【振り返り】ヒーローズ
――はじめに――
変則PvPイベント、ヒーローズ・パースートについては私の視点だけでは説明しきれない部分が多くなってしまうので、試合後に見た実況配信の内容を含めてお話ししたいと思います。
試合中は聞こえなかった実況の内容、視聴者のコメントなども拾っていく形になりますがご了承ください。
「こんばんは! 東京大迷宮バトルフロアのナビゲートモンスター、皆頃シスターズの白い方、皆頃シエルです!」
「黒い方の皆頃シオンです! 今日のバトルフロアのイベントマッチはヒーローズ・パースート!」
「合計POW4,000から7,000の新進・中堅パーティー九組が、個人POW4,000オーバーの上位ランカー三人の追撃をかわしてゴールを目指す変則レギュレーションとなります!」
「なお、この試合は東京大迷宮TVバトルフロアチャンネルでライブ配信しています!」
「では早速、気になる三人の上位ランカー、ヒーローズをご紹介しましょう!」
夜19:30。
バトルフロアメインステージ
スポットライトを浴びて現れた天狗系美少女モンスター、皆頃シエル、アラクネ系美少女モンスター、皆頃シオンの皆頃シスターズのナビゲートでライブ配信が始まりました。
「まずひとりめのヒーローは」
「POW4,011! ラストダンジョンの一角、新宿歌舞伎町に店を構える自称東京最強のイケメンホストにして騎士、幻影使い!!」
「東京大迷宮最高額の負債保持者!」
「百億PPの女!」
「王司池照!」
皆頃シスターズの背後に展開した巨大ウィンドウの映像が切り替わり、旧時代風のナイトクラブのソファーに腰掛ける、中性的な美貌の女性冒険者の姿が映し出されました。
衣装は男性用、いわゆるホスト風の高級スーツ。リアルタイムの映像ではなく、いわゆるプロモーション映像のようです。
王司池照
フェンサー/イリュージョニスト/非公開
POW:4,011
三帝重工冒険者団所属
というテロップが表示されました。
配信画面の下の方に流れている視聴者コメントによると。
<イケメン!>
<イケメンだ!>
<イケメン! イケメン! イケメン!>
<黙ってればいい女オブジイヤー一位>
<借金返せ!>
<チェインバー様!>
<元気かイケメン!>
<がんばれよっ! 100PP>
意外に気安い反応が多いようです。
「借金を?」
控室に浮かぶ配信ウィンドウを眺めて呟くと。
メェ (双児宮主と交渉して百億PPを借り入れ)
メエェ(その金で新宿にホストクラブを作った)
メメェ(双児宮主の推し冒険者と言われている)
映像だけ見ると中性的な美貌を持つ麗人ですが、コメントを見る限り、かなり親しまれているというか、いじられるタイプの人間のようです。
「チェインバーというのは?」
メェ (王司池照のもうひとつの名前だ)
メエェ(王司池照にはふたつの人格がある)
メメェ(資料を渡しておこう)
バロメッツたちが王司池照に関するファイルを送ってくれましたが、資料に目を通す前に画面が切り替わり、新たなプロモーション動画が始まります。
今度は聖堂のような建物の中、剣を掲げて整列する銀の鎧に白い上衣の騎士たちが現れます。
何故か全員眼鏡をかけていて、上衣にも眼鏡らしき紋章があしらわれています。
「正義、知性、宇宙」
「そのすべての回答はなにか」
「それは眼鏡」
「努力、友情、勝利」
「そのすべての帰結はどこか」
「それも眼鏡」
「イエスメガネ」
「メガネゼムオール」
「眼鏡はいつも見ている」
「POW4,233!」
「万象を屈曲、屈折させ、眼鏡へと導く光学の聖女!」
「フルリム・ウェリントン!」
剣を掲げた眼鏡騎士たちの列が左右に割れて、二匹の蛇がまきついた杖を持つ聖職者風の衣装の少女が姿を現しました。
外見年齢は十八歳くらいでしょうか、名前のとおりウェリントン型の眼鏡をかけています。
フルリムというのも眼鏡の縁の形式を示す単語だそうです。
テロップの表示によると、
フルリム・ウェリントン
セイント/スカラー/アルチザン
POW:4,233
鯖江テンプルナイツ
とのことです。
聖者、学者、工匠。
あとで知りましたが、杖に巻き付いている蛇はインドコブラ。
