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幻術資料館とアウロラの研究資料『アエイアウゥーイ』

 ……、

 …………。


「うわっ! ビックリした!」

「――?」


 ゼロスたちが、王都の国立呪術研究所の図書館へと姿を現したことに、その場にいた呪術師たちが驚いていた。しかし、彼らを構っている余裕は、ゼロスたちには無い。ここからは、スピード勝負だ。


「キャロルちゃん。これはセクハラじゃないからな!」

「――!」


 一足先に、セフィロスが、キャロルをお姫様抱っこして階段を降った。今の彼はバリアーの魔法が効いている。もし危険なことがある場合は、身を(てい)して彼女と仲間を守ろうということなのだろう。


「素晴らしいです。本当に!」


 半泣きになりながら後を追うプレイドを見て、「あれ、本物か?」と疑い始める呪術師たち。彼らがポカーンとしている隙に、ゼロスとシルヴィアも階段を順調に降りていく。


「なげぇな、おい!」


 地下四階に達した時には、キャロル以外の全員が息切れをしていた。それほど国立呪術研究所の図書館は広かったのだ。地下四階では、フェニキア王がたった一人で呪術壁(もんしょう)の前に立っていた。

 警戒するゼロスたち。


「無駄な足搔きを」

「おまえこそ。どうして、こんなことするんだ!」


 フェニキア王は、妖艶に輝くエメラルドの指輪を眺めながら言った。


「王には王の役目がある。国を栄えさせること。安易に死なぬこと。王家に恥じぬ生き方をすること。王都の恥は私の恥。私の恥は王都の混沌を招く。すぐさま消さねばならない存在だ」

「へー。まるでマオウみたいな、いいかたじゃないか」


 ゼロスがフェニキア王に唾を吐くように言い捨てた。


「お前は王の立場に成ったことがあるのか。常に命を狙われては、あらぬ噂をされて、挙句の果てには、望まぬ結婚もさせられる。それでいて、民には等しく自由であれと吹き込む。そんなもの、幻にすぎぬのに……」

「よく喋る王様だな。愚痴なら、他所でやってくれ。そこをどくんだ」


 セフィロスが、抱えていたキャロルをゆっくり降ろしながら言う。フェニキア王は「くっくっく」と含み笑いをして、エメラルドの指輪を薄暗い天井に掲げた。

 

「シャアアーー‼‼」


 エメラルドの指輪から、本棚の背丈と同じぐらい大きな白いヘビの魔物が現れる。それは、図書館の本棚に隠れながら、ゼロスたちに、そろりそろりと向かってきていた。ガラガラ……と、不気味な音を立てながら。


「魔物なら心置きなく戦えます! みなさん、呪術壁(もんしょう)の方へ!」

「プレイド……きをつけろよ!」


 ゼロスたちは、フェニキア王の元へ向かって走っていく。彼らの様子を見ていたフェニキア王は一言、


「後悔するだけだぞ」


 そう言って、呪術壁(もんしょう)から容易く退いた。その間プレイドは、伸びるレイピアで、巨大な白ヘビの魔物と戦っている。魔物の皮は分厚く、レイピアでは貫くことはおろか、傷をつける事は出来なかった。


 物音に気付いたのか、呪術師たちが階段越しに集まってくる。フェニキア王は、「死にたくないならここから立ち去れ」と言って彼らを退かせた。呪術師たちの怯えた声が聴こえる。彼の言う「死にたくないなら」というのは、果たしてどっちの意味であろうか。

 

「詠唱中に邪魔をする気なのかしら?」


 シルヴィアの問いに、王は首を振った。


「知りたければ知るがよい。だが、待っているのは絶望だぞ」

「そのマオウっぽいはなしかたやめろよな」


 ゼロスとシルヴィアが話している間に、セフィロスが、キャロルを呪術壁(もんしょう)へと誘導する。今のセフィロスにはバリアーが効いている。もしフェニキア王が何か仕掛けて来ても、彼が盾になることが出来るのだ。


「いいかい、キャロルちゃん。(まじな)いの言葉、覚えているか?」


 ――≪あかごの譫言うわごと三度まで≫――


 キャロルは魔法使いだから、詠唱系の暗記力が高い。一度聴いた言葉は覚えている。彼女は強い意志を示すかのように頷いて、呪術壁(もんしょう)に手を当てた。当然、そう簡単に事が運ぶことはなく。白いヘビの魔物は、プレイドのレイピアをしゅるりとかわして、キャロルの方へと向かって行った。


「危ない!」


 シルヴィアが呪文を唱えようと思ったが、魔物の動きの方が一秒早かった。大きな口がキャロルたちを呑み込まんとするほどに開く。セフィロスは、


「これでも食らえ化け物!」


 と言って、ベルトに携帯していた唐辛子パウダーの瓶を開封し、大きく開いたヘビの魔物の口に投げ込んだ。辛さというものが認知できるのか、魔物は混乱したように暴れる。そこら中にあった本棚が倒れて、足場が悪くなってしまった。


「な、貴様なにをした!」


 意外だったのか、フェニキア王が一瞬の隙を見せる。シルヴィアはそれを見逃さなかった。彼女は拘束の呪術を使って、彼の動きを止める。


「ぐっ!?」

「フェニキア王は私が拘束しておくわ。頼んだわよ!」

「――!」


 キャロルがまじないを唱え始めたようだ。呪術壁(もんしょう)周辺が、エメラルド色に輝く。その時間は、短いようで長かった。唐辛子パウダーを呑み込んでダウンしていたヘビの魔物の舌を、プレイドのレイピアが、シュッと切り落とす。


