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【振り返り】一方その頃ミレニアムヒルズで

「チェインバー池照ブラックアウト!」

「二度目のクリティカルで決着になります」

「東京最強のメイドさん撃沈!」

「メイドさんVSパン屋さんの対決を制したのは鋼鉄の猫耳パン屋さん!」

「まさかのヒーロー二名脱落!」


 我に返った皆頃シスターズが高い声をあげ、


<嘘だろ、チェインバー様が……>

<マジか……>

<双星棍パクったあたりからパン屋さんペースになってたような気がしたのは気の所為じゃなかったか>

<さすがに腕一本のハンデはデカすぎたか>

<決着後の訳知り顔みっともない>

<こんなレベルのバトル事後以外に語りようがあるかい>

<決着前に見切れる目があればとっくにヒーロー側とか解説者枠にいっとるわ>

<チェインバー様の本職はメイドさんの上、クラス枠の残りはイケメン担当だから。ゾディアック保持者同士になると厳しいって噂はあった>

<パン屋さんがゾディアック保持者っていうのは違和感があるが>

<まあ同じ武器を使ってはいたからな……>

<一体なんなんだあのパン屋さんは>

<たぶんソルジャー系のクラスも持ってる。三つ目のクラスが謎すぎるが>

<クラス三つじゃ説明できない挙動してたよな>


 チャット欄のほうも再び動き出しました。




 さすがに神経がすり減りましたが、これでヒーロー側は二人脱落。最後に残ったゴーシュ駒人はルール上ミレニアムヒルズからは動きづらい状況です。疲労回復の為にマカロンをかじってアーマード・ウィッチとアンモナイオのところまで戻ると、円柱がもう一本増えていました。


「このボンクラがうぉ、一方的にボコられてんじゃねぇうぉ。IRKの面汚しうぉ、IRK最弱がうぉ、ナイオじゃなくてサウオがいたらワンパンで決着だったうぉ」

「ワンパンでやられる枠だろオメーは、こんなん初期配置次第の運ゲーだろ一般的に考えて」


 そんな言い合いをしながら光の触手に工具を接続し、アーマード・ウィッチの装甲を取り外していっています。

『中の人』の救出作業をしているようです。


「……お手伝いしますか?」


 と声をかけると、新しく増えた緑の薬液の円柱、モササウオはモササウルス型のアバターを大げさに動かして「うぉっ」と声を上げました。


「びっくりしたうぉ、びっくりするようなかわい子ちゃんだうぉ。サウオはIRKのモササウオだうぉ、うちのウィッチといかがわしいイカがお世話になったうぉ。親しみをこめてサウオと呼んでほしいうぉ、よろしくだうぉ」


 円柱から伸びてきた光の触手と握手をし、「はじめまして」と挨拶をします。


「Pといいます。冒険者名のほうは試合のあとで改めて」

「もちろんだうぉ、こんなところで名乗ったら音声無しでも切り抜いて映像分析されちまうぉ」

「ありがとうございます。ウィッチさんのほうは大丈夫でしょうか」

「もう意識も戻ってるけど、今はそっとしておいてほしいうぉ」

「あれだけヒーロームーブで登場しといて、ボロボロにボコられちまったから身体より羞恥心がヤバい。落ち着いたら追いかけるから先に行っててくれ。それと、試合が終わったら連絡先を交換して欲しい。ゆっくり話をしたい」

「私を庇ってくれたことについて、でしょうか」

「そういうことだうぉ」

「ここで出くわすとは思ってなかったが、あんたを探してた。渡したいものもある」

「わかりました。じゃあ、試合のあとで」


 あととは言わずこの場で事情を聞きたいところですが、ここで居座っていると、かえって救助の邪魔になってしまいそうです。


「ところでウィッチさんは、パンやお菓子は食べられますか?」

「ああ、問題ない」

「お二人は」

「残念ながら喰えねぇうぉ、お気遣いなくだうぉ」

「これをウィッチさんに、バイタルとメンタルを全回復できるはずです」

「ああ、ありがたくもらっとくだろ」


 クッキーとマカロンの包みを渡して移動を開始。道中で夢姫ぽるると合流しました。途中までは若良瀬真湘と行動を共にしていましたが、それぞれのチームメンバーとの合流を優先して別れたそうです。

 ミレニアムヒルズ近くでデルタワンとも合流しました。




 一方その頃、最後のヒーローとなった筋肉の楽聖ゴーシュ駒人の元に挑戦者が現れていました。


「ミレニアムヒルズ最上階!」

「屋根と壁が吹っ飛んで事実上屋上状態!」

「そこに陣取るミレニアムマッソー、ゴーシュ駒人の前に挑戦者が現れる!」

「ED3Z! 鮨マスター大門寺万十郎!」

「パン屋さんにロボ、ヤクザ、メスガキ、戦隊など、主張の激しい出場メンバーの中ではやや埋没した印象もありましたが、夢姫ぽるる、P選手に続くクソデカキンボシを勝ち取ることはできるでしょうか」


