Dr.アリマとナンバーズ その1
葉が頬を撫で、枝が鋭く鞭の様に皮膚に当たる。
表情険しく森を疾走するオグナ。
周囲を警戒しながら、猛スピードで森の中を駆けている。
よく見るとオグナは背中に、見知らぬ老婆をおぶっている様だ。そんな彼らを、複数の人影が追う。
飛び来る風刃に刈り取られ木々が倒れる。
影の1人の腕が、蛇の様にうねうねと猛スピードで伸び
木の間を縫うようにオグナに迫る!!
これをひらりと交わして、伸びてきた腕を掴む!!
そのままグイっと引っ張ると!
ー ガツン!
と大きな衝撃音と共に、
腕の主が勢いそのまま木の幹に叩きつけられた!!
間も置かず
オグナの足元に、氷の柱が出現する!
地を這いながらオグナの後を追う氷は、意思を持つ茨の様だ!
せり上がった氷の柱を足場にオグナが跳躍する。
ソレを追いかけ、二つの陰が木の影から飛び出した!
一つは、獣の様に体毛に覆われた巨体の異形!
伸びた獣の爪がオグナの首筋に迫る。
もう一つは、両手が鳥の様な翼になった醜悪な異形!
その羽で風を切りながら鋭い鉤爪がオグナに迫る。
体の自由な効かない空中で、獣と鳥の異形囲まれたオグナ。
すると、ポイっ!と
いつも持っている棒を鳥の異形に放り投げた。
お手玉でも渡す様に軽く投げられた棒が、鳥の胸元に当たる。
ズン!!!!!!!と
鳥の異形が羽ばたきも虚しく、地面に落下していく!
しかし、敵の攻撃はまだ終わっていない
迫る爪を、体をそらせ躱したオグナ!
その腕を、がっつり掴むと一本背負いでもする様に
地面向けて獣を投げつけた!
ー ドン!!
ー ドン!!
あがる二つの土煙。
オグナはスッと地面に降り立つ!
すると、ガツンと鈍い音!
着地の瞬間を狙って、氷の礫がオグナの顔面をとらえた!
しかし、何事も無かったか様に平然とするオグナ。
どうらやダメージは無いようだ。
落ちた氷の礫を拾いあげ、飛んで来た方向に投げ返す!
ギャ!っと何かの声!
声の主は、オグナが放った礫によって左半身を大きくえぐられている。ぶらりと皮1枚でぶら下がる左腕。
異形は邪魔と判断したのか、
自らソレをちぎり捨て闇の中へと消えていった………
あたりに静けさが戻る。
「なんだったんだ…こいつら?」
投げ落とした棒を回収しながら、
オグナは襲ってきた異形の姿を見る。
棒の重さに押し潰されて鳥の異形は絶命寸前だ。
『ニ…28号…ヲ、殺セ…』
潰れた胸から棒を拾い上げると、
血の泡を吐く鳥の異形が形を変える。
「人?…キメラ…いやこれは……人造人間か…」
そこには異形の姿は無く、人間の死体が横たわっていた。
周りの安全を確認すると、
おぶった背中の老婆を下ろして、腰の水袋を差し出す。
「婆ちゃん、水だ飲めるか?」
老婆は、憔悴仕切っており自力で動く事も出来ない、
そっと飲み口を口元に運んであげるオグナ。
咳き込みながらも老婆は水を口にする
「郷までもう少しだ。それまであとちょっと頑張ってくれ。コレ食えるかい?干したヤシの実だ…」
袋から出したヤシの実を老婆の口に近づける。
大き過ぎるのか、老婆の口は開かない。
「よし、ちょっと待ってな… 」
オグナが小さくヤシの実をちぎって、
もう一度 老婆にヤシの実を与える。
先程の戦闘で切ったのか、オグナの手には血が垂れている。
「コレなら食えるだろ?味はアレだけど、ちょっとは身体がましになる…」
老婆の唇に、オグナの血が付いた指が触れる。
「…美味しい…エナジ……」
と、老婆が呟いた気がした。
〜時間は、オグナと老婆が出会う少し前に戻る〜
異端の魔術士:アリマ。
聖都ヌアダの魔法学校を首席で卒業した天才
幼い頃から神童と呼ばれ、数々の魔術の研究成果を世に発表し、彼の提唱する魔術と科学の融合は、魔法技術を100年先に進めたと言われている。
そんな天才の輝かしい人生に…影が差した。
50歳を迎えた頃、アリマは1つの研究に没頭していく。
生命の創造、禁忌の研究《人造人間》
人造人間の概念は、1500年前にエウロンが書き残した
準遺産級アイテム:【エウロンの魔導書】に端を発する。
