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 このまま……と考え、エリアルに近づく者がいてもおかしくない。


 なのに彼は計算高い貴族達の中で、孤立していた。


 ──ボールドウィン・アルドラン・オードラン……そう、あの男を忘れてはならない。


 レオノーラは未だぎらぎらした目をしている中年男を思い描く。 


 クレリアス王国最大の領地を持つ大貴族、ボールドウィン公爵。エリアル殿下の父である現クレリアス国王、ランドルフ陛下の実の弟……実はかつて、彼が一時王位継承権一位になりかけた事がある。


 隣国ファルセン帝国との戦の折、戦場に赴いた若きランドルフ王は乱戦の中、数か月行方不明になった。


 ランドルフ王は、その後無事な姿で現れたが、ボールドウィンはその時、強烈に玉座の誘惑に晒された。


 だからこそ、大貴族ではあるが『王』ではない今の自分の立場に不満を持っている。アルバータを市井で見出したのは彼だ。


 暗愚王だったランドルフは、その時すでに妻がいたのにもかかわらず、若く美しいアルバータに心を奪われた。アルバータに子ができて、さらに執着は増しただろう。

 

 そして、その子達が王宮にいる。


 エリアル殿下と同年のアンブローズと、一六歳になる弟のジェリーだ。


 アルバータの狙いは二人のどちらかに玉座を与え、名実ともにクレリアス王国を奪う事なのだろう。


 ──許せないっ!


 レオノーラはぎりっと歯を食いしばる。


 ──本来の王は我が君、エリアル殿下……いえ、違う。玉座などどうでもいい、アルバータ夫人のためにエリアル殿下が不遇の身になっているのが許せない。あのお方はただ微笑んでいて下さればいい。『あの時のように』……だからこその凍りの薔薇。


「つまり」レオノーラは話を戻した。 


「今この時期に暴挙に出るなど、逆に考えにくいのです……ただ、ついにエリアル殿下への直

接の危害が始まってしまった」


 レオノーラが思うのは今までの日々だ。


 常に先頭になってエリアルを指弾し、辛く当たった。


 何よりもエリアルの為だ。 


 ──そう、今までは我が君への直接の攻撃も嫌がらせもなかった。私が敢えてエリアル殿下を厳しく攻撃することで、アルバータ派を満足させ、機先を制してきた。だけど今回はあまりにもあからさますぎる。


「成る程、道理ですね」納得したのか、アーデルベルトは薄い唇の下に長い指を当てる。


「跳ねっ返りの貴族。なら急いだ方がいい」


 ヨアキムの声が一段階大きくなった。


「今回の毒殺が失敗したのなら、敵は必ず時を置かず次の手を打つ」


「確かに」ウルリヒは頷くと、軽く手を挙げる。


「わたしは毒を手に入れた者を探してみます。強力だが珍しい毒を使ったのが間違いだ」


「私が口を割らせよう」アーデルベルトが何でもないように発言する。


「では、その後が俺達が……」


「……手を下そう」 


 クリスティアンとヨアキムが締める。


「分かりました。まず毒を用いた者を特定し、その背後を調べる。次に我が君を狙う暴挙に出た者達を抹殺する……私も行きましょう。事が簡単になるはずです……以上です。何か気になることはありますか?」


「ご自身が行かれるのですか?」


 アーデルベルトがすみれ色の瞳を大きくし、訪ねてきた。


「危険です。ここは実戦部隊たる俺達にお任せを」


 クリスティアンは頬をこわばらせるが、レオノーラは穏やかに答えた。


「私達は主従ではなく同志でしょう。ならば私だけが血を避けたりは致しません。共に返り血に汚れましょう」


 アーデルベルトとクリスティアンは深く頭を垂れる。


「他にありますか?」


 レオノーラは改めて訪ねるが、誰にも異論はないようだった。


「ならば、後は全て計画通りに」


 言い残し、レオノーラは月の下から抜け出て闇に入り、畏まる五人の凍りの薔薇達の中心を通って部屋を出た。


 ──待っていなさい。我が君を傷つけた代価は血で払うのよ。   



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