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Ꮚ・ω・Ꮚメー (パンの耳)  作者:


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三下アイドル

『ベータチームの残存戦力がゼロになりました。

 アルファチーム 残存メンバー1

 ベータチーム  残存メンバー0

 PvPバトルを終了します。

 おつかれさまでした』


 ふっと視界が切り替わり、バトルフロアとフィールドをつなぐエントリールームに転送されました。

 一人用のロッカーとベンチ、転移用の小型ゲートが用意された小部屋となっています。

 講習室へ戻ると私とベータスリー以外のメンバーは既に戻ってきていました。

 最後に戻ってきたのは例のベータスリーですが、天空城の時と違い、帽子にパーカーにサングラスという変装のような格好になっていました。

 従魔のイビルアイとピンクのゾウの二匹は従魔石に収容しているようです。

 それはさておきサングラス越しにベータスリーに睨まれている気がします。


「ステータス画面にPOWの数字が表示されていますので確認をお願いします」


 皆頃シオンの言葉を受けてステータスウィンドウを開いてみると、


 POW1100(100UP)


 という数値が新たに追加されていました。

 POWの初期値は1000で、PVPバトルでの勝敗や活躍に応じて上下するそうです。一試合での上下幅は最大100だそうですので、最高評価になったようです。

 だいたいPOW1500で初心者卒業レベルだそうなので、威張れるような数字ではありませんが。

 次の試合はガンマチームとデルタチーム。フィールドは海上神殿となります。やはり崩落、水没し、テスタロッサの代わりに巨大イカ、メガテンタクルが暴れるフィールドでの戦いは、両チームともメガテンタクルの前に損耗し、隠密スキルをうまく使って奇襲戦術を展開したニンジャ、デルタワンを擁するデルタチームの勝利となりました。

 デルタワンは私と同年代、女性のようですが、何故か彼女にも見られている気がします。

 視線を返すと視線を外されてしまいましたが。


「それでは初心者講習はこれで終了となります。ルールを守って楽しいPvPライフをお過ごしください」


 一通りの講習が終了し、インストラクターの皆頃シオンがそう告げると、


「アァァルファァァァスリャアアアアアアアーーーサンッ!」 


 そんな奇声が響きました。

 アルファスリーさんと言ったようです。

 奇声の主は例のベータスリーです。びっくりするような勢いで立ち上がるとこちらを振り向き、ズダダダと近づいてきました。

 サングラスをはずし、両腕を後ろにまわし『気をつけ』をしたかと思うと、


「武相芸能冒険者事務所所属! 夢姫ぽるる! しがない三下アイドルです! 押忍!」


 と名乗りをあげました。

 芸能・音楽・配信活動などを中心に活動する冒険者団のことを芸能冒険者事務所と呼ぶそうです。


 メェ (夢姫ぽるる)

 メエェ(三下アイドル)

 メメェ(押忍)


 バロメッツたちも困惑気味です。

 さっきの試合でイビルアイに取り憑かれたアルファツーが叫んでいた「ポルルサマ」というのは彼女の名前だったようです。


「アルファスリー姐さんの顔と腕にぞっこん惚れやした! お時間よろしければ場所を変えてご芳名を賜り! 姉妹分の杯をかわさせていただきたく存じやす! 押忍!」


 気をつけの姿勢のまま、芝居がかった調子でそう告げる夢姫ぽるる。勢いにおされ気味だった他の冒険者たちがそこで「待て!」「抜け駆けだっ!」と声をあげました。


「……群テ……挟ま……不届……」


 かすかに聞こえたその声は、どうも例のニンジャデルタワンのようです。


「ふん」


 露骨に舌打ちをしてサングラスを掛け直した夢姫ぽるるは今度は胸を張って顎をしゃくり、


「弱小冒険者どもは引っ込んでな」


 そんな挑発的な台詞を吐きました。


「聞き捨てならぬでござる!」

「取り消せ!」


 そんな騒ぎから、


「それではバトルロイヤルで交渉権を決めてはいかがでしょう」


 興味深そうに眺めていたインストラクターの皆頃シオンの提案で、もう一試合ということになってしまいました。


「姐さんはここでお待ちを。十分で全殺しにしてきやす」

「私も出てはだめでしょうか?」

「い、イエ! 姐さんはここでどーんと構えて、あっしひとりで充分で、ここはウェイト! ひとつ待機でお願いします! 押忍!」

「ここは焼きまんじゅうでも食べながらゆるりとお待ちいただきたいでござるよ」

「そうそう!」


 せっかくだから参加してみたかったのですが、全員から全力で敬遠されてしまいました。


 メェ (このメンバーでやると出会い頭にレディに遭遇すると終わるからな)

