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エピソード ラスト
20XX.XX.XX
私にはあの人のような文章は書けなかった。
研ぎ澄まされた刃のような美しさも。
狂気の中に潜む悲しさも。
あの頃の私には大きすぎたんだと思う。
彼女が抱える苦しみと高潔さが。
愛するが故に絶望し、絶望してもなお捨て去ることができない愛情との狭間で。
残酷の中に隠れた、あまりにも悲しい切実な祈り。
あの頃の私には、あまりにも大きすぎて受け止めきれなかった。
今はどうなんだろう。
あの頃よりは少し、成長できているだろうか。
結局私は、まだ未練がましく文字を書き続けている。
だけどもうあの人と同じ道を歩むことはしない。
私は今、絵本を描いている。
やさしい言葉で。
あたたかい言葉で。
私は私の言葉で、私の思いを伝えることにした。
私の絵本には、優しい色だけ使うことにしている。
炎や血の赤はいない。
焼け焦げた黒もいない。
あの人が、あの人のすべてを賭けて表現しようとした存在は、私の絵本には出てこない。
それでも私はこれでいいと思う。
あの人とは違う方法で、私は私の祈りを込める。
これが、私のゲルニカだ。