清掃員
「僕はどうせ未来なんかない。殺してくれなければ」
「殺してくれなければ…?」
「僕が君を殺す。」
俺は、職務史上一番のとんでもない不燃物を拾ってしまったのかもしれない。
三ヶ月前。
「もうそろそろお前の清掃の仕事も役割分担しねぇと大変なんじゃねえか?今や裏の中では沢山の清掃員が出てきてる。そんな中で一人で活動となれば、さすがに最強のお前でも手が回らなくなるぞ?」
「わかってるよ。でも、そう簡単に見つけたくないんだわ。相性があんだよ。相性が。」
「成長しねぇな。」
美山と俺は、清掃員同士で協力者だ。
〈清掃員とは〉
『オフィス、商業施設、ホテル、病院などの現場で、床の掃除、ゴミ回収、トイレ清掃を行い、清潔で快適な環境を維持する仕事』
だが、俺たちは裏の清掃員。
所謂殺し屋だ。
殺し=汚い、悪者のような印象があるが、俺たち清掃員は違う。
わかりやすく矢印で説明しよう。
クリーングループはこのようになっている。
実行人
(殺しや、可燃物の指導を行う者)
↓
管理人
(仕事を持ってくる者)
↓
清掃員
(殺された可燃物の情報処理)
そしてメインは
【可燃物が再び不正などを働いた場合の処理】だ。
そして、清掃員が処理する際は『不燃物』となる。
言うことを聞かなければ殺し、
聞くのであれば監視官の元、指導が行われる。
だが、実行人に殺される可燃物はそうそういない。
これでわかっただろうか。
「あ、紫乃。今管理人から情報入った。」
「なんて?」
「実行人、また殺さなかったって。最近多いよな。」
「だな。」
「あ、依頼だ。仕事だから仕方ないとはいえ、依頼ばっかだと手が回らねえな。」
ふとスマホを見ると俺の方にも管理人から一通のメールが届いていた。
「こっちも管理人から。不燃物が出たらしい。厄介な奴だってさ。そういうのは3ヶ月くらいかけないと処分できないから困るんだよな。」
「しんどいな、一人だと。」
「まあ気楽でいいんだけど。じゃ、行ってくるわ」
「おう。いってらっしゃい。」
不燃物のいるオフィスは渋谷の中心にある小さなオフィスだった。
言ってなかったが、普通に清掃員でもある。
潜入清掃と言ったところだろうか。
俺は『営業部』と書かれた扉を開ける。
「清掃に来ました。」
ゴミを片付けながらターゲットを探す。
顔情報はない。苗字の情報のみ。しかも『田中』だ。
いそうでいないランキング第一位だが、いることにはいる。
特徴はイケメン。
「山田。この資料コピーしておいて。」
「かしこまりました。」
あの人は、山田か。
にしても荒れてるな。この部署。
ゴミばかり落ちている。
こんなたくさんの人の中から『田中』を見つけるのは難しい。
だから俺には戦略がある。
「あ、そういえば田中さんっていますか?名刺が落ちてたんですけど処分していいですかね?」
これでいいですよと言った人が田中だ。
だが、3人ほどがこちらにきた。
「田中3人いるんですけど下の名前なんて書いてありました?」
「えっと…」まずい。下の名前がわからない。
どうしようか。
「ん?名刺ってどこですか?」
「えっと、あ、もうゴミ箱に入って見えない…」
「もう捨てたんですね。まあ大丈夫ですけど。」
「すみませんね。ありがとう。」
3人を見渡すとみんなイケメンで困る。
だが、一人だけ何かを感じた。
田中架澄。一人だけ落ち着き、何も喋らなかった。
喋りかければいいだけなのだが、
今日の清掃の勤務は終了だ。
「明日もよろしくお願いします。」俺はその小さいオフィスを出た。
清掃ロッカーに用具を入れ、私服に着替えて家に戻る。
家は仕事場でもある。仕事の依頼を受ける場所だ。
今日は面倒くさいからカップラーメンを食べて歯磨きをしてすぐ寝てしまおう。
と思いお湯を沸かしていると、管理人から一通のメールが来た。
嫌な予感がする。
『お疲れ様です。先ほど、実行人による不用意な可燃物の確保があったようです。任務が与えられていない清掃員は実行人への指導をよろしくお願いします。また、パワースタイル社の佐藤が先程処理されたようです。007番清掃員は至急、情報の処理をお願い致します。』
007番…俺だ。
久しぶりの処理の仕事だ。処理の仕事は嫌い。
俺は基本的に人を殺したくない。
というのに殺された人を遺体処理班まで運ばなければならない。そして個人情報を処分するのは失敗すればこちらも殺されるかもしれない。
嫌いだ。
コンロの火を止めて、車を走らせる。
こんな感じで、深夜も仕事がある。
「勘弁してくれよ…」
翌朝
記憶がないくらいに爆睡した。
いつものように清掃に向かう。
「清掃に来ました。」
今日も田中架澄は出勤していた。
今日こそ話しかける。
「すみません、田中架澄さん、そこにゴミ落ちてるのでちょっといいですか?」
「あ、清掃員さん。すみません。」
「全然!お仕事頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
「清掃員ですが、話くらい聞けるので。」
「…じゃあお昼休憩の時お話したいです。」
意外とグイグイ来るな。だがここは
「ぜひ!」
よし。田中架澄に近づけた。
この調子だ。
俺はお昼までオフィスの全体を清掃した。
お昼になると、彼はすごく優雅な顔で窓の外を見ていた。「すみません、遅れました。」
「いや、全然。話聞いてくれるって…」
「はい!だって、クマできちゃってるし。」
「あー、これ…。疲れ取れてなくて。すみません。」
