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王都の行き止まりカフェ『隠れ家』~うっかり魔法使いになった私の店に筆頭文官様がくつろぎに来ます~【書籍化・コミカライズ】  作者: 守雨
その後の隠れ家

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150 犬型獣人の集会①

 犬型獣人の集会の日、ヘンリーさんも一緒に行くのかと思っていたら「行かないし行けません」と言う。


「あら、なんで?」

「秘密の集会だからこその迷いの森でしょう? そこに招待されてもいない半猫型獣人が行くのは失礼だから」

「私の夫なのに?」

「獣人世界の礼儀に詳しくないけど、夫かどうかは関係ない気がします。マイさんはカリーンさんたちと一緒に行ってください。マイさんを知らない犬型獣人が文句を言ってくるかもしれないから、一人ではいかない方がいいと思います」

「なるほど。わかりました。じゃあカリーンさんたちと行きますね」


 ソフィアちゃんをこども園に連れてきたカリーンさんに「犬型獣人の集会に行くとき、同行させてほしい」とお願いしたら、「もちろん。ソフィアが喜びます」と言ってくれた。

 その日が来て、ヘンリーさんに見送られながらカリーンさんの家に行くと「マイたーん!」とソフィアちゃんが走ってきた。紺色のワンピースに白いレースの襟、白いタイツ。私の結婚式で着ていた服だ。


 迷いの森まではヴィクトルさんが操る荷馬車で向かった。荷台にカリーンさん、ディオンさん、ソフィアちゃん、私の四人が木箱に座って乗っている。荷台で揺られながらカリーンさんが集会のことを説明してくれた。


「集会には、よほどの赤ちゃんや動けない人以外は全員来ると思います。マイさんが犬型獣人の集会に参加してくれて嬉しいし、友人として誇らしいわ」


 ソフィアちゃんは私の膝の上に乗っていて、「フィーちゃんもここらしい!」と真似をした。


「ソフィア、『ここらしい』じゃなくて、ほこらしいって言うのよ」

「知ってるもん。ここらしい!」


 するとディオンさんが「こども園って言ってごらん」と笑いながら言う。ソフィアちゃんはからかわれていることに気付いたのだろう、ディオンさんをキッとにらんで「フィーちゃんちゃんと言えるもん。どども園!」と言い返した。

 御者席のヴィクトルさんが振り返り、「ソフィアは可愛いなあ」と声をかけた。ソフィアちゃんは「むっふう」と嬉しそうだ。


 やがて迷いの森に着いた。すでに到着している人たちが三々五々集まって話をしている。私たちを見た人たちが「ヴィクトルさん! お久しぶりです」「カリーンさん、おはよう」と声をかけてくる。ヴィクトルさん夫婦は顔が広いんだね。声をかけてきた人たちはソフィアちゃんと手をつないでいる私を見て(あれ?)という顔になる。私が獣人じゃないことがわかるらしい。

 私はあとで紹介されるわけだから、笑顔で会釈するだけにとどめた。

 

 遠くにクロードさんがいた。クロードさんが私を見ていたから、手を振った。クロードさんは軽く片手を上げて、口の動きだけで「ごちそうさま」と言ってくれた。ケヴィン君は家族らしい人たちとしゃべっていて、私に気付いていない。

 

 集会は「こんな場所に広場があったんだ」と驚くような森の奥で始まった。切り株があちこちにあるから、作られた広場らしい。集まった犬型獣人の数は五、六十人。子供も何人かいる。

 ヴィクトルさんが切り株の上に立って、声を張った。


「お集りの皆さん。本日はご足労様です。今日の集会は前長老への感謝と新長老の就任のお知らせ、それとお世話になっている方の紹介です。ではまず、前長老のヘンドリックさんに黙とう!」


 全員が目を閉じて下を向いたので、私も他の人を見習った。ヴィクトルさんの「黙とうを終わります」という言葉に続いて新長老の紹介があり、六十歳くらいの男性が切り株の上に立った。こういうときに残念なのは、変身したらどんな姿になるのかわからないところだ。

 新長老はがっしりした体格で濃い灰色の髪は角刈りで瞳は青。チェックのシャツにゆったりしたズボンと言う服装だ。


「新長老に選ばれたホッグスです。皆さんはご存じでしょうか。この国では長年にわたって犬型獣人による犯罪が起きていません。皆さんは犬型獣人として秩序ある行動をしている。新長老の私はそれがとても誇らしい」


