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【振り返り】ゲームセット

「神の肉体!」

「竜を越えし筋肉!」

「ゴーシュ駒人! 対空砲火をものともしない!」


 実況の皆頃シスターズが声を張り上げる中。


 ブン!


 アーマード・ウィッチは渾身の勢いで杖を振り、錬金スキルでエントランスホールの外周に分厚い金属の防壁を張り巡らせました。

 死に物狂いの超高速構築。

 その工程の完了と同時に、ゴーシュ駒人がエントランスホールに着地します。 

 パンチやキックなどを繰り出したわけではありませんが、ただ着地をするだけでも破壊的。

 隕石の直撃を思わせる衝撃波が、アーマード・ウィッチとモササウオを巻き込み、ブラックアウトへと追い込みました。


「ゴーシュ駒人ヒーロー着地!」

「アーマード・ウィッチ、モササウオがブラックアウト!」

「残存メンバーゼロ! IRK脱落です!」


<終わったか……>

<いや、まだパン屋さんなら>

<パン屋さんならなんとかしてくれる>


 随分期待されてしまっていたようです。

 ゴーシュ駒人のヒーロー着地には私も巻き込まれていますが、食事効果と星石の効果、バロメッツ衣装のおかげでダメージはグリーンどころかパンケーキのホワイトゾーンのところにとどまっています。

 ゴーシュ駒人に続いてゴールストーンが落下、床へと突き刺さります。

 さらにそれを追いかけて、ダムの放水を思わせる水流が流れ落ちてきました。

 ブラックアウトの前にアーマード・ウィッチが設置してくれた防壁がそれを受け止め、エントランスホールを巨大なプール、あるいは水槽のように変えてゆきます。


「そろそろサレンダーするね。がんばって ฅ^•ω•^ฅ」


 音響操作スキルでスプリンクラーや消火栓からの水音を止めてくれていた姉様つつむが、耳元で囁くようなASMRボイスを残して退場してゆきます。

 少しぞわりとしてしまいました。


 メェ (すまないが我々も限界のようだ)

 メエェ(無理はしないでいい)

 メメェ(所詮は遊びだ)


「はい、わかっています」


 水気に弱いバロメッツたちを従魔石へと収容します。


「めすがきっさ雑魚杉、姉様つつむがサレンダー!」

「脱出側残存メンバー四人!」


<なんだよこの水>

<どっから出てきた>

<パン屋さんキャストオフしてないか>


「これもP選手の仕業のようです!」

「IRKのモササウオがミレニアムヒルズの消火設備の制御権を掌握。スイッチをP選手が行うことで水属性補正を乗せ暴走させ、エントランスホールを水没させた模様!」

「水中戦に持ち込むことでゴーシュ駒人の動きを抑制する戦術か」


 実況の解説通り、この水流はモササウオから提供された始動コードを無線機経由で発信することで、消火設備に水属性強化(極大)の効果を乗せて暴走させたものとなります。

 作戦会議の途中で群馬ダークの手伝いの途中放水銃を暴走させてしまったこと思い出し、モササウオに相談してみたところ「おもしろそうだうぉ」と、無線機を調整してくれました。

 さすがに水没状態での戦闘は難しいと判断したようです。ゴーシュ駒人はアーマード・ウィッチが作った防壁に向けて踏み込み、水抜きを試みます。

 ですが、ゴーシュ駒人の行動を抑制する水没状況は、今の私には制約となりません。地上と同様のスピードで滑り込み、深淵珊瑚の銃剣バヨネットを繰り出しました。

 蟹座の大星石の効果のひとつ、水中行動支援(極大)で、水没状況下での行動に補正を受け、普段通りの挙動ができないゴーシュ駒人との差を埋めたのですが、さすがはPvP最強といったところでしょうか、ゴーシュ駒人はわざと力を抜いた右前腕部に銃剣バヨネットを食い込ませると、そこから筋肉を膨張させてその刃をロックしてしまいます。


