出発、対決、盗賊団・その1
大陸西部の王国、イスリールを後にして4日
イスリールから南西に下り、海沿いの街道をさらに南へ進むオグナ、彼は今…トラブルの真っ最中です。
街と街、村と村を結ぶ街道に、もちろんトイレなどは無く、
催せば道を外れてようをたすなど、男には気楽な行為だが、
旅慣れない女性にとってコレは少し酷な話しである。
《ぎょぇえええええええええええええええええ!!!!》
街道沿いの林の中から、ハーモニーを奏でる様に驚く男女の声が聞こえて来る。声の主は、オグナともう1人
まだ幼さが残る顔立ちの女性、"シスター・コーラ"だ
彼女は、一週間ぶりに来た便意を逃すまいと、街道から離れ…今まさに、野外プレイを決め込んでいたのです。
お互いに驚愕の表情のまま見つめ合う。
思わず固まる思考…
「・・・」
5分にも10分にも思える永遠の数秒
「…そ…の……あ…の……失ッ礼しましたぁーーー!!!」
と言い残し、脱兎の如くオグナは林の奥へと消えていった。
オグナが去って、1秒…2秒…3秒…4秒
「イーーーーーーーーーーヤぁぁあ!!!!!!!!」
遅れてやって来た悲鳴
恥じらいと恐怖と驚きなど、諸々の感情の入り混じった悲鳴。
彼女の甲高い叫び声が森にこだました。
林の中を走るオグナの額には、どっとあぶら汗が溢れる。
「…よし、忘れよう」
シスター・コーラの悲鳴を背中に聞きながら
オグナは、気を取直して、晩飯の鹿の跡を追った。
〜それから数刻後。
村や街の他に、長い街道や道の途中に郷と呼ばれる
小さなコミュニティがある。
元は、小さな人里や、山小屋などがあった所に、旅人などが立寄ら様になり、そのうちに宿屋や馬屋、武器屋等の商いが、段々と起こり、旅の休憩所として郷と呼ばれるようになった場所だ。
郷の中には、村や町よりも大きな賑わいを見せる所もあり
その最たるは、発展の末に国として認められた。
砂漠の超交易都市【グレイト・ウォール】が有名である。
オグナは現在、ある場所を目指して南へ向かい旅をしている。
ここは、そんな旅の途中で立ち寄った郷だ。
郷の中でもかなり小規模な郷 "フースト"
小さなフーストの郷の宿屋、「風船の蛙亭」にて
「親父さん…今晩、空いてるかい?」
「ええ!空いてますよ!素泊まりだと一晩10銅貨です。」
※1銅貨=100円 ほど
「ありがとう…じゃ一晩頼むよ」
「へい!では、こちらにご記帳をお願いします」
「あと、良かったら…この肉で、スープかなんか作れたりするかな?」
「こりゃ立派な鹿だ!ウチの母かぁちゃんに作らせてますよ。おーい!!!母ちゃん!これ持ってくの手伝っておくれ!少々お待ち下さいね……いかがでしょう?お代をいただきますが、料理で余った肉は袋に切り分けましょうか?」
「おぉ悪いね、だった切り分ける肉は少しで良いよ…残りは女将さんと食べて」
「こりゃ有り難い、では遠慮なく頂戴いたします。おーい!母ちゃん!!母ーちゃん!!!…出発なさる頃には、包んでおきますんで」
ころころと変わる店主の表情
「助かるよ、いくらになる?」
「肉もいただけますので、あと2銅貨で結構です」
「ありがとう。」
「お部屋は2階の1番手前でございます。お食事が出来たら呼びに参ります。おい!母ちゃん、早くしな!」
「聞こえてるよさっきから!それぐらい自分でやりなよ…あら!お客さん、ゆっくり泊まって行って下さいまし…ほれ!そっち持ちな!」
女将さんの表情も身内とお客に合わせて、ころころと変わる、どう見ても店のオヤジより、女将さんの方が腕っぷしが強そうだ
それから2時ほど経つと一階の食堂から腹の虫を刺激する
食事の良〜い匂いが宿屋の中に漂ってくる
【鹿の肉団子と野菜たっぷりピリ辛スープ】
「ップハァー!うまい!」
疲れが吹っ飛ぶように美味い食事だ。
煮込んだ野菜の甘みと肉汁の甘みがマイルドに心と体を温める甘味の後に、ピリリと喉にやってくる辛味!
