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薬草整理とチビゼロスとリコッタの叫び声

 セフィロスは、ぐちゃぐちゃの薬草倉庫の中で、体力回復効果のあるタイムをすり潰しながら幼馴染のゼロスと昔話をしていた。キャロルは近くにあった椅子にちょこんと物言わずに座っている。


「――そうか。俺が薬草売りに出かけてからトータスの村が襲撃を受けたんだな」

「おまえは? りょうしんはどうした?」

「荷馬車が魔物にやられてな。俺と妹しか助からなかった」

「……そうか」

「辛いな。お互い」

「ああ」


 塗り薬が出来たのか、セフィロスは椅子に座ってそわそわしているキャロルのもとへ行き、


「ちょっとヒヤッとするぞ。キャロルちゃん」


 と言って、べちょっと足首にタイムの塗り薬を塗布した。


「――!」


 視覚が無い状態で、薬を塗布されるのが怖かったのだろう。キャロルは反射的に目の前のセフィロスの顔面を蹴り上げてしまう。


「いってぇ。ビックリしたわ!!」

「――!」


 キャロルは手を合わせて頭をへこへこしていた。おそらく謝罪をしているのだろう。その様子を見て、フッと笑うゼロス。


「いまの。おれなら、かんたんによけられたけどな」

「うるせーやい、チビゼロス」

「おい、そのよびかたやめろよな」

「昔っからお前は甘いんだよ。強気なくせに駆けっこではビリだわ、木から降りられなくなるわ……」

「それは……むかしのことだろ!」

「昔の姿で現れたお前が悪い」

「なんだとー!」


 ゼロスは給湯器が湧いたかのごとく頬と耳を赤くして抗議した。悔しい。なぜなら、魔王城の宝箱を開ける前までは目の前のひょろノッポのセフィロスよりも強く、逞しかったからだ。

 子どもの姿ではそれが証明できない。当然武器も握る握力が無い。達者なのは口だけだ。そんなゼロスの声を、キャロルはずっと大人しく聴いていた。


「包帯を巻いて……っと、三十分ぐらいで効いてくるはずだ。本当は煎じた物を飲めばすぐに効くんだが。仮面があったら仕方ないか。おいゼロス。これからの旅に、この子を連れていくのは危険だが、お前の話によれば魔法使いらしいじゃないか。俺は薬草でサポートは出来るが、実質、戦力はこの子しかいない。どうする」

「……おれは、せんりょくがいか」

「当り前だろ。木の枝で戦うつもりか?」

「……」


 少し真剣な空気が流れた。察したのか、キャロルが拳を胸に宛てて、まるで「大丈夫!」とでも言うかのように、大きくうなずいた。こういう明るい性格は仮面越しでも伝わるもので、二人は「ははは」と笑い合った。


「キャロルちゃん。君、面白いな。怖くないの」


 セフィロスの声に反応して首を大きく横に振るキャロル。


「そうだよな。いままで、たくさんのトラップにひっかかってきた。きっとカメンのノロイも、おれのすがたも、もとにもどる。そのときは、おどろくなよ、セフィロス!」

「一丁前に口は動くなぁ。じゃあ鍛錬だ。薬草の瓶を運んでくれ」

「ふん、こんなの、あさめしまえだ!」


 ゼロスが目についたドクダミの瓶を運ぼうとする。それは、ちょど彼の腕ほどの大きさで、両手で抱えて持つと背中と腹筋を一気に刺激した。大人の姿だったらこんな物一瞬で片づけられる。


 ――しかし、


「あ!」


 ガシャン!

 

 ゼロスは盛大に瓶を落とした。今の彼にはこんな軽作業も無理なようだ。


「あーあー、もういい、下がってろ。お前はキャロルちゃんの手を握っとけ」

「くそーっ!」


 心底悔しそうに、ゼロスは視線をキャロルに向ける。へんてこな仮面。そして誰よりも弱い自分。彼は、(こんなはずじゃ無かったのに……)と深く後悔した。

 今までの鍛錬は無駄だったのだろうか。


「――」


 キャロルが手招きをしている。そのしぐさに引き寄せられるように、ゼロスは彼女のもとへと駆け寄った。彼はキャロルの手を両手で掴む。


「どうした。キズがいたむのか? はらはへってないか?」


 彼女もまた、小さなゼロスの掌を両手で握り返した。彼女は、彼の掌に何やら線をなぞってる。最初はその行為が何なのかゼロスは分からなかったが、それが、「文字」であることを理解した。

 一文字ずつ読み上げていくゼロス。


「ゼ、ロス……は、つよ、い……?」

「――」


 掌での二人のやり取りは、続けられる。


「バカに、しな……いで」

「――」

「……キャロル!」


 その文字に感動したゼロスは、薬草瓶の整理をしているセフィロスに、意気揚々と自慢した。


「どうだ! ほんとうのおれは、つよいんだぞ!」

「恋人の前でその軟弱な体を晒さないで良かったな。フラれるぞチビゼロス」

「だ、だからちが……いや、その……おまえにかんけいないだろ」

「先に惚気てきたのはお前だろ」


 二人の会話が面白かったのか、キャロルはお腹を抑えてうずくまった姿勢で痙攣する。足をバタバタさせながら。どうやら笑っているようだ。しかも、大ウケしている。


「キャロルはおれをどんなガキだとおもってるんだろう……」

「女性だからな……かわいい。とか?」

「ころすぞ」

「はいはい、かわいいねぇ~」


 そんな会話をしていたら、薬草の整理が終わったようだ。窓からは月の光が射しこんでいた。魔物が活動しやすい夜に出掛けても、不利なだけだ。今日は薬草屋で休むことに決めたゼロスたち。


「……リコッタが戻ってこないな」

「まものにくわれてたりして」

「親友でも、その冗談は笑えないな」

「……すまない」


 気まずい空気が流れる。その瞬間。

 

「――うぎゃああああ!」


 リコッタらしき女の子の声がした。何かに驚いたようなそんな声。それは、集会場の方から聴こえる。妹のこととあってか、セフィロスは「リコッタ!」と叫んで薬草屋から一番に駆け出して行ってしまった。


 ゼロスは、キャロルを見上げる。そして彼女の掌に、こう書いた。


(いこう!)


 キャロルは、掌の文字を汲み取り、大きくうなずいて立ち上がった。傷口は完治しているようだ。キャロルの魔法は強い。きっと役に立つ。視覚が無いなら、ゼロスが目になればいいことだ。


「キャロル。おれが、おまえのめになる! だから、こわくても、ついてきてくれ!」

「――!」


 月の光が、細くなったマスク姿のキャロルの影を映し出す。影は、大きくうなずいた。

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