 演奏の止まったミレニアムヒルズ最上階に姿を現したのは板前風の調理服に帽子姿の、筋骨たくましい男性でした。

 体の横幅や厚みではゴーシュ駒人には及びませんが、身長は同程度となります。


「ようこそおいでくださいました。両国江戸前冒険者連合筆頭板前、大門寺万十郎様」


 分厚い胸に手を当てて礼をするゴーシュ駒人。


「かのゴーシュ駒人にご存知いただけていたとは恐縮です」


 大門寺万十郎も帽子を取ってお辞儀を返します。


「PvPの世界はさておき、大門寺万十郎の名を知らずして、現代の東京の食文化を語ることはできません」


 知っていてあたりまえのような口ぶりですが、私は知りませんでした。

 ハイソサエティ、セレブリティと呼ばれる階層でのビッグネームで、一般冒険者の間ではそこまでの知名度ではないそうです。


「大門寺万十郎。冒険者センタービル上層の名店、東京松寿司の花板を務める鮨マスター」

「私達程度の身分ではちょっと近づけない超高級店です」

「食材調達も自力でこなし、数多くのレア食材を仕留めてきた凄腕のハンターでもあります」


 皆頃シスターズが解説をしてくれました。


<あのクソ高そうな店か>

<実際高い>

<超一流冒険者とか企業の偉いさんでないと恐ろしくて入れん空間>

<そんな店の人間がどうしてこんなアホイベントに>


「貴方のような方が、何故このような場所に?」


 視聴者の疑問を代弁するように、ゴーシュ駒人が問いかけます。


「どこにでもある浮き世の義理といったところです。仔細はご容赦を」


 そう応じた大門寺万十郎は両手を膝に当て、腰を落とします。

 そこから大きく片足をあげ、ずん、と四股を踏むと拳を作り、更に腰を落とします。


「一番、お付き合いいただきたく」

「喜んで」


 タキシードの上着を脱いだゴーシュ駒人もまた拳を握り相撲の構えを取ります。


「双方相撲の構えです!」

「ゴーシュ駒人、大門寺万十郎のスタイルに付き合ってゆく」

「ハッキョイ!」

「ノコッタ!」


<マッチョイ! ムキッタ!>


 悪ふざけのコメントが流れていましたが、冗談ごとではすみませんでした。


「鉄砲! 虎河豚とらふぐ!」


 大門寺万十郎の全身の筋肉が爆発的に膨張、上半身の調理服を吹き飛ばします。

 繰り出したのは痛烈な張り手。

 河豚の威嚇のようにふくれあがり、河豚のように当たると死ぬという意味のネーミングだったそうです。

 討伐難度の高いモンスター食材、ダイコクテンマグロを不安定な船上から仕留める絶技だったそうですが、ゴーシュ駒人が相手では、まだ足りませんでした。

 ゴーシュ駒人の胸を捉え、鉄塊のような巨体を三〇センチ後方に押し込む。

 それだけでも偉業と言えるレベルではありましたが、それが限界でした。


「ぐ、ぐうっ」


 もうこれ以上は動かせない。

 そう悟った大門寺万十郎は無念の呻きを漏らします。


「さすがは大門寺万十郎様。素晴らしい業前。こちらも全力にて返礼を」


 今度はゴーシュ駒人が張り手の構えに入ります。ゴーシュ駒人の筋肉は常にフル稼働、衣装を吹き飛ばすような変化はありませんでした。


「大砲、チャイコフスキー序曲1812」


 演奏中に大砲を撃つ曲の名前だそうです。

 大気そのものを打ち砕き、衝撃波を伴って繰り出された手のひらが大門寺万十郎の胸部をとらえます。


 ドム。


 低く、重い打撃音が響いた時には、


「大門寺万十郎粉砕!」

「消滅!」

「ブラックアウトです!」


 大門寺万十郎の身体は黒い粒子に変わり、跡形もなく消えていました。


「まさに鉄砲と大砲の対決」

「ですが、ゴーシュ駒人をこれだけ押し込んだだけでも会心の一撃」

「徒手空拳で挑むこと自体が英雄的行為といっても過言ではありません」

「ヘラクレスにステゴロ挑んだみたいなもんですからね」

「その健闘を称えたいと思います」


<8888888>

<飲茶しやがって>

<そういうこと言うなって言ってんだよ>


 ゴーシュ駒人のダメージはシャツのボタンが一つ。

 シャツを脱いだ筋肉の楽聖はアイテムボックスから出した裁縫セットで器用にボタンを縫い直すと衣装を身につけ再び演奏を開始します。

 曲目は先程名前を口にしていたチャイコフスキーだったそうです。


<なんなんだこの超人>

<すごい漢だ>

<ほんとそうだよ>

<攻略しようがねぇだろこんなん>

<メ神様とメイドさんの流れから考えると、次は忍者のターンかな>

<無茶振りはやめてやれ>

<まぁゴーシュの旦那はゴールキーパーみたいなもんだから、倒さないといけないわけじゃない>

<出し抜ければ勝てる>

<コメントで言うのは簡単だけどな>


 かくして大門寺万十郎が脱落。

 次いでIRKのアンモナイオがアーマード・ウィッチの救護が済んだところでサレンダーを宣言しました。

 以下のような形で、ヒーローズ・パースートは最終局面に突入します。


脱出サイド

1 イーアル排骨

 残存メンバー0(脱落)

2 太陽天隊サンダルフォン

 残存メンバー0(脱落)

3 レイヤーブロス

 残存メンバー0(脱落)

4 ED3Z

 残存メンバー0(脱落)

5 東京冒険者学苑カルタ部

 残存メンバー0(脱落) 

6 パーリーピーポーズ

 残存メンバー3 

7 めすがきっさ雑魚杉

 残存メンバー2

8 PORURU

 残存メンバー3

9 IRK

 残存メンバー2


ヒーローサイド

 王司池照(脱落)

  撃破数 3

 フルリム・ウェリントン(脱落)

  撃破数 11

 ゴーシュ駒人

  撃破数 3


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