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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

山にこもって姉弟子と修業してたら、いつの間にか人類最強になってた~田舎者と馬鹿にされてたけど、都会のエリート学校のレベルが低すぎて悩んでる~

作者: 白波 鷹

「―レクト、ミューイ。お前達は今日から都会の学校に通え」

「―は?」


 そう言って、師匠こと俺の姉弟子の父親は俺に視線を向けてきた。いや、いきなりなんの話だよ……。


 山にこもり続けてはや十年。

 その間、ずっとこの師匠の下でめちゃくちゃ面倒くさい修業をさせられてきたわけだが……そんな俺に「都会の学校に通え」だと?


「……さては師匠、昼間から酒でも飲んでるな?」

「馬鹿言え、酒なんぞいつも飲んどるわ」


 ですよね~。

 俺はあまりにもいつも通りな師匠に安心しつつも、なおさら師匠の言うことが分からず首を傾げた。


「じゃあ、本気で言ってんのか? 都会の学校に通えってのは」

「ったりめぇよ。おめぇはまだしも、冗談で可愛いうちの娘を都会に出すなんて言うわけねぇだろうが」


 いや、それ言ったら俺もあんたの可愛い弟子なんだけど?

 俺が憎々しげに師匠を睨み付けていると、それまでずっと黙ってこの場に座っていたもう一人が口を開いた。目の前で豪快に笑っている師匠の娘であり、俺の姉弟子であるミューイ・イゾットだ。


 ミューイは綺麗な長い黒髪を苛立たしげに払うと、自分の父親である師匠を睨み付けながら声を上げた。


「ちょっと、お父さ―師匠。なんでレクトは良くて私は駄目なの? レクトはもう家族みたいなものなんだから、冗談でもそういう言い方はやめて」

「え? 怒るところそっち? 学校のことじゃなくて?」


 急に声を上げた姉弟子の発言に思わず突っ込みを入れてしまう。……いやまあ、俺も文句は言いたかったけどさ。


 そんな娘の言葉に師匠は頭を強くガシガシと掻くと、バツの悪そうな顔で向き直る。


「おっと、すまねぇな。もうお前ら結婚してると思ってたから普通に息子みたいなノリで冗談飛ばしちまった。悪い悪い、もちろん、レクトは大事な俺の息子だ」

「ちょっと待って? なに、さりげなくすげぇ爆弾発言入れてるの? してないよ、結婚」

「ちょ、ちょっと、お父さん!? い、いきなり何言ってるのよ!?」


 あっけらかんと言う父親に対して、娘であるミューイはめちゃくちゃ動揺していた。まあ、そりゃそうだ。


 そんなミューイをよそに、いつも通り馬鹿な師匠の冗談に俺は肩をすくめながら答える。


「ったく、ミューイのことも考えてやれよ。相手が俺でいいわけないんだから」

「え……?」

「未だにミューイから一本も取れてないし、ミューイだって俺みたいな弱い男なんて嫌に決まってるもんな?」

「あ、いや、その……そ、そうね……」


 なんかミューイがものすごい落ち込んでる。あれ? 俺、気遣ったつもりだったけどなんかミスった?


「……レクト、お前はちとあれだな。……駄目だ、うん」

「何が!? っていうか、そんな冗談飛ばす師匠に言われたくねぇよ!」

「そうだな……ああ、そうだな」

「何、その可哀想な人を見る目!? なんかすげぇムカつくんだけど!?」


 そんな俺をなおも師匠は呆れた様子で見てくる。……ちくしょう、なんでこんなことに。


「ともかく……レクト、ミューイ」


 まだ顔を赤くしたまま体を丸めているミューイを横目に師匠は再び大きな声で俺達を呼ぶと、俺達の目の前で見たこともない綺麗な装飾の施された紙を見せ、そこに俺とミューイの名前が書かれているのを指で示して大きく声を上げた。


「明日から『ドゥーン魔法学校』に通え、以上」

「「はぁ!? 明日から!?」」


 これまた唐突な師匠の言葉に、俺とミューイは声を重ねて驚いたのだった。





「―と、君達が立っているこの校舎には歴史があるわけだが……」


 ……いや、話長ぇよ、校長。

 俺は大勢の生徒達でびっしり埋まった建物の中に座り、げっそりしていた。一体、何十分話してんだ……。


 ちなみに、ここは『ドゥーン魔法学校』。

 この大陸ではかなり有名な魔法学校らしく、数々のエリートを生み出しているそうだ。


 一般的に子供は一定の年齢になると学校に通うことを義務付けられているが、その中でも魔法を使う為に魔法学校に通う人間は多く、その中でもこの『ドゥーン魔法学校』は他とは別格の存在なのだそうだ。


 ちなみに、俺と姉弟子であるミューイは師匠から魔法を教えられてはいるが、学校に通ったことはなかったりする。理由は師匠が親バカだから。


 ――しかしまた、なんでいきなり学校? あれだけ娘と離れるの嫌がってたくせに。


 俺はそんなことを考えながら少し離れた場所に座るミューイの方へと視線を向ける。ミューイは一つ年上だから俺とは違って入学ではなく、編入という形でこの『ドゥーン魔法学校』に入ることになった。


 そんなミューイは俺の視線に気付いたのか、睨み付けるような視線を向けてくる。


「……」


 俺はそんなミューイに軽く手を振って返すが、それを見た途端ミューイに視線を背けられてしまった。……酷い。


 それにしても、魔法学校ねぇ。しかも、よりによって、エリートばかりの通う『ドゥーン魔法学校』に通うことになるとは……どう考えても、俺達の実力じゃ難しいだろ。


 それなのに俺達がこの学校に入れたのは理由がある。


「そこの学校、俺の馴染みがやってんだよ」


 師匠は昨日、驚く俺達の前でそう言った。いやそれ、普通に身内びいきじゃん。

 しかし、師匠が言うには―


「ああん? あんな学校に俺の弟子が劣ってるわけねぇだろうが。きちんと向こうには実力測ってもらってあるから気にすんな。ま、俺の口頭だがな」


 いや、気にするわ。っていうか、口頭だけで実力測ってもらったっておかしいだろ……。


 ――まあ、笑い者にならないようにだけはしないとな。学校とか通ったことないし、田舎者丸出しになるのだけは避けよう、うん。


 考えてみれば、師匠が唐突なのはいつものことだ。

 ある日、突然巨大な魔物と戦わされたり、かと思えば突然魔法を向けてきてそれを防げと言ってきたり……そんなヤバい出来事に比べれば、学校に通うなんて全然マシだしな。


 そう思い、俺は睡魔を抑えながらも校長の話を聞き入ることにした。


 ―だが、俺はこの時知らなかった。

 有名なこの『ドゥーン魔法学校』のレベルがどれほどのものだったのかを。




「―今日から君達を担当することになったレフィリー・サラムよ。分かってると思うけど、この『ドゥーン魔法学校』は他の魔法学校とは違って本当に優秀な魔法の才能を持った人間以外入ることができないエリート学校よ。だから、授業の内容もそれ相応のものを求められることは理解しているわね?」


 そう言って、教壇に立つ長い黒髪のレフィリー先生は教師らしい表情で俺達を見渡す。俺はそんなレフィリー先生の言葉に肩を落とした。


 ――うへぇ……これはまたヤバそうだな。頼むから、師匠の時以上は勘弁してくれ。師匠、俺には容赦なかったからな……何度生死をさまよいかけたことか。


 おぞましい魔物に追いかけられた日々を思い出し、俺は目から一筋の水があふれる。これは恐怖から出た涙とかじゃない、汗だ汗……うん。


「ん……?」


 俺が師匠と過ごした濃厚な日々(?)を思い出しながら震え上がっていると、教壇に立っていたレフィリー先生と目が合ってしまう。


 ――やべ、初日から目を付けられちまったか? 俺としては、なるべく目立たずに生活したいのに……。


 そんな俺の気持ちをよそに、レフィリー先生は何やら困惑した表情で俺に声を向けてくる。


「あなた、名前は?」

「レクト・ユーフィーンですけど……」

「ユーフィーン……?」


 レフィリー先生は俺の名前に眉をひそめると、不思議そうな表情で俺の方へと歩いてきた。……え? 何? なんなの?


「え、え~と……な、なんでしょうか……?」

「……おかしいわね」


 いや、傍から見たらおかしいのはあなたでは?

 そんな風にツッコミを入れたいものの、教室中の視線を集めている中ではさすがにそれもできず、俺はただ苦笑いを浮かべながら教師と視線を交えるという稀有な体験をしていた。……何これ、学校コワイ。


 やがて、レフィリー先生は俺の顔を覗き込んでいたことに気付いて気まずくなったのか、距離を置いてわざとらしく咳払いをしていた。……し、心臓に悪い。


 そうして、冷静さを取り戻したレフィリー先生だったが……次にその口から出たのはとんでもないものだった。


「―私、ここを担当する前に生徒の名前と顔は全て覚えていたはずだけど……ユーフィーンという生徒は居なかったはずよ」

「へ……?」


 師匠おおおおおおお!?

 ちょっと待って、ちゃんとあの爺さん手続きしてくれたんだよね!? 俺、師匠が通えって言うから学校に入ったんだけど!?


「そ、そんはずはないかと……入学式にも参加しましたし、俺の師匠もきちんと学校に手続きしたって話していましたから……」


 口頭だけど。

 ん? あれ? やっぱり師匠の言葉信用しちゃ駄目じゃね?


 あまりにも適当過ぎる信用ゼロの師匠に絶望していると、レフィリー先生はますます怪訝な表情を浮かべながら俺に確認するように声を掛けてきた。


「師匠? あなたの魔法の師匠ってこと? そう……なら、後でこっちで調べておくから、とりあえずその師匠の名前を教えてもらってもいい?」

「はあ……ロッソ・イゾットって言うんですけど……」

「は……?」


 俺が師匠の名前を口にした途端、教室の空気が凍り付いていた。……え? なになに?


「え、え~と……どうかしましたか?」

「ねえ、君……私の聞き間違いじゃなかったら、さっき君の師匠がロッソ・イゾットだって言ってなかった?」

「言いましたけど……」


 「師匠ってもしかして有名人?」とか考え、ついさっきまで心の中で理不尽な師匠に心の中で矢を放ちまくっていたが、少しだけ株が上がり始めた。さすが師匠! 俺は最初からあんたを信じてたよ!


 そうして、安堵した俺だったが―そんな俺の予想に反してかえってきたのは、クラスに居たほとんどの生徒の教室中に響くほどの笑い声だった。


「え……? あ、あの~……?」


 気付けば先生をはじめ、教室に居た生徒達が笑い出してしまい、付いていけない俺は一人置いてけぼりを食らっていた。師匠の名前出すだけで笑いが取れるとか……何? 師匠の名前ってなんか魔法でもかかってんの?


 ――いやいや、そうじゃないだろ。


 どう考えても馬鹿にされた笑いに、俺が不機嫌な表情を見せるとその様子に気付いたレフィリー先生は何がツボったのかお腹を抱えながら涙を拭っていた。


「ご、ごめんなさい……君があまりにも面白いことを言い出すものだから……」

「師匠の名前がそれだけネタになるんスね~。別に良いですけど~、笑われても気にしないし~」

「だから悪かったってば……反省してるわ。それにしても、まさか大陸で一番有名な魔法使いの名前を出してくるなんて、良いセンスしてるじゃない」

「……はい?」


 ちょっと、この先生……今なんて言った? 誰が大陸一有名だって?


