【振り返り】作戦会議
三人残存は私たちPORURUと、ゴーシュ駒人の筋肉交響楽にやられて筋トレに走り、事実上脱落状態のパーリーピーポーズのみ。
一応残っているだけ、と思われたパーリーピーポーズですが。
「がんばっててえらいね」
ヒーローとの接触を回避して移動してきためすがきっさ雑魚杉の姉様つつむの接触を受けていました。
小柄で華奢な体つき、年齢は十二歳だそうですか、名前の通り不思議な包容力を感じさせる少女です。
<良かった。姉様は無事 50,000 PP>
<そんなやつらはほっといて真湘様と合流を! 9,393 PP>
<パリピ退散! 9,393 PP>
雑魚友、と呼ばれるめすがきっさ雑魚杉の支持者たちが喜びと警戒のコメントを撃ち込みます。
「うっす、時代は」
「筋トレっしょ」
「貧弱ボディじゃこの東京じゃあ生き残れねーっ!」
「筋トレをしにここに来たの?」
魔性っぽい、という日本語はたぶんないと思いますが、無邪気で優しげなのに奇妙な妖しさを帯び、年齢に見合わない母性を感じさせる声でした。
「いや、そういうわけでもねぇっていうか」
「いたたまれなくなったっていうか」
「ほかにもうどうしようもねぇっていうか」
そう呟いた三人は、はっとしたように目を見開きました。
「そうだよ」
「俺達は」
「筋トレをしにきたわけじゃねぇ!」
「俺等三人の魅力と実力を」
「東京じゅうにアッピールするために来たんじゃねぇか!」
「乳酸出してる場合じゃねーっ!」
<筋肉の洗脳が破られた!>
<洗脳されてたのか>
<別の精神干渉食らってねぇか>
「いくぜ、兄弟」
「サンキュー姉ちゃん」
「おかげで目がさめたぜ」
「うん、いってらっしゃい」
姉様つつむはふわりと微笑んで言いました。
「ウオオオオオッ!」
「燃えて来たァァッ!」
「見ててくれ姉さん!」
雄叫びをあげたパーリーピーポーズは、長い階段を駆け上りはじめます。
その様子を見送った姉様つつむは、優しい表情のまま「ごめんね」と呟いて手を振りました。
「姉様つつむ、パーリーピーポーズの洗脳を解いてゴーシュ駒人にけしかけた?」
「資料によりますと、東京全域に数百人の年上の弟と妹を持つ『年下の姉』、音響と扇動スキルの天才だそうです」
<音響?>
<ささやき声とかがんばれ♡がんばれ♡を減衰ゼロの最大効率で鼓膜と脳にぶちこめる>
<人間ASMR>
「やべー人材しかいねぇじゃねぇかあそこ。なんでこんな公開情報のあるメスガキ連中に固定ファンがびっしりついてんだ」
<年下の姉に心を包んでいただく以上の幸福が現世にあるとでも? 50,000 PP>
<知らずに受ける洗脳は恐怖。理解と信頼の上受け入れる洗脳は救済。 50,000 PP>
<脳を蕩かす無上の愛 50,000 PP>
<おねえさまだいすき 50,000 PP>
「狂気のレベルが高ぇなおい」
「メガネのほうがだいぶ健康的な気がしてきました」
「そろそろ年齢制限に引っかかりそうなのでNG対応させていただきます」
<当然といわざるを得ない>
<ひでぇ病みを見た>
配信に写し続けるのはまずいと判断されたのか、カメラは姉様つつむから離れてゆきました。
そして、試合開始から三十分が経過。
「大ガードエリア崩落です」
西新宿エリア、都庁エリアに続いて大ガードエリアが崩落し、新宿ミレニアムの半分が崩落状態となりました。
ヒーローはゴーシュ駒人を残すのみ。
ヒーローズ・パースートの勝利条件はヒーローの全滅ではなくゴールストーンへの接触になるので、ゴーシュ駒人を倒す必要はないのですが。
タイムリミットまで一時間。
まずは歌舞伎町エリアにある新宿クマ劇場という劇場施設で情報交換と作戦会議を行います。
参加メンバーは私と夢姫ぽるる、デルタワン。そしてIRKのモササウオと、アーマード・ウィッチの中の人。
モササウオの円柱に内蔵されたロケットブースター機能を利用し、空中移動で追いついてきました。
パワードスーツ型のアーマーから抜け出してきたアーマード・ウィッチの中の人ですが。
コーホー。
大きなとんがり帽子にローブ、プロテクターに黒い仮面をつけ、機械的な呼吸音を立てる覆面冒険者でした。
「さっきはありがとう。迷惑をかけてごめんなさい。ごちそうさま」
覆面越しの声は女性のようですが、やはり聞き覚えがありませんでした。
元気はあまりなさそうです。
モササウオによると、