聖都の魔法院は、生命の創造を、神への冒涜、禁忌として扱っており、研究及び魔法開発を硬く禁止していた。
しかし、
知識の探究のため、研究を続けるアリマ。
聖都の魔法院は、彼を危険思想の持ち主と判断。
アリマの逮捕、拘束へと踏み出した。
ギリギリまで追い詰めたものの、あと一歩の所で取り逃がす。
この危険な天才を、人々はDr.アリマと呼んだ。
その数年後、
Dr.アリマと思われる、水死体が発見される。
事件は、犯人死亡によって幕を閉じ
人々の記憶からもDr.アリマの存在は消えていった。
しかし
Dr.アリマは生きている。
自らの細胞で作り出したクローンで死を偽り
今も辺境の地で研究を続けていた。
「聖都の馬鹿共よ、いや吾輩の考えが分からぬ下等な者共よ、復習の日を楽しみ待っていろ」
彼を狂気に駆り立てるのは、探究心か復讐心か、あるいはその両方か。
逃亡から16年、Dr.アリマの研究は1つの到達点に達しようとしていた。
雌型の人造人間《実験体28号》
持てる全ての技術と知識を動員して作りあげた最高傑作
【人間・サキュバス・ヴァンパイア・デーモン・ハーピー・人魚・エルフ・ダークエルフ・竜人・エキドナ・ウンディーネ・セイレーン・ゴーゴン・ドライアドetc】
それらの細胞を繋ぎ合わせた強化・人造人間
相反する様々な細胞を完璧な人型に繋ぎ止めたのは、
人間の細胞、その魔力!
エウロンの魔導書から手に入れた1本の毛髪。
実験体28号が浮かぶ人口子宮
子宮中は、魔力を浴びた紫色に光る羊水で満たされている。
「あぁ美しい、美しい、死の結晶…28号、もう少しで君に会える…さぁ世界を見せてあげよう」
有機物とも無機物とも言える、人口子宮が破水する
その水圧に押し出される様に実験体が床に産み落とされた。
ずぶ濡れの長い髪の間から、ゆっくりと目を開き
あたりを伺う実験体28号
薄い桃色の髪、透き通るほどに白い肌。
さらりと伸びた手や足が、見るものを魅了する。
「やぁ28号、君は世界に死を運ぶんだ」
この瞬間、アリマの復讐が幕をあける……筈だった。
「エ…生命力……」
28号の体が少し縮んだ様に見えた、その時!!
急激な老化が始まる。
「そんな!クソ!!クソ!!クソ!!!嘘だ!!嘘だ!」
子宮から出た28号は、その体を保つだけで
見る見る魔力と生命エネルギーを消費していく!
「えぇい!ナンバーズ!!!!」
トカゲの様な異形が28号に飛び掛るが!
キュっ!と28号の周りの空間が一瞬で超圧縮される!!
ー ブシャ!
下半身だけを残し、トカゲが地に伏せる。
飛び散った血液が28号の全身を朱に染める
その姿は、実に美しい。
すると朱色が、28号の体にすっと溶け込んでいく。
「生命エネルギーを取り込んだのか…」
見ると28号が、若さを体に取り戻している。
「もっと…生命力を…」
28号を見つめニヤけるDr.アリマ。
(莫大な魔力消費しかし…燃費が悪すぎる…いや…それは微々たる事、この強さは…星の生命、それら全てを刈り取れる)
一歩、二歩、28号へ近くアリマ
「エナジーーー!!!」
と襲い掛かろうした28号がぴたりと動きを止めた。
「ド…ドクター…いけない…殺しちゃいけない…」
ふぅーと、冷汗と共にため息がもれる
「そうだ…吾輩がドクター…Dr.アリマだ」
「わたし…は?…」
「君は28号!28番目の新しい仲間だ」
「28…号…新しい…仲間」
「さぁ、今はお眠り…少し調整をしよう」
魔力の満ちた風呂釜の様な容器へ運ばれる28号
「産湯の時間だ、可愛い28号」
魔力の満ちた水で、28号の羊水を洗うDr.アリマ
その笑顔は悪魔を宿す様だった。
そらから、いく日か過ぎた。
荒廃した大地を、
大きな狒々の型のホムンクルスが歩いている。
その背中に、魔力で満たされてたカプセルを抱えている。
側に立つのはDr.アリマ
「やれ…28号」
眼前には、砂煙をあげて牛型モンスターが群れをなして猛進して来ている。カプセルから、スっと起き上がる雌型の人造人間。
カッと!瞳を開いた瞬間
黒い球体が、魔物の群れを飲み込んで
卵の様に一気に縮まるやいなや!
