初日
これは俺が働いていた職場を辞め、転職活動していた時に少し働いた職場の話。
その職場は30年近く稼働してる場所であり、かなり古い建物だった。仕事は朝の11時から始まって、開始2時間ゴミ拾いをしていた。
ゴミ拾いは他の派遣の人と喋りながらやっていたのもあり、その時は楽だと感じた。いや、実際めっちゃ楽だった。
12時45分、休憩に入り13時55分まで、休んでいいと言われた。計算すると1時間10分だ。つまりこれは移動時間込みの時間なのだろう、素晴らしい心がけだ。良いことだ。
休憩スペースに行くとそこにはパンやアイス、手袋などの色々な自動販売機があり、食堂もあった。
─────うむ、なるほど。
食堂か………これは試してみるしかないな。
俺は何を隠そう、こう言う社食というか食堂と言う所で食べたことがなかった。
やはりこう言う食堂という場所にはロマンがある。
そう思い、券売機の横にあるボードを見た。
『本日のメニュー540円の油淋鶏定食』と書いてあり、思わず買ってしまった。
そして、3秒でお盆の上に渡された。
油淋鶏の見た目は小さな唐揚げが3つと千切りキャベツのみ。これは酷い。見た目が最悪だ。
だが、まだだ。まだ食べてない。
席に着き、いざ実食。
まずは油淋鶏を一口。うん、うまくない、胸肉の唐揚げか。お肉はパッサパサだ。量も少ない。米はどうだろうか?────パッサパサ。最悪だ。
そして最後に味噌汁を飲む。
──────!?
地味にお味噌汁が美味しい。まぁ、不味く作れという方が難しいかもしれないが、この中で言ったら間違いなく1番上手い。俺が単に味噌汁が好きというのもある。ついでに2番は無料で飲めるお茶だ。
休憩も終わり仕事場へ戻る途中、俺は次の仕事は何だと考えていた、すると常駐の派遣に声をかけられレーンがある場所へ連れて行かれた。
───────レーン……だと?
まさか俺は仕分けをやるのか?
仕分けとはレーンから流れてきた荷物を台車に乗せるという仕事であり、中々にハードな仕事だ。何がハードかと言えば、自分のペースで仕事が出来ない事、永遠に荷物がレーンに流れてくる事。1レーンに一人しかいない事。つまりサボれもしないし、トイレにも行きづらい。
そして俺は仕分けが大嫌い。最悪だ。
レーンの前で立ち尽くしていると、周りの派遣が俺に仕事の説明をしてくれた。
どうやら、レーンはトラックの荷積みの中まで続いていて、流れてきた荷物をそのまま置くまで勢いよく押して流していくと言うものだった。
────なんとこれは素晴らしい。
正直、流れてきた時にある程度のスピードがある為、横に軽くスライドさせるだけで十分なのだ。つまり、力も使わないし頭も使わない。
(楽だわ〜、これは当たりの派遣だな)
そう俺は確信した。
午後の仕事が始まりある程度時間が経った。17時に30分に休憩があり、そこでおばちゃんにジュースを買ってもらった。
素晴らしい。良い職場だ。
休憩後も仕事をし、時刻は18時30分を回った。
すると背丈が150cmくらいの頭をハゲ散らかした、見た目50代のおっさんがやってきて俺に話しかけてきた。
「おい!兄ちゃん、お前、今日は副業でここに来てんのか?」
「あー、今転職中なんですよー」
「転職中ー?なら、うち来ないかー?時給1250円だけど、3ヶ月で1400円にはなるぞ」
────なんだって?
それを聞いた俺の頭はフル回転をし、朝からの仕事内容を思い出した。この仕事内容で1400円だと?そんなことあり得るのか?いや、まだ分からない。だが、ここはもう少し様子を見た方がいい。
「本当ですか!?入るならどうすればいいですか?」
「おぉー!いいねー!なら俺のRINEやるからここに携帯電話と名前を送ってー!」
───────あ?なんだと?
俺はまだ聞いただけなんだが。
こいつは会話が出来ない人間らしい。
だがそれだけの理由で断ってしまうと、今後この派遣に行きづらくなる。だとしたらここは上手く……。
俺は大人しくRINEを交換した。
「了解です!あ、でも入るとしても何日か他の単発派遣入れてるんで、少し先になりますけど大丈夫ですか?」
「全然いいよー!仕事終わったらでいいから送っておいてー!」
「了解しました!」
相手の返事に対して、全く答えになってないけど、この手のタイプはこれでいい。
とりあえず、交換という儀式はしたんだ。このあとの様子をみて数日後にRINEを送れば大丈夫だろう。
そしてこのあと、仕事が途中で無くなり、定時より30分早く上がれた。
(うむ、中々に良い所だな悪くない。早がりもあり、全体的に規則が緩い、仕事内容も楽。休憩は合計で1時間40分。うむ、悪くない。いや……むしろ良い)そんな事を思い帰路につき、俺は数日後、その派遣に長期登録をし働くことになった。
───────だが、この時俺はまだ知らなかった。
ここを4日で辞める決意する事になると。