その6
____【英雄召喚】______
イスリールに伝わる、秘伝中の秘伝
王家の血を引く乙女のみが、
その魔法を可能とする。
1500年前に、たった1度だけ、
救国の王女ルーラが使用した究極の魔法
無垢な祈りが、英雄エウロンを呼び出して
イスリールに迫る悪の脅威から救ったとされている。
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襲撃から半日ほど。
イスリールは、慌ただしく復興と次の戦いの準備を進めていた。
まだ大穴の空いた玉座の間
そこに、襲撃を生き延びた3人の姿があった。
ッゴホン!!
と、王女が軽く咳払いを行い居住まいを正す。
「昨夜は、見苦し所をお見せしました。バーサーカー族の戦士オグナ殿………はぁ〜」
感謝の言葉と共に、王女から漏れ出した、ため息には、
疲れよりもどこか不甲斐ない自分を責めるようなニュアンスが込められている。
表情も暗いというか、あきれた半笑いというか、
自嘲するしか無いと言った表情だ。
「そなたの働きに、イスリールを代表し感謝を申し上げます…ふふッふふふ…」
なぜか肩を落とす王女様。
昨夜の出来事が彼女の頭をぐるぐる、ぐるぐると巡っている。
〜襲撃の直後〜
益荒男となったオグナの強さとその姿に、
開いた口が塞がらないお姫様と神官。
オグナが、呆気に取られた2人に声をかける
「ケガは……」
2人の顔は、この世の物では無い何かを見るようである。
「あの…大丈夫?」
座り込む女性にオグナは手を差し伸べた。
「ひぃいいいいーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
耳をつんざく悲鳴を発しながら、
驚き怯えた顔のまま、ダーっと少女が後ろに飛び退く。
まるで、逃げる虫が猛スピードで地を這うやうだ。
「へ!変!変態ーーー!!変態!!!!!!」
(…………ん?変態?)
「な…なんと、わいせつな!この変態め!!ひ、姫様はこのユッケが!命に代えても!お守りしますぞー!!!」
わなわなと体を寄せ合い震える2人
「あのー…」
戸惑うオグナが再び手を近づける
「ギャーーーーーー!!」
2人が恐怖の絶叫をあげる!
オグナは状況がよく飲み込めない様子で、
周りをキョロキョロと見回す。
周囲には自分しかいない事を確かめる……しばしの逡巡。
「えっ?」
大きなクエスチョンマークを頭に浮かべながら
オグナが自分自身に向かって指差した。
ーぐんぐんぐんぐん!!!!
と、首を縦に振る2人。
もう一度、自分を指さしてみる。
ーぐんぐんぐんぐん!!!
やっぱり首が縦に揺れる
『俺かーーーーーーーーーーーー!!!』
悲しい絶句の音の葉が、イスリールの夜に溶ける。
オグナは、すっかり忘れていました。
今の自分の姿は、筋肉の大群勢が、全身を包む筋肉の重戦車!
パンパンにパンプしたバーサーカー状態である事を。
(地元じゃ…みんなムッキムキだったから…忘れてたなぁ…この感覚…)
なんとも気まずい雰囲気の中、勇気を出して再度声をかける
「あ、あの…」
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
〜そして、今〜
「この度は、巻き込んでしまい…大変申し訳ございませんでした。」
肩を落としてオグナに謝る王女様。
「やはり姫様の魔法は、失敗でございましたな。」
神官のユッケも、なぜか残念そうに肩を落としている。
「でも、ユッケ!"召喚"には成功しました!」
「ええ!!"召喚"にはね!」
「確かに……確かにエウロン様ではございませんでしたが、敵は倒す事が出来ました!」
「結果としては…ねッ!!」
「良いではありませんか!それで!!!」
「だから私が、あれほど、あ!れ!ほ!ど!…魔術の勉強はサボらぬ様にと!!」
「サボってなどおりません!!ちゃんと勉強しておりました!」
「はぁ…コレでは、死んだミト殿も浮かばれますまい」
「うっせえバカ!!!」
「ば、バカ?!?!」
2人の舌戦はどんどんヒートアップしていく!
