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幽霊サムライ転生~ハラキリから始まる少年冒険譚~  作者: 西の果ての ぺろ。@二作品書籍化


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第28話 初めての宿屋

 思わぬ『ゴーストサムライ』で使用できる水魔法に、ガッカリしそうになったカズマであったが、ゴブリンの返り血で汚れて悪臭を放っていた自分にとってこれ以上ない程ありがたい能力である事に気づいた。


 早速、リュックを下ろし距離を取ると、汚れた服を脱いで脇差しを天に突き上げる。


 そして、


「……水、頂戴!」


 と唱えると水が噴き出し、シャワーのようにカズマに降り注ぐのであった。


「最初は水芸みたいで格好悪いと思ったけど……、意外に使えるかも」


 カズマはリュックから取り出した石鹸で顔や頭をゴシゴシ擦りつつ、左手に握った脇差しから噴き出す水で洗い流す。


 カズマはその後、服も同じように洗い流すと、着替えに袖を通し、洗い立ての服は枝に括りつけて持ち、領都ツヨカーンの街に向かうのであった。



 今回カズマは、『霊体化』せずに領都入りした。


 城門ではカズマの濡れた服を枝に括りつけやってきた様子を門番に聞かれたが、ゴブリン遭遇戦の話をすると、


「はははっ!それは災難だったな!証明の札もアゼンダ子爵発行のものだし、通って良いぞ」


 と七歳の旅人にも拘らず通過できた。


 どうやら、アゼンダ子爵領、ツヨカーン侯爵領間の街道は比較的に安全で、子供の旅人もあまり怪しく見られないらしい。


 それに、ゴブリンを退治したので子供でも腕があると認めれた事もあるだろう。


 とにかくすんなり入れたのは良かった。


 正直、魔力もあまり残っていないから、『霊体化』は食事が済むまで控えておきたかったのだ。


 カズマはすぐに、門番に美味しい食堂のある宿屋を教えてもらい、そこに直行する。


 宿屋に到着した頃には、丁度、夕暮れ時で宿屋は人混みで溢れていた。


「いらっしゃい坊や。親御さんはどこだい?」


 宿屋の主人が、前の大きなお客に部屋のカギを渡して視線を戻すと、可愛らしい銀髪、赤目の小さい旅人がいた事に気づいて声を掛けた。


「僕一人です!……それで、……泊まるの大丈夫ですか?」


 カズマは子供一人で宿泊するのは初めてだったから、大丈夫か確認した。


「こりゃ驚いた。その歳で一人旅かい?もちろん、お客なら大歓迎だ。お代は前金だが大丈夫かい?」


 宿屋の主人は泊まり、食事付きの代金を提示した。


 口頭ではなく木の板に書いた料金表である。


 あくどいお店なら、料金表を隠して口頭で吹っ掛けて来そうだが、このお店は事情があるであろう子供一人の客相手でも、誠意ある対応だった。


「はい!じゃあ、これで」


 カズマは料金表を確認して、丁度のお金を革袋から取り出して支払う。


「その歳で、文字も計算もできるとは立派なお客さんだな!うちの倅よりもしっかりしてるよ、感心だ。はははっ!食事は、この木札を食堂で店員に渡せば食べられるから、困った時は何でも言いつけて大丈夫。これは部屋のカギだよ」


 宿屋の主人はカズマを気に入ったのか丁寧に色々と教えてくれた。


 カギを受け取ったカズマは主人にお礼を言うと、自分の泊まる部屋のある二階の奥の部屋と向かうのであった。


 カズマは今日の宿泊する部屋に入り、窓を開けて外を確認し満足すると、寛ぐ事なくリュックを背負ったまま、食堂に向かった。


 大きなリュックを背負ったままのカズマの姿は、食堂に行くとさほど違和感はなかった。


 他の食堂利用者も、そんな姿の旅人がいたからだ。


 カズマとしては信用できそうな宿屋だから、リュックを部屋に置いて食事でも良かったのだが、いくつもの書状を入れているリュックを目の届かないところに置いておく事にはさすがに心配しかなかったから、持ち歩く選択をした。


 カズマは食事券となる木札を、カウンターを挟んで立っている女性従業員に背を伸ばして渡す。


「いらっしゃい!宿泊者様ですね。食事は日替わり定食となっています。少々お待ちください。──日替わり定食、一つお願いします!」


 女性従業員は奥の料理人に声を掛ける。


 返事が聞こえて、フライパンに油を敷く音、何かを焼く音、時折、シャカシャカとフライパンを振る音などが聞こえてきた。


「好きな席で待っていて下さい、お持ちしますよ」


 女性従業員は、カズマが興味深げに背伸びして少しよだれを垂らし、調理工程を覗き込んでいる事に微笑むと、そう言うのであった。


 カズマはハッとしてよだれを拭くと、隅っこの席にトコトコと小走りで行き、座る。


 どうやら気づかないうちに、かなりお腹が減っていたようだ。


 魔力も底をついているし、ダブルでお腹が空いていたのだろう。


 能力『ブシは食わねどタカヨウジ』を持っていてもこれだから、よっぽどだった。


 カズマは他のお客が食事をしているのを、よだれを垂らして待つ。


 お客はみな美味しそうな食事をしている。


 それを肴にお酒を飲んでいる地元のお客もいれば、自分と同じように旅人とわかる大きな荷物を脇に置いて食べている者もいた。


「お待たせしました!日替わり定食になります!」


 先程のカウンターにいた女性従業員とは別の従業員が食事を持ってきてくれた。


 カズマは喉を鳴らす。


 メインはお肉、ステーキだ。


 厚めのお肉がいかにも美味しそうである。


「お肉は、今日、たまたま入った新鮮なオーク肉です。野菜入りミルクスープにライ麦パン、あとはうち自慢の腸詰です。ごゆっくりどうぞ!」


 従業員はすぐに、食堂に入って来たお客に気づいて「いらっしゃいませ!」と、応えて離れていく。


 カズマはそれを見送ると落ち着いてこの美味しそうな食事を早速頬張るのであった。

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