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クリスティアンとアーデルベルト

 レディ・ローズことレオノーラが退出した後、集まった凍りの薔薇五人の緊張は緩み、部屋に暖かい闇が降りる。


 アーデルベルトは場の沈黙など意に返さない。


「相変わらずレディ・ローズは激しい気性でいらっしゃる」


「当然だな」


 アーデルベルトの呟きをクリスティアンが拾う。


「エリアル殿下の危機となれば、殿下を守る為に集められた俺達の問題でもある」


 ウルリヒが早くももう部屋から出て行く、彼は情報収集のプロとして動き出したのだ。


 ヨアキムも無言で続き、シリルも二人に軽く手を振り去った。


 月明かりとランタン一つしか光のない部屋に、アーデルベルトとクリスティアンだけが残った。


「エリアル殿下にお伝えしても意味がない、と言うのがな」


「アーデルベルト、エリアル殿下は動けないんだ……あの方の事がある」


「セドリック殿下か」アーデルベルトが内心吐息するのはそこだ。


 セドリック殿下がもしこちらの手にあれば、もっと現況は良くなる。


 少なくとも、エリアル殿下が一方的に黙して俯くだけの存在ではなくなるはずだ。


「しかし……いいのかクリスティアン」


 アーデルベルトは敢えて話題を変えた。


「何がだ?」


 むきになり聞き返すクリスティアンに、アーデルベルトは微笑んだ。


「レディ・ローズ……レオノーラ様の事だ」


 彼とクリスティアンは親友だ。


 幾度も共に酒を酌み交わしている。


 だから知っていた。


 クリスティアンの思い、レオノーラへの思いだ。


「俺は庶民出の傭兵くずれから衛士になった、どこにでもいる兵士さ」


 燃えるような深紅の髪を、クリスティアンは掻いた。


「元より、レオノーラ様とは身分が違う」


「そうだろうか?」


 アーデルベルトはクリスティアンの諦めに納得がいかない。


「レオノーラ様は確かにアヴリール家の伯爵令嬢だ。だがアヴリール家は変わり者が多いらしい。何しろ、今は亡き先代のコーリーニアス様、レオノーラ様の父君だが、庶民の娘を妻にしたらしい。つまり、レオノーラ様の母君は俺等と変わらぬ身分だ」


「だが、レオノーラ様のお気持ちはエリアル殿下へ向かっている。俺ではどうしようもない」


「エリアル殿下には婚約者がおられる。ディシューヌ侯爵家のアンジェリア嬢だ……つまり、レオノーラ様の思いはそもそも届かな物ではないか?」


 エリアルとアンジェリアの婚約は大分前に交わされた物だ。


 当然、家同士が決めたのではあるが、風聞によるとエリアルとアンジェリアの仲はそれほど悪くないらしい。


 互いに幼い頃引き合わせられ、幼馴染みの男女となっている。


 その意味に置いて、レオノーラのエリアルへの思いは一方通行過ぎる。


 確かに『凍りの薔薇』はエリアル派ではあるが、それは今や富裕層や権力者によって壟断されている、この国を立て直す力量があるのが、エリアルだけだからだ。


 彼ら凍りの薔薇は、当然エリアル個人に忠誠を誓っていない。


 王子であるエリアルとは面識さえもない。


 ただ、レオノーラには忠節を尽くす。


 それにより、彼らの目的、夢が叶うからだ。


 つまり、凍りの薔薇はエリアルの配下にあらず、レオノーラの配下だ。


 レオノーラがエリアル王子の為に生きているから、自然と彼らもそうなる。


 ただ、レオノーラの心がどこにあるかは、アーデルベルトには分からない。


 このまま、ただ人知れずエリアルの為に働き続けるのか、いつかアンジェリアを蹴落としてエリアル殿下の伴侶として名乗りを上げるのか。


「否、それはないな」自身で考えておいて、アーデルベルトはかぶりを振る。


 彼の目から見て、レオノーラが求めているのはエリアルの幸福、ただそれだけだ。


 自身の幸福や夢など、全て捨て去っているようにさえ見える。


 今の王宮がそれほど過酷な物なのであろうが、それも、いつか、は改善していきたい。


 ──だがその後はどうなる?


 アーデルベルトの疑問はそこだ。


 もし、エリアル殿下に実権が戻っても、彼の傍らにはアンジェリアがいる。


 レオノーラは二人を祝福するのだろう。


 だが。


「クリスティアン、お前はその思いを捨てない方が良いのかもしれない」


「何故そう思う?」


「それが何もかもうまく行く方法だからだ」


 アーデルベルトとクリスティアン、黒薔薇と赤薔薇はこうして部屋から辞した。


 彼らにも差し当たって任務がある。


 エリアルとの未来があるのかは。それ次第なのだ。



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