「……あの~、先生。もう一度聞いても良いですか? 最近、耳が悪いみたいなんスよ」

「え? だから、大陸で一番有名な魔法使いの名前を出してくるなんて、良いセンスしてるって言ったの」

「……なるほど、俺は今まで師匠から偽名を聞かされて育ったわけですね」


 あるいは同姓同名か。

 でもなあ……師匠、無駄にいつも自信満々だったし……いやいやいや、あんな老い耄れが大陸で一番有名な魔法使いなんて……そんな万に一つの可能性があるわけ―


「うおっ!?」

「な、何!?」


 そんな風に、俺が脳内で師匠を思い浮かべながら悩んでいた時だった。突然、俺の座っている席の近くで轟音が鳴り響き、驚いて声を上げる俺に続いてレフィリー先生が慌てて声を上げる。


 そして、よく見ると窓の外に何やら魔物が目を回して張り付けられており、それを見たレフィリー先生が慌てた様子で声を上げた。


「ま、魔物!? みんな落ち着いて! 学校は魔法で守られているから大丈夫よ!」

「一体、何が起きたんだ……ん?」


 教室中が騒ぎになる中、俺がそう声を上げると、ふと体が動かしづらくなっていることに気付いて声を上げる。よく見れば、さっきの轟音で怖がっていた隣りの席の女子生徒が俺に抱きついていたようで、それに気付いた俺はどうしたものか悩んでいたが、やがて女子生徒を気遣うように声を投げかけた。


「え~と……もう大丈夫っぽいよ?」

「え……?」


 あまり女性に免疫のない俺は抱きつかれた状態で頬をかきながらそう伝えると、女子生徒は慌てた様子で離れていった。……ビビった。


「ご、ごめんなさい……」

「いや、別に良いけど……っていうか、さっきのは何だったん―」


 だ、とそこまで口にしかけ……俺は窓の外を見ながら固まってしまった。

 そこには巨大な魔物が気絶した状態で魔法で作られた壁に貼り付けにされており、その魔物の腹の方にはよく見れば紙が貼り付けられていた。


 そして、その紙にはこう書かれていた―『今、俺の悪口を言わなかったか?』と。


「いや、地獄耳ってレベルじゃねぇよ!? 心の中でくらい良いじゃん!?」


 それを見た途端、俺は思わず突っ込んでいた。どんだけ心が狭いんだよ師匠! 頼むから心の中の声まで読まないでくれない!?


 どうせ昼間から酔っぱらっているだけの師匠にため息をついていると、ここが教室だったことに気付いた。……やば、こんなところで独り言とか完全にヤバい奴じゃん、俺。


 しかし、幸いにしてレフィリー先生を始め、さっきの騒ぎが収まらず俺の声は聞こえていないようだった。ふぅ、あぶね~。


 ――と、ともかく、あんまり師匠の話は出さないようにしよう。……笑われたくないし。


 そんなことを思いながら席に座ると、ついさっき俺に抱きついてきた女子生徒が俺を見ていることに気が付く。


「……え~と、どうかした? さっきのことならマジで気にしなくて良いから」

「う、うん……」


 と言いつつも、その女子生徒は何故か俺をどことなく強い目で見てくる。えっと、俺、さっき何もしてないよね?


「あ、あのっ!」


 俺が困惑しながら自分の行いを再確認していると、目の前の少女が突然大きく声を上げてきた。何? やっぱ俺、何かしちゃったりした?


 しかし、そんな俺の心配をよそに、続けて発された言葉は違うものだった。


「ろ、ロッソ様がお師匠様だというのは本当ですか……?」

「え? ああ、まあ、うん」


 不本意ながら。本当に不本意だが、ロッソ様と呼ばれる存在があの酒乱ジジイというなら間違いは―あ、いえ! 何でもありません!


 俺が心の中で毒づいていると、どこからともなく殺気を感じ、俺は急いで訂正した。……マジで怖いわ、あの人。


 周囲が騒ぎになっている中、とりあえず俺は気を取り直して声を掛けてきた少女と会話を続けることにした。


「やっぱ、君も俺が噓ついてると思ってたりする?」

「い、いえ! そういうわけでは……父からロッソ様の弟子が入学してくることは聞いていましたので……」

「父……?」


 どういうこと? もしかして、この子の父親って師匠の友人?

 俺が困惑していると、ようやく状況が安全だと確認出来たレフィリー先生が周囲を落ち着かせるように声を上げていた。


「みんな、落ち着いて! 今は安全みたいだけど、もしかしたらまた来るかもしれない。ひとまず理事長に相談してくるから、それまで教室から動かないで!」


 それだけ言うと、レフィリー先生は血相を変えた様子で教室の外へと走っていってしまう。……いやはや、大変なことになってきたなぁ。とはいえ、ここで「実は犯人は俺の師匠です」とか言ったら嫌でも目立つし……関わらないようにしておこう。


 というか、改めて師匠って何者なんだ……今さらながら疑問に抱いてきたよ。まあ、それはさておくとして……これは田舎者である俺が友人を作るチャンスなのでは?


 さっきの子なら事情を知ってるみたいだし、丁度良いかもしれない。これから先、学校生活をする上で一人っつーのも辛そうだしな。


 よし、そうと決まればまずは挨拶だ。なに、田舎から出てきたからって都会の挨拶を知らないわけじゃない。


 俺に掛かれば、友達百人どころか千人、いや一万人は出来るね! そこまでこの学校に居るのか知らないけど!


 そうと決まれば、隣の子に挨拶だな。俺は少ないながらも、家にあった資料を思い出しながら隣で何やら考え事をしている少女へと声を掛けた。


「お嬢さん、お怪我はありませんでしたか?」

「え……? あ、は、はい……」


 なんか、普通に素で返されてしまった……あれ? こうすれば、お花が周りに咲いたりするもんじゃないの?


「……おかしい、花が咲かない」

「あ、え、え~と……な、何の話でしょうか……?」

「いや、てっきりこういう風に声を掛ければ魔法でも掛かって周囲に花が咲くものだと思ってたからさ……」

「は、はあ……」


 明らかに困惑した表情を見せる少女を前に、俺はふと名案を思い付く。そうだよ、ここは俺が自分で咲かせれば良いのでは? というか、それが正解だろう、うん。


 というわけで、俺は軽く魔法でその少女の前に花を咲かせると、再び家に置いてあったミューイの漫画のような台詞を口にする。


「では、お嬢さん、名前を聞いても良いかな? 俺の名前はレクト・ユーフィーン―」


 と、そこまで口にした時だった。周囲からどっと大きなどよめきが起こっていたのだ。


「は、花が咲いてる!?」

「こ、こんな大量の花を何もないところから!? い、一体どうやって!?」

「……あれ?」


 どうやら、俺が少女の周りに魔法で咲かせた花でクラスの連中が騒いでいるらしい。いや、こんなの子供でも出来るだろ?


 そんな中、騒ぎの中心に居た少女は驚きと困惑を入り交ぜた顔で俺を見上げてきた。


「は、花をこんなに出せるなんて……なら、本当にこの人が……」

「え~と……?」


 クラスの連中が何で騒いでいるのかが分からない上、隣の女子も何やら考え込むようにして俯いてしまい、事情の分からない俺は一人状況に取り残され、呆然としてしまう。


 もしかして、挨拶の仕方がまずかったか? いやいや、ミューイの部屋にあった本だとあんな感じだったし、掴みはバッチリだったはず……。


 まあ良いや、まどろこっしいのはやめよう。というか、こういうのは俺のキャラじゃないし。


「お父様は本気で……? そ、そうだとしても、私はまだ心の準備が……」


 そうして、俺は気を取り直して隣の女子への挨拶を再開しようとしていたのだが……何やらブツブツと呟いており、一人でお取込み中のようだった。……都会は変わった子が多いんだなぁ、うん。


 いや、独り言が多いからって引いちゃダメだろ、俺! 友人を作るなら少しくらい寛容にならないとな! そうと決まれば―


 どことなく頬を赤くしていて、怒っているのか恥ずかしがっているのか分からない女子を前に、俺は仕切り直そうと軽く咳払いをしてみせる。すると、明らかに動揺した様子でその女子に振り向かれてしまい、俺は一瞬言葉に詰まりそうになる。……いや待って。俺、本当に何もしてないよね?


 落ち着け、田舎者。ここで動揺してしまえば、相手の思う壺だ……いや、何と戦ってるかは知らんけど。


 ともかく、女性が動揺しているならそれをリードしてやるのが男の務めだろ! ミューイの本にもそう書いてあったしな!


 そうして、俺は一つ呼吸を置くと何やら顔を真っ赤にしている女子を安堵させるべくにっこりと微笑みかけながら声を掛けた。


「なあ、君」

「ひゃい!?」

「……ひゃい?」


 ……これは都会の返事か何かなのだろうか? なるほど、俺は都会について何も知らなかったらしい……とか思ってたが、どうやら、単に返事をした際に舌を噛んでしまったらしく、口を抑えながらぷるぷると肩を震わせている女子。


 その姿を見ていると、こう罪悪感が湧いてきてしまい、俺は言葉に詰まりながらもどうにか謝罪を口にした。


「……いや、あの……うん……なんかごめん」

「い、いえ……わ、悪いのは私で……っ~」


 そう言いつつも、舌が切れて痛いのか口を抑える女子。……なるほど、確かにこれじゃあ話しにくいよな。


「いや、悪かった。謝る前にまず治してやるべきだったよな。ほら」

「え……?」

「もう痛くないだろ?」

「あ、あれ……? ほ、本当に痛くない……」

「治癒魔法だよ。まあ、わざわざ俺がやるほどじゃなかったかもしれないけど、あまりにも痛がってるから治させてもらったんだ」


 俺が軽く魔法を使って怪我を治してやると、隣の女子は驚いた様子で何度か口を開いていた。別にそんな驚くことでも無いだろうに。


 なんで自分で治さないかは疑問だったが、ま、痛がっている時はそういうことにまで気は回らないもんな。こんな初歩的な魔法を使えないほどに焦っていたとは、隣の女子は焦ると弱いタイプなのかもしれない。


 そうして、俺が一人で考え事をしていた時だった。


「ち、治癒魔法だって!?」

「お、おい……う、噓だろ……?」


 そんな俺に、今度は周囲から花を咲かせた時以上の歓声が浴びせられた。今度は一体何なんだ?


「え? 何? 俺、何かした?」


 よく見れば、クラス中の視線が俺に集められてしまっており、何が起きているのか分からず、俺は周囲へと視線を向ける。……まさか、治癒魔法を使っちゃまずかったとか?


 しまった……そういえば、学校のことについて何も知らなかった。

 もしかして、迂闊に魔法を使うのはやめた方が良いのか? 田舎から来てるし、あまり目立ちたくないんだよなぁ……。


 師匠に無理矢理入学させられたとはいえ、退学なんてした日には師匠の地獄の説教が待ってるのは間違いないし、ここは穏便に済ませよう、うん。


 そんなこんなで、気を取り直して隣の女子に声を掛けようとしたのだが―


「ち、治癒魔法まで使えるんですか!?」

「うおっ!?」


 その女子から凄い勢いで迫られてしまい、予想だにしていない態度に俺は大きくのけぞってしまう。……どうしたの、この子?


「あ……す、すいません……!」


 しかし、すぐに自分の行いについて気付いたのか、顔を真っ赤にすると、その女子は急いで自分の席へと戻っていく。もしかして、意外に行動的なタイプなのか?


