盆踊り
私が、今年の盆踊りの「主賓」なのだと、区長は誇らしげに言った。
春に移り住んだばかりの私を、集落は驚くほど歓迎してくれた。初盆の晩、広場の中央には立派な櫓が組まれ、赤い提灯がぐるりと吊るされていた。浴衣を貸してくれたのも、櫓のいちばん近くへ案内してくれたのも、すべて区長だった。
「よそから来た方に踊っていただくのが、この土地の習わしでしてね」
太鼓が鳴りはじめた。老いも若きも輪になって、同じ振りで手を打ち、足を踏む。私も見よう見まねで加わった。単純な繰り返しだ。すぐに覚えられた。
最初のうちは、のどかなものだった。
だが、一時間が過ぎたころから、太鼓が少しずつ速くなっていることに気づいた。気のせいかと思った。二時間後には、気のせいではなくなっていた。汗が噴き出し、息が上がる。手拍子が半拍でも遅れると、隣の老人が横目でこちらを見た。笑っている。だが、目は笑っていなかった。
脱落する者が出はじめた。
息を切らして輪を抜けた中年の男が、そっと暗がりへ連れて行かれた。誰も追わない。踊りは止まらない。しばらくして、その男の姿はどこにもなかった。次に若い女が膝を折り、やはり二人がかりで闇へ運ばれた。輪はそのぶん小さくなり、太鼓はさらに速くなった。
私は必死に手を打ち続けた。抜ければどうなるのか、もう分かっていた。輪に残っている限りは、まだ大丈夫なのだと、自分に言い聞かせた。
やがて、櫓の太鼓の音だけが、やけに大きく耳に残るようになった。ふと気づくと、広場に立って踊っているのは、私ひとりだった。
周りをぐるりと囲んで、集落の全員が、手を打ちながらこちらを見上げている。汗ひとつかかず、涼しい顔で。彼らは、踊ってなどいなかった。ずっと、拍子を取っていただけだ。倒れる者を数える、拍子を。
区長が、櫓の上を指さした。
いちばん高いところに、去年の主賓が飾られていた。
太鼓が、また一段、速くなる。そこで、ようやく分かった。
最後まで踊り続けて残った、たった一人。それが、その年の「主賓」になるのだ。そして主賓は、こうして櫓のいちばん高いところに、飾られる。輪を抜けて連れ去られていった者たちは、飾られてすらいない。ただ、どこかへ消えただけだ。飾られるのは、毎年、ひとりきり。
私が「主賓」として招かれた、その意味が、今になって分かった。あれは歓迎ではなかった。今年、最後の一人に残るよう仕立てられ、あの櫓に飾られるのは——私だ。
けれど、それがいつなのかは、誰も教えてくれない。夏の盆踊りなら、とうに終わっているはずの時刻だった。なのに、太鼓は鳴りやまない。主賓が倒れて飾られるまで、この踊りは終わらないのだ。つまり、私が倒れるそのときまで、終わりは、来ない。
足を止めれば、その場で運ばれ、飾られる。だから、倒れるそのときまで、ただ踊り続けるしかない。
速く。もっと速く。
私は笑顔で踊り続けている。いつ倒れるとも知れぬまま。囲む全員が、私と同じ笑顔で、私が倒れる、その一瞬だけを、静かに待っている。




