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なんでこうなった?

***


 あまりの心地良さに閉じている目が開くことを拒否しているかのようだ。

 出来ることならこのまま眠りにつきたい。そんな心地良い場所に頬ずりすると誰かの手が頬に触れた。優しく触れるその手に頬を預けると額にチュッとキスが落ちてきた。


 ん?キス?


「ミハエル、いい加減にしろよ。べたべたしすぎて嫌われても知らねぇぞ」

「……それはそうだが…」

「なぁ、イザベラ様と離れたらミハエルはまた犬に戻るのかな?それともそのままなのか?」

「あー、それは確認する必要がありますね。ミハエル、明日は一日中イザベラ様に近付か」

「却下」

「駄目です。いつかはイザベラ様もご家族の元に帰」

「帰さない」

「……はい?」


 何だか私の話をしているようだ。それなら目を覚まさなくては。……と思っても居心地の良い空間が離れがたくて薄い布団に顔を埋める。


「ほら、ベラは離れたくないようだ」

「……単に眠いだけでしょ?」

「俺らの声がうるさいからだろ?」

「俺は向こうの家にいる時はいつもベラと一緒に寝てたんだよ。だから」

「それって犬の時だろ?ただの湯たんぽ代わりだろ」

「そうだよ。大の男が毎晩隣りで寝てたら普通にヤバいだろ」


 何の話かわからないけど話し声がやけに近い。

 それに何故か異様にお腹が空いてるかも……。近くに人がいるのにお腹が鳴るのは嫌だな。仕方ない、起きてカーラに何か持ってきてもらおう。


 もぞもぞと動き出し、上体を起こすと身体に掛けてあった薄い布団がバサッと床に落ちた。


「お目覚めですか?イザベラ様」

「ベラまだ寝てていいぞ」

「…………寝るなら一人で寝室がよろしいかと」


 ようやく働きだした脳が3人の声を聞き分ける。3人の男性の声。

 ……寝起きに3人の男性っ?!


 ここでやっと目を開けて状況確認する。

 正面のソファに護衛の男性。左のソファにジャック様。そして私の身体を支えるミハエル様。

 どうやら、ソファに座るミハエル様に抱かれて寝ていたようだ。薄い布団と思っていた物はミハエル様の外套だった。

 状況を把握した途端に恥ずかしさのあまり俯向いた。


「いやー、流石イザベラ様です。まさかこんな短時間で解決なさるとは」


 嫌味なくらいにニコニコと笑顔のジャック。

 そういえば、ジャックにお姫様抱っこされてミハエル様の部屋で………………。


 思い出したのは甘い時間。

 ミハエル様にキスされた極甘なひと時。あまりの甘美さにいつの間にか意識が飛んでいたようだ。


 あまりの羞恥に顔を手で覆ったらミハエル様に優しく抱きしめられた。

 …………抱きしめられた!?


「ミ、ミハエル様?お身体は……」

「ん?」


 抱きしめられてるせいでミハエル様の姿を確認出来ない。


「イザベラ様、ミハエル様は3年ぶりに人に戻ってますよ。まさかこんなに早く戻る日が来るとは思いませんでした。イザベラ様ありがとうございます」


 えっ!?マジですか?やっぱりキスだったの?

 とりあえずは安心したけど、でもなんで?この前もミハエル様にキスされたけど何も変わらなかったような?

 ………というか、ミハエル様が治ったなら私はどうなるんだろ?

 童話だとキスして目覚めた後って『二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし』で終わるよね?

 でも、私の家は子爵家だよ?辺境伯様と結婚なんて出来るわけないよね?ってか、ミハエル様って絶対モテるよね?かなりモテるよね?

婚約者は?あ、私、元婚約者と婚約破棄したような女だよ?やっぱり無理だよね?ミハエル様のご両親に反対されるのがオチだよね?というか、キスしただけで結婚とか言いだすわたしがウザいな。この時代でもキスは挨拶だとか言ったりするのかな?でも結婚だけが"幸せ"じゃないよね?あれ?どうすればいいの?さっさと家に帰る?その方がいいよね?

 目指すは『二人はそれぞれ別の道を歩いて幸せになりましたとさ、めでたしめでたし』だね!