この辛味の丁度いい刺激がさらなる食欲を呼び起こす
団子状に処理された鹿肉は柔らかくほぐれ、ほくほくと舌の上で楽しんでいると、赤身の美味さがジャワっジュワっと伝わってくる。
女将さんの料理の腕はピカイチだ!
「どうですダンナ!?美味でしょ?」
と柔かな顔で、店主が感想を求めてくる。
「ええ!最高です!」
「でしょう!」
言われて店主は満足気に笑う
「で…ダンナは、これからどちらまで?」
「えぇと…このまま南に向かって…一度、産まれ故郷に行ってみようかと。長く帰ってないもんで(1500年ぐらい…)」
「お、里帰りですか…そういゃ私も長らく帰ってないねぇ…たまにはジジババの墓参りでも行かねぇとなぁ。そうだダンナ、南に行くんなら、あっち馬車に乗せてってもらったらどうです?」
店主が指をぴっと振って、視線を向けると4人組の男女がいる
「なんでもねぇ…聖都帰りのシスターさんと、そのお付きの方みたいでね……なんでも用心棒に雇ってた冒険者が、金にゴネて途中で帰ったらしくてよ…用心棒を探してるんですって。ほら、あの立派な鹿を仕留めたダンナなら腕も立つと思いますし…どうですかねぁ一緒に、それにこの先の山道は野盗の野郎が最近ウロウロしてますから、1人はお勧めしませんよ。」
話を聞いて、オグナも顔をそらちら向ける。
4人内の1人にシスターが自然に目に留まる
「…あ!」
何かを思い出すオグナ。
おもむろに束ねていた髪をぼどいてバサバサっと頭を振る
「どうたんです?もしや、お知り合いで?」
「え!?おしり!?」
動揺した声を上げるオグナ
「はい?お尻?やっぱりお知り合いなんですか?」
「……いえ、見た事もありません、赤の他人です!!」
一瞬声が大きくなったオグナの方を見る4人。
視線を感じたオグナは、背を向けてながらそそくさとスープを口にかき込んだ。
旅の4人は、自分達のテーブルに視線を戻し、会議を再開する
「やはり一度戻って冒険者を雇った方がいいですよ」
真面目そうな青年が話を続ける。
「確かに、野盗の団体に襲われれば、いくら拙僧の斧槍でも必ずしも守り切れるとは申し上げ難い。」
ヒゲを伸ばした恰幅の良い僧兵風の中年男性が賛同する。
「俺とジルガのオッサンと…ん〜あと2人…最低1人は欲しいわなぁ〜」
指折り計算しながら軽口を叩く男は、狩人風の軽装だ
「しかし路銀は最低限しかありません」
困り顔のシスター。
「今日のように!草むらから飛び出したのが鹿ならば良いですが」
真面目そうな青年の発言に顔を真っ赤にするシスター
「鹿です!絶対、鹿です!!!」
「…えぇ、鹿ならいいのですが、モンスターや野盗ならばコーラ様のお命をお守りする事が出来ません。」
「生理現象とは言え、あまり奥まで行かれますな」
「…はい」
「なぁ!あの、兄ちゃんならどうよ?」
軽装の男が、クイッと顎でオグナを指す
「何を急に!どんな方かもわからないのに!それに肝心の腕が立つかどうか!」
「い〜や、ありゃ強いヤツの肉のつき方だぜ!」
「うむ、確かに…よく見れば体にかなりの古傷もありますな」
「よし!誘ってみようや!」
「しかし、悪い輩やもしれません!」
「アルフレッドさん!!」
ぴしゃりとシスターが諫める。
見覚えるあるこちらのシスターは、シスター・コーラだ
「そのように、疑いを持って他人を見てはなりません」
「も、申し訳ごさません!コーラ様」
「コーラ殿、アルフレッド殿は、必死で貴殿をお守りしたいのです。」
「それは、理解しております。しかし見ず知らずの人を悪く言ってはなりません」
はい、とアルフレッドが頭を下げる。
「一度、街に戻るとしても…金も時間もかかぜ?」
アルフレッドとコーラは口を噤んでしまう。
「では、あちらの御仁に話しだけでも、声を掛けてはいかがであろうか?」
「ま!…やべぇ奴なら俺達で何とかすれば良いさ」
「では、私が話を聞いてまいります!!」
オグナのテーブルにアルフレッドがやってくる。
「あの…急にお声掛けして失礼いたします!