別名メガネヘビだそうです。
聖歌のような荘厳な音楽に合わせ、屈強な眼鏡騎士たちが、
「メ・ガ・ネ! メ・ガ・ネ!」
とシュプレヒコールをあげはじめます。
チャット欄のほうも、
<メ・ガ・ネ!>
<メ・ガ・ネ!>
<メガミ!>
<イエスメガネ!>
<ナイスメガネ!>
<ノーメガネノーライフ!>
<メガネ! メガネ! メガミ!>
とメガネ一色に埋め尽くされてゆきます。
「……メガミ?」
時々眼鏡にメガミが混じっています。
メェ (眼鏡の女神を略してメ神)
メエェ(光属性魔法における東京大迷宮最強だ)
メメェ(光学的に観測されたら攻撃が来ると思っていい)
最強の一角という次元ではなくシンプルに最強のようです。
そして三人目の冒険者の紹介がはじまりました。
「最強に必要なものは」
「やはり筋肉」
「英雄級のマッチョマン」
「最も伝説に近い筋肉」
「身長199センチ」
「筋肉ムキムキ」
「マッチョマンこそ最強だ」
「法律家にして音楽家、そして筋肉男」
「知性に芸術性、そして暴力性を兼ね備えた東京最強のジェントルマン!」
「POW5,102!」
「東京大迷宮PVPランキング現第一位!」
「ゴーシュ駒人!」
画面が切り替わり、コンサートホールにたたずみバイオリンを奏でるタキシード姿の男性の姿が映し出されます。
衣装の下の手足も胴体も恐ろしく太く大きく、巨人を思わせる佇まいですが、その演奏ぶりは素人目にも優雅、壮麗なものに感じられます。
年齢は四十代くらいでしょうか、口髭を生やし、目元には片眼鏡をつけています。
ゴーシュ駒人
ロウヤー/ミュージシャン/マッチョマン
POW:5,102
シュバリエ・ワークス所属
<ゴーシュ!>
<旦那ぁぁぁっ!>
<うおおおおお!>
<ゴーシュ! ゴーシュ! ゴーシュ!>
<ゴーシュなのにバイオリンとは>
<ちゃんとチェロなんだよこれが……>
<曲目もバッハのチェロ組曲>
<チェロを完全に持ち上げて顎をあてて弾くバケモノである>
「バイオリンじゃないんですね」
私も勘違いしましたが、バイオリンの倍の大きさのチェロという弦楽器をバイオリンのように持ち上げて弾いていたようです。
メェ (ああ、色々規格外の存在だ)
メエェ(最もレジェンダリーに近いと言われる冒険者のひとり)
メメェ(今のレディではまだ厳しい相手かもしれないな)
確かに私ひとりでぶつかってどうこうできるような相手ではなさそうです。
映像越しでも超大型アンデッド以上の迫力を感じます。
「合計POW13,346!」
「この三人の有力冒険者が今回のヒーローです」
再び画面が切り替わり、王司池照、フルリム・ウェリントン、ゴーシュ駒人の三者の揃い踏みの映像が映し出されました。
<88888888!>
<やべぇ豪華過ぎる>
<なんでこんななんでもない時期にこの三人が集まってんだ>
<イベント前の調整かな>
<これパーティー参加者幸運なのか不運なのかわからんな>
<逃げ切るのは無理だろ>
<思い出にはなる>
<トラウマになるわ>
<イケメンはともかくメ神とマッチョが>
<場合によってはチェインバー様まで降臨なされる>
<無理ゲーすぎるわ>
<バランス考えろ>
<ヒロインふたりおるんじゃが>
<いやヒロインはひとり>
<イケメンとマッスルとメガネ>
コメント欄も盛り上がって来たようです。
配信視聴者数も上昇を続けています。
「続いては、今回のバトルフィールドをご紹介します」
「舞台は新宿ミレニアム!」
「アンデッド災害前、西暦2000年頃の東京都新宿区をオマージュした都市型フィールド!」
「目指すはフィールド北西部、歌舞伎町エリア、ミレニアムヒルズ最上階のゴールストーン」
「フィールド上空には陰龍、陽龍の二匹の東洋龍がフィールドモンスターとして配置されています」
「陰龍は脱出側を、陽龍は追撃側を攻撃する設定となっています」
「この二匹を上手く回避、あるいは排除、利用していくことが勝利の鍵になるかも知れません」
西新宿、大ガード、歌舞伎町、都庁、新宿駅、三丁目という六つのエリアに分割されたフィールドが紹介されてゆき、最後に黒と白の東洋龍の姿が映し出されます。
黒が陰龍、白が陽龍のようです。