 突然の出来事に驚きつつも、せっかくのチャンスをみすみす逃す手はない。そう、俺がこの学校で数年間ぼっちを貫かない為にも、このチャンスを見逃すわけにはいかないのだ。


 俺は再び気を取り直すと、相手を怖がらせることのないよう、笑顔を作りながらその女子へと声を掛けた。


「そういえば、君の名前を聞いても良いかな?」

「わ、私の名前……ですか?」

「そうそう。せっかく隣になったわけだし、どうせなら仲良くしたいからさ」


 そんな俺の言葉にその女子は肩まで掛かった銀色の髪を小さく揺らすと、何やら恥ずかしがった様子で返してきた。


「い、イサリナ・ドゥーンと言います……」

「イサリナか。俺のことはレクトとでも呼んでくれて良いからさ、仲良くしてくれ」

「は、はい! よ、よろしくお願いします! レクトさん!」

「よろしくな、イサリナ―って、ちょっと待て」


 今、この子なんて言った? 確か、イサリナ・ドゥーンって名乗ってなかったか?

 苗字が『ドゥーン』ということは、まさか―


「な、なあ……」

「は、はい?」


 俺はどこか嫌な予感を覚えつつも、ぎこちない笑みを作りながらイサリナへと再び声を掛ける。整った顔立ちに真面目そうな雰囲気を漂わせるイサリナの顔を見ながら、俺は咄嗟に抱いた疑問を口にした。


「……イサリナの苗字って『ドゥーン』だよな?」

「え? あ、はい。そうですけど……」

「ちなみに、ここも『ドゥーン魔法学校』って名前だけど……それって、俺の記憶だと、確かここの学校を建てた理事長の苗字が『ドゥーン』って名前だったからじゃなかったっけ?」

「えっと、そうですけど……」

「いや~、学校と同じ名前だと大変だよな。ほら、学校の関係者と親族だと思われたりするだろ?」


「そうですね。確かに、お父様が理事長なので『ドゥーン』と呼ばれると少しむずがゆいところはありますから」

「あはは、そうなのか~」

「そうなんですよ」

「まあ、そういうこともあるよな。そっか~、なるほど~、理事長の娘だったのか~―って、理事長の娘ぇっ!?」


 未だに俺の周囲が喧騒に包まれる中、一際大きい俺の声が教室に響き渡ったのだった―。




「―みんな、さっきの魔物は私達で対処しておいたけど、帰り道は充分注意してね? もしかしたら、魔物の群れが押し寄せている合図かもしれないから」


 そうして、師匠が飛ばしてきただろう魔物を処理したことを告げるレフィリー先生。……うちの師匠がすいません。


 まあ、そうは言っても、バレなきゃ問題ない。

 あくまでも俺は師匠に「学校に通え」って言われただけだし、例え隣の席の子が理事長の娘だろうと何だろうと、普通に過ごしていれば問題ないはず。強いて言えば、授業に付いていけるかが問題だが……こればかりはやってみないと分からないもんな。


 ――さて、と……帰りにミューイの様子でも見てくか。あいつ、人に馴染むの苦手だし、クラスで孤立してないか不安だし―


 そうして、俺が姉弟子のことを心配しながら一人で頷いている時だった。教卓に手を付いていたレフィリー先生は真剣な表情を作ると、周囲を警戒するようにしながら小さな声でとんでもないことを言い出してきたのだ。


「……これはまだ確定情報じゃないから、あなた達に伝えておくか迷ったけど……何かあってからじゃ遅いから先に言っておくわね。……今回の騒動だけど、実はうちを狙ったテロの可能性もあるそうよ」

「…………はい?」


 無理矢理考え事から引きずり降ろされた俺は、思わず間抜けな声を上げてしまう。テロ……? 何が?


 混乱する俺をよそに、隣に座るイサリナを始め、教室に居る生徒達が息を飲むように音を鳴らす。


 そんな俺以外の生徒達から恐怖と困惑の目を向けられたレフィリー先生が大人らしく真剣な表情でとある紙を黒板へと貼り付けると……そこに貼られた紙へと俺が目を向けた瞬間、顎が外れそうになった。


『今、俺の悪口を言わなかったか?』


 そこには、師匠が俺に向けたであろう手紙が貼り付けられていたのだ。いや、ちょっと待って? ほんとあの師匠、なに余計なことしてくれてんの?


 そうとは知らず、レフィリー先生はその紙を思い切り叩きつけると、真剣な表情で俺達へと視線を向けながら額に汗を流して続きを口にしていく。


「見て、この文章……これは一つの脅迫とも取れると思うの」


 いや、確かに脅迫だけどっ! それは俺に送ってきたものだからっ!

 そんな俺の心の中のツッコミも虚しく、冷や汗を流したレフィリー先生は深刻そうな表情で話を続けていく。


「……残念ながら、他の先生方も私と同じ意見だったわ。愉快犯の可能性もあるけど、大陸一の魔法使いが理事長を務めるこの学校にそんな馬鹿なことをする人間なんてまず居ない……そのことから、これはこの学校を狙ったテロの可能性が高い、という話になったの」


 ……すいません、それやったのうちの師匠なんです。そして、そんな馬鹿なことをする人間でほんとすいません。


 心の中で酔っ払い爺さんのことを謝っているものの、もちろん伝わるはずもなく、教室に張り詰めた空気が流れていく。


 そんな空気の中、さらにレフィリー先生は真剣な表情で言葉を続けていく。


「でも、しばらくは私達が周囲を監視しておくから心配しないで。寮の方にも理事長が施した魔法が掛かっているし、外部からの攻撃はないと思って安心してくれて良いわ。まったく、入学式初日からこんなことになるなんて……」


 いや、ほんとすいません、うちの師匠のせいで。

 今すぐに師匠に謝らせたいところだが、残念ながら俺にはあの師匠を従わせられるほどの度胸はない。それはミューイに任せよう、うん。だって、師匠強いんだもん。


 とにかく、この件は後で姉弟子にも話すとして、今は知らないフリをしてやり過ごさないと……。


「長くなったわね。とりあえず、今日はこの後に資料をいくつか渡して解散するから。明日からは誇り高い『ドゥーン魔法学校』の生徒として、厳しい勉強に取り組んでもらうわ。良いわね?」


 うへぇ……厳しい勉強とか勘弁して欲しい。

 そんな俺の心境をよそに、レフィリー先生から学校の資料を渡され、間もなく解散の合図がされた。



 ◇



「―疲れた」


 色々あったものの、どうにか入学初日を終えることが出来た。ホームルームを終え、真っ先に机に突っ伏しながら俺はそう口にするのが精一杯だった。


 生徒に登録されてないとか疑われるわ、魔物が結界にぶつかるわ、隣の女子が理事長の娘だわ……怒涛の出来事が連続して続き過ぎてマジで疲れたよ。


 俺が師匠のことを恨むようにそう声を上げると、隣に居たイサリナが何やら口を開こうとしていることに気付く。しかし、そんな中、レフィリー先生が俺のところまで歩いてくると、厳しめな様子で声を掛けて来た。


「レクト・ユーフィーンくん……だったわよね?」

「あ、はい、そうですけど……」


 何? やっぱ俺、入学届受理されてなかったの?

 いや、でも、さっき資料ちゃんと渡されてたし……。

 そうして、真剣な表情で俺に迫るレフィリー先生に怯んでいると、レフィリー先生は何やら頭を抱えるような様子で声を上げた。


「ごめんなさい、ちゃんとあなたの入学届けは出されていたわ。だから、明日から普通に登校して来て良いから」

「よ、良かった……」


 心臓に悪いよ、ほんと……。

 そんな俺の反応を見た後、レフィリー先生は困惑した表情を見せながら、俺にあることを告げて来た。それは―


「それで悪いんだけど、とりあえず職員室に来てくれる?」

「…………はい?」


 ―入学初日から職員室に連行されるという、不良生徒まっしぐらなものだった。




「―君がレクト・ユーフィーンくんか」


 そうして、理事長室に入った俺の前に立つ理事長からそんなことを告げられた。

 短くまとめられた銀髪と細い顔立ちは少し年齢を感じさせるものの、眼鏡の奥から発される射貫くようなその鋭い眼差しを見る者を圧倒させる。


 この学校の理事長……つまり、イサリナの父親を前に、俺はまるでモアイも真っ青ないかつい顔になりながら、まず理事長ではなく、この場に居たもう一人の人間へと声を投げ掛けた。


「レフィリー先生、職員室に来いって言ってませんでしたっけ!?」


 これぞまさに、青天の霹靂。職員室へ連れて行かれると思っていた矢先に、気付けば俺は理事長室へと連れてこられたわけだ。


 そんな俺の叫びにレフィリー先生は「あ~……」とバツの悪そうな顔を浮かべると、頬をポリポリと掻きながら目を逸らすようにして言葉を返してくる。


「いや、その予定だったんだけど……途中で理事長に直接呼ばれちゃって……」

「初日から職員室に呼ばれるだけでもかなりプレッシャーなのに、理事長室とかすげぇプレッシャーなんですが……」

「まあ、どっちにしろ、職員室に連れて行こうとしたのも、理事長室に行く前にある程度先に色々と話しておこうと思ってただけだから……結果としてはそれが早まっただけって言うか……ね」

「……なるほど、つまり俺は最初から理事長室に連行されることが決まっていたわけですね」


 学校の「が」の字も知らない俺とはいえ、今の状況がまずいのはよく分かる。というか、初日からこんな問題起こしまくって友達出来るのか、俺?


 そんな俺達のやり取りを目にしていた理事長は、眼鏡の奥から鋭い目付きを見せると、自分の両手を顔の前で重ね合わせるようにして寄りかかりながら威厳のある声を向けてくる。


「強引に連れて来てしまったことは悪いと思っている。入学初日だというのに、こちらの不手際で余計な騒ぎも引き起こしてしまったようだしな」

「あ、いえ……こちらこそ、なんかうちの師匠の所為で迷惑をお掛けしたみたいで……」

「気にしなくて良い。彼とは旧知の仲でな……今回の入学も、彼の大事な弟子を入学させて欲しいと頼まれて承諾したのだよ」


 そう言って、ふっと小さく笑みを見せる理事長。って、ちょっと待て。こんな人がうちの師匠と旧知の仲? 噓だろ……。


「あの……理事長」


 そんな中、あまりにも師匠と雰囲気の違い過ぎる理事長に驚いていると、レフィリー先生がおずおずと遠慮がちな様子で手を上げながら


「おっと、すまなかった。わざわざ彼をここまで連れて来てもらってご苦労だった」

「それは構わないんですけど……あの、彼……レクトくんが大事な弟子だから入学を許可した、というのは一体……?」


 そう言って困惑した表情で俺へと視線を向けてきたレフィリー先生に、ふと俺は嫌な予感を覚えてしまう。


 ――ん? 待てよ? これって、考えようによっては「不正入学」みたいに取られるんじゃね? っていうか、そもそも師匠の口利きだけで試験も受けずに学校に入学するのって普通にまずくない? ここ、かなり有名な学校って言ってたよな?


 そんな俺の不安をよそに、理事長は事もなげにレフィリー先生の質問に答えていた。


「先程も話した通りだ。旧友からの紹介で彼をこの学校に入学させたのだよ。彼の師は私にとっても弟子のようなものだからな」

「り、理事長……そ、それはいくら何でもマズくないですか? この学校には腕利きの生徒達が死に物狂いで来てるんですよ? それを権力だけで入学させるのはちょっと……そもそも、そんな無理矢理入らせたとしても……その、実力が無いとこの学校で生きていくのはつらいんじゃないかと思うんですけど……」


 ですよね~。

 どう聞いても、周りが強豪ぞろいなのに俺みたいなモブがどうやって生きていくんだって俺も思ってますし。何だかんだで俺を心配してくれるレフィリー先生の言葉にうんうんと頷いていると、理事長はそんな彼女とは正反対の対応を見せる。


「そのような心配は必要ないだろう」

「え……? ど、どういうことですか?」


 理事長の言葉にレフィリー先生が驚いたように返す中、理事長は俺の方に視線を向けてくると、理事長はその表情を変えることのないまま、とんでもないことを言い始めた。


「彼の実力は相当なものだ。それは私が保証しよう」

「…………はい?」


 ちょっと待って、この理事長は一体何をおっしゃってるんですか?

