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預言の力。モノル。それは全てを司り、象徴し、そして動かす力――――。
モノルを詠む者預言者、モノリアは権力の証であった。どの都市にも、町にも、村にもモノリアは一人以上いた。
「納得いきませんっ!どうして彼がモノリアなんですか?」
『落ち着くが良い。鴈乃、お前はまだモノリアになる権利を失ったわけではない。まだ半年ある。あきらめてはならん』
「しかしっ・・・・・・」
『半年あるのだ。鴈乃 玲、今すぐ権利を捨てたいのか?』
「・・・すみません、先生」
玲は心を沈めてモノリアに頭を下げた。玲はモノリアの部屋を出た。
モノルは不思議な力である。個々のモノリアが同じ先の未来を見れば、個々の答えが返ってくる。
それはなぜか。誰にだって分からない。少なくとも、モノルを創ったヒトでなければ知るはずも無い。
この世界はモノルによって支配され、最高位はもちろんモノリアが治めている。
モノルとモノリア。その関係は剣と剣士のような関係ではない。いわゆる同盟関係のような関係である。モノルはこの世界の本当にささいなことから、世界を揺るがす大革命まで知る事ができる。しかし、モノリアの能力によってモノルで知れる情報の幅が限られてくる。
つまり、この世界の支配者は最高のモノリアでなければならない。
「・・・畔田 瑞己!」
「――!玲、どうした?お前・・・・・・」
玲の前には一人の少年がいた。14歳になったばかりの少年が。
「私は選ばれなかった・・・・・・今回も」
顔を背けて玲はぼそりと言う。瑞己は、はっとした。
―――――自分が先生の元へ呼ばれた理由はここにあったのだ。
そう今はっきりと思った。そして玲に対する後ろめたさも・・・。
「・・・・・・ごめん。玲」
「あや・・・まる必・・・要は・・・な・・・」
ふっと玲は倒れた。
「玲っ!?」
瑞己は駆け寄って彼女の体を支える。玲に意識がないとわかると抱えて、モノリアの部屋へ駆け込んだ。
「マスターっ!」
『ノックもなしに入ってくる無礼者にマスターと呼ばれる資格はない』
「っ!?しかし、玲がっ」
『助からん。そうモノルにでていた。助ける事はできん』
モノリアは冷たく言い放った。瑞己に痛く突き刺さる言葉の鋭い氷柱。
―――――能力も、才能も、努力も、自分に勝っている玲がなかなかモノリアになれなかったのはこういうことだったなんて!
「マスター?質問に答えていただけますか?」
『許可しよう』
「ありがとうございます・・・。玲がモノリアになれなかったのは今さっきの事が起こり、誰にも助ける事ができないせいなのですか?」
『・・・・・・その質問がお前に何をもたらす?畔田 瑞己』
「次の僕の行動を」
『それならば答えねばならんようだ。モノリアがころころと変わるのをモノリアーナは望まん。死にゆく運命の者をモノリアにしても法に触れるだけだ』
「死にゆく者が何十年に一人の逸材であってもですか?」
『鴈乃が逸材であるとお前は思うのか。そんな素質は無い。どうせ今日中に死ぬのだ。そんな者をモノリアにしてどうする?』
「今日玲が死ぬ?そんな事決め付けないで下さい。モノルは読む人が違えば同じ未来を見ていても、同じ出来事を見る事は不可能です。つまり、モノルが絶対と言うわけではないんです!」
『その言葉、モノリアになるべき者がいうべき言葉ではない』
「いいえ。言うべき言葉です。モノルを読む力が無い人はモノリアが全て知っていると思ってしまう。そしてモノリアは全て知っているとほのめかす。だから、はっきりさせないと困るんじゃありませんか?!モノルで全てを知る事はできないと。最高のモノリアさえも、一寸先に何が起こるか世界中で誰が生まれ、誰が死に、誰がパンを食べ、誰が口を開き、誰が聞き耳を立て、誰が囁き、誰が自分の命を脅かすのか、全てを知る事はできません!そうでしょう?全てを知れるのなら、こうして各地にモノリアをおく必要もないんじゃありませんか?」
瑞己は思っていたことを全部吐き出した。言われたモノリアは握っている拳がぶるぶると震えさせていた。
『・・・・・・お前に、・・・・・・モノリアになってもいない若僧に、・・・モノリアの苦悩がわかってたまるものかっ!・・・フフフフフ・・・ハハハハハハハッ!』
モノリアは狂い始めた。ネジの外れた人形のように――――。