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バトルフロア

 幻想酵母ぐぜひかりについては背脂研究所のほうでしばらく調査、検証をしてもらうことになりました。

 最初の酵母作りの相談のときは十億PPがどうこうという話が出ていましたが、実際に依頼を受諾する前にこちらからマンドラゴラ酵母を持ち込んでしまったので話がややこしくなってしまいました。

 背脂所長の欲しい酵母というのは私が関与しなくてもアンデッド因子感染症対策に利用できる酵母になりますので、そのあたりの検証を行い、必要要件を満たすものであれば成功報酬を支払ってもらう、という風に話し合って決めました。

 場合によっては必要要件を満たすよう再調整、という話になるかも知れませんが、そのあたりは検証結果次第となります。

 

 また、面会辞退の連絡を入れた生産村の南郷村長から「今後のご活躍をお祈りしております」という簡単な返信があり、それ以上の動きはありませんでした。


 つまり、


 メー(急ぎの案件はいったん片付いた)


 ことになります。

 ドンレミ農場で蟹座イベントの準備を進めたり、東京玩具流通センターでキッチンカーの試乗をして装備(オプション)を整えたり、背脂研究所で検査を受けたり料理を作ったりして過ごしました。

 また、イベントが始まる前にPVP、つまり対冒険者戦の勉強もしたほうが良いと思い、冒険者センタービルの上層階にあるバトルフロアに足を運びPVP初心者講習を受けました。


「初心者講習のインストラクターを務めさせていただく皆頃シオンです」


 そう名乗ったのは金髪に青い瞳、修道女を思わせる黒い帽子とドレスの美少女の上半身に大きな蜘蛛の下半身を持つ、アラクネという種族のナビゲートモンスター。バロメッツたちより上位のパーマネントモンスターで、東京大迷宮公式チャンネルである東京大迷宮TVのPVP番組のナビゲーターとしても人気があるそうです。

 今回の講習の参加人数は一二人。大きなスクリーンを備えた講習室での座学、教習映画の視聴のあとは早速実戦に入ります。

 一チーム三人、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタの四つのチームに分かれて対抗戦を行います。

 第一試合はアルファチームとベータチーム。

 第二試合はガンマチームとデルタチーム。

 リーグ戦ではなく講習試合なので全員一試合で終了となります。

 バトルロイヤルなどのルールもありますが、初心者向けの講習なので、今回は扱わないそうです。

 従魔を持つ冒険者が私以外にも一人いたので、第一試合は従魔あり。私はアルファチーム、もうひとりの従魔保有者は対戦相手はベータチームに振り分けられ試合開始。

 講習室の隣に設けられたエントリールームから転移したフィールドは天空城。名前の通り空中に浮かぶ城砦型のフィールドとなります。

 東京の上空に浮かんでいるわけではなく、初期ホームエリアと同じ擬似空間上に構築された競技用スペースだそうです。

 時間と共に崩落していく空中城の中で戦闘を行い、最後まで生き残ったメンバーのいるほうが勝利。

 ひとりずつランダムな座標に散らばってスタートしました。

 私のコールサインはアルファスリー。

 チームメイトのアルファワンは早期に合流した敵二人の集中攻撃を浴びて開始二分でブラックアウト。

 天空城の庭園部でどうにか合流しようとしたもう一人の味方のはずのアルファツーは……。


「アアアアアアアアッ! ぽ! る! る! サ! マァァァッ!」


 何か理解を絶する奇声をあげて巨大なブレードつきトンファーを二刀流で振りかざして私に襲いかかってきました。

 見た目の通りヒュージブレードトンファーという武器だそうです。


 メェ!? (イビルアイ!?)

 メエェ!(寄生支配型従魔を初心者講習で使わせるな!)

 メメェ!(ルーキーにトラウマやおかしな成功体験を植え付ける気か!)


 バロメッツたちが驚きと抗議の声をあげました。

 様子のおかしいアルファツーの頭の上にはタコ型、一つ目のモンスターがはり付いています。

 

 モンスター情報:

 イビルアイ×1


 とのことです。

 人の頭に取り付き、混乱状態に陥れる厄介な従魔のようですが、試し撃ちにはちょうどいいかも知れません。

 狩漁銃シャークグリフの銃口をあげ、トリガーを引きました。

 名前の通り猟銃タイプ、単発式のセミオートマチックライフルです。

 タコ型の頭部の大半を占める金の目玉をかすめるように弾丸を通すと、イビルアイはイビィ! と悲鳴のような音を立て、光の粒子に変わって消えてゆきました。

 あとで知ったことですが、イビルアイは空中浮遊能力を持つモンスターで、飛行モンスター特攻が効いていたようです。

 見た目がタコ風なので、魚介類特攻が効くのでは、と思っていたのですが。

 シャークグリフの弾丸はイビルアイに取りつかれたアルファツーの体には触れていませんが、寄生をされた時点でブラックアウト相当のダメージを受けていたようです。


「ぽ、ぽ、ぽぽ……ぽぽぽぽぽぽぽぽぴ……」


 アルファツーは本当にトラウマになりそうな声をあげて白目を剥き、ヒュージブレードトンファーを振りかざした格好のまま黒い粒子に変わり、ブラックアウトして行きました。

 バトルフロアのブラックアウトではデスペナルティはなく、エントリールームに戻されるだけですが、早くも最後のひとりになってしまいました。


『アルファツーがブラックアウトしました。

 アルファチーム残存メンバー1

 ベータチーム残存メンバー3

 六〇秒後に天空城フィールド庭園部の崩落を開始します』


 インストラクターの皆頃シオンのアナウンスとともに、天空城のフィールドマップが表示され、カウントダウンが始まります。

 庭園部と言っていましたが、城壁なども含めた外縁部は全部崩落するようです。次の戦闘フィールドとなる居館部の建物へ進入します。

 ベータチームのメンバーの待ち伏せを警戒しつつ、居館部中央の広間をのぞき込むと、待っていたのは見覚えのある赤い頭の鶏たちでした。


 モンスター情報:

 テスタロッサ×3


 チキンフォレストでアークシャークの餌食にされてしまっていたワイルドチキン系のレアモンスターです。

 広間の奥の方には、上の階に向かう階段が見えました。

 

 メェ (ベータチームの連中も伏せているな)

 メエェ(テスタロッサを利用して挟撃する作戦だろう)

 メメェ(どうする?)


 テスタロッサのところに私を追い込むか、挟み撃ちにして片付ける作戦のようです。

 ですが、偵察能力はバロメッツがついている私のほうが優位に立っているようで、ベータチームの側はこちらの所在を掴めていないようです。


「テスタロッサを突破して上層に移動します」


 天空城の構造から考えると、次に崩落するのは現在地であるこの居館部の第一層でしょう。先に第二層まで上がってしまえば、崩落を利用してベータチームに圧をかけられるはずです。

 アイテムボックスからカレーパンを三つ出し、熱操作スキルで加熱、バロメッツたちに配ります。


「撹乱を。攻撃を受けないように注意して、食べながら飛び回ってください。匂いを流すだけで充分です」


 カレーパンをかじりながらフィールドを飛ぶ羊が三匹。

 混乱までは行かなくても、困惑、警戒くらいするはずです。


 カリメェ (ひきうけよう)

 ザクメェ (おいしい仕事だ)

 アチメェ (我々向きのミッション)


「テスタロッサにはあまり近づかないでください。ベータチームの注意を乱せれば充分です」


 ウマメェ (了解だ)


 カレーパンをカリカリザクザクとかじりながらバロメッツたちが散開します。

 私は単独で前進し、広間へと侵入。バロメッツたちのおかげかベータチームの攻撃はありませんでしたが、バロメッツたちが流した小麦と油、カレーの匂いが流れ込んでいたようです。広間のテスタロッサたちは入口のほうを凝視していて、気付かれずに通過、もしくは攻撃というのは不可能でした。

 仕方がないのでアイテムボックスから水風船を出し、投げつけました。


 ズバン!


「コケッ!?」


 ズパン!


「コケァッ!?」


 ドゴン!


「コォケェェェェッ!」


 蟹座イベント期間中は水鉄砲などの水遊び系のアイテムは補正がつくということで、東京玩具流通センターで買い入れて水を入れ、アイテムボックスにストックしておいたものとなります。

 まだイベントははじまっていないのですが、大星石の補正のおかげで既に攻撃魔法のような威力が出てしまっています。

 水風船の容量からはありえない水量になっているようです。

 一撃で仕留めるところまでは行きませんが、三羽とも壁に叩きつける格好で動きを封じ前進。広間を抜けて居館部の上層へと移動します。


「広間を通過しました。合流を」


 バロメッツたちに連絡を入れると、再びアナウンスがはじまります。


『アルファチーム全メンバーが天空城フィールド居館部第二層へ移動しました。

 アルファチーム残存メンバー1

 ベータチーム 残存メンバー3

 六〇秒後に天空城フィールド居館部第一層の崩落を開始します』

 

 思ったより崩落タイミングが早いようです。

 崩落エリアはテスタロッサとベータチームがいる天空城の第一層。


 ドヤメェ  (勝負あったか)

 ドヤヤメェ (崩壊時間を含めても一分そこそこ)

 ドヤドヤメェ(テスタロッサ三羽の突破は困難だろう)


 二層に上がってきたバロメッツたちがドヤドヤと言いましたが、さすがに気の抜きすぎだったようです。

 崩壊を恐れ不用意に広間に飛び込んだベータワンは怒り狂ったテスタロッサたちに叩き潰され、ベータツーは立ち尽くしたまま崩落に巻きこまれて落下。

 ですが最後のベータスリーは、羽の生えたピンクのゾウというかわいらしい従魔に横座りになって、落ちていく仲間とテスタロッサたちを見下ろして第一層を突破、追いついてきました。

 旧時代のアイドル衣装をモチーフにした魔法繊維のドレス風防具を身につけた、水色の髪の女性冒険者。ベータチームの従魔保持者は一人のはずなので、イビルアイを操っていたのも彼女でしょう。

 崩落(フォールアウト)負けの直前で第二層にたどり着いたベータスリーはピンクのゾウの上から私を見下ろすと、すっと口角をあげました。


"あはは、なかなかやるじゃない”


 そう言おうとしていたそうですが。


「あは」


 ドン。


 反射的に投げた四発目の水風船が炸裂。完全崩落した第一層に突き落とす格好でベータスリーをピンクのゾウごとフォールアウトさせました。


「ちょっ、あんた! こらあぁっ! キャアアアアァァァァッ!」


 罵声のような悲鳴が聞こえて来ました。


 メェ (何か言おうとしていたようだな)

 メエェ(残念だが戦闘相手とマイクをこなせるタイプではないからな)

 メメェ(相手が悪かった)


 なにかまた、リテラシーに欠けたことをしてしまったようです。


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