「あ、あの…」
蚊帳の外にされたオグナがなんとか2人を諌める。
子猫達のじゃれ合いに喝を入れる親猫の気分だ。
「えーっ…オグナ殿とおっしゃいましたかなぁ?」
襟元を正しながらユッケも感謝を述べる
「此度は本当に助かりました、大変感謝しております。
褒美は、後で使いの者に運ばせます…」
「いえ、アレは我が身を守っただけで…それよりも、どうして自分が…」
オグナの質問を遮るように、ユッケがすかさず口を挟む
「いきなりコトで、大変申し訳ございませんでした。国同士の諍いに巻き込んでしまい、本当に感謝してもしきれません…ただ、その〜……言い難い事でございますが…姫様は昔から魔法の扱いが…若干苦手でございまして…アナタ様を呼び出すつもりは、毛頭も無かったのです…ですので今回ばかりは……何とお詫びを申し上げればよいか…ですのであのー今回の事はどうかご内密に…」
言葉の弾幕に圧倒されてしまう。
ユッケが四苦八苦と言い訳を垂れ流す。
一方のお姫様は、何か考えがまとまったようで。
「よし!もう一度…もう一度よユッケ!英雄召喚を行うわ!」
「何を!姫さま」
「今度こそは、大丈夫よ!」
「まぁ確かに…昨夜は…ぶっつけ本番でございましたし…失敗も致し方ない部分があったとは…思いますが」
「次は成功に決まってるわ!もう感覚は掴めたもの!」
「感覚って…また別人を呼んだらどうするんです!次は何が出るか!」
「何言ってるの!直ぐにボルドーがまた国境を超えてくるに決まってるわ」
「しかし!」
「善は急げよ!!さあユッケ!英雄召喚の準備を!
えっと…オグナさんは……その辺りでジっとしていて下さい。」
「いや…あの」
またしても蚊帳の外に置かれるオグナ
部屋の中央の瓦礫などが、そそくさと片付けられ
張り切る王女が、さっそく祈りを捧げ始める。
「我は願う、彼の英雄を…」
床に魔力の光が走る
それを見ていた、オグナは、ふと思う。
(召喚魔法と言うより、あれは…転送魔法じゃ…?)
「来たれ!!」
煌々とした光が部屋に溢れる
ービカッ!!
「やった!」
王女の顔に笑みが浮かぶ
光が治り、その召喚陣の中央に…………………オグナがいた!!
「なにーーーー!!!!」
王女がまた金切り声を上げる、オグナの顔は困惑そのものだ。
「ちょっと邪魔しないで下さい!今は一刻の猶予もないのです」
王女の言葉に、しかめっ面のオグナ。
苛立たしげなユッケに押される様にして、オグナは部屋の隅に追いやられる。
再び英雄召喚の祈りを捧げる王女
城の地面に魔力の光が走る
するとオグナの足元もビカッっと光り
「来たれ!!!!!!!」
ボンっと、オグナの身体が召喚陣の中央に現れる
「もう!!!!!!何あなた?!!」
「いや…俺はなにも」
「あなたが凄い速さで走れるのは、戦いの時に見せていただきました!だから邪魔をしないでください!!」
「いや、そうじゃなくて…」
「さ、さ!こちらへ!!!!!!!」
ユッケに連れられ、ついに廊下に追い出されるオグナ
充分な苛立ちを込めて、バタン!!と玉座の扉が閉まる。
釈然としないオグナだったが、
コレからどうすか、思案を巡らせながら城を後にしようと歩き出した
その時!!
彼の足元が輝きを放つ
「またかよーーーーーーーーーー!!」
召喚陣の中央から現れるオグナ
ビービーと泣く王女
絶句のまま固まる神官ユッケ
「もうやだー!!」
王女の泣き声が城中に響く
「それはこっちのセリフじゃーーーーーーー!」
オグナのツッコミがイスリールの空に溶けていった。




