【振り返り】最終局面
パーリーピーポーズとゴーシュ駒人がダンスバトルを繰り広げる一方。
ミレニアムヒルズ構内へ侵入した私たちはゴールストーン落下作戦の準備に取り掛かります。
作戦の軸になるのは、砲撃担当のアーマード・ウィッチとモササウオ、めすがきっさ雑魚杉の姉様つつむ。
姉様つつむの所持クラスは、聖女に音使い、魔性の女となりますが、今回重要なのは、音使いの音響操作スキル。
主に「お姉ちゃん系メスガキ」としての洗脳ボイスなどに使っているそうですが、音楽家ゴーシュ駒人が持つ音感、音響による探知、索敵を阻害できる能力となります。
一階のエントランスホールにアーマード・ウィッチとモササウオ、姉様つつむと私が入り、プラズマ砲クレタシアスキャノンの発射準備と隠蔽、護衛を開始。
ゴールストーン落としの成功時のキャッチャー役、そしてゴーシュ駒人に察知されたときの足止め役として、若良瀬真湘とデルタワンの二人が五〇階まで上がって待機します。
飛行・騎乗型従魔を持つ夢姫ぽるるは遊撃・牽制役としてミレニアムヒルズの五〇階付近で空中待機という配置になります。
「充電を開始するうぉ」
円柱状態からプラズマ砲モードに変形、床に固定用のクローを打ち込み、二枚のブレード状のプラズマ投射レールを上部に延ばしたモササウオにアーマード・ウィッチがスカートから伸ばした電源ケーブルを接続し、電力をチャージしてゆきます。
アーマード・ウィッチのクラス構成は電気使い、魔女、錬金術師。
一応ウィッチと名乗ってはいますが電気、機械の扱いに長けた電工系冒険者で、一人で小型原発に匹敵する電気エネルギーを作り出せるそうです。
さらにアーマード・ウィッチは火器管制用のウィンドウを展開、発射角度と出力の調整調整をしてゆきます。
「照準できたわ」
「エネルギー充填120%、いつでもいけるうぉ」
120%という数字が謎ですが、旧時代のミームに過ぎないので気にしても仕方がないそうです。
「こちらも大丈夫です」
「いつでもどうぞ ฅ^•ω•^ฅ」
クレタシアスキャノンを発射すると周囲には超高温の熱風が吹き荒れてしまうので、私と姉様つつむはエントランスホールにあったカフェのカウンターに陣取り、チュロスを揚げることでお料理フィールドを構築して熱風をやり過ごす態勢です。私自身はバロメッツ衣装の火傷防止機能があるので危険はないのですが、姉様つつむについてはそうもいきません。
チュロスを食べた姉様つつむは耐性が強いのかにゃーにゃー言ったりはしませんでしたが、気のせいか少し目が光っているように見えました。
「しょうがねぇけど絵面的になんだか気が抜けて困るうぉ、ていうか挟まりにいきてぇうぉ、カフェのほうから尊みが漏洩しているうぉ」
お料理フィールド内では破壊活動の類は一切行えませんのでアーマード・ウィッチとモササウオはフィールド外にいますが、熱対策は問題ないそうです。
巻き込みを避けるため、五〇階の若良瀬真湘とデルタワンもプラズマ砲の弾道からは距離を取りました。
最終的に十分以上時間を稼いでくれたパーリーピーポーズの退場に合わせて作戦開始。
「カウントをおねがいしますだうぉ」
「はーい ฅ^•ω•^ฅ 5、4、3、2、1……ぜろ♡」
モササウオのリクエストを受けた姉様つつむが独特の言い回しでカウントを数えおろし、
「クレタシアスキャノン、発射」
アーマード・ウィッチが火器管制ウィンドウのトリガーボタンをタップ。
「ぶちこむうぉ!」
モササウオのプラズマ砲身が光の柱を放ちます。お料理フィールドのおかげで熱さは感じませんでしたが、閃光が視界を埋め、ホールに熱風が吹き荒れます。
高低差250メートル、59枚の天井にそれぞれ三メートルの大穴を穿った光の砲撃は六十階のゴールストーンを正確にとらえて軽く浮かせ、そして穴の中へと落下させます。
「ぶち抜いた! 落ちてくるうぉ!」
モササウオの声にあわせて夢姫ぽるるがアエロファンテとともに急上昇。60階へ飛び出します。
天井や壁面は序盤にゴーシュ駒人が破壊しているので事実上の屋上のような状態となっています。
「ぽるる様のカチコミじゃあああああっ!」
イビビビビビビビ!
