魔王の憂鬱
2つ目の投稿です。
今回も題名が「憂鬱」で終わっていますが、重なっただけで、続けるわけではありません。
あまりストレスない文章を目指していますので、ぼーっと読んでください。
「魔王よ、今こそ正義の力でおまえを倒す!」
目の前に並ぶパーティーからリーダーらしき若者が歩み出て告げる。
「勇者よ、私の仲間になれ。さすれば世界の半分をお前にやろう」
諭すような声で返してやる。
「ふざけるな!。悪の誘いに誰が乗るか。皆、いくぞ!」
「おう!」
「さすがに飽きてきたなあ」
何組目かもう数えるのを止めてしまったが、今回の勇者パーティーを呪文で天国に送る。
そもそものきっかけは、転生の時に女神の願いを聞いてしまったことだった。
「すみません、転生先として2つの世界を用意しました。いずれかの世界をお願いしたいのです。一つは科学技術が発達した世界で、環境を守る役割を果たしていただくもの。もう一つは剣と魔法の世界で、思いあがった人類を強い力で正していただくものです。この2つでしたらいずれをお選びになりますか?」
私は剣と魔法の世界を選んだ。
その結果、人類を懲らしめる魔王というものに転生したというわけだ。
あの女神のことだ、どうせもう一方もとんでもないものに転生させられたのだろう。
そして女神の言う通り、この世界で魔王はとてつもなく強い存在で、人類が倒せるとはとても思えない。
もう一つの世界で存在するはずの核ミサイルを撃ち込まれても、おそらく平気だろう。
予想だが確信できる。
この世界の人類は魔法が発達しており、そして繁栄しているのだが、人類以外の種族をいじめていて目に余る状況だった。
そこで人類を超える力を持つ魔王を配置して人類以外を助けるということを女神は考えていたらしい。
なるほどよく考えたものだが、あとは全部こちらに丸投げというのはいただけない。
私は配下の魔物を派遣して、人類がいじめている種族を保護してやった。
もちろん悪い奴らはお仕置きだ。
そうすると悪い奴らは知恵が働くもので、いつしか魔王が人類を攻撃して村が滅ぼされたことになったらしい。
実際は、異種族を攫っていた拠点を潰しただけなのだが。
そして、勇者パーティーが結成され、何度もやってくるという形になったわけだ。
最初は人類側に使者を派遣したり、やってきた勇者に説明したりしていたのだが、こちらの人類は私の言うことを全く聞かないのだ。
そのうちなんだか面倒になって、あの口上を始めたというわけだ。
この世界の人類は頭が固いのか、異種族が人類を滅ぼすために魔王を召喚したという説を頑なに信じているらしい。
人類の悪行を見かねた女神が魔王を派遣したなどと知ったら腰を抜かすのではないか。
そろそろ次の手を考えないとダメかな、と考えているところへ次のパーティーがやってきた。
「お前が魔王か」
「いかにも」
一度やられた振りをして少し休憩して復活するというのもありかな、などと考えていると、
「聞きたいことがある。お前が異種族を保護するために人類を攻撃しているというのは本当か?」
「人類には、異種族をいじめるな、さもなくばお仕置きだ、と伝えたはずだ」
勇者はじっとこちらを見ている。
「勇者よ、私の仲間になれ。さすれば世界の半分をお前にやろう」
勇者は一度仲間の方に振り返り、答えた。
「断る。世界なんか知ったことか。魔王よ、俺に力を貸せ。お前の願いをかなえてやる」
よく見ると、勇者と僧侶は人類だが、戦士と魔法使いは人類ではないようだ。
ほう、面白い。
「よかろう。お前の思う通りに進むがいい」
その後勇者は反転し、仲間を集め、守旧派を降伏させ、見事に人類を平定してしまった。
勇者は新しい王となり、そしてあの異種族の魔法使いが王妃となったそうだ。
愛の力ってすごいな・・・
そんなことを考えていたら、突然あの女神が現れた。
「魔王様、すばらしい。まさに神の采配です」
手を握ってブンブン振ってくる。
「あの~、お願いなのですが、その力を見込んでもう一つの世界の方もやってくれませんか?」
「そんなあ、もう結構ですってば」
女神様と手を引っぱりあいこになる。
「たーのーみーまーすー」
「いーやーでーすー」