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転生騎士団長の歩き方  作者: Akila
1章 ようこそ第7騎士団へ
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34 それぞれの団長

<第7騎士団第3部隊所属騎士 カイト>


「おはよう」


「あぁ、おはよう母さん」


「今日はいい天気よ? 仕事はもう慣れた? 今日は確かC時間よね?」


「うん。夕方にちょっと寝るよ。今日は行く所があるし」


「あんまり無理しちゃダメよ?」


「母さんこそ。治ったとはいえまだ10日程しか経ってないんだから、程々にしてくれよ」



俺は2日前に職場へ復帰した。出勤した俺に部隊長は気を遣ってくれたが、他の、一部の騎士からは制裁を受けてしまった。制裁と言っても、小突かれるぐらいだけど。


その程度で終わったのは全部女神様のおかげだった。出勤初日に俺の部隊へ顔を出してくれたのだ。


「顔色、良くなったかしら?」


何の前触れもなくふらっと東門へやって来て俺に声をかけてくれた。


「お陰様で。その節は大変申し訳ございませんでした。今は心配事がなくなりましたから。これも全て団長のおかげです」


「いいのよ、あなた普通じゃなかったし。グレコ、この人見てやってね」


「了解」


団長はそれだけ言うと立ち去ろうとしたので、同僚に仕事を預けて後を追いかける。


「あの~、団長!」


さっと、副団長が前に立ち塞がり、団長は先に行かせた。


「私が聞きこう。何だ?」


「はい。この度は大変お世話になりました」


「おい、それ以上は不要だ」


「はい、分かっています。ただ、母が笑顔になって料理をしてくれる様になったとお伝えしたくて…」


「よい。元気になったのなら」


「で、ですね、相談がありまして… 母の事、どう言う風に言い訳しようかと。あの時は取り乱してしまって聞けませんでしたから… 指示があるまで黙っていようと誰にも言っていないのです。元気になった訳を、もちろん母本人にも」


俺は少し小声で副団長へ進言する。


「そうだな… 『団に借金して治癒してもらった。団長のおかげだ』とだけ言っておけ。それで通るだろう」


「了解しました。本当にありがとうございました。女神様に敬礼を!」


俺はもう小さくなった団長の背中へ敬礼した。



小さな、少女の団長。


毎日、ひたすらポーションの為に働き、日に日に衰弱していく母に絶望していた毎日からすくい上げてくれた。


他の騎士達もこの短期間で団長を好きになっていた。


お金や休みも大事だ。大事だけど、それだけじゃない。働く事への希望、騎士としての矜持を取り戻せたのだ。


今までは、淡々と仕事をし長時間拘束され、その割に安い給与。時折暴れる通行人に手を焼いて怪我をしたりするが、自前で治さなければならない。武器も自前。一部の貴族騎士達の怠惰な勤務態度。上層部は顔も見た事がない。そうなると、治安を守るはずの門番が違法な金を貰って怪しい奴を通す様になる。門番、騎士という職業に疑問を、希望も持っていなかった。


ある日、彼女は現れた。


今はみんな生き生きと仕事をしている。給与が改められて生活に余裕が出来、心もに余裕が出来た。勤務と勤務の間の休息時間が長いので、仕事が楽になった。心身共に健康になり鍛錬にも力が入る。『どうせ変わらない』と諦めていた昇格試験にも挑もうと勉強している者さえいる。傷薬も各門に常備してくれたし、新しい武器も全員に配給してくれた。何より、蔓延していた商人との癒着、賄賂問題を『止めろ』と命令だけするのではなく、そんな事をする事さえ出来ない様に体制を変えてくれた。


