5.公爵夫人
ドロシー・スーザン改め、ドロシー・フールは取り調べの後に処刑されました。共犯者であった彼女の兄、ローリー・フールと数多の下位貴族たちも同じく処刑と相成ったのです。貴族の処刑は基本「毒杯」となります。これに合わせて「連座」として三親等が「毒杯」を賜る事に成ったのです。
と、ここまでが表向きの事。
実際は違います。
フール兄妹の店は表向き「出稼ぎの仲介業者」を装っていましたが、実態は奴隷売買を生業にしていたのです。最初は売春斡旋から始まったようですが、摘発が厳しくなると奴隷貿易に手を出したようです。兄妹の友人達も学生時代から「公爵子息のご学友」の立場を利用して婦女暴行、傷害、詐欺などをしていたようで、余罪がたっぷりとありました。
彼らは、良くも悪くも「弱者」の立場をよく知っていました。貴族の中であっても「下の地位」にいた彼らも身の内で鬱憤が溜まっていたのでしょう。その捌け口を求めた結果、自分達よりも弱い平民に向かった事は許せるものではありません。
犯罪被害者の家族、恋人や友人達は、彼らへの復讐を望んだのです。
始めは、被害者同様に「奴隷」として他国に売る案も出たのですが「生ぬるい」との声が多数でした。特に主犯のフール兄妹に対する憎しみは大変なものでした。
「奴隷として他国に送った処で狡賢い奴らの事だ。上手く寄生できる人間を見つけて現状から逃れるに違いない。奴らには出来る限り長く生き地獄を味わわせてやりたい……楽に死なせてなるものか」
人々の怨嗟の声は聞き届けられ、男も女も区別なく子供が残せないように処置を行った後は被害者たちの奴隷になったのです。地下の最下層で首輪に繋がれての生活。死なないギリギリのラインでいたぶられ続けるのですから、彼らにとって死んだ方がマシな部類でしょうね。
お気の毒に。
あなた達はやり過ぎたんですよ。浮浪者や貧民街の人間だけならまだしも一般人にまで手を出したんですから。その中に他国のスパイが紛れ込んでいた時は「よくやった!」と両親は褒め称えていましたが同時に「共倒れが望ましかった」と残念がってもいました。フール兄妹のハニートラップに引っかかるスパイが存在した事に驚きましたけど。あの兄妹は見た目と口先の上手さは天下一品なので納得したものです。特に、妹の方は兄よりも遥かに悪質でした。ターゲットの男相手に口と後ろの穴だけでいいように転がしていたんですから。
「もう少し早く存在を知っていたら育てることが出来たんだがな……惜しい」
お父様、惜しくありません。
仮にプロとして仕事に就かせたとしてもあの性格です。下手したら寝返られかねません。結果論ですがこれでよかったんです。学生時代、彼女が愚兄と同時進行で付き合っていた男性達は星の数ほど存在しました。当然、全員と体の関係を持っていたにも関わらず愚兄にだけ砦の侵入を許したあたり色々と勘繰ってしまいますね。詳しい報告書では『後ろは侵入し放題』だったそうです。
要は、愚兄が一番地位も金も持っていたから「許していた」に過ぎません。
でも、彼女たちのお陰で親の代からの悪質商法が一網打尽に出来たのですから結果オーライという処ですね。
本当ならこの役目は愚兄がすべき事だったのですが……。
まあ、お兄様を餌にして悪党どもが裁きを受けたのですから文句は言えませんね。ほんの少し綺麗になった国でこれからも公爵夫人として頑張ってまいりますわ。
墓下で見守っていてくださいね。