「まだ大分羞恥記憶のフラッシュバック状態だから生暖かく見守ってやって欲しいうぉ」
とのことでした。
そこまで気にするようなことはないだろうと思いましたが、バロメッツたちからも、
メェ (世の中にはフォローしようとすればするほど)
メエェ(悪化する状況というものがある)
メメェ(今がそれだろう)
と諭されてしまったのでおとなしくしていることにしました。
IRKと協調路線についてですが、夢姫ぽるるとデルタワンに意思確認をしたところ、夢姫ぽるるは「最後は競争って前提ならいいんじゃない」デルタワンは「実はモササウオ殿とは接触が……」との回答でした。
デルタワンは新宿三丁目、モササウオは歌舞伎町エリアにいたため早期にミレニアムヒルズに到着、しかし最上階にゴーシュ駒人が居座ってしまったため迂闊に動けず、その目を盗む形でミレニアムヒルズの内部を動き回って移動ルートを探ったり、制御システムに侵入したりして情報収集を進めている内に双方の存在に気付いて接触、情報交換を行っていたそうです。
「デルたんのデータをぶっこんだ映像を出すうぉ」
円柱状のユニットのプロジェクター機能を使ったモササウオが現在のミレニアムヒルズの状況を示す立体映像を空中に浮かべます。
「モサオのスーパーハカーパワーで一応エレベーターの制御は確保しておいたうぉ。50階まではビューンといけるうぉ」
「途中で攻撃されね?」
夢姫ぽるるが胡乱そうに言いました。
「うっかりでぶっ壊される可能性はねぇとはいわねぇけど、ゴーシュ駒人の過去のデータからは狙って叩かれる可能性は考えにくいうぉ。どんな局面でも正々堂々真っ向勝負で勝ち続けて頂点に立ってるスーパーマッソーヒーローだうぉ。屋上破壊の影響がなかったらたぶん60階までまっすぐ行けてたうぉ」
「根本を破壊してビルごと倒壊させては如何でござろうか。ウィッチ殿の雷撃にP殿のバフを盛れば行けるのでは」
「ナイスアイディアだと思うぉ、さすがデルたんだうぉ、ただ倒壊となると破壊規模の計算が難しいうぉ。手の出ないところにゴールストーンがゴーシュ駒人ごと飛んでったらアウトだうぉ。そもそもあのマッチョはミレニアムヒルズの倒壊程度じゃ沈まねぇうぉ」
六十階建ての高層ビルよりゴーシュ駒人ひとりのほうが破壊難度が高いようです。
「と、いうことでサウオが考えた作戦を発表するうぉ」
ガキョンと音を立てたモササウオの円柱から、固定用のクローアームが六本、ビームの発振ユニットらしいブレードが三本突き出しました。
「こいつはサウオとウィッチの必殺技のクレタシアスキャノン。ウィッチの魔法電力を使ってプラズマ砲弾をぶっ放すつよつよビッグキャノンだうぉ」
白亜紀砲、という意味だそうです。
「こいつでミレニアムヒルズの一階から六〇階の床をぶち抜いてゴールストーンを落っことす。あとはおっこって来たゴールストーンに誰が触れるかのバトルって寸法だうぉ」
ホログラフ上のミレニアムヒルズにエントランスホールから、五十九層分の天井、または床を撃ち抜いていく光の柱のイメージが投影されました。
「ゴールストーンも吹きとぶのではござらぬか?」
「ゴールストーンは破壊不能オブジェクトだから心配ねぇうぉ。勢い余って遠くにふっとばすリスクはあるけどそのへんはサウオの出力計算を信用して欲しいうぉ」
「むしろ思い切り吹き飛ばして拾いにいったほうが良いのではござらんか?」
「その場合たぶんゴーシュ駒人が一番早く反応して一緒に飛んでくるうぉ。真下でもマッチョが反応するのは同じだけど事前に方角が読めるだけマシなはずだうぉ」
「こちらの狙いにゴーシュ駒人が気づく可能性はどのくらいかでしょうか?」
「滅茶苦茶高いうぉ、つーかあのマッチョの演奏、ソナー代わりにもなってるうぉ。チェロの聞こえる範囲の動きは全部把握されてると思っていいうぉ」
想像以上に超人度が高いようです。
「なんで陽動が必要になるうぉ」
「陽動ですか」
少し考えて、夢姫ぽるるに目を向けましたが。
「ムリムリムリムリムリムリムリムリ」
イビイビイビイビイビイビイビイビ。
パオパオパオパオパオパオパオパオ。
相談をする前に八回ずつ首を横に振られてまいました。
演奏家が相手ならばアイドルをぶつけるのが筋かと思ったのですが。
「あのマッチョの癖がクソダサジャージなら話は別かもしんないけど」
小豆色のジャージを協調するように夢姫ぽるるは腕を広げました。
モササウオによるとそういう性癖はないそうです。