 魔物は灰色に染まり、砂のように粉々になって消滅した。


 拘束されているフェニキア王も含めて、全員が呪術壁(もんしょう)に近づく。彼らは壁に吸収されるようにその場から消えた。消えたというよりは、入ったというのが正しいか。そこはおそらくアウロラの研究室。壁の向こうにある隠れ部屋だった。


「意外と本が少ないんだな」

「古代語で〈魔鉱物マテリア呪術史〉は、〈アエイアウゥーイ〉よ。急いで探してちょうだいな。王の拘束呪術が解けるまでに!」

「わ、わかった! なんだ、『アエイアウゥーイ』って……」

「変わった名前だなぁ、しかし」


 セフィロスとゼロスがアウロラの資料を探している間にフェニキア王は、こんなことを言う。


「……知ったところで、あやつの研究など何の役にも立たん。何が愛だ。くだらぬわ」

「――?」


 耳の冴えているキャロルは、その言葉を聴きとるが、首を傾けるだけであった。彼女は、小指に絡められた赤い紐をゆらゆらさせながら、ゼロスたちが本を見つけるのを待っていた。


 そろそろシルヴィアの呪術が解けてしまう。いざという時のために、プレイドはレイピアを構えていた。


「あったぞ!『アエイアウゥーイ』!」

「なんか変な叫び声みたいだな……」


 セフィロスが、ゼロスの歓喜の声に苦笑する、笑いながらも彼は全員を赤い紐の所へ向かうように指示した。全員揃ったところで、フェニキア王の拘束が解けた。同時にキャロルの空間転移の魔法が唱えられる。

 プレイドが、フェニキア王のことを哀れむような目で見つつ、


「さようなら、フェニキア様。長らくお仕えしておりましたが、このプレイド。目が醒めました。これからは罪滅ぼしのために生きていきます」


 そう言ったあと、ゼロスたちの転移は成功した。

 一人残された王は、アウロラの研究資料を荒らし踏みつけた。その目は怒りのものではなかった。何かに嫉妬するような、子どもがおもちゃを取られて、悔しがるような、そんな目であった。


「なぜだ、なぜ私はこの呪いから逃れられぬのだ……!」


 フェニキア王のこもった低い声が、アウロラの研究室に響き渡る。エメラルドの指輪はそんな彼をあざ笑うようにギラギラと輝いていた。


 ……、

 …………。


 ゼロスたちは、再びレッドスターの洞窟に転移していた。早速彼らは、『魔鉱物マテリア呪術史』もとい、『アエイアウゥーイ』を開く。


「これは……」


 全員が、フェニキア王の言葉通り絶望した。ゼロスでもわかる。これは単なる絵日記だ。挿絵も拙い。肝心の文章も短く、走り書きであった。ページに秩序なく文字が記されている。


「こんな物のためにじいさまが犠牲になったと思うと、悲しゅうございます……」


 プレイドが涙目になって、ワルターのことを偲ぶ。資料を手に取るシルヴィア。


「……いえ。意外とそうでもなくてよ。挿絵があることで何の研究について書いてあるのかが解りやすいもの。今知りたいのはミスリルの仮面と子ども化する呪術に関して。つまりそれに近い絵を見つければいいのよ」


 プレイドの嘆きに、資料を読みながらシルヴィアが冷静に言った。気遣いなのか独り言なのかは分からなかったが。シルヴィアが『アエイアウゥーイ』を解読している間の間がとてつもなく暇である。


「なぁ、ここって魔物は出るのか」

「居ないからここを選んだのでしてよ」

「ふーん、このレッドスターって、とってもいいのか?」

「煩いわね。好きにおしよ!」


 セフィロスとゼロスがそこら中に転がっているレッドスターという鉱石を拾って遊んでいた。まるで幼い子どものようである。ゼロスに至っては子どもにしか見えない。


「――?」

 

 キャロルはその場に座って、ゼロスから渡された石ころとレッドスターを両手に持ち、首を傾げている。目が見えない彼女にとっては、美しい鉱石もただの石ころ同然なのだ。つまりは違いなど分からなかった。


わたくしは一応、警戒を強めておきます」

「わかったわ」


 プレイドとシルヴィアは、追手が来ないか注意しながら、資料の解読を進めていた。長い時間を費やしている。眠くなったのか、ゼロスとセフィロスは、「そろそろ寝てもいいか?」と三人に問いかけた。


「―ー!」


 キャロルも勢いよく手を挙げた。


「はぁ……。好きになさい」


 シルヴィアは呆れたようにため息をつく。しかし、今回一番力を使ったのはキャロルだ。彼女が居なければ、シルヴィアは一生王都であのフェニキア王に仕えることになっていたであろう。それを考えた彼女は身震いした。


「大丈夫ですか。シルヴィア殿」

「気持ちは嬉しいけれど、そんなに改まらなくてもよくてよ」

「それでは、シルヴィーさんとお呼びしても良いですか?」

「……好きにおしよ」


 シルヴィアは、少し恥ずかしそうに資料に目をやる。パラパラとページをめくっていたら、複数の小さなメモがバサッと出てきた。綴り字でクセがあったが、ギリギリ彼女が読めるものである。


「……これは」


 ゼロスたちがすやすや眠る中で、シルヴィアはメモから何かを発見したようだ。果たしてそれは、彼らにとって有益な情報なのか。それは、彼らが起きてから明かされる。

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[気になる点] キャロルって仮面で呪文が唱えれないのではなかったでしたっけ? 心の中で念じれば良いという設定ですか?
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