世界。
そうか、白――
僕は一瞬の自由を手にし、これから変容する世界と自分に溶け込むように、眠りへと落ちて行く事を選択した。