その4
ボルドー帝国は、異様な緊張に包まれていた。
強く吹き始めた風が、朱色の旗を踊らせる。
旗に描かれた大鴉の紋様は、今にも飛び立たんと羽を広げる。
慌ただしく走る騎士の甲冑が、ガチャガチャと音を立てる
「レイヴン様、魔法部隊の準備が整いました。」
「そうか…パトリック付いて来い」
「はっ!」
皇帝が向かった先、ボルドー城内の【天雷の間】
魔法、魔術の研究及び、魔導兵器の開発を行う
ボルドーにおける、魔法戦闘技術の中枢施設だ
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
薔薇の鴉は不敵に笑う
「聞け!この遺産の力を持って!我々がこの大陸の覇者となる!貴殿らの功績は、子々孫々にまで語り継がれる事をここに誓おう!ボルドーに栄光あれ!」
ー ボルドーに栄光あれ!!!
ー ボルドーに栄光あれ!!!
天雷の間が震えるほど、熱気を浴びた騎士たちの唱和
「こんな事したって無駄よ!英雄なんか現れ無いわ!たとえ現れてもあんた達クズなんかに協力んなてするもんですか!」
「無礼な!」
パトリックが剣に手をかける
「捨て置け!」
部屋の中央には、後ろ手に縛られたイスリールの姫エレナ、彼女の足元から半径10メートル程の魔法陣が描かれている
「舌を切り落としますか?」
「捨て置けと言っている、イスリールの言い伝えでは、アレの血と祈りが必要らしいからな」
「はっ!」
「ゲドー」
「…ここに」
にゅるりと影が動き黒いローブを被った人の形になる。
「では……」
レイヴンは、古びた金貨を取り出すと、指の間で滑らせる。人差し指から小指、小指から人差し指へ金貨が蛇のように移動する。
「始めよう」
パシっと金貨を手の中に入れ、親指で魔法陣の中心目掛けて弾いた。
金貨が王女の足元に落ちる。
それと同時、ゲドーと呼ばれた影が掌をヒラヒラと動かし始めると、その掌の前に小さな薄緑色の魔法陣が現れる。
姫が違和感を覚えた、ゲドーと同じ魔法陣が姫の首元にも現れる。
「わ…我は…(コレは!?口が…勝手に)」
乙女が祈り唱える
「…願う、彼の英雄を…(ダメ!!)」
心とは裏腹に、抗えない力で言葉が紡がれていく
「我は願う……邪悪を撃つ者を………(お願い…誰か)」
地面に魔力の光が走った
「来たれ…(助けて!!!)」
凄まじい魔力の光が迸る。
王女の足元の魔法陣はに、どうやら魔法効果増幅、魔力向上の効果が記されているようだ。
光の中から現れた人影
白いローブに細やかな金の刺繍、深く被ったフードのせいで表情は確認出来ない。
「我が名はエウロン・カーズ、祈りに答え再び現世に舞い戻った……」
ー おお!!
ー このお方が!!
驚嘆の声が漏れる。
「そ…そんな…」
落胆する姫の顔から力が抜けていく。
「私を呼んだのは誰だ?」
「私でございます!偉大なる四英神の1人、魔王討伐の大英雄、魔導師エウロン様」
「…ほう、そなたは?」
「私めはボルドー・レイヴン・ハート!このボルドー国の皇帝にございます。」
「お前がそうか…して、願いはなんだ?」
「願い?」
「このエウロンの魔術で叶えられぬ願いは無い」
「どの様な願いもでございましょうか?」
「決まっておろう…召喚された者は、召喚者の願いを叶えるのが道理だ」
「エウロン様!!!!いけません!!!」
後ろ手に縛られた姫が、すがる様にエウロンの足元に身体を埋める!
「あの女!」
「よせ!」
レイヴンがパーシバル・パトリックを止める
「なんだこの?汚い女は?」
「エウロン様!"どんな願いも"とおっしゃいましたね!」
「あぁ…」
「では手始めに、その女を殺していただきたい」
「お安い御用だ」
ーおお!
と、再び声が上がる
「そんな!おやめください!!!!私はイスリールの王女エレナ・リズ・イスリール!貴方様がお守りになった!ルーラ・レミト・イスリールの末裔でございます!どうか!どうか!おやめください!!!貴方様はイスリールを救って下さるお方では無いのですか?」
「わるいな…」
「さぁ!!エウロン様!!その下賎な女に鉄槌を!」
…下賎は、お前だよ
レイヴンの耳に何か聞こえたと思った束の間!