「ゴーシュ駒人、前腕筋白刃取り!」

「P選手、水場とは思えないスピード!」

「パン屋さんは脱いだら人魚だったのか!」


<前腕筋白刃取り>

<脱いだら人魚>

<さっぱりついて行けねぇ>


 私の手札はこれで全部。

 水属性補正の乗ったアルフォンスも深淵珊瑚の銃剣バヨネットも通じないとなると、さすがにもう倒しようがありません。

 数秒の時間は格闘で稼いだものの、結局は太い腕で捕まえられてしまいました。

 紳士道なのか、首を折られたり、絞め落とされたりはしませんでしたが、片手で私を捕まえたゴーシュ駒人は今度こそ防壁へと拳を繰り出し、あっけなく陥没させてしまいます。

 かすっただけでも、あるいは前方に立っているだけでも衝撃波で粉々にされそうな超絶的な拳撃。

 それが、ゴーシュ駒人のラストプレーとなりました。

 陥没した防壁が水圧で軋み、引き裂かれるより前に、エントランスホールを満たした水そのものがかき消えて――。


「ゲームセット! PORURUのデルタワン選手がゴールストーンに接触!」

「優勝はPORURUとなります!」


 そんなアナウンスがフィールドに響き渡りました。


「これは、してやられたようですね」


 繰り出した拳を戻したゴーシュ駒人は、そのまま静かに私の身体を降ろすと、落下したゴールストーンに視線を向けました。

 そこにあったのは「すいとん」というシールの付いた紺色の水着姿でゴールストーンに手をついている忍者、デルタワンの姿でした。

 

「どうにか、仕事をこなせたでござる」


 息を弾ませてゴールストーンに寄りかかり、満足げな表情を見せるデルタワン。

 五十階を突破されたらエントランスホールを水没させた上、水中行動支援を使った私がゴーシュ駒人を牽制。

 その間に水中に潜り込んだデルタワンが忍者スキルの水遁でゴールストーンにタッチを決めるというのが、五十階でのゴールストーン確保失敗時のバックアッププラン。

 概ねうまくいったと言えそうですが、水遁スキルというのが「すいとん」と書かれた水着に早着替えをして泳ぎ回るものだったことだけは少し想定外でした。

 

<決めたーっ!>

<ジャイアントキリング!>

<ドデカスギルキンボシ!>

<88888888!!!! >

姉様ねえさまの音響偽装が完璧すぎた。もっと評価されて崇拝されるべき 50,000 PP>

<二枚落ちにしてなきゃこんな展開にはもってけない。PORURUえぐすぎる>

<最後本当に忍者が決めやがった>

<やはり忍者しか勝たんでござる>

<さすがだなさすが忍者スク水あざとい>

<あもりにあざとすぎるでしょう>


 チャット欄が沸き立つ中、


「P選手、よければこちらを」


 と、ゴーシュ駒人から、シーツほどもある大きなタオルを渡されました。


「ありがとうございます」


 タオルにくるまるようにして髪や体を拭いていると、通信制限が解除されたらしく、群馬ダークからメッセージが入って来ました。


「水の中Tシャツ一枚で動き回ってだいぶぎりぎりなことになっとるからすぐ何か羽織って」


 とのことでした。


 今考えて見ると、ゴーシュ駒人にタオルを渡されたのもその関係だったのかも知れません。


 ともかくこれで試合終了。

 優勝賞品として『新宿ミレニアムカタログギフト』と副賞として1000万PPを受け取りました。

 ヒーローズ・パースートは特殊ルールのためPOWの上昇に上限がなく、また池照というトップランカーを倒した人間を初心者帯や中級者帯に置いておくと迷惑という判断になったそうで、POWは4000一歩手前の3950ということになりました。

 POWが下がった王司池照と同数字だそうです。

 夢姫ぽるるもフルリム・ウェリントンへの善戦が評価され800UPのPOW2285に。

 デルタワンは最後の活躍の評価は高いのですが、突き抜けたとまでは言えなかった、という評価になり300 UPのPOW1778になったそうです。

 300 UPでも充分珍しい上昇幅だそうですが。

 

『新宿ミレニアムカタログギフト』は前半のページは割合まともなのですが後半になるとドスや釘バット、ロケットランチャー、極道系高級車といった夢姫ぽるるが好みそうなアイテムが増えて行きました。

 好きなものを三つもらえる、ということだったので、旧時代の新宿の名店レシピと言われる情報アイテムを二種類と、スイーパー357というハンドガンを貰うことにしました。

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