 そもそも、理事長の顔を見たのも初めてなのに『私が保証しよう』とか言われても……。


 そんな俺を置いて、理事長の言葉に驚いたレフィリー先生は一瞬言葉を失いながらも、緊張感のある声を返していた。


「……それは、彼は理事長が認めるほどの実力を彼が持っているということですか?」

「ああ。先程も言った通り、彼の師は私の旧友でな。その彼が認める程の実力なのであれば、間違いない」

「理事長が認める程のお方……あ、あの、彼の師とは一体……?」


 あぁ……知らないうちに俺のハードルが勝手に上がっていく。

 もはや置いてけぼりになった俺は理事長室の窓から見える空を眺めながら途方に暮れていると、理事長が少し驚いた様子を見せていた。


 そして、俺の方へと視線を向けてくると、感情の起伏が少ない声で尋ねてくる。


「なんだ、彼女に君の師の名前を伝えていないのか?」

「いや、一応伝えてはいるんですけど……なんか、大陸一の魔法使いと同名なせいで信じてもらえなくて……」

「ちょ、ちょっと待って!? あなたの師匠って本当にロッソ・イゾットって名前だったってこと……?」

「え? まあ、そうですけど……」


 驚いた様子で俺にそう尋ねてくるレフィリー先生。そんな俺達の様子を目にしていた理事長だったが、しばらくの間、目をつむった後、真剣な表情で聞き捨てならない事実を口にした。


「彼の師はロッソ・イゾット―この大陸で唯一、私に敗北を味合わせたことのある男だ」




 理事長室から解放された俺は、大きく肩を竦めながら一人廊下を歩いていた。なんかもう、色々とすごいことになってしまった……。


 入学早々に職員室どころか理事長に呼ばれるし、挙句の果てに師匠が大陸一の魔法使いとかよく分からないこと言われるし……もう分けわからん。それに腹も減った……。


 あまりにも色々あり過ぎて疲れながら空腹を抑えつつ、俺は理事長の顔を思い浮かべる。まったく、理事長も冗談が上手いよな。あんな爺さんが大陸一なわけ―


「―はっ!? 殺気!?」


 俺は急いで周囲を振り返るも、そこには特に誰も居なかった。

 しかし、確かに俺は感じていた……くそ、師匠って勘が鋭いから怖いんだよなぁ。今頃、また『俺の悪口を言わなかったか?』とか考えてそう……マジで怖いわ、あの人。


 ともあれ、ようやく入学式からの一件を含めた色々なことから解放されたわけだが……そういや、ミューイはどうしてんだろ?


 ぶっちゃけ言って、俺よりも対人関係の危ういあの姉弟子が普通に学校生活を送れているとは思えないんだよなぁ……いや、考え過ぎか。俺も師匠に似て過保護なだけだ、うん。きっと何だかんだで普通に友達とか出来て―


「―ちょっと、そこの庶民。だらしない顔で私の前に立たないで下さらない?」

「……ん?」


 とか、そんなことを考えていた時だった。突然、見知らぬ声が耳を突いたかと思うと、その声はさらに俺に何やら言葉を投げかけてきた。


「ずいぶんとまあ、情けない顔ですこと……それにやる気もなく、覇気もない酷い顔ですわね。見てるだけでこちらのやる気まで奪われてしまいそうですわ。さっさとわたくしに道を譲りなさい」


 その声に空腹で頭を悩ませていた俺はようやく視線を向けた。すると、何やらロールパンが目に付き、あまりにも疲れて考えるのをやめていた俺は不自然な出来事に首を傾げながらも、咄嗟に見たままの光景を声に出してしまう。


「あれ? 俺、いつの間に食堂に来てたんだ?」

「は……?」

「ロールパンが……喋った?」

「ロ―!?」

「あれ……?」


 そこまで口にして、何やら周りが騒がしいことにようやく気が付いた。よく見れば、俺の目の前に三人の女子生徒がおり、どうやら俺はそのうちの一人の髪型を見てロールパンだと勘違いしてしまったらしい。


 そんな俺の言葉に、真ん中で仁王立ちしていたロールパ―じゃなかった、金色の髪を横で巻いた女子生徒は顔を真っ赤にしてしまっていた。……やべ。


 俺が自分の失態に冷や汗をかいていると、その女子生徒を取り巻くようにしていた二人の女子達が怒った様子で声を荒げた。


「ら、ラングース様の素敵な髪を見てロールパンだなんて……!」

「あ、あなた、一年生のくせにラングース様に何てことを言うの!?」


 一年生のくせにって……あ、よく見れば、俺が胸に付けているものとは証が違うな。この学校じゃ学年ごとに胸に付ける証が違うことはミューイと俺の証が違う時点で知ってはいたが、まさか相手が上級生だったとは……。


 とはいえ、ここで騒ぎになったら俺の平和な学校生活が終わってしまう。ここは変に弁明とかしたりせず、俺が悪いし、素直に謝っておこう、うん。


「すいません、ちょっと考え事をしてて―」

「こうなったら、決闘ですわ!」

「―そう、決闘を……はい?」




 そうして、俺の平和な学校生活は終わりを告げたのだった―完。


「いや、終わらせちゃ駄目だろ」


 学校の校庭で立ち尽くしていた俺は、現実逃避のあまり心の中で終わりそうになっていた自分のエピソードにツッコミを入れていた。なぜ、こんなことに……。


 周囲には多くの生徒達が野次馬のごとく集まり、軽くお祭り騒ぎのような騒がしさを見せており、そんな大衆の目が向けられている中心に居るのが俺とロールパン―じゃなかった、巻き髪の先輩らしき人だった。……っていうか、名前すら知らないんだが。


 わけも分からないまま校庭に連れて来られた俺は、二人組の取り巻きを引き連れた巻き髪の先輩は俺の目の前で軽く体を動かしながら自信たっぷりな様子を見せる。恐らく……というより、まず間違いなく後輩である俺を制裁するつもりなんだろう。


 ちくしょう……腹が減ってる時にあんな髪型を見りゃ、誰だって間違えるよなぁ。そんな風に半ば八つ当たり気味なことを考えていると、目の前に居た巻き髪の先輩が目付きを鋭いものへと変えていく。


 そして、偉そうに両腕を組んでみせるとそんな強い視線へと向けながら冷えきった声を返してくる。


「あなた……また失礼なことを考えてませんこと?」

「イエ、メッソウモゴザイマセン」


 何でみんな、俺の心の中を読めるの? もしかして、俺って心の中が周囲に聞こえちゃうタイプとか?


 そんなアホな考えに逃げたくなるくらいに疲れていた俺の耳に、巻き髪の先輩から呆れた様子で声が掛けられる。


「安心なさい。『ジュリス家』の次女たるこのラングース・ジュリスがあくまでも先輩として、無知なあなたに軽く制裁を加えるだけですわ」

「あ、自己紹介どうも。レクト・ユーフィーンです」


 そうして、ラングース先輩の自己紹介に乗って俺も軽く自己紹介をし返したのだが、俺の名前を聞いたラングース先輩は何やら困惑した表情を返してきていた。


「ユーフィーン……? 聞きなれない名前ですわね……あなた、まさか私に偽名を名乗っているのではないでしょうね?」

「いや、本名ですけど……」

「ということは、私すら知らない貴族ということ……? 平民上がりの貴族ですら知っているこの私に、まだ知らない家があっただなんて……」


 そんなラングース先輩の呟きに同調するように、周囲の生徒達からも困惑した雰囲気が流れていく……すいません、貴族ですらないです。もっと言うと、大陸一らしいの胡散臭い師匠を持っているだけの平民でございます。


 とはいえ、こんな注目を浴びている中、そうとは言えず、ラングース先輩はその表情をますます怪訝なものへと変えていく。


「……そもそも、一年生の癖に理事長から出てくる時点で得体の知れない存在でしたわね。あなた、一体何者なんですの?」


「いや、何者とか言われても……今日、入学してきたばかりですし……それに、山から下りてきたばかりで何も知らないわけでして……」

「や、山から……?」


 俺の言葉に、ラングース先輩があんぐりと口を開きながらそう口にすると、周囲の生徒達も同じように口を開いていた。……あれ? 俺、変なこと言ったかな?


 周りの反応に困惑していると、やがてどっと笑い声が響き渡った。しかも、残念ながらその笑いは明らかに俺を嘲笑するようなもので、その中心に立っていたラングース先輩はあまりにも笑い過ぎた所為か、目に涙を貯めてしまっていた。


「へ~、俺が田舎者なのがそんなに面白いんですね~」

「ご、ごめんなさい……だって、あなたがあまりにも変なことを言い出すものだから」

「俺はただ、事実を言っただけなんですけどねぇ……」


 その間にも周囲からの笑い声は止まず、俺は呆れた様子でため息を吐く。すると、笑いを抑えたラングース先輩が勝ち誇った表情で俺の正面に立った。


「まさか、おのぼりさんだったなんて……それなら、この誇り高き『ジュリス家』の次女である私を知らなくても無理もないわね」

「あの~、すいません」

「何かしら?」

「その『ジュリス家』って……そんなに偉い家系なんですか?」


 俺が笑われた仕返しとばかりにあえてそう口にすると、ラングース先輩の眉間がピクリと動くのが見えた。あ、これ、しくったか?


 それでも、周囲の目もあるのか貴族として怒鳴り散らしたりすることなく、頭の上に怒りマークでも付いてそうな笑顔で俺の質問に答えてくれる。


「ま、まあ、おのぼりさんなら知らなくて仕方がありませんわね……。もちろん、『ジュリス家』は名立たる貴族の中でももっとも優れた家系ですわ。現に私はこの学校で二年という月日の中で全ての学科で一位を取り、エリートという看板を背負っているんですもの」

「へ~、ラングース先輩ってすごいんですね」

「え? も、もちろんですわ」


 素直に褒めると、ラングース先輩は虚を突かれたらしく、ロールパンのような巻き髪の毛先をいじりながら頬を赤らめ、照れてしまっていた。なんだ、いきなり決闘とか制裁とか怖いことばかり言うからアレな人だと思ってたけど、案外良い人なのかもな。


 しかし、なるほど……だとしたら、そんなエリートが居る学年に入ったミューイも大変そうだ。いくら師匠に鍛えられたからって、貴族相手じゃ分が悪いもんな。向こうは金を払ってすごい師匠を付けてるんだろうし、そんな中で俺らみたいな付け焼き刃が対抗出来るはずもない。


 俺がそうしてミューイのことを案じていると、ふとラングース先輩が我に返ったらしく、再び困惑した表情で俺へと質問を投げ掛けてくる。


「あなたが平民であることは分かりましたわ。でも、なら何故あなたは理事長室から出て来たんですの? 当然ですけれど、あの場所は基本的に生徒は立ち入り禁止になっているはずですのに……」

「あ~、いや、それは―」


 正直に答えても良いものか悩みながら俺が返事を返した時だった。


「―ちょっと、レクト。こんなところで何やってるの?」


 聞き慣れた声が耳をつき、俺は咄嗟に振り返る。すると、そこには長い黒髪の姉弟子ミューイ・イゾットが不機嫌そうな様子で両腕を組んで立っていた姿があった。


「げ……ミューイ……」


 また面倒な時に見つかったな……。

 どこぞのお父上様の師匠と違い、母親に似てしっかり者であるミューイはとにかく真面目だ。まあ、真面目というより、ただ堅物過ぎるだけなんだが……修行中もとにかく俺に説教ばかりしてきてたからな。