 メエェ(初期配置ですべて決まる運ゲーだ)

 メメェ(まぁおとなしく待ってやる義理もないが)


 付き合わずに帰ってしまうのが簡単そうですが、それもなんとなく気が引けたので、ニンジャのデルタワンにもらった焼きまんじゅうを食べて待つことにしました。


 メェ (焼きまんじゅう)

 メエェ(群馬名物)

 メメェ(群馬ゆかりのシノビか)


 焼きまんじゅうをかじりながら、バロメッツたちがそんなことを呟きました。

 私との交渉権という、当人の意思と関係のないところで発生した謎の概念をかけたバトルロイヤルの参加者は夢姫ぽるるをはじめとした六人。

 残りの五人のうち二人は引き上げ、三人はスクリーンに表示されたバトルロイヤルの観戦に入りました。

 私も観戦しつつ、差し入れとしてチョコチップクッキーの包みを六セット用意します。

 作業中圧力を感じたのでバロメッツたちと三人の観戦者にも一枚ずつ配っておきます。

 間もなく後ろのほうからにゃーにゃーと野太い声が聞こえました。

 バトルロイヤルのフィールドは三竜の石迷宮という石造りの大迷宮。名前の通りレッド、ブルー、イエローの三色のドラゴンが徘徊しているのが特徴だそうです。

 テスタロッサやメガテンタクルよりもさらに格上のモンスターなので、直接戦闘での対応はほぼ不可能。

 崩落フォールダウンを利用して排除するか、とにかく遭遇を回避して他の冒険者に押し付けてゆくのが基本的な対応法となるようです。

 生き残ったのは強気な言動通りの実力を見せつけた夢姫ぽるると、ドラゴンや冒険者の死角を正確に動き回って生き残ったニンジャのデルタワン。

 崩落の中で他の冒険者は脱落、三竜もフォールアウトで姿を消した最終局面。

 頬に群馬、ではなく『群魔』と書かれた仮面をつけたデルタワンが夢姫ぽるるに奇襲を仕掛けます。

 対する夢姫ぽるるですが、今回は従魔なしルールなのでイビルアイやピンクのゾウは使えない状態です。

 代わりに白木の鞘に入った日本刀を抜き打ち、デルタワンを袈裟懸けに斬り伏せて、ブラックアウトさせました。

 ゴクドーブレード。

 名前の通り、極道ゴクドーという珍しい戦闘職の専用武器だそうです。

 バロメッツたちの見立てによると


 メェ (テイマー)

 メエェ(ゴクドー)

 メメェ(アイドル)


 従魔の扱いに長けたアイドル極道という複雑なクラス構成のようです。

 三下などと自称しているのも極道ゴクドー系の言語感覚によるものなのでしょう。


「ファーッファッファッファッファッファッファッファッ、ぽるる様の勝ちだねぇ! 負け犬は負け犬らしくさっさとけぇんな!」


 夢姫ぽるるがそんな暴言を吐きながら帰還し、


「無念にござる。あ、これはご丁寧にでござる」

「わぁい」


 敗北したデルタワンたちはチョコチップクッキーの包みを受け取って帰って行きました。

 

「おまたせしやした姐さん!」


 最後に残った夢姫ぽるるはまた直立不動の姿勢になりました。


「姐さんはやめてください」


 真顔でそう言うと、夢姫ぽるるは素直に「アッハイ」とうなずきました。


「改めまして、夢姫ぽるると申しやす。駆け出しアイドルと極道とテイマーやってます。押忍」


 少しテンションは落ちましたが基本的な言語感覚はあまり変わらないようです。


「ソル・ハドソンです。ソルジャーとベーカーとキャンパーを」

「なるほど、道理でおいしそうな匂いが。ありがたくいただきやす」


 チョコチップクッキーを口に運んだ夢姫ぽるるは、


「にゃ、にゃんじゃあこりゃぁぁぁぁーーーっ!」


 と、大きなリアクションを見せてくれました。 


 バトルロイヤルまでして私との交渉権を手に入れた夢姫ぽるるの目的ですが、一言で言うとPOW稼ぎとのことでした。

 所属事務所からPOWを1500以上に上げてくるよう要求されているそうです。


「できれば二、三試合、いえ、一、二試合くらいでも付き合っていただけないでやしょうか?」


 という申し出を受け、もう少しPvPをやってみることになりました。

 一応PvPは三人パーティーが基本となります。二人でもバトルフロアのロビーでメンバーを斡旋してもらえるのですが、中央ロビーに向かうとニンジャのデルタワンを見かけたので声を掛け、夢姫ぽるると私、デルタワンの三人でパーティーを組むことになりました。


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