パンっ!!!と黒い球体が弾けた!!!
血と臓物の雨が降り、大地に真っ赤な海が出来上がる。
それは、瞬きをする様な一瞬の出来事だった。
手足の鎖を物ともせず
出来上がった血の水面に、ちょこんと降り立つ28号
遠くの空を見上げながら、どこか悲しい表情を浮かべている。
その足元には、すでに血は無く、乾いた地面だけが広がっていた。
「素晴らしい…」
それから何度も何度も、Dr.アリマは28号の実験を続けた。
そして、そのうち郷を襲う。
郷の中に、急に現れた狒々と蝙蝠の異形。
人は、「魔物だ、魔獣だと」騒ぎ立てている。
すると、一つ声が掛る。
「さぁ28号…君の美しさを皆にお見せしろ」
見慣れない鉄の容器、棺にも似たそれから
姿を現した『美』の結晶
ー 首を切りなさい ー
優しい声だった。
郷中の人々が何も言わずに自らの首を断つ、
ある者は剣で、ある者は包丁で、ある者は折った木の枝で、
またある者は、自分の爪を何度も何度も何度も何度も首筋に突き立てた。
命をたった者は、皆うっとりした表情で、頬を赤く染めていた。
28号の【絶対的魅了】の力が、人々を従わせた。
「あぁ!28号!素晴らしい!!素晴らしい!!」
しかし、その日から28号は、獲物を選ぶ様になった。
獣やモンスターは殺し、生命エネルギーを得るが
人を襲う命令は、「気分じゃない」や「不味い」と難癖をつける様になった。
28号は、覚醒から数日が経ち、自我に目覚めた始めていた。
そんな28号のわがままを、
最初は気に止めなかったDr.アリマであったが…
「何故、命令に従わぬ!28号!」
「お父様、私は決して…」
「黙らぬか!大食いの出来損ないが!」
「出来損ない?」
「貴様は、人間を殺してこそ価値があるのだ!」
「価値?」
「失敗作らしく最低限の命令はこなさぬか!」
「失敗作?」
ブチっと血管の切れる音がした。
「お前の!感情を消し……」
アリマの話しを遮って
「うっせぇ!ジジィ!!さっきからなんだテメェ!」
28号の口調の変化に驚きを隠せないDr.アリマ
「な!なんだ貴様…その口の利き方は?」
「あ?偉そうに命令してんじゃねぇよクソジジイ?ぶっ飛ばすぞ?」
「ぶっ飛ばす?ハッ!何を間抜けな!貴様らナンバーズには無理だ、そう作ったからな」
「あっそ!じゃな!クソジジイ」
研究所の天井を魔力でぶっ飛ばす28号!
「しまった!」アリマの体に瓦礫が落ちる
繋がれたら四肢の鎖を引きちぎり28号は研究所を逃げ出した。
先の攻撃で瓦礫に下半身が潰れたDr.アリマ。
薄れ行く意識の中で
「…ナンバーズよ集まれ…」
数体の異形がアリマの体を囲む
「逃げた、28号を殺せ…どのみち研究所の外では長く生きられまい…それから…吾輩の首を…」
ブチリ!と上半身か首をもぎ取られたDr.アリマ。
Dr.アリマの最後の命令に従い異形が28号の後を追った。
それから数時間、追っ手を打ち倒しなが28号は逃げた。
逃げれば逃げる程、魔力は枯渇し、体は老化を始め、体力は急激に衰える。それでも彼女は逃げた。
気力、体力共に限界、視界が霞み、28号は崖から足を踏み外し夜の海に飲まれた。
…
…
…
おい!バァちゃん!
大丈夫か!
生きてるか?
おい!
…
…
…
気付けば、誰かの背におぶられている28号
(なんだ?…スゲェ良い匂いだ…)
その背中で揺られながら再び28号は目を閉じた。