団長はすごい。俺にとっては女神様だ。この先、何があろうと団長の為に騎士として門を守ると決めた。




<第7騎士団側近 コリーナ>


私は男爵家に生まれて、貧乏が故に騎士になった。昔から本が好きで薬草や魔獣に興味があった。冒険者や魔法士を目指そうかとも思ったが、魔法のセンスがなかったのだ。


「ねぇ、その知識を私の為に、団の為に役立てない?」


初めてだった。騎士団に入ったはいいが、剣もそこそこ、この知識は単なる趣味として片づけられ、あまつさえバカにされた。


『騎士が薬草辞典持ってどうするんだよ』と。


新しい団長は私よりも年下で、とても小さい。いつもスッキリしたシャツとズボンの格好で、城門内をウロウロしている。そんな彼女が私を見出してくれた。



「団長? こんな物何に使うんです?」


「これはね~」


ある日、悪戯? をしすぎたトリス様に団長は罰を与える為、面白い看板を作った。


どこからその発想が湧くのか。不思議だ。


案の定、効果的面で、トリス様は色々な人にゲンコツを食らっていた。コツンぐらいだけど。


あのトリス様に、侯爵様に、平民も年下も看板を見て叩いていたのだ。びっくりだ。でも少しだけわかる気がする。みんなそれだけ団長の事が好きなのである。


私も、毎日が楽しい。事務仕事は苦ではないし、薬草にも触れられるし、団長は優しいし、最高の職場だ。


だからこそっとだけど、トリス様の胸をチョンと小突いてしまった。


「おいおい、コリーナも? どんだけ団長ちゃん好きなんだよ~みんな~」


はははと笑いながらトリス様は私を怒らなかった。


きっと、トリス様も好きなんだろう。


きっとそう。



<老騎士 リックマイヤー>


俺はこの団に36年居る。歴代の団長は星の数だ。多すぎて数えてねぇ。


今回、新しく団長になった小娘だが思いの外面白かった。どうせ直ぐにどっかに行くと思っていたが、まず全員と話をしたのが驚いた。


「あなた『賢者』と呼ばれてるらしいわね。歳だから?」


おいおい、じじぃだからとか面と向かって言うか? 普通。


「知らん。36年も居りゃ、そう呼ばれる様になっただけだ」


「そう… ずっと第7?」


「あぁ、悪ぃか?」


「違うの、違うの、怒らないで。それじゃぁ誰よりも第7の事が詳しいのね? すごいわ、それで『賢者』か。納得」


はぁ? 何だこの娘は。隣のドーンも気になるが、こいつはちょっとその辺の若いもんとは違うのか…


俺はドーンに話しかける。


「ドーン、お前は遂に左遷か?」


「いえ、違います」


「え? 知り合いなの?」


「えぇ、新人時代から数年この第7に居りました。その時、指導して頂いた先輩騎士です」


「え~!!! そうなんだ~! 不思議な縁だね」


「けっ。あっという間に第1まで登って行ったくせによく言うよ」


「ははは」


「昔のドーンってどんな感じ?」


「イケスカねぇ、ガキだった。今と変わらん」


「と、言うと?」


「何でも出来たって事だよ」


「うわ~! ドーンってやっぱりすごいんだね~。リックマイヤーさん、いきなりだけどまだ辞めないよね?」


「どうだろうなぁ。こんな小娘が団長になるぐらいだ、辞めるより先に第7が消えるんじゃねぇのか?」


「うわ~、手厳しい。じゃぁ私の側近になって?」


「はぁぁぁ? こんな老いぼれ…」


「老いぼれじゃないわ。賢者よ」


こうして俺は団長付きになった。



歳は取るもんだなぁ。まだまだ面白ぇ事がこの世にあるなんて。



<第7騎士団側近 テッセン>


俺はまだ入団して2年目の新米だ。なのに、なぜか団長の側近になってしまった。


と、言うか、ほとんどドーン様の小間使いだけど。


ドーン様はただ使いに出すのではなく、色々な事を教えてくれる。事務仕事はもちろん剣術や体術も。団長をいつでもお守り出来るようにと。 


「副団長、この書類。そうなるとこの資料を添付した方がいいですよね?」


「そうだ、よく気がついたな」


「ありがとうございます」


それにドーン様は厳しいだけじゃない。たまに褒めてくれるから余計やり甲斐を感じてしまう。


ある日の午後、廊下で同期と先輩に会った。


「おっ! がんばってるか?」


同期が笑顔で手を振ってくれる。


「おいおい、お前、いくら同期だからって、天下の側近様にそんな口を聞くなよ。どんな手を使ったんだか。17で大出世だな~おい、聞いてんのか?」


ピクっ。


いや、我慢だ。こんな事言われ慣れている。今は我慢。


「せ、先輩? 急にどうしたんですか? テッセンはそんなやつじゃないですよ?」


同期もオロオロしながら庇ってくれる。


「はっ。今は団長のおかげで第7の雰囲気が良くなったが、前は上層部が色々やらかしてただろが? 権威ふりかざしてよ! おい、団長の足だけは引っ張んなよ」


「はい。団長にはよくして頂いています」


「けっ。お高くとまりやがって。行くぞ」


「は、はい… ごめんな。俺はそうは思ってないから。あの先輩、前の団長時代に上と色々あったみたいでさ。許してやってくれ」


同期は申し訳なさそうに、コソコソ話して走って行った。


はぁ。たま~にまだあるんだよな。あの手合い。


はぁ~っとため息をついていたら、ちょんと肩を叩かれた。


「だ、団長! 今のまさか?」


「んー。そだね~。でもよく我慢したね。えらい」


「いえ…」


「えらいよ、若いのに。それも有る事無い事。ごめんね苦労させて」


「いえいえいえいえ。あれはあの先輩が誤解しているだけですので」


「うんうん。でね、今時間ある?」


「はぁ、まぁ」


団長はそう言うと俺を食堂へ連れて行った。ちょうど食事時間の終わりの方だったので空いている。


「ゴリさん! こちらテッセン。私の側近なんだ。それでね、前言ってた人だよ」


「ん。で? 本気か?」


「もちろ~ん! じゃぁ、お願いします」


「わかった」


口数が少ないゴリさん。ちょっと怖いな。俺は、そんなゴリさんの所に訳もわからず置き去りにされる。


どうしたらいい?


「おい、スイーツは好きか?」


「まぁ。人並みには」


「あぁー?」


「好きです。家が食堂で時々デザートを作っていました」


「よし。今日はパンケーキだ。しかもフワフワのな」


フワフワパンケーキ? 今日は? どこから突っ込めばいい?


「俺がやるんですか?」


「そうだ。団長からの指名だ」


!!!


俺がデザート作るの好きって面接で言ってたのを覚えてくれてたんだ。


「出来たら持って行け」


「わかりました」


俺は久しぶりに料理に勤しんだ。楽しい。ゴリさんは雰囲気が怖いだけで普通の人だったし。むしろスイーツ好きな面が見られてちょっと見直した。



「団長、フワフワパンケーキです」


「やった~! テッセン! やるじゃん!」


「いえ。クリームとフルーツも付けました」


「マジ天使! ドーン休憩しよう! コリーナもリックマイヤーも。クルスは?」


「俺はいい」「儂も甘いもんは要らん」


「そう? じゃぁ、テッセン食べてね」


「え? いいのですか?」


「いいのいいの。甘いもの食べると頭もよく働くようになるし、嫌な事も忘れるって。料理で少しは発散出来たんじゃない?」


「うっ。ありがとうございます。とっても楽しかったです」


「じゃぁ、時々作ってね。ゴリさんもスイーツ好きだから、仲間だよ?」


「はい!」


それから俺は昼出勤の時の、3時のお菓子担当になった。


団長のおかげで側近の仕事が益々好きになったし、同僚達の嫌味も気にならなくなった。


ありがとうございます、団長。

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