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わたしは何?

 久しぶりに対面した両親は以前と変わらなかった。

 ミハエル様が緊張しつつもエリオン様に挨拶をする。


「ミハエル殿、久しいな。よく来てくれた」

「お招きありがとうございます殿下」

「ああ。ではこちらの御令嬢がミハエル殿の婚約者のイザベラ嬢か?」


 いきなりっ!?

 まだミハエル様をお父様方に紹介してないのにっ?!


「……お目にかかれて光栄ですエリオン殿下。こ、婚約者のイザベラ・ミゲルネです」


 言っちゃったよっ!

 だって仕方ないじゃん! 婚約者かと聞かれたのだから。

 もう、段取りとか何も無いから仕方ないじゃん!


「……婚約者?」

「まあっ! イザベラ! ミハエル様と婚約したの?」


 兄がポカンと呟くと母が祈るように手を組んで嬉しそうに訊ねた。

 慌ててミハエル様がお父様に向き直り胸に手を当て謝罪する。


「はい。事後報告になってしまい申し訳ありません。手紙でなく直接お会いして婚約した報告をしたかったのですが、なかなか予定が取れず報告が遅れてしまいました。」

「なんだ? まだミゲルネ殿にまだ報告していなかったのか?」

「……申し訳ありません」


 そりゃそうですよ。殿下がこんな暴挙に出たからミハエル様が悪者みたいになっちゃうんですっ。


「失礼ながらエリオン殿下。ミハエル様は私との婚約をお父様に連絡しようとしてくれました。それを私が止めたのです。お父様にお会いして直接報告したくてミハエル様にお願いしたのです。

今回、王都に参りましたのでお父様に連絡して婚約の報告しようと予定しておりました。なのに、まさかお父様達がこの茶会に招待されていたなんて……。」


 必死にミハエル様を庇ったら、結局はエリオン様のサプライズのせいだと言ってる自分がいた。


「なんと。俺のせいか? かの辺境伯を虜にさせたイザベラ嬢は社交界でも見掛けたことが無くて謎の令嬢と聞いていたからな。それで直接ミゲルネ殿を呼んだのだが、仇となってしまったようだな。」


 あれ?


「すまないミゲルネ殿。2人が筋を通そうとしていたのに私が横槍を入れてしまったようだ」

「エリオン様おやめ下さい。私共のような下級貴族にそのようなお言葉。確かに婚約と聞いて驚きましたが嬉しい話ですから何の問題ありません」


 ………もしかして、お父様とエリオン殿下は打ち合わせしたの? お父様はまるで知っていたかのような雰囲気なんだけど?

 あ。違う。

 お父様はミハエル様の婚約者候補にわたしがいた事を知っていたからだ。


 お母様も「まさかこんなご縁に恵まれるなんて」と婚約を喜んでくれている。


 学園を卒業してからお母様は何かある度にわたしに謝っていた。

 わたしから婚約破棄したのに、原因が向こうにあると知って、自分の都合で婚約をさせたからわたしが不幸になったと思い詰めていた。

 そんなお母様がとても嬉しそうに喜んでくれた。これが本当にミハエル様との2度目の婚約破棄をしていたらきっとわたしよりもお母様がショックを受けて寝込んでしまったかもしれない。

 ……お母様の心労を重ねなくて本当に良かった。


「……ほ、本当によろしいのですか? 俺はきちんと許しを得ずに身勝手に婚約してイザベラにもミゲルネ殿にも迷惑を」

「ミハエル殿。身勝手と言いますが、うちのイザベラは誰でもいいからと婚約するような娘ではありません。それよりも、貴族らしく振る舞うのが苦手な娘ですが本当によろしいのですか?」


 ミハエル様が卑屈になりかけたところをお父様が助けてくれたけど……こんな娘ですみません。


「わ、私にはイザベラしかいません。イザベラが婚約してくれなかったらきっと俺は生涯独身を貫いていることでしょう。他の女性と結婚なