【振り返り】パーリーピーポーズ
「ていうかもうちょっと頭数が要るんじゃね? 若良瀬真湘に連絡していい? たぶんあいつらも攻めあぐねてんじゃねぇかと思うんだけど」
「雑魚杉でござるか、どこかで裏切ってプークスクスと笑い出しそうでござるが……」
夢姫ぽるるの提案に、デルタワンは首を傾げます。
「問題はないと思います。ルール上、最後は出し抜きあいになるのはお互い様ですから」
積極的に賛成というわけでもありませんが、放っておいても漁夫の利を狙って来る可能性は高いので、割り切った上で協力できるところまでは協力する、くらいならありのような気がします。
「サウオ的には美少女が増える分にはオールオッケーだうぉ。男はNGだうぉ」
「そちらの判断に任せるわ」
モササウオが親指を立てるようにヒレを動かし、アーマード・ウィッチが淡々と言いました。
心配気味のデルタワンも絶対反対というほどでもなかったので、無線コードを交換していた夢姫ぽるるが若良瀬真湘と連絡を取り、協調の約束を取り付けました。
雑魚杉側も単独でのゴーシュ駒人の突破は困難と判断し、他のパーティーの動きを待っている状態だったようです。
人心操作スキルに長けた姉様つつむの扇動で再起動したもうひとつの残存戦力、パーリーピーポーズが最上層に到達し、ゴーシュ駒人にぶつかりそうだということで、こちらも急ぎ行動を開始しました。
それから間もなく、青年冒険者三人組パーリーピーポーズがミレニアムヒルズ最上階へと到達しました。
「ウェイ!」
「ウェイッ!」
「ウェーイッ!」
「やって来たぜ俺達が」
「東京イチのクールガイズ!」
「挑みに来たぜマッチョガイ!」
ミレニアムヒルズの階段を1階から60階まで駆け上がり、途中で筋トレまでしていた三人は汗塗れになりながらも、キレのある決めポーズを披露します
「おつかれさまです。ずいぶん汗をおかきですな。よろしければタオルを」
演奏の手を止めてパーリーピーポーズを迎えたゴーシュ駒人は高級そうなタオルをアイテムボックスから出しました。
「へっ、さすがは超一流冒険者だぜ」
「タオルひとつとっても高級感が違いやがる」
「だが結構!」
「この汗は」
「あんたをぶっ倒してから」
「拭かせてもらうぜ!」
<このリアクション芸は時間稼ぎかな?>
<いや、平常運転っぽいな>
「姉様つつむの扇動で復活したパーリーピーポーズ! 大門寺万十郎に続く二の槍としてゴーシュ駒人に挑む」
「この男を前に自分達の芸風を維持するのはなかなかのもの」
「善戦に期待しましょう!」
<期待ですら善戦止まりか>
<まぁジャイアントキリングができそうには見えないが>
やや冷めたコメントが流れる中。
「ヘイッ! ヘイッ!」
「ウェイッ! ウェイッ!」
「ミュージック!」
三人縦一列に並んでたパーリーピーポーズは息のあったダンスをし、フィンガースナップを決めます。
その動きに呼応して現れたのは、光り輝くDJブース。
<愉快ではあるかもしれんなこいつら>
<ちょっと応援したくなってきた>
「ミスターチェリスト!」
「アンタはクラシカリックな男っぽいが」
「今回はちょっと違ったミュージックに付き合ってもらおうじゃねぇか」
「アニソンなんてものは知ってるかい」
「旧時代のキッズ向けのミュージックだが」
「そう馬鹿にしたもんじゃない」
「なかにはやべー曲もある」
「そいつでダンス&バトルをキメようじゃねぇか」
「チェケダン!」
再び三人が指を鳴らすと、無人のDJブースがきらびやかな光を放ち、テンポの良い、楽しげな雰囲気の音楽を奏で始めました。
「なるほど」
ゴーシュ駒人は興味深そうな表情で髭を撫でました。
「ずんどこラム次郎のアレンジですな」
旧時代の児童向けアニメのテーマソングだそうです。ネズミサイズふしぎな羊型ペット、ラムスターのラム次郎の日常を描くコメディアニメ。
「知ってたか」
「正式な曲名はラム次郎どんどこぶし、そいつのダンスミックスだ」
「どんどこぶしの特徴は知ってるかい?」
ゴーシュ駒人を包囲するように展開。ロボットダンスやブレイクダンス、タップダンスなどを次々に披露していくパーリーピーポーズ。
「曲のすべてがサビ、ということでしょうか」
「その通り」
「つまりこの曲が流れ続ける限り」
「オレたちは無限にアガり続ける!」
<いや、そのりくつはおかしい>
<原因と結果が全くつながらない>
<本人たちがそう言ってる以上アガってるんだろうよ>
<気分の問題だからなぁ>
<パリピがそういうならそうなんだろう。パリピのなかではな>
<パリピのなかでそうならそれで充分なのである>
「そして俺達はパーリーピーポー!」
「アガればアガるほどホットになり、クールになり、速くなり、強くなる!」
「俺らのパゥワーは天井知らずにアガり続けるってワケよ!」
三人同時に静止し、ポーズを決めるパーリーピーポーズ。
パーリーピーポーと呼ばれる人種、またはクラスは、テンションがあがればあがるほど強くなってしまうようです。
<DJブース壊されたらどうなるんだこれ?>
<たぶんそれで終わりだが、ゴーシュの旦那はやらないはず>
<相手の土俵にほいほい乗って筋肉で勝つのがゴーシュ駒人>
「趣向は理解いたしました。流行りのダンスの心得はありませんが、私なりにお相手させていただきましょう」
そう応じたゴーシュ駒人が取った姿勢は、いわゆる社交ダンスのフォームでした。
「くっ、さすがのプレッシャーだぜ」
「ビビんじゃねぇ」
「ダンスバトルならぜってぇ負けねぇ!」
<こいつらの目的は一体なんなんだ……>
<ゴールストーン狙わんのか>
<一応狙ってはいるんだろうが、そうするとゴーシュ駒人のワンアクションで吹き飛ばされる>
<アウトレンジからでもデコピンの風圧でやられかねない>
<ダンスバトルで倒すしかない>
<ダンスバトルの勝利条件が謎すぎねぇか>
「くらいやがれ! トリプル!」
「ブレイク!」
「ストリーム!」
ゴーシュ駒人を包囲したパーリーピーポーズは、三人同時にブレイクダンスを開始。全身から猛烈な竜巻を起こしてゴーシュ駒人に圧を掛けてゆきます。
「なるほど、こういうものですか」
チェインバー池照の双星棍ほどではありませんが、常人ならば簡単に吹き飛んでしまいそうな大暴風。
ですが、相手はゴーシュ駒人。
暴風の中に悠然と佇んで、優雅に動き始めます。
「ゴーシュ駒人もまた、暴風の中踊りだす!」
「社交ダンスをひとりで踊っているようですが……」
<なんだこれ>
<誰もいないのに>
<パートナーがいるみたいに見える>
<完璧なダンスと完璧な筋肉は存在しないダンスパートナーの姿すらも描き出すというのか>
実際に踊っているのはゴーシュ駒人ひとりなのですが、確かにそこには、彼と手を取り合う、たくましいダンスパートナーがいるかのように見えました。
「くそっ」
「バケモンが!」
「バイブス上げてくぜ!」
パーリーピーポーズの三人のダンスもまた加速し、切れ味と風圧を増してゆきます。
「マッチョ対パリピの異種ダンスバトルはますますヒートアップ!」
「どちらもダンスのレベルは普通に高いのでどうコメントしていいのかわかりません!」
<まったくだよ>
<ウェーイ!>
<筋肉のバイブス上げろ!>
<まるでショベルカーの求愛ダンスだぜ>
慣れてきてしまったらしいチャット欄が妙な盛りあがりを見せ始めます。
パーリーピーポーズが言っていた通り、三人のテンションは「ラム次郎どんどこぶしダンスミックス」が流れ続ける限り高まりつづけ、それに呼応してダンスの風圧も高まり、ゴーシュ駒人に打ちのめそうとします。
ですがゴーシュ駒人の社交ダンスはゆるがず、パーリーピーポーズのそれと同じく、切れ味を増してゆきます。
「ゴーシュ駒人、パーリーピーポーズのダンス圧をものともしない!」
「見えないダンスパートナーを華麗に操り、ぶん回し、逆にダンス圧をかけてゆく!」
とのことです。
<ダンス圧ってなんだよ>
<むちゃくちゃだ>
<めちゃくちゃだ>
<どんびき>
<やべぇチョッキン>
迷宮主のものと思われるコメントも、困惑しているように見えました。
ゴーシュ駒人に真っ向からぶつかり、謎の熱戦を繰り広げたパーリーピーポーズですが、さすがにスタミナには限りがあったようです。
じわじわと息切れを起こしてゆきました。
ミレニアムヒルズの階段を駆け上った上に途中で筋トレまでしているので充分驚異的な体力ではあるのですが、今回は相手が悪かったのでしょう。
「まだだ!」
「負けっかよ!」
「ウェェェェェイ!」
最後まで闘志を喪うことなく踊り続けるパーリーピーポーズですが。
「アン!」
「うおぉぉぉぉっ!」
「ドゥ!」
「くそっ!」
「トロワ!」
「ねえちゃんっ!」
キレを失わないゴーシュ駒人が振り回す『見えない(イマジナリー)パートナー』が放った衝撃波に吹き飛ばされて、ミレニアムヒルズの外へと落下。実際に地面にたたきつけられる前にフィールドから排出されてゆきました。
「パーリーピーポーズ、三人ともブラックアウト確定とみなして退場となります!」
「11分30秒、ゴーシュ駒人との対戦時間としては最長クラス!」
「変則バトルではありましたが大健闘でした!」
「しばらくラム次郎どんどこぶしが頭から離れそうにありません!」
私はアーカイブ視聴でしたが耳に焼き付いてしまいました。
「またこの間に、新宿駅、新宿三丁目エリアが崩落。めすがきっさ雑魚杉、PORURU、IRKの三者がミレニアムヒルズ内外に展開しました」
「パーリーピーポーズを陽動に利用したと考えるとめすがきっさ雑魚杉の作戦通りといえるかもしれません」
「全出場者が歌舞伎町エリア、ミレニアムヒルズの内外に集結」
「残り時間は間もなく30分!」
「いよいよ最終局面に突入します!」
そんなアナウンスと同時に。
ミレニアムヒルズのエントランスホールから発射されたプラズマ砲、クレタシアスキャノンが五九枚の床を撃ち抜いてゴールストーンを捉え、わずかに宙に浮かせたあと、ふっと落下させました。