 そんな姉弟子に今の状況を見られるのは非常に面倒だというのは火を見るよりも明らかで、案の定、ミューイは周囲の人だかりを縫うように歩いて俺のところまで歩いてくると、そんな心配事を証明するかのように不機嫌そうな声を俺へと向けてくる。


「ねえ、これは何なの? なんか、すごい人だかりが出来てるけど……」

「いや、何と言いますか……流れでそうなった?」

「流れでって……あの人が胸に付けてる称号……私と同じ学年の人でしょ? 入学初日から先輩に呼び出しを受けるって相当なことだと思うんだけど?」


 はい、ごもっともです。

 とはいえ、まさか「ロールパンと先輩を間違えちゃったんだ」などと言えるはずもなく、俺は微妙な顔を返すしかなかった……というか、もう一回そんなことを口にしたら、さらにラングース先輩を怒らせるのは間違いないし。


 俺の言葉に困惑した表情を見せるミューイだったが、そんなミューイにラングース先輩から声が掛けられた。


「あなた―例の転校生ですわね?」

「ん……?」


 その声にミューイと一緒にラングース先輩の方へと視線を向ける。すると、自信満々な様子で腕を組んでいた彼女は、自分の髪を軽く払い除けながら鋭い目付きを返してきた。


「見たところ、そこの男と親しいようですけれど……あなたもあなたで、このわたくしと同じクラスになったからと先ほど声を掛けてあげていたというのに、こちらに何の反応も示さないというのはいかがなものかしら?」


 しかし、それに対してミューイは困惑した表情を浮かべると、そんなラングース先輩の鼻っ柱を砕くような一言を返してしまう。


「……ねえ、レクト。結局、あの人って誰なの?」

「なっ―!?」

「ちょっとおおおおおおお!? 余計に話をこじらせないでくれる!?」


 素でラングース先輩を知らないらしく、そう尋ねてくるミューイに全力でツッコミを入れる俺。本人が意図してなくても、俺とのやり取りの後にそんなことを言えば、ラングース先輩にとっては挑発以外の何ものでもない。


 当然、ラングース先輩は怒りから顔を真っ赤にすると、プルプルと肩を震わせた後、ゆっくりと俯きながら不敵な笑みを浮かべていた。


「ふ、ふふ……ふふふふふ……そこのレクト・ユーフィーンとかいう生徒といい……この私を馬鹿にするとは良い度胸ですわね……」


 やべぇ……めちゃくちゃ怒ってるっぽいんですけど……。

 状況が分からず、困惑した表情を見せるミューイにどう説明したものかと悩んでいると、ラングース先輩は突然手を振りかざし、その手に魔法で炎を作り上げる。


「あなた方のような無礼者には『教育』が必要のようですわね―なら、ラングース・ジュリスの名において、あなた達を制裁させて頂きますわ! ご安心なさい! 手加減はしてあげますわ! おーほっほっほ!」


 そして、大きな声で俺達への『制裁』を宣言すると、その炎を俺達へと向けて放ってきた。


「ちょっ!? いきなりかよ!? くそ―ミューイ!」

「え……?」


 驚く俺の声をよそに、迫りくる火球。手加減している、という割にはものすごい速さで距離を縮めてくる火球に軽く舌打ちしてみせると、ミューイを押しのけて魔法を撃つ構えを取る。


 避ける暇はない……もっと言えば、避けたところでもう一回撃たれてしまえばおしまいだ。くそ、学校一のエリート相手にどこまで通用するか分からないが、こうなったら本気で打ち消すしかねぇ!


 そうして、ラングース先輩の放った火球を打ち消す為、俺も同じように火の魔法をその手に集め始める。今までに師匠から学んだものを全てぶち込む勢いで魔力を込めていくと、徐々にそれは大きなものへと変わっていく。


「………………………………………………はい?」


 ラングース先輩とは違い、師匠から習った青い色の炎の魔法……俺が得意としているその魔法を構えた途端、それを目にしていたラングース先輩を始めとした生徒達から何やら声が上がっていた。


 とはいえ、それにわざわざ構っている暇はない。俺は全力で青い火球をラングース先輩の放った魔法へと向けると、力の限り叫びながら魔法を放った。 。


「俺だって、あのぐうたら師匠の弟子の一人なんだ……田舎者とはいえ、やってやるよっ!」


 周囲に困惑した空気が流れる中、せめて軌道を変えて直撃だけは防ごうと、消極的に撃った俺の魔法は徐々にラングース先輩の放った魔法へと迫ったのだが―次の瞬間、俺の火球にぶつかったラングース先輩の魔法が「ポンッ」という音と共に簡単に消え去ってしまった。


「………………………………………………あれ?」


 思いのほか簡単に消え去ってしまったラングース先輩の魔法に、呆気に取られてしまった俺は思わずそんな声がこぼれた。いや、確かに手加減してたって言ってたけど……こんな簡単に消えるか?


 さらに俺の魔法は全力で放ってしまった為、その勢いを消すことなくラングース先輩の方へと向かっていってしまう。


「ひっ!? な、何なんですの!?」


 すると、ラングース先輩は涙目になりながら再び火の魔法をその手に作り上げると、俺が放った青い火の魔法に何度も魔法をぶつけていた。しかし―


「き、消えない……? ど、どうゆうことですの!?」


 どうやらラングース先輩の魔法では俺の魔法を打ち消すことはできないらしく、絶望した彼女はぺたりと腰を抜かして地面に座り込んでしまう。


「やべ……」


 エリートが俺の魔法なんかに苦戦するわけないと思ってたけど……もしかして、今日は不調なのか?


 理由は分からないが、ラングース先輩に火を放ったのは俺だし、このままじゃ彼女が危険だ。俺は師匠から教わった魔法の一つ、身体強化の魔法を使うと、座り込んでいたラングース先輩の前まで一気に距離を詰めた。


「「ら、ラングース様!」」


 すると、取り巻きの二人が恐怖から声を上げながらラングース先輩に両サイドから目を瞑りながら抱きつき、俺はそれを横目にラングース先輩達を火の魔法から庇うように前へと飛び出た。


「え……?」


 咄嗟のことに背中からラングース先輩の困惑した声が聞こえたものの、俺は振り返ることなく片腕を迫りくる火の魔法へと向けると、相殺するように力を加減しながら水の魔法を放った。


 周囲が見守る中、俺達の方へと迫っていた火の魔法は水の魔法にかき消され、あっという間に消え去ってしまう。それを眺めた後、俺は軽く肩を竦めながらため息交じりに安堵の息をこぼした。


「あっぶねぇ……」


 まあ、本音を言えば、自分で放った魔法くらい追い付くのは全然余裕だったし、万が一にでもラングース先輩達に当たることはなかったが……それでも、もしかしたらラングース先輩の髪が黒焦げになるくらいはあり得たかもしれないからな。


 これで余計に怒られずに済むだろ……って、あれ? そもそも、俺が勝ったら『制裁』にならなくね?


 そこまで考え、今がラングース先輩曰く『制裁』をしている時だというのを思い出した。この人のことだから本気で魔法を撃ったりはしてないんだろうけど、それでも消すのはマズかったか?


 俺がそんな風に考えていると、ふと聞き覚えのある声が耳を突いた。


「な、何があったんですか!?」

「イサリナ?」


 野次馬のように集まっていた生徒達を搔き分けながら現れた同級生を目にした俺がその名前を口にすると、その瞬間、イサリナの周りの野次馬達が一斉に彼女から距離を取ってしまう。


「レクトさん……? こ、これは一体何の騒ぎ―って、え? あ、あの……?」


 突然のことにイサリナが困惑する中、野次馬達はまるで緊張したように張り詰めた空気を出しながら、息を飲みひそひそと小さい声でイサリナの話をしていた。


「お、おい、イサリナって……あの理事長の娘のイサリナ・ドゥーンだよな……?」

「ま、間違いないわ……だって、理事長と同じ髪の色をしてるもの……」

「先生達が言ってた通り、本当に今期の入学生に居たんだ……」


 当人であるイサリナが困惑する中、周りの人間達は近付くことを恐れて距離を取ってしまう。……そりゃまあ、理事長の娘相手だしな。


 もちろん、イサリナの正体に驚いているのは野次馬達だけではない。火の魔法で腰を抜かしてしまったのか、ずっと地面に座り込んでいたラングース先輩もイサリナに気付いて声を震わせていた。


「り、理事長の娘……? あ、あなた、彼女とも知り合いなんですの?」

「いや、知り合いというかクラスメイトなだけなんですけど……」

「入学初日に彼女と交友関係を……? ま、まさか、あなた、彼女が理事長の娘だと分かって取り入ったということですか!? み、見損ないましたわ!」

「誤解ですって! 俺はそういうの考えるの苦手なタイプなんで、相手がどうとか関係なく仲良くしますよ!そもそも、話し始めたきっかけも隣の席だったからですし」

「ほ、本当なんですの……? あ、怪しいものですわね!」


 そう言って、どこか顔を真っ赤にした様子で俺に突っかかって来るラングース先輩。まあ、こんな公衆の面前で恥を掻かせちゃったし、そりゃやっぱ怒っるよなぁ……取り巻きのお二人も俺を真っ赤な顔で見てるし。


 そうして、俺がどうやってご機嫌取りをしようか悩んでいると、ふと後ろでミューイとイサリナが驚いたように声を上げていた。


「イサリナ……?」

「みゅ、ミューちゃん……?」


 突然、声を上げたミューイとイサリナに驚いて振り返りつつも、その呼び合った一人である姉弟子、ミューイへと視線を向ける。そして、普段から父親と違ってキリッとした雰囲気しか醸し出していないミューイを見ながら俺はあまりにもイメージ違いなその呼び方を口にした。


「え、何? ミューちゃん?」

「……っ!」


 俺がそう口にした途端、顔を真っ赤にしてしまうミューイ。

 え? 何? やっぱり二人とも知り合いなの? いや、でも考えてみたら理事長と師匠が旧知の仲とか言ってたもんな……ん? 待てよ? それだと本当に師匠が大陸一の魔法使いとかいう話にならないか?


