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掌編置場

明日には消えてなくなる

作者: 須藤鵜鷺

 東京でも雪がちらつくくらいだから、今日は相当寒いのだろう。白っぽい空からふわふわと舞う雪片は儚くて美しいような、でも視界を遮る鬱陶しさを持っているような、何とも言えない存在感を出している。

 カーテンの隙間から空を見上げていた視線をベランダへと移す。この雪は積もるのだろうか、と思ったからなのだけど。

「?」

「!!」

 何かと目が合った。いや、ただの見間違いかな?だってそれはあまりにも、現実離れした姿で。

 たまにベランダにやって来る小鳥ほどの大きさの……人のようなもの。

 目が合った瞬間にピュー、とカーテンの隙間から見えないほうへ行ってしまったので、目に映ったのはほんの一瞬。

 今のは一体何だったんだろう。あまりに視界が白一色だから、幻でも見たのかな。ついに自分の目のことまで疑えてきて、そろー……とカーテンを開けてみた。

 その何かわからないものは、ベランダの隅でくるくると踊っているように見えた。

 妖精?

 実際に目にしている今も信じられない気分のほうが大きい。白っぽいふわふわしたかわいい服を着て、楽しそうに舞う姿。まるで雪が小人の姿を得たような。それとも、これはただの自分の妄想?ついに現実世界でも幻を見るようになっちゃったのか。だとしたらかなりヤバいと思うけど、どうしてもその姿から目が離せない。

 その可憐な姿を、いつまでも見ていたいと思ってしまう。

 くるくると楽しげに舞っていた妖精はしかし、また見られてることに気づいてしまった。さっきと同じように逃げようとするのを身振りで引き留める。待って。お願いだから、君に危害は加えないから、そこにいて。

 祈るような気持ちが通じたのか、その子は恥ずかしそうにしながらもその場に留まってくれた。二人の間を隔てる窓は閉まったままだから、捕まえられるようなことはないと理解してくれたのかもしれない。

 見られていることにも慣れたのか、その子はまた楽しそうに踊りだした。何がそんなに楽しいんだろうとか、雪の中で寒くないのかなとか、人間側の都合でいろいろ浮かんでくる思考は、でもその子には似合わない気がした。ちらちらと舞う雪が時折その小さな姿を隠す。

 雪の降り方はだんだんおさまりつつある。視界を遮る雪片は徐々にその数を減らしていく。

 それに伴って、その子の輪郭もどこかあやふやになっていった。

 あぁ、そうか。雪がやんでしまったら、この子は消えてしまうのか。

 本人はそれを知ってか知らずかずっと楽しそうに踊り続けている。

 見られたときにとっさに逃げようとした、この子の気持ちもわからなくはない。だって、こんなにもかわいいから。できることなら捕まえて、閉じこめて、自分のものにしてしまいたい。そんな考えがよぎるくらいには愛おしく思う。でも、そもそもそんなことは叶わないのだとも思う。

 スマホで天気予報を見る。雪は今日の夜半過ぎにはやむらしい。

 儚い命。それを懸命に謳歌しようとしているから、その姿を愛おしいと思うのかもしれない。

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