機関銃のようにかかえたイビルアイの目玉から魔力弾をばらまき、ゴーシュ駒人に牽制をかけてゆく夢姫ぽるる。
メインウェポンのゴクドーブレードはフルリム・ウェリントン戦で破壊されてしまったので、あとの武器は短いドスと豆鉄砲程度の拳銃くらいしかないそうです。
腹マイトはスキルなので使えますが、ゴーシュ駒人が相手となるとただの無駄死ににしかならないでしょう。
「夢姫ぽるるがカチこんでいくが!」
「ゴーシュ駒人! これを完全に無視!」
決死の牽制攻撃でしたが、脅威と認識してもらえなかったのか、ゴーシュ駒人はイビルアイの魔力弾にぽこぽこと被弾しながら無視。より優先順位の高いゴールストーンを追って、プラズマ砲が穿った大穴へとダイブします。
「あっ! こら! マッチョ! スルーしてんじゃねぇぇぇっ!」
イビーッ!
パオーッ!
怒りの声をあげる夢姫ぽるると従魔たち。
残念ながら、夢姫ぽるるのヒーローズ・パースートは、これがラストプレーとなりました。
ゴールストーンを追撃するため落下したゴーシュ駒人ですが、ただ落下するだけでは追いつけません。
プラズマ砲で撃ち抜かれた穴の端を掴み、蹴り飛ばして加速してゆきます。
迎え撃つのは、五十階に陣取るめすがきっさ雑魚杉のリーダー若良瀬真湘。
「いらっしゃいませw」
植物使いのスキルで、一階上の五十一階に茨を張り巡らせていた若良瀬真湘はゴールストーンが通過する一瞬後のタイミングを見計らって茨を伸張させ、緑の防壁を展開します。
ですがゴーシュ駒人はふっと息を吸い込むと。
「コン・フォーコッ!」
常軌を逸した大喝ひとつで茨の動きを萎縮、静止させ、さらには風圧でゴールストーンを加速させてしまいます。
静止した茨を手がかりにして、ゴーシュ駒人はさらに加速、五〇階を突破しました。
「まだでござるっ!」
飛び出しのタイミングを外されたデルタワンが、一足遅れでゴールストーンとゴーシュ駒人の追撃を開始します。
「ごめんなさい、抜かれちゃった。そっちに落ちていってる。危なかったらサレンダーして」
素のトーンで姉様つつむにメッセージを飛ばした若良瀬真湘もこれがラストプレーとなりました。
そしてゴーシュ駒人はゴールストーンに追いつき、追い抜きます。
ヒーローがゴールストーンをかかえて動き回ったりするとゲーム性が死んでしまうので、ヒーローはゴールストーンを動かすことができません。
ゴールストーンを抱え込むことができないので、先に一階まで降り、私達を処理しようと判断したのでしょう。
「ゴーシュ駒人! ゴールストーンより先に一階へ到達します!」
「いよいよ大詰めか!」
メェ (来るぞ!)
メエェ(なんて重圧だ!)
メメェ(まるで肉のダウンバーストだな!)
「来るうぉっ!」
「バックアッププランを使います! 隔壁を!」
クレタシアスキャノンの発熱で置物になってしまっているモササウオの声にあわせて叫んだ私は手元の無線装置のスイッチを押し、アルフォンスの銃口をあげました。
フルオート射撃。
極大補正の乗った水弾がゴーシュ駒人をとらえましたが、自由落下の数倍の速度で落ちてきた超人の肉体は、傷つくどころか姿勢を崩すこともありませんでした。