私の名はアルフレッド・ドット、旅をしてる者です。
今、お話してもよろしいでしょうか?」
「ああー!お客さん丁度いい、コッチもアンタらの話をしてたんだよ」
「え、私たちの?」
「いやね、このダンナがね。里帰りの途中らしくってよ、南に向かうって言うからさ、こっから先の街道は最近物騒だろ!だからさぁ…お客さん達の馬車に乗せてってもらえば良いんじゃねぇーかって話してたんだよ!」
「ホントですか!?」
「…ええ」
「それなら話しが早い!!実は、私たちも旅の同行者を探しておりまして、宜しければけ…いかがでしょうか?それに中々の手練れとお見受けします」
「いえ、私は…」
「国に着けば、お代は必ずお渡しします。」
そこにスッとやって来るシスター
「私はコーラ・コーラと申します、私たちは祈りの旅の帰りの者、どうかそのお力をお貸ししていただけませんでしょうか?」
オグナがシスターを見つめる、その微笑んだ顔は、かなりの美人と言っていい、綺麗より可愛いらしい印象だ
(この人…)
「決して無理にとは申しません」
(うん…やっぱ気付いてないっぽいな…じゃあ)
「助かります…馬車に乗れるだけでもありがたいですし…よろしくお願いします。」
「ほんとですか!ありがとうございます!」
頭を下げる青年
「ああ良かった!あなたに四英神のご加護があらん事を」
「それではあちらに!仲間を紹介します!」
「いえ!ニックさん、ジルガさん、こちらに」
アルフレッドがテーブルへ案内するのを止め
コーラが残りの2人を呼ぶ。
「へ〜い」
と気抜けた返事を返すのはニックと呼ばれた男だ。
「こちらは私の旅の従者で、僧兵のジルガさんとレンジャーのニックさんです。」
「うぃっす!」
「よろしく頼むのである!」
それぞれに一礼をする
ジルガはぐんぐんとオグナの手を取り、力強い握手をする
「改めまして、アルフレッドです。……すいません!まだお名前も聞いていないのにこちらの話しばかり」
「お気に入りなさらず…私はオグナ、シドウ村のオグナと申します」
「シドウ…聞かない土地ですな」
「どの辺だい?」
「カイナ島です」
「カイナ島……?」
「小さな島だったのでご存知無いかもしれません」
「これは…こちらが不勉強で申し訳ない」
「で、兄さん!腕は立つのかい?」
「やめんかニック!」
ジルガはポコっと頭をこつく
「すいません!オグナさん!」
すかさずアルフレッドが謝る
「いえいえ…今すぐに証明する事はできませんが、旅に出る前に父にあれこれと叩き込まれてたので、ご迷惑だけはかけませんよ」
「それは頼もしい限りです!」
嬉しそうなシスター
「まぁ、1人で旅を出来るんだ、当たり前だったよな!悪りぃ」
「気にしませんよ。同行者になるんです、強さを知りたいのは当然です」
「うむ!よろしくお願いするのである!!」
「明日の朝、出発です!このテーブルでお待ちしております」
こうしてオグナは、コーラ達一行に加わった。




