「コロ、ロコ。私のぬいぐるみに『おかえりなさい』」
❅「冬童話祭2023」参加作品です。
「……これでもう何枚目かしら」
私は、筆を置いてそう呟いた。
目の前には大きなカンバス。
イーゼルの横にはもう同じモチーフの絵が何枚も描かれて置いてある。
コロとロコが仲良くじゃれ合ったり、寄り添い合う絵ばかりだ。
コロは、私が3歳から15歳まで飼っていた愛犬の名前。
ロコとはそんなコロそっくりな犬の縫いぐるみの名前、だ……。
パレットを片付けながら思い出すのは昔の事ばかり。
だから美大に入った今でも、この2匹の絵ばかり描いている。
友達には「妄執だよ」と言われた。
でも、私には大切な、何よりも心の中にある、2匹だ。
ベッドにドサッと腰掛ける。
ベッドには古びたロコがちょん、と座って私を労ってくれた。
『お疲れ様、みかちゃん!』
そう言ってくれた気がして、私はロコを抱きしめる。
そうしていつの間にか眠りについてしまっていた。
「コロ~、あのね青い風船がね~」
「わん!」
「お空へと飛んでって空の色と区別付かなくなったの」
「わんわん~」
私は夢を見ていた。
4歳の、コロとの記憶だ。
この青い風船の話は特に覚えている。
ロコがプレゼントされる前のクリスマスだからだ。
ロコは、母がプレゼントしてくれた。
いずれ、コロが居なくなった時の事を思ってくれたのだろう。
わたしはちっともそんなこと考えてなかったが。
わたしはコロとロコを抱きしめてそれはそれは幸せに浸ったのだった。
コロとロコは私の帰りをいつも待っていてくれた。
友達に揶揄われて泣いて帰った時も、中学受験に受かって喜んだ日も。
コロとロコは待っていてくれた。
どんな時も……。
「わん、わん!」
『おかえりみかちゃん!』
2匹の『おかえりなさい』は私の最高の思い出。
だからこそ。
この思い出をいつまでも大切に明日へと、ロコを私の子どもへと引き継ぐまでも描き続けるって決めたのだから。
そして夢がある。
1匹の愛犬と1匹の縫いぐるみが登場する絵本を出版するって。
そうだな、タイトルは絵本だから……。
私は、今日も夢の為に描き続ける。
コロとロコに「おかえり」って言ってあげれる日をまた夢見つつ……。
「みかちゃん今日もテストで満点取ったんだって僕に自慢してくれたよ」
『コロばっかりずるい~』
「この後、ロコにも自慢してくれるよ絶対」
『そうかなー』
大人になったみかさんは知らないでしょうけれど、2匹はいつも会話していました。
「今日、みかちゃんにぎゅう~としてもらったよ」
『ぼくだって!』
「ロコは焼きもちだなー」
『コロもだよ?』
ある日。
コロとロコはいつもの様に会話していました。
「ロコ」
『なあに、コロ』
「みかちゃんをこれからもずっと見守ろうね」
『うん、いつも「おかえり」って言おうね』
だからロコはコロとの約束を今日も守っているのです。
それが1匹の犬と1匹のぬいぐるみが交わしたずっと守られ続ける約束なんです。
〖おわり〗
少し、大人向けの作品です。
お読みくださり、本当にありがとうございました。