「イザベラ?どうかした?」


 抱きしめる腕を緩めたミハエル様が心配そうに問いかけてきた。


「な、何も。少しお腹が空いただけです」


 あ。言っちゃった。

 本当のことだけど、この時代では女性が男性にこんな事言うのはかなり失礼な言葉だ。まさに色気より食い気。目の前の男性を全く意識していないとはっきり言うようなもの。

 ………失敗した。


「そうでしょうね。なんせ食事を抜いてますからね。マフィンか何か持ってきましょう」

「い、いえ、大丈夫です。皆さん仕事に戻って下さい。私も部屋に戻りますから」


 これ以上ここに居るのはなんとなくマズい気がした。さっさと部屋に戻った方が良いだろう。


「それなら私が部屋まで送ります」


 スッと立ち上がったのは護衛の男性。


「いえ結構です。貴方はミハエル様の護衛ではないのですか?私よりも身体が戻ったばかりのミハエル様を気遣って下さい」


 顔を合わせたばかりの人に部屋まで送ると言われてもいまいち信用出来ないし、私よりもミハエル様をちゃんと見ててほしい。


「部屋に戻らなくていい。夕食までここに居ればいいだろ?」

「でも、……急に元に戻ったミハエル様のお身体に障りがあってはいけませんし……」


 何となく気不味い。さっきからミハエル様の顔が見れない。

 キスした事実だけでなく、今のミハエル様に抱きしめられている状況が気不味い。失言も重なって完全に居心地悪くなった。

 とりあえず一度ミハエル様から離れようとするがミハエル様の腕に阻まれる。


「俺の事を心配するならこのままここに居てくれ。それにベラは不用意過ぎる。足が治ってないのだから急に立ち上がるな」

「……はい」


 そこまで言われてしまっては何も言い返せない。大人しく俯いてじっとする。

 これからどうしよう。

 下手な噂が流れる前に早いとこ この邸から退散したいのに……。


「それで、イザベラ様、一体どうやってミハエル様の呪いを解いたのですか?」

「え……?」

「ミハエル様に聞いても全然教えてくれないのですよ。これでは今後また同じ事が起きた時に対処出来ませんから困るんですよ」

「……それは私もよく解らなくて……すみません」


 ミハエル様が言わないのであれば私も何も言えない。キスなのかもと思ってはいるが根拠は全くないのだから。


「そうですか? では何故イザベラ様は倒れていたのですか?お二人を部屋に残して20分程しか経ってないのに元に戻ったミハエル様が気を失ったイザベラ様を抱きかかえていたのですよ?」

「そう、なのですか? ……すみません、記憶に無くて」


 なんだかどこかの政治家みたいなこと言ってる自分に嫌気が差す。

 悪いことした理由(わけ)じゃないのに。

 それよりもさっき気になる事を言ってたな。


「あの、ミハエル様の犬化って"呪い"なのですか?」

「それは分かりません。けれど物理的にそれしか考えられないのです」

「……でも何で犬なのでしょう? 呪いをかけた方は犬が嫌いなのでしょうか?」

「さぁ。逆に犬好きかもしれませんし、そこは全く分かりません」

「……ですよね」


 魔法は無くても呪いは本当にあるようだ。

 そういえば魔女っておまじない的な事をするよね?ということは、ミハエル様の近くに魔女がいるってこと?


「イザベラ様。とりあえず、ミハエル様の様子がはっきりするまで、イザベラ様にはご協力をお願いしたいのですがお受け頂けますか?」

「え?もう治ったのではないのですか?」

「それはまだ分かりません。今回のようにまた犬に戻ってしまうかもしれませんし、もうしばらくは当家に滞在して頂」

「ええっ!」


 予想もしてなかった事を言われてつい声が大になる。私としては明日にでも帰りたいくらいなのに。


「何故驚く?当然だろう?俺を癒せるのはイザベラしかいない。それに第一イザベラはまだ体調が万全ではないだろ?家には逐一連絡を入れているのだから安心しろ」

「……あ、ありがとうございます」


 心配してくれてるのは嬉しいが、追々面倒に巻き込まれそうな気がして素直には喜べなかった。


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