 そこでパチパチと拍手が生まれた。ヴィクトルさんに手招きされて、私は少し前に出た。


「今日は皆さんにマイ・ハウラーさんを紹介します。『隠れ家』という飲食店の店主さんであり、大変に優秀な魔法使いです。マイさんが獣人に偏見がない人であることは皆さんに伝わっていると思いますが、今日はマイさんのお顔をしっかりと覚えて帰ってください。前長老もマイさんのポーションに助けられました。我々犬型獣人は、受けた恩は忘れません。マイさんが困っている場面に出くわしたら、どうか皆さん、力を貸してあげてほしい」


 そこでホッグスさんが「マイさん、ひと言お願いします」と言う。そんなことは聞いていなかったから、慌てた。どこまでしゃべっていいのかわからない。


「ご紹介いただきましたマイ・ハウラーです。私は……獣人さんに偏見がないと言うより、獣人さんに親近感を持っています。どうかよろしくお願いします」


 頭を下げて終わりにした。拍手が生まれた。

 ハウラーこども園は子供もスタッフも獣人ですよとか、『隠れ家』は従業員が全員獣人ですよという言葉も思い浮かんだけど、こういう場で言っていいかどうかわからないからやめておいた。


「さて、では皆さん、用意をお願いします」


 ホッグスさんがそう言うと、全員が広場の周囲の森に入った。どうやら家族単位で入っていくのがお約束らしい。何が始まるのかと思ったら、森から出てきたのは超大型の犬たちだ。たちまち広場は超大型犬で埋まった。


(うおおお! みんなかっこいいよお!)


 ワクワクしながら眺めた。新長老のホッグスさんはどこからどう見てもシベリアン・ハスキーだ。真っ白い、スピッツかアラスカン・マラミュートそっくりの一家もいる。ヴィクトルさんたちは三人とも大きな柴犬風で、ヴィクトルさんは黒色系、カリーンさんとディオンさんはソフィアちゃんと同じ茶色系。


 ソフィアちゃんを含めた子供たちは人間の姿のままだ。

 遠くにはシェパードになっているクロードさん。あっ! アフガンハウンドそっくりな獣人さんがいる! 人間サイズのアフガンハウンドは雰囲気が貴族っぽい! 長い毛をなびかせながら颯爽と歩いてる。途中で私を見て笑ったような気がする!

 ぎゃああああ! かっこいい! 可愛い! 美しい!


 興奮を抑えられないよ。どうしていいかわからずに足踏みしながら周囲を見まわした。きっと私は挙動不審だ。それでもいい! こんな経験はこの先当分ないはずだもの!

 

 そこで新長老ホッグスさんが大きな切り株の上に乗り、前置きなく「ウオオオオン! オオーーン!」と遠吠えをした。喉をまっすぐ伸ばし、空に向かって吠える。すると他の参加者たちも徐々に加わって遠吠えをし始めた。

 迷いの森に、空気を揺るがすような超大型犬たちの遠吠えが響き渡る。


 しばらく続いた遠吠えの合唱は、やがて終わった。高揚しているのか、獣人さんたちは互いに顔を触れ合わせている。そしてまた森に入り、服を着た人間になって出てきた。ヴィクトルさんがまた台の上に立った。


「さあ、ここからは親睦の時間です。どうぞ思う存分、交流を深めてください」


 その言葉を待っていたらしく、各自が敷物を広げ、バスケットから料理や飲み物を取り出した。私も持参した大きなかごから、木箱を三つ取り出した。中身は揚げた肉団子の甘酢あんかけ、ひと口サイズの玉子サンド、まん丸のカスタードクリームドーナツだ。

 大きめに作った肉団子には、変換魔法で作った木製のピックを刺してある。


 そこから先はバイキング会場みたいになって、各自がいろんな人の食べ物を自由に食べ歩くスタイル。

 食べることに専念している人もいるし、おしゃべりに夢中な人もいる。うわあ、来てよかったわ。すごく楽しい。

 私はソフィアちゃんと手をつないで、あちこちのおうちを回り、食べ歩きしながら挨拶をして回った。回ってみてわかったのは、私が参加者の皆さんに存在を知られていたことだ。


犬型獣人さんは古い犬種が多いようです。


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