その4
昨晩の大雨で、火はすっかりと消えている。
雨粒は血も灰も洗い落とし、ぬかるんだ地面に
焦げた匂いだけを残している。
助かった数人の者たちが、オグナ達と力を合わせ
今しがた掘った墓穴に、犠牲者の遺体を埋める。
皆、顔に表情は無く。
只々溢れる涙がぬかるみに落ちた。
今は静かに…コーラの祈りだけが、
優しく…優しく郷に響いていた。
盗賊団【虎狐】
最近この辺りに、根城を構えた ならず者
頭領は「千本首・四つ腕のシシカバ」と呼ばれる悪党だ
「千本首とは、凶悪な罪人ですな」
ジルガは眉間のシワを一層深くする
「放っておけば、ケイトもこの郷と同じになるだろうよ」
ニックのニヤけ面も今日は消えている
「何とか出来ないのでしょうか!!?」
今にも倒れてしまいそうなシスター・コーラが懇願する。
彼女の顔色がその疲労を雄弁に物語っている。
夜通しの救護活動、怪我人へ唱え続けた回復魔法。
魔力など、とうの昔に使い果たしている。
それだけでも気を失いってもおかしくない状態であるにも関わらず、彼女は声の続く限り、死者達へ祈りをあげていたのだ。
「相手が悪過ぎます!」
悔しさに拳を握るアルフレッド
「しかし…」
フラッと崩れそうになったコーラをとっさに、アルフレッドが支える。
「コーラ様…今は休みましょう」
「それが良いのである」
馬車の荷台で、泥の様に眠るコーラ
「嬢ちゃん…かなり来てるな」
「あぁ…無理をされておられたからな」
「川の水、汲んできましたよ」
コーラの身を案ずるニックとジルガの元に、
オグナが、大きな樽を2つ担いでやって来た。
肩には、普段使う棒きれを担ぎ、
その両端へ紐を結んで樽を運んで来た。
「オグナ殿、ご苦労であるな!」
「シスターは?」
「寝てるよ…」
「そうですか…」
荷台からアルフレッドが降りて来る。
「お帰りなさいオグナさん……コーラ様の体力ならば、おそらく2、3日は目が覚めないでしょう」
「出来れば屋内で休ませてあげたいですね」
と、心配するオグナ
「今は荷台で我慢していただく他あるまい。」
「俺は、郷の人たちに、水が来たって言って来るわ」
残ったオグナは、質問を投げかける。
「千本首とは、どの様な人物なのでしょうか?」
答えるのはアルフレッド
「私も詳しくは……たしか80年ほど前から度々被害が報告される賞金首で、性別は男とも女とも…追っ手を次々に返り討ちにするその姿から…付いたあだ名が【千本首】…千本の首を刈った者、と」
「なるほど…無視出来ませんね」
「そうですね!ここは私達で…」
「手を出してならん!!!!!!!!!!!!」
普段温厚なジルガの厳しいお声だった。
「ジルガさん…?」
長い付き合いのアルフレッドも、彼の態度に戸惑っている。
「あれは、人ではない!行っても死人が増えるだけだ」
表情硬く、ジルガが続ける…
「…30年ほど前…忘れもしないあの夜の事…
西方一の斧槍の使い手と知られた我が師匠、ケイル様…
その頃ケイル様は、拙僧ら7名の弟子らと…研鑽の為、諸国を漫遊しておった。出稽古に試合、路銀稼ぎの魔物退治…皆で斧槍の高みを目指し日々修行に明け暮れていた。あれは、北の霊峰ハクラインからの帰り道であった……たまたま立ち寄った郷の近くで千本首が出た言う知らせがあってな。やつは当時から名の知れた高額の賞金首でな、この千本首を討ち取ろうと…冒険者や賞金稼ぎが大勢…里に集まっていた。聖都からも物々しい数の憲兵が派遣されいてな…拙僧らの一行もこの討伐に参加する事となった…皆が慢心していた…必ず勝てると。
噂では逃亡中の千本首は背中に手傷を負っているらしく…軽く討ち取ってくれようと…のぼせ上がっておったのだ。お師匠様も流派の名を上げたかったのだろぅ…討伐決行日、まだ成人を迎えていなかった拙僧は、1人郷に残された…連れて行ってくださいと懇願したものの…今思えば行った所でどうにも出来なかったであろう……この夜、討伐から帰って来た者は誰一人としていなかった。翌る日…郷に並べられた討伐隊の死体、その中にケイル様と兄弟子達の姿があった…その全ての遺体は…例外なく…首と胴に分けられておった。恐怖の表情で固まった皆の顔が…それが今でも頭から離れん。」
コグリと、言葉を呑むアルフレッド
そこへ、戻って来たニック
「俺、ひとっ走りリック・ケイトに報告に行くわ!」
「1人では危険です!私も同行します」
先程の話しを聞けば、単独行動させられるはずも無い
「うむ、そうして頂けると助かるのである」
早速、馬車から馬を外し
「オグナさん、ジルガさん留守中頼みます!」
「死ぬなよオッサン」
「うむ、やつら戻って来ぬとは思うが、目を光らせよう」
「お二人ともお気をつけて!」
早馬は、オグナ達を残し一路リック・ケイトへとひた走る。
街道を急ぐアルフレッド達、そんな彼らを見つめる2つの影。
「おい、馬だ…頭に伝えな」
「へい!」