「ははは……いやいや、まさか、そんな―」


 あり得ない可能性が頭にチラついて苦笑いを浮かべるしかなかった俺だが、そんな俺に追い打ちを掛けるかのように今度はイサリナが困惑した声を投げ掛けてきた。


「やっぱり、レクトさんはミューちゃんと一緒にこの学校に来ていたんですね……。お父様から話はありましたが、本当に……それにしても、彼女はラングース・ジュリスさん……ですよね? 学校一のエリートである『ジュリス家』の方と何をなされていたんですか?」

「いやぁ、何をしたというか……空腹のあまりやらかしてしまった、と言いますか……」

「はい……?」


 そんな俺の返答に再び疑問を抱くイサリナだったが、そんなイサリナを遮るようにラングース先輩達が裏返るような声を投げ掛けてきた。


「い、今ので私を助けた、などと考えないでもらいたいですわね! 『制裁』はまだ終わっておりませんことよ!? す、すぐにあなたを―あ、あら?」


 しかし、大口を叩いたものの、どうやら腰を抜かしてしまったのは本当らしく、立ち上がろうとしても力が入らないのか、何度も腰を地面に打ち付けてしまうラングース先輩。


 この大衆の中、そんな姿を見せるなんて屈辱以外の何物でもない。もちろん、ラングース先輩がそれに傷付かないわけもなく、さっき以上に顔を真っ赤にしながら俺を睨み付けてきた。


「な、何を見ているんですの!? こ、この私を笑っているつもり!?」

「いや、そんなつもりはまったく無いんですけど……」

「嘘をおっしゃい! そう言って、心の中で高貴な私の失敗を笑っているんでしょう!? そうに違いないわ!」

「なんて酷い……」

「助けてくれたのは演技だったのかしら……」


 ラングース先輩に続いて取り巻きの二人からもそんな風な声が上がる。いや別に、そんなつもりはマジでないんだけど……。


 とはいえ、目の前で困っている人間を無視するつもりはない。俺はラングース先輩と取り巻きの二人のところまで歩いていくと、その手を差し伸べた。


「良かったらどうぞ」

「は、はい……?」


 そう言って、俺の手と顔を交互に見比べてくるラングース先輩。俺はそんなラングース先輩に少しだけ距離を詰めると、手が取りやすいように言葉を投げ掛ける。


「そのままだと立ち上がるのに大変でしょうし、良かったら手を貸しますよ?」

「こ、この私に汚名を被せた挙句、さらに辱めを受けさせたあなたから施しを受けろと言うの!?」

「辱めって……いや、先輩が手加減してくれたから消せただけじゃないですか。俺みたいに大して魔法も使えない人間がラングース先輩のようなエリートと渡り合えるわけないんですし。まあ、なんて言うか、すいません。突然のことで必死だったんで、つい魔法で対抗しちゃって。立てますか?」

「な、なな……」


 俺の言葉を受け、わなわなと肩を震わせるラングース先輩。すると、その取り巻きの二人も困惑した顔を見合わせていた。……あれ? もしかして、なんか地雷でも踏んだ?


 そんな俺をよそに、ラングース先輩は目元が前髪で見えない状態でさらに言葉を続ける。


「わ、私は全力を出していたというのに……まるで動揺した様子もなく私の火の魔法をああも簡単に消してしまうなんて……上級魔法ですわよ? 火属性においてこの学校で私よりも強力な魔法を使える人間なんて居ないはずですのに……」


 は? ちょっと待ってくれ。この先輩、さっき何て言った? この学校でラングース先輩よりも強力な火属性の魔法を使える人間が居ないって……そう言ってなかったか?


 いやいや、そんなわけがない。大陸中から入学希望者が死に物狂いで来るような場所だぞ? そもそも、俺なんて師匠に死ぬ気で稽古付けられて、「おいおい、これくらいでへばってどうすんだ? 世の中にはまだ強ぇ奴はたくさん居るんだぞ?」とか散々言われて育ったんだからな。きっと、聞き間違いか何かだろう。


「それにしても、ラングース先輩はお優しいんですね」

「へ……? わたくしが優しい……?」

「はい。だって、あんな小さい魔法で『制裁』してくれようとしてくれたんですから。俺が下級生だからって手加減してくれたんですよね? はは―」


 そう言って、俺が笑った瞬間……まるで雷が落ちたように大きな音が耳を突いた気がした。つい思ったことを言ってしまったが、何やら周りの空気が凍り付いてしまったことに気付き額から汗が流れるのを感じる。……なんかこれ、やばくない?


「え~っと、あの……ラングース先輩は手加減してくれたんですよね?」

「―ふ、ふふ、ふふふふ」


 念のため、もう一度確認しようと目の前で尻餅を付いていたラングース先輩に声を掛けるが……そのラングース先輩から不吉な笑い声が聞こえてきた。やばい、これはやばい。ミューイの地雷を何度も踏んだ俺なら分かる……こいつはやばい。


「あなた……今、エリートであるこの私に何と仰いました?」

「あ、いや~……」


 しまった、地雷を踏んだ……しかも、間違いなく地雷原レベルのヤバさだ。

 背中から嫌な汗が大量に流す俺の前で、肩を笑わせるように揺らすラングース先輩はゆっくりと立ち上がると、そのあまりの威圧感にラングース先輩の後ろに取り巻きの二人が抱き合いながら怯えていた。


 やがて、ラングース先輩は顔を上げると、涙目になりながら俺の顔をキッと音が鳴りそうなほどに睨みつけて高らかに宣言してくる。


「この屈辱……絶対に忘れませんわ! 今に見てなさい! この私に屈辱を味合わせたことを必ず後悔させてあげますわ!」

「えっと、なんか、すいません……」

「いいえ、もう許しません! このラングース・ジュリスの名に懸けて、必ずあなたにいつか屈辱的な敗北を味合わせてやりますわ! これはもう決定事項です!」


 なんてこった……余計に話をこじらせてしまった。まあ、元はと言えば、俺が先輩の髪をロールパンと間違ったことが原因だし、どっちにしろ俺が悪いわけだからな。


 ここは自分の非を認めて、ひとまずラングース先輩を助けてあげないと。いつまでも腰を地面に付けたままってのも辛いだろうしな。


 そう考えた俺は、再び手を差し出しながら殊勝な態度でラングース先輩へと言葉を向けた。


「……分かりました。俺が悪いんですし、次に制裁を受ける時は甘んじて受け入れます」

「そう! 正々堂々と正面からあなたを打ち負かして―って、え?」


 俺が素直にそう言って頭を下げると、ラングース先輩はまるで狐につままれたように呆けた顔を俺へと向けてくる。そして、毒気を抜かれた様子を見せた後、今度は必死に俺へと声をぶつけてきた。


「ちょ、ちょっと!? 何を謝っているんですの!? さっきまであれだけ私のことを侮辱していたではありませんか! そ、そう素直に認められてはこちらがやりにくいですわ!」

「いや、まあ、それは何て言うか……本当、すいません。悪いのは俺ですし、謝るのは当然ですから……」

「くっ……!またしても、この私を侮辱するというのですね……! も、もう許しませんわ!」

「え? いや、そんなつもりは……」


 げ、余計に怒らせたか? 俺なりにちゃんと謝ったつもりなんだが……。

 怒りと恥辱から顔をさらに真っ赤にして俺を睨み付けてくるラングース先輩にどうしたものかと頭を悩ませていた時だった。そんな俺の耳に、ふと聞き慣れた声がさらに聞こえてきたのだ。


「―ほう? ここが例の学校か」


 生徒しか居ないはずの校庭で、明らかに場違いな渋い声が響く。あまりにも学校の雰囲気に合わないその声に、周りの生徒達が何事かと驚いて顔を見合わせているほどだ。


 しかし、俺はこの声の主を知っている……例え姿を見なくても、その声が誰のものなのか骨の髄まで分からされている俺には。


「な、何でここに……」


 それはミューイも同じで、すぐにその声が聞こえてきた方に視線を向けると、驚いたようにそう口にしていた。その反応で確信する……この声の主は俺のトラウマである、と。


 さらに、この場に居る有名人の一人であるイサリナも、驚いたように声をこぼしていた。


「お、おじ様……?」


 その呼び方は初耳だが、ミューイと顔見知りであるイサリナがそう呼び、ミューイが驚くような相手は俺が知る限りでは恐らく一人しか居ない。


 大して理由も説明せずにいきなりこの学校に入学させ、あろうことか学校に向けて魔物を投げつけて来た暴れん坊。俺は唐突に現れた闖入者に驚きつつも、ゆっくりとその声の方向に振り返る。


 そして、その声の主に対して呼びなれた名前を口にした。


「……師匠?」


 俺がそう口にすると、師匠はニヤリと笑みを浮かべながらふんぞり返ってみせると、相変わらず大きな声で堂々とこんなことを口にしてきた。


「―よう、レクト、ミューイ。感謝しろ、この俺が授業参観とやらに来てやったぜ?」


 あの……授業参観の意味知ってます? まだ入学式なんですけど?

 そんな俺の心の声も虚しく、師匠は俺達の方にずかずかと足を進めてきたのだった。


「ん? なんだ、レクト。お前、入学早々もう女に手を出してたのか? ミューイってもんがありながら、おめぇもまだまだ若ぇな! だっはっは!」

「なっ―!?」

「いや、勝手に人前に現れて誤解するようなこと言わないでくれない!? 違うよ! 俺はただ先輩の誤解を解こうとしてだな―」

「先輩ってことは年上か? おいおい、お前が年上好きだったなんて初めて聞いたぞ? 良かったな、ミューイ! こいつは脈ありだ!」

「っ!?」


 ちょっと、この師匠何言ってんのおおおおおおおおおお!?

 唐突に現れた師匠に、さらに唐突にわけの分からないことを言われ、驚いたように声を上げて静止してしまうラングース先輩とミューイ。そんな二人を横目に俺が師匠へ抗議の声を上げると、驚いたまま固まっていたイサリナが困惑した様子で師匠へと声を掛けていた。


「おじ様……なぜ、おじ様が学校に……?」

「ん? おぉ! よく見たら、お前、イサリナの嬢ちゃんじゃねぇか! 少し見ないうちにデカくなりやがって! 母親にすっかり似てきたな!」

「いや……あの……先月もお会いしたばかりですよね……?」

「ん? そういや、そうだったか? いやぁ、歳は取るもんじゃねぇな! ついコロッと忘れちまう!」

「は、はあ……」


 そう言って、師匠の言葉に困惑した表情を浮かべるイサリナ。しかし、理事長の娘であるイサリナと師匠が知り合いだったってことは、ミューイとイサリナが知り合いだというのも事実なわけで……駄目だ、色々と頭の整理が追い付かん。


 理解の範疇を超えてしまい俺が頭を抱えていると、師匠は何を思ったのか、俺とイサリナを交互に見比べると、これまたとんでもないことを言い出してきたのだ。


「しっかし、レクト。こんなに早くイサリナとも一緒に居るってことは、おめぇもうイサリナにまで手を出したのか?」

「へっ!?」

「ちょっと師匠おおおおお!? もうお願いだから黙っててくれない!? 師匠が喋る度に俺の株がだだ下がり状態になるから!」


 誰かこの暴走爺さんを止めてくれ!

 いきなり現れてとんでもないことを口にする爺さんにイサリナは顔を真っ赤にし、俺が心の中でとんでも爺さんに嘆いていると、そんな師匠の戯言に怒った様子でミューイが近付いていき抗議の声を上げた。


「あのね、お父さん……お願いだから、公衆の面前で変なことばっかり言わないでよ。レクトが誤解されるでしょ」

「ん? 何だ、違うのか?」

「あ、当たり前でしょ! というか、どさくさに紛れて変なこと言わないでってば……」

「ん? 変なこと? 何のことだ?」

「いや、だから……その……れ、レクトが年上が好きとかどうとか……」

「あん? 違うのか? おい、レクト。どうなんだ?」

「……いや、ここで俺に振らないでくんない? 俺、その年上のラングース先輩達に絶賛睨まれている最中なんだけど?」


 もはや修羅の如き勢いでラングース先輩と取り巻きの二人から睨まれ、生きた心地がしない俺が師匠にそう返した時だった。周囲で騒いでいた生徒の数人が驚いたように声を上げると、聞き覚えのある声が校庭内に響く。


「―ほう、これは珍しい客が来たものだ」


 少し前に俺はこの声を聞いた。しかし、俺が気付くより先にその声に真っ先に反応した人間が居た。


「よお、アンちゃん。邪魔してるぜ」


 俺の師匠―ロッソ・イゾット。その師匠はいかつい見た目に似合わない呼び名で、理事長のことを呼んだのだった。


 そんな師匠に驚きのあまり俺が固まっていると、さらに俺を氷漬けにするような言葉が理事長から聞こえてきた。


「まったく、訪問するなら予め連絡を入れて欲しいものだな―ロッくん」

「……ロッくん?」


 なんか今、いかにも真面目そうな理事長がうちの師匠を変な名前で呼んだような気が……あぁ、多分、色々なことがあり過ぎて疲れてるんだな、俺。


 いきなり理事長室に呼び出された挙句、先輩に目を付けられて制裁されそうになったり、師匠が唐突に現れたりして精神が麻痺って耳まで壊れちまったんだな、うん。そうだ、そうに違いない……っていうか、そうであってお願い。


 でなけりゃ、あのいかにも堅物なイサリナの父親である理事長が師匠のことを「ロッくん」とか頭の痛い呼び方なんてしないと思うんだよね。師匠の「アンちゃん」って呼び方は……まあ、百歩譲って良いとして、それでもあの理事長が「ロッくん」……いやいや。


 あまりの出来事に俺が固まってしまっていると、「ロッくん」と呼ばれた師匠はいつも通りの豪快な態度で理事長へと言葉を返した。


「おっと、悪ぃな。ミューイとレクトがどうしてるか気になってよ。まあ、ついでに学校に投げちまった魔物の回収も兼ねて来たわけだ」

「やっぱあれ、師匠が投げたのかよ……」

「おう。なんかおめぇが俺のことを悪く言ってたと思ったからな」

「いや、はは……まさか、俺が師匠を悪く言うなんてそんな……ねえ?」

「ん? そうか? それなら良いんだけどよ。がははは!」


 いやもう、地獄耳なんて次元じゃないんですが……俺、心の中で少し毒づいただけですよ?


