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満月と秘密

青く澄んだ空が広がっている。そよ風が少女たち2人の立つ草原をなでる。春の陽気に照らされて、麻理と少女は談笑している。何を話していたかは覚えていないが、とても楽しかったことを覚えている。少女と一緒だと何でもできる気がした。いくら話しても話したりない、ずっとそばにいたいと思っていた。何の根拠もなくずっとそばにいられると思っていた。それなのに、なぜ―


どすっ!という音とともに、脳に鈍い痛みが広がる。

「うぅえ?いったぁ…」涙目で前を見ると、そこには呆れた顔をした数学教師がいた。

「おはよう山里、テスト前に居眠りとはいい度胸だな?」

「あ〜はは、えっと、まぁ、はい?」自分の表情筋が引きつっているのを自覚しながらも麻理はなんとか苦笑いを浮かべる。

「そうか、つぎのテストは楽しみにしておくよ」数学教師が底意地の悪い笑みを浮かべ、再び教卓へとむかい、授業を再開する。

(げぇっ、最悪)苦虫をかみつぶしたような顔をして、窓の外に目を向ける。

(さっきどんな夢、見てたんだっけ…)ぼんやりと考える。楽しくて、懐かしくて、少し悲しい、そんな夢だった気がする。なんだか引っかかる。まぁいい、忘れるようなことなら、どうせたいしたことではないのだろうと判断し、忘れてしまおうとする。

「あ、思い出した!」唐突に記憶がよみがえったのは帰り道だった。昔よく一緒に遊んだ少女がいたのだ。その夢を見ていた気がする。「懐かしいな。あの子、今どうしてるかな…」

不思議に思った瞬間、足元にぽっかりと穴が開いた「へ、や、ああああ!!」唐突に足元がなくなった驚愕に思わず悲鳴を上げる。着地まではすぐだった。尻もちを搗き、痛みにうめく。「うぅ…ここ、どこ?」着地した周囲は真っ暗だった。落ちてきた穴を見上げようとしても、暗くて何も見えない。「うわ〜どうしよう」見回すと、踏み石のようなものが見つかった。様々な色に薄く発光している。疑問に思うよりも先に、誘われるように足を踏み出す。チョウチンアンコウに誘われる深海魚の気分だ。たどっていくと神殿のようなものがあった。特に何も考えず、ドアノブを回す。中にはだだっ広い図書館が広がっていた。

思わずあっけにとられているととたとたという足音がして、二階のバルコニーのような部分から、少女が飛び降りてきた。少女は今しがた高度10m近い所から飛び降りてきたのが嘘のようにふわりと軽やかに着地し、スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をしながら言った。

「初めまして初めてのお客様!星屑図書館へようこそお越しくださいました!」 

少女は顔を上げ、にこにこと微笑む。「司書のしおりほしのと申します!さんずいに夕暮れの夕、里山の里に、空の星、乃ちの乃で汐里星乃です!お客様は何をお求めでしょうか?」

麻理は唖然としていた。「汐里星乃」と名乗った少女ははこの世の者とは思えないほど美しかった。セミロングの髪は藍色で、絹糸のようにサラサラだ。肌は白く、すらりと細くて長い手足をノースリーブの紺色のワンピースとエプロンに包んでいる。ワンピースの襟元には夜空を象徴したような紺地に星が散らばっているデザインのリボンが結ばれている。ぱっちりとしている眼は髪と同じ、ラピスラズリのような輝きを放つ藍色だ。すっと通った鼻筋と弧を描く薄い唇と大きな瞳が小さな顔の中に納まって、神秘的な美しさを醸し出している。

年齢は麻理と同じか、少し下くらいだろうか。同性ながらほれぼれするほどの美しさで、これこそが人間の顔の最適解なのだと見せつけられている気分だ。

「お客様?どうかされましたか?」星乃が小首をかしげながら麻理の瞳をのぞき込む。

「あ、えっと何をお求めってどういうこと?」悪手だとわかりながら麻理は質問に質問を返す。「そのまんまですよ!お客様が欲するものは何ですか?なんっでもお申し付けください!」星乃はニコニコしながら答え、自慢げに肉付きの薄い胸を張る。。「とりあえず家に帰りたいかな?そういえばここはどこなの?」困惑しながらも麻理は答える。「ここは亜空間ですよ!お家にお送りすることはできますが…ほかに何かありませんか?」星乃は困り笑顔で言う。何だろうと記憶を探り、思いつく。

「友達に会いたいな。ずっと昔の」星乃の笑顔がより明るく輝く。「承りました!レファレンスは司書の仕事!私にお任せください!」星乃が目をつむり、瞼を開く。星乃の瞳は藍色から金色と銀色に変わっていて、星乃は飛び切りの笑顔を浮かべていた。


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