「なんでも話してください。悩みとか。」
「あー、悩みとかじゃなくて、僕清掃員さんと仲良くなりたくて…。お名前聞いていいですか。」
清掃員は同業者でなければ名前を教えてはいけない。
俺は創作名を念の為作ってあるのだ。
「菅野樹です!」
「菅野さん。僕この会社で友人といえるような人っていなくて。だから嬉しいです。」
「そうなんですね…」
「すみません。こんな無駄な時間。」
「無駄じゃないですよ。」
この日を境に、俺たちは仲良くなった。
好きな食べ物、芸能人、飲み物、習い事など色んなことを話した。
こんなに感じのいい彼が一体何をしたと言うのだろう。全く厄介な奴ではない。
殺すことは、できない。
三ヶ月後。
管理人からメールが来た。
『007番清掃員宛。不燃物の処理を早急にお願いいたします。』
わかっている。でも証拠がない。
相手から何かを言われない限り、確保することはできない。
クリーングループでは清掃員が自白する際、
『ゴミ袋入れ替えますか?』『ゴミ袋入れ替えてください』『ゴミ袋入れ替えます。』
と言い、
『掃き掃除しますか?』に対して
『拭き掃除もお願いします』と返答が来たら
確実に犯人ということだ。
もし、田中さんからこの言葉が来たら、俺は指導しなければならない。もしくは…殺すしか。
いつも通りお昼休憩をする。
「田中さんは、スポーツしてます?」
「特にしてないです。運動音痴で。」
「でも足バキバキじゃないですか?ズボン履いててもなんとなくわかります。」
「あー、これね。秘密教えましょうか。」
「え、バキバキにする秘密ですか。」
「はい!」
こちらも負けないくらい割れているが、ここは話に乗ってみる。
なんだろうと待機していると
彼はニコッと今まで見たことのない笑みを浮かべ
「僕実は…ゴミ袋を入れ替えられるんですよ。」
心臓がどきんと鳴る。
『ゴミ袋を入れ替える』
クリーングループの暗号だ。
…やっぱりターゲット。
確信をつく暗号を言う。
「『掃き掃除しますか?』」
これに拭き掃除もお願いしますと返ってきたら、
このまま倉庫で処理をしなければならない。
頼む。
「『拭き掃除もお願いします』」
最悪だ。少しでも信じたのがバカだった。
退勤後、俺は田中架澄を家の近くの廃倉庫へ連れ込んだ。
椅子に手足を縛り、事情聴取をする。
「田中架澄。君は一体何をした?」
「僕はクリーングループの情報全部知ってるんだ。紫乃美津留さん。だから、なんか怪しまれて可燃物として指導された。『クリーングループとはもう関わるな』って。でも僕はクリーングループの中に黒い山が隠れてるって思ってる。確信はない。だからそれを暴くために知ってる情報を元に探ってたらバレて今これ。」
「なんだ、ほぼ無実かよ。」
「そうだよ。でも僕のことは殺して。」
俺は田中架澄を見つめ「は?」と言った。
「何言ってんの。無実だよ?なんとかすれば解放されるのに。」
「俺は会社で、どんなプレゼンをしても指摘されるばかり。資料に目を通すことすらしてくれない。会社も息苦しい。」
「親が苦しむんじゃねぇの?20前半だろ。お前。」
「20前半だけど、親が悲しむことはねぇよ。
親はクリーングループの実行人だった。
だけど可燃物に恨まれて殺されて死んだ。
だけどその可燃物は誰かわからないんだ。
教えてくれなかった。そして、俺は実行人にヤバい奴がいると踏んでいる。クリーングループの方でも情報がない。だから犯人暴こうとか思ってたけど、
今の暮らしも何もかもしんどい。」
「だからって…」
「殺してくれ。」
「殺すなんて無理だ。」
「僕はどうせ未来なんかない。殺してくれなければ」
「殺してくれなければ…?」
「僕が君を殺す。」
「は?」
俺は頭が真っ白になった。
なぜ俺が殺されなければならない。
まだ俺は昨日のカップラーメンを食べていない。
後悔はまだある。
だが、殺すのも嫌いだ。
迷っていると突然田中が人差し指を立てて
「しっ。」と言い出した。
「足音が聞こえる」
俺は耳を澄まして聞く。確かに靴の音はする。扉は閉めてある。
「え?怖い怖い。幽霊?」
「弱いね。これ、外して。手錠。」
田中は「ん。」と足も差し出してきた。
「無理。逃げられたら困るもん。」
「逃げない。聞こえるだろ。音。」
足音が聞こえる恐怖感から俺は仕方なく手錠を外した。
すると、少しして倉庫の電気が消えた。
終わった。これは俺、死ぬ。暗すぎて戦えたもんじゃない。
「紫乃、僕を一旦信用してね。」
「あんた年下なのに紫乃って生意気な。」
「今じゃねぇよ。それ。」
足音が近づいてくる。
俺にはわかる。これは明らかに同業者ではない。
同業者だとしたら足音の忍ばせ方は上手いはずだ。
「伏せて!」
突然叫ばれて俺は咄嗟に伏せた。
暗闇の中行われていることがよくわからないが、
ドタドタと聞こえる足音と時々聞こえる銃声、
骨の折れる鈍い音が聞こえた。
数秒後、「顔あげて。」俺は明るくなった倉庫を見渡して下を見ると、沢山の黒い面を被った男が倒れていた。
「え、これ」
「僕、君殺せるの。わかったでしょ。」
うん、怖い。だけれど俺は思ったのだ。
…こいつを相棒にすればいいのではないだろうか。
「君」
「なに。」
「清掃員になって、闇暴いてくれない?」
「は?」
「俺の、相棒になってくれ。」
そうして始まった、俺らの物語。
だが、この時は思いもしなかった。
こいつを、殺しておけばよかったなんて。