ドン!と音と共にレイヴンの体が後ろに吹き飛んだ!
「!?」ぐはっ!っと大量の血が口から溢れる!
全身は強く壁に叩きつけられ、レイヴンの胸には木の棒が深々と刺さっている
「何?」
っと、エウロンを見上げる囚われの姫君
「へ、陛下…」
振り返るパーシバル
レイヴンの体は、地面から離れ、高く壁に貼り付けてになっている。目の光はすでに失われており一目で絶命とわかる。
「貴様ーーー!!!!!!」
わなわなと表情筋を震るわせながらパーシバルの怒号が響く
「助けに来たぜ!王女様!!!」
声と同時にバッと!ローブを脱ぎ捨てる!
顔を見せるは、雄々しい肉体!
「やっちゃえ!!!!オグナぁぁぁああ!!!」
嬉しそうな姫の声援!!
「…あの時…」
ゲドーがつぶやく
「かかれー!!!」
パーシバルの掛け声で魔法部隊が攻撃の準備にかかる!
「させるかよ!!!」
オグナがすかさず地面を叩く!
床をえぐる様にして下から上に拳を振り抜く!
弾け飛んだ床材が散弾銃の様に飛んでいく!!
当たった兵士の肉体が無残にも千切れ飛ぶ!!!
「…おや………お…や…?…」
ゲドーの体には3箇所の風穴が開いており
霧散する様に体が消え去った。
≪ ニクノバケモノ≫
パーシバルの脳裏にキコル隊の生き残りの声が蘇る
「これが…肉の化け物…」
数々の戦場を駆けた将軍だからこそ解る異形、オグナの強さ、人が紙切れの様に飛ばされて行く、攻撃の1つ1つが大砲の砲撃、それらが流麗な動きで繋がって戦場を駆け回る。
それはまるで破壊を撒き散らしながら移動する人間型のハリケーンだ
「人は…あそこまで…強くなれるのか?…いや、そんなハズは…これが遺産の………手を出してはいけなかったのだ…邪な気持ちで使用してはいけなかったのだ…」
それから少しの抵抗の後、皇帝を失ったボルドーは、
1時間も経たずして、将軍パトリック・パーシバルが降伏を宣言。翌日には、ボルドーにイスリール軍が到着し7代続いた帝国はここに幕を閉じた。
国を開けていたイスリール国王も戻り、彼の号令のもと
戦後処理は速やかにおこなれて行った。
パトリックをはじめとした、ボルドーの高官および騎士達は、
宣戦布告無しでの奇襲攻撃および領土侵犯、それに加えイスリール王女の拉致等の罪で、処刑が下された。
〜未だ復興が進むイスリールにて〜
「この国を救っていただいき、心より感謝申し上げる、そして娘を持つ1人の人間としてお礼を言いたい。オグナ殿、この度は本当にありがとう」
頭を下げるのはイスリール王だ。
「陛下、感謝を申し上げるのは私の方でごさいます…旅の道具や地図、それに路銀までいただいて、感謝この上もございません。」
「何を言う…むしろ足りないぐらいだ、望む者は何でも差し上げると申したのに、本当にそれだけでよろしいのか?」
「コレだけで十分にございます。」
「そうとは言わず、良ければ娘を嫁に」
「お父様!」
顔を赤らめて怒鳴るお姫様
「ほほほ!照れるで無い!照れるで無い」
「身に余るお言葉です…その御心だけ頂戴いたします。」
話も終わり
それでは、と深く一礼を行うとオグナは部屋を後にする。
するとその背中を
「オグナさん!!!!!!!!」
と、呼び止める乙女の声
「もう…捕まんなよ王女様!」
「…うん!!」
少女は、続けて言葉を贈る
「……アナタ様の旅のご無事を祈念致します」
パタリと静けさだけを残し、玉座の扉が閉まる
見送る王女は凛としていた。
「しかし、彼は何者だったのだ??」
「…英雄です」
「英雄?」
「はい!救国の英雄!!オグナ様です!!」
王女の潤んだ瞳に、雫が一つキラリと光った。