 そうして辟易とする俺をよそに、師匠と理事長の会話は続けられていく。


「あれほどの魔物を軽々と投げるとは……さすがだな、ロッくん」

「まあ、アンちゃんなら軽く防ぐと思ってたのよ。とは言っても、生徒に被害を与えるつもりはねぇし、バリアが張られなかったらギリギリで止めてたから安心しな」

「そこまで計算していたとは……とはいえ、そんな心配は要らん。ロッくんが投げ掛けたのを察知した瞬間、私はすでに受け止める準備をしていたのだからな」

「おぉ! さすがはアンちゃんじゃねぇか! これなら安心してうちの娘と弟子を任せられるってもんだ!」


 そうして再び周囲を置いてきぼりにしながら豪快に笑う師匠。……やっぱり、聞き間違いじゃねぇ。


 真実を確かめる勇気は正直に言えばなかったが……ここで俺が突っ込まないと駄目だという義務感を抱いた俺は、師匠と向かい合っていた理事長へと声を掛ける。


「あの……理事長?」

「ん? どうかしたのかね、レクトくん」

「いや、あの……理事長ってそこに居る俺の師匠と知り合い……なんですよね?」

「ああ。つい先ほども話したばかりだが、彼とは旧知の仲でな。今も時間を見付けては共に酒を交し合う仲だ」

「……え~と、非常に申し上げにくいんですけど、理事長は師匠のことを何て呼んでるんですか?」

「ん? あぁ―」


 どこか格好いい雰囲気すら醸し出していたはずの理事長。しかし、そんな俺の質問に、理事長は事もなげに答えた。


「―昔から友人である彼のことは、親しみを込めてロッくんと呼んでいるよ」


「ロッ……くん……」


 うん、まあ……呼び方は人それぞれだよね。明らかに堅物そうな理事長が師匠をロッくんと呼ぶのも自由だし―


「って、ちょっと待って!? そういや、師匠に聞きたいことがあるんだよ!」

「ああん? 何だよ、レクト」


 もはや色々とおかしな現状に困惑しつつも、俺は今回の発端となった疑問を師匠へとぶつける。


「あんた、俺に噓の名前を教えたんじゃないだろうな!?」

「はあ? 何だ、唐突に? おめぇ、都会の空気でも吸っておかしくなったか?」

「都会の空気に何入ってんの!? 違ぇよ! 師匠の名前を周りに言ったら笑われたんだよ!」

「だーはっはっは! やっぱ、都会のもやしっ子達にゃ俺の偉大さは理解出来ないってか?」


「そうじゃねえええええええ! 『ロッソ・イゾット』っていう大陸一有名な魔法使いと同姓同名だからだよ! 師匠、まさか俺にわざとそういう名前を教えたんじゃないだろうな!?」

「ああ? 俺と同じ名前で大陸一ぃ~? おい、アンちゃん。そんな奴聞いたことあったか?」


 そう言って師匠が理事長の方に視線を向けると、理事長は軽く顎に手を当てて考えるような仕草を取るが、すぐに首を振って否定するように言葉を返した。


「いや? 私の知る限り、ロッくん以外にこの大陸で私と対等にやり合える人間は知らないが?」

「だよな~? おい、レクト。つーわけで、間違ってんのはお前の周りだ。正真正銘、俺の名前はロッソ・イゾットだからな」

「え……? ちょ、ちょっと待ってくれ……」


 何? ってことは、まさか……この師匠が大陸一の魔法使いなの?

 周囲もどうやらその事実に気付いたらしく、驚いたように声を上げていた。


「お、そうだそうだ! 忘れないうちにこいつをロッくんに渡しておかねぇとな!」


 そんな空気にもかかわらず、ふと師匠は何か思い出したように腕をポンと叩くと、よく見れば背中に何やらバッグを背負っていたらしく、その中からノートを一つ取り出した。


 そして、取り出したものを手にして師匠は驚きの言葉を口にしてきた。


「ついでと言っちゃなんだが、交換日記を持って来たんだよ! いや、今回は色々と書いて来ててよ! レクトやミューイのことについても書いてあんだ」

「……交換日記?」


 え? 一体、いつの時代の人?

 交換日記なんて、ミューイが持ってた―正確にはミューイの母親の持ってた―漫画の中でくらいしか見たことないんだけど? もしかして、都会だと当たり前なの?


 俺があまりにも唐突な出来事に置いてきぼりを食らっていると、さらにそんな俺を置いて理事長が師匠の言葉に過剰な反応を返していた。


「ま、待て! 中身を先に話さないでくれ! 仕事の合間に見る貴重な楽しみの一人なんだ! ネタバレはやめてくれ!」

「いやな、少しだけ先にどうしても話したくてな」

「ま、待て! それなら明日にでも時間を作ろう! この頃、激務でなかなか見れなくて楽しみにしていたんだ……」


 いや、マジでこの人達本当に何してるの?

 大陸一の魔法使い―らしい―男達のやり取りに、俺を始め、周囲には困惑したような空気が流れていた。


 そして、その中には呆然と立ったまま俺の手を見つめていたラングース先輩も混ざっていた。すると、ラングース先輩とその取り巻きの先輩達は、理事長と師匠を交互に見た後、驚いたまま俺の方へと視線を向けてくる。


「り、理事長があれほど親しくするロッソ・イゾットという男性……ま、まさか、彼は本当にあの『伝説の魔法使い』ロッソ・イゾットだというんですの……? それに、先ほど彼はあなたを弟子と呼んでいましたわ……ということは、彼が本物だとすれば、先ほどから彼と親しくしていたあなたは、あの『伝説の魔法使い』ロッソ・イゾットの弟子ということですの……?」

「え? いや、まあ……そういうことになるん……ですかね?」


 あの師匠が『伝説の魔法使い』とか言われても全然印象ないけど。いや、でもよく考えたらさっきのラングース先輩の魔法……あれが全力だったとしたら……はは、まさかな。


 とはいえ、もし、あのレベルの魔法しか使えなかったとしたら師匠の修行に付いていけるわけもないけど……そう考えると、もしかして師匠が『伝説の魔法使い』ってのはマジなのか?


 そんな風に俺が師匠の正体について考えていると、ふとラングース先輩はこめかみを抑える。


「そ、そんな……し、しかも、あの転校生はその伝説の魔法使いの娘……? あぁ……」

「ら、ラングース様!? お、お気を確かに!」


 そして、俺とミューイを交互に見た後、声を上げながらゆっくりと倒れ込んでしまい、それを取り巻きの方々が慌てて止めていた。……難儀な。


 ラングース先輩は大袈裟ではあるものの、実際周りに集まった生徒達は往々にしてそんな反応だった。俺がラングース先輩達に同情の念を抱いていると、そんな状況に構わず師匠がいつもの調子で声を投げ掛けて来る。


「おっと、そうだそうだ。おい、レクト、ミューイ。お前らにもう一つ言い忘れたことがあったのを忘れてたんだよ!」

「……もう今更、何聞いても驚かねぇよ。師匠が『伝説の魔法使い』とやらだった時点で、それ以上に驚くことなんて世の中に無いだろうしな……」

「だーはっはっは! 違ぇねえ! まあ、こっちはもう決定事項みたいなもんだし、別に大したこたぁねぇ。イサリナの嬢ちゃんとミューイのことだ」

「イサリナとミューイのこと?」

「そうよ。ってまあ、もうアンちゃんから話は行ってるか?」

「二人が知り合いだってんだろ? さっきイサリナがミューイをあだ名で呼んでたし、師匠と理事長見れば分かるよ……」

「ん? まあ、そいつは間違いないが……アンちゃん、『あのこと』はまだこいつらに話してないのか?」


 『あのこと』? 何のこっちゃ?

 俺とミューイが師匠の言葉に疑問を抱いて顔を見合わせていると、イサリナだけが顔を真っ赤にしてオドオドと動揺した様子を見せていた。


「あ……えっと……」

「イサリナ……? 何か知ってるの?」

「みゅ、ミューちゃんは聞いてないの……?」

「聞いてないって何のこと……?」


 動揺するイサリナに声を投げ掛けるミューイだったが、イサリナは何か言葉にし掛けつつも口を開くのを躊躇してしまっていた。……そういや、俺が師匠の弟子だってクラスで話した時もこんな感じだったような?


 そんな風に俺が疑問を抱いていると、自分の娘であるイサリナの方に視線を向けた後、理事長が師匠の方に視線を向けながら


「ああ、すまない、ロッくん。私もその件を彼に伝える為に後を追って来たのだ。すでにイサリナが伝えたものだと思って、あえて私からは伝えなかったのだが……私もついさっきイサリナから『まだあのことを話してない』と聞いたばかりでな。事が事だけに、私から言うよりもイサリナから言った方が良いのではないか、という親心だったのだが、娘も照れてしまっているようだ」

「お、お父様……そのように言われては余計に伝えにくいというか……」

「ん? ああ、それもそうか。悪かったな、イサリナ」


 実の父親にイサリナは顔を真っ赤にしながらそう返していた。いや、イサリナのあの動揺の仕方……非常に気になるんだが。一体、『あのこと』って何なんだ?


 俺が理事長達の話に付いて行けずに置いてきぼりをくらっていると、そんな俺の様子を察したのか、理事長が相変わらず堅物な表情で俺を見て来る。そして―とんでもないことを口にしてきた。


「何、大したことではない。ロッくんの娘であるミューイくん、そして私の娘であるイサリナ。君にはそのどちらと結婚してもらうかをこの学校生活で選んでもらおう、とそういう話に決まっていただけの話だ」

「な~んだ、そんなことですか。まあ、師匠が『伝説の魔法使い』って話に比べれば全然驚くような話じゃないですね」


 確かに大した話じゃないな、うん。俺がほっと胸を撫でおろしていると、師匠が俺の隣まで歩いてきてバンバンと背中を叩きながら豪快に笑い声を上げる。


「だろ~? まあ、もう決まってることだし、今更言っても仕方ないんだけどな!」

「まったく、相変わらず師匠もお騒がせな人だな~」

「悪い悪い、だーはっはっは!」

「あはは―」


 まあ、師匠が『伝説の魔法使い』って話も確かに驚いたけど、こっちはそれ程驚く話じゃないな。そっか~、ミューイかイサリナと俺が結婚―


「―って、何の話だよ!?」


 あまりにも非現実的な話を告げられ、完全にオーバーヒートしていた脳を無理矢理現実に引き戻すと、俺は隣で豪快に笑っていた師匠に詰め寄っていた。っていうか、何だよ、結婚って!?


「ああん? 何の話って、お前らが将来結婚するって話だろ?」

「何それ!? 初耳なんですけど!?」

「おいおい、さっき話したばっかりじゃねぇか」

「違ぇよ! さっき初めて聞いたって意味だよ!」


「そら当たり前よ! それを伝える為にアンちゃんに交換日記を渡すついでにわざわざ山から降りて来てやったんだからな!」

「何偉そうに言ってんの!? 酒場に行くみたいなノリで俺の人生勝手に決めないでくれる!?」

「おお! さすが俺の弟子だ! よく分かってるじゃねぇか! お前の言う通り、こいつぁ元々酒場で酒飲みながら決まった話だ!」


「当たってても何も嬉しくねえええええええええええ! もう嫌だよ、この酔っ払い! 俺はともかく、自分の娘の人生を酒の勢いで決めんなよ!」

「馬鹿野郎! 弟子のおめぇはともかく、娘の人生は大事に決まってるだろうが!」

「聞きたくもねぇ本音聞かされた! ちくしょう! それはそれで俺が傷付くよ!」


 自分勝手な師匠だとは思ってたけど、まさかここまでとは……あまりの理不尽さに泣きそうだよ、俺。しかし、そんな俺の耳に更に大事になりそうな台詞が届く。


「り、理事長とあのロッソ・イゾットの娘と……け、結婚……? ま、まさか、あの男にはそれほどの価値があると言うのですか……?」

「え~と……ラングース先輩?」


 ついさっきよりも驚いた顔……というよりも、どこか思い詰めた表情で何やらブツブツと呟いているラングース先輩。さらに、俺の方を見ながら取り巻きの先輩方も巻き込み、勝手に話を進めていた。


「た、確かに……学年でもっとも優秀と謳われたこの私を倒すなんて普通じゃありませんわよね……ロッソ・イゾットの弟子……あの男が……」

「そ、そうですよね……しかも、ミューイさんや転校生ともあんなに打ち解けておりますし……」

「ま、まさか、私達が知らないだけで、彼は名家の出身の可能性も……」

「そ、そんなまさか……レクト・ユーフィーンと言ってましたわよね? このわたくしすら知らない貴族があるとでも言うのですか……?」


 いえ、すいません。勝手にこの爺さん達が価値を上げてるだけで、貴族でもなんでもないただの田舎者です……っていうか、やっぱり、後輩の俺を立てようとしてくれてラングース先輩が手加減してくれたわけじゃないのか?


「決めましたわ!」


 俺が心の中で疑問を抱いていると、そう言って突然ラングース先輩が勢い良く立ち上がる……何か嫌な予感しかしないんですが。


 どこか勝ち誇った顔を向けながら腕を組むと、取り巻きの二人と共に俺の方に視線を向ける。そして、その表情に違わぬ様子で俺へと声を掛けてきた。


「ちょっと、あなた」

「はあ……えっと、俺ですか?」

「そうですわ。確か、レクト・ユーフィーンとおっしゃいましたわよね?」

「ええ、まあ……」

「では、今後はレクト様とお呼びすることにいたしますわ」

「はあ……まあ、良いですけど―ん?」


 ちょっと待って、何で俺のことを先輩が敬称で呼ぶの? 百歩譲っても、普通は逆じゃね?


「あの~……なぜ、俺を様付けで呼ぶんでしょうか? 俺の方が先輩よりも年下だと思うんですけど……」

「ふふん、今後のことを考えれば当然のことですわ」

「今後のこと……?」


 すいません、まったく話が見えないんですけど……。

 ついさっき制裁を加えられたばかりということもあり、俺が身構えているとラングース先輩は自信たっぷりな様子でとんでもないことを口にして来た。


「―わたくし、ラングース・ジュリスはあなたを手に入れ、ジュリス家の婿として迎え入れさせて頂きますわ!」

「…………………………………………………………うそん」


 ラングース先輩の言葉にミューイやイサリナが驚いて顔を強張らせる中、さらに師匠や理事長まで不敵な笑みを浮かべる。


「ほう……こいつは面白ぇことになってきたじゃねぇか」

「ああ……この学園始まって以来のイベントだ」


 『ドゥーン魔法学校』入学初日。俺の人生は波乱万丈になる事が確定してしまったのだった。


 ……頼むから卒業するまで平和な学校生活を送らせてくれない?




「―どうしてこうなった」


 俺は見知らぬ店の一角で、頭を抱えながらそう呟いていた。

 ここは師匠と理事長の行き付けの酒場らしく、何故か未成年だというのに俺はそこに連れて来られていた。


 どうやら、例の結婚についての話を改めてするらしく、俺だけではなく二人の娘であるミューイとイサリナも連れて来られており、ミューイもイサリナも困惑した表情を浮かべ、ミューイはため息を吐き、イサリナは苦笑いを浮かべている。


 そんな中、まだ入店したばかりだと言うのにすでに酒を片手に飲み始めていた師匠が首を傾げながら俺へと言葉を返してきた。


「ああん? んだよ、レクト。何ウジウジしてんだ? もうちょっとシャキッとしたらどうだ、シャキッとな!」

「師匠がとんでもないことを言うから頭を抱えてんだよ!」

「ん? なあ、アンちゃん。なんか俺、変なこと言ったっけか?」

「いや? あぁ、もしや我々が交換日記をしていたことが意外だったんじゃないか? もしかしたら、彼もやってみたかったのかもしれないな」


「おぉ! 何だよ、レクト! みずくせぇじゃねぇか! お前もやりたいならそう言えよな! それなら、ちょっくら新しいノートを買ってきてやるからよ!」

「違ぇよ!? いやまあ、確かに師匠達がやってたのは意外だったけどさ! 俺が言ってるのは二人との結婚についてのことだよ!」

「何だ、そっちか」

「……師匠に聞くだけ無駄だというのがよく分かった」


 いや、そっちか、って……あっさりし過ぎだから。

 話の通じない師匠と理事長に疲れてため息を吐くと、すぐ横で縮こまっていたイサリナへと話を向ける事にした。


「まあ、良いか……そういや、イサリナは知ってたんだよな?」

「あ、はい……すいません。でも、その……まさか隣の席になるなんて思ってなくて心の準備が出来ていなかったというか……そのせいでなかなか言い出せなかったんです」

「いや、別に謝る必要は無いから大丈夫だって。ミューイは―いやまあ、知らないよな、うん」


 俺と同じように頭を抱えているミューイを見て察した……というか、そもそも隠し事出来る奴じゃないもんな。


「私もレクトと同じでさっき知ったからね……。っていうか、結婚するとかしないとか、私達まだ学生なんだけど?」

「ああん? だから婚約ってことだよ」

「いや、そういうことを言ってるんじゃなくて……私達の同意も無く勝手に話を進めないでって言ってるの」

「ンだよ、お前、レクトのこと好―ぐぼぼぼおおぼぼおぼぼ!?」

「お、おじさん!? だ、大丈夫ですか!?」


 何やら師匠が口にしかけると、師匠はミューイの魔法で顔の周りに水の塊を作られ溺れていた。……相変わらず、師匠には容赦ねぇな。


 突然の出来事にイサリナが驚いて声を上げる中、ミューイは深くため息を吐くと、再び俺の方に向き直って来る。


「それに、あの人……ラングースさん……だっけ? 彼女まで変なことを口にするし……」

「いや、名前くらい覚えてやれよ……ラングース先輩、お前と同じクラスでわざわざお前に話し掛けに行ったらしいじゃんか」

「そうなの? 人の顔を覚えるの苦手だから全然覚えてなかった」


 そう言って、キョトンとした顔を向けてくるミューイ。……あの人、ミューイにかみついてたらしいけど、本当に他人に興味無いよな、こいつ。


「まあ、どうせ大した実力もねぇ奴だろ? ま、うちのミューイと対等に付き合える人間なんざ、お前とイサリナの嬢ちゃんくらいだがな」

「げ!? いつの間に抜け出したんだよ!?」


 いつの間にかミューイの作り出していた水の魔法から抜け出して、そんなことを口にしながらケロッとした顔で再び片手で酒を仰ぐ我が師匠。……やっぱ化け物だわ、この人。


「んで? どうなんだよ、レクト」

「どうってなんの話だよ?」


 ミューイから睨まれながらもピンピンしている師匠に疲れた俺が飲み物を傾けながらそう答えると、師匠はまたとんでもないことを聞いてきやがった。


「ああん? そりゃおめぇ、ミューイとイサリナの嬢ちゃん、それとあの偉そうなおめぇの先輩の嬢ちゃんの誰を嫁に取るかって話に決まってんだろ?」

「ぶふぅ!?」


 本当にまたとんでもないことを言われ、俺は口から飲み物を吹き出してしまう。すると、顔を真っ赤にしながら俺以上に慌てた様子でミューイとイサリナが師匠に抗議の声を向けていた。


「お、お父さん、何言ってるの!?」

「お、おじ様……あ、あの、ま、まだ心の準備が出来ていないので……そ、その……」

「そうだよ!? いくら昼間から酒飲んでるからって、さっきから変なことばっかり言うからミューイもイサリナも困ってるじゃねぇか!」

「あぁ? 変なことだあ? なあ、アンちゃん。今、俺なんか変なこと言ったか?」

「いや? ロッくんは先に説明した通り、レクトくんが誰と結婚するか聞いただけだ。特におかしなことは言ってないはずだが」


「だよな~」

「いや、それがおかしいって言ってるんですけど!? っていうか、理事長もなに平然と自分の娘を嫁に出すこと前提で話を進めてんスか!? あんたの大事な娘がどこの馬の骨とも知れない男に嫁ぐなんて理事長も嫌じゃないんですか!?」

「なに、君の人となりは少し話しているうちによく分かった。性格にも問題は見受けられないし、見どころもある。君になら娘を預けても良いと思っているよ」

「たった数時間のうちにどんだけ理事長の信頼を得てたんですか、俺!?」

「それに、それ以外にも君のことはよく聞いていたからな」


「え? 俺のことを……ですか? 一体、どうやって―」

「もちろん、ロッくんとの交換日記だ」

「でしょうねぇ!? このご時世に男同士で交換日記してるだけでもアレなのに、気付かないうちに俺のこと書かれてたとか、もうどう反応すりゃ良いか分からないですよ、俺!」

「あぁ? なんだ、おめぇも交換日記の中身を知りたかったのか? がはははっ! だったら、最初からそう言えば良いじゃねぇか! おめぇなら一緒に交換日記してやっても良いからよ! なあ、アンちゃん?」

「もちろんだ。交換日記を通じて、将来の父としてやり取りをしておくのも良いかもしれないな」

「そういうことじゃねえええええ!」


 そう叫ぶ俺を師匠と理事長が肩をすくめながら顔を見合わせていた。え? なに? その俺の方が変みたいな反応? とんでもないことを言ってるのは二人の方なんだけど?


 どうやら、ここに常識のある大人は居ないみたいだ。ミューイとイサリナは顔を真っ赤にして黙り込んでるし、誰か助けてくれ……。


 そう思いながら、俺は酒の勢いを強めた父親二人から現実逃避するように視線を天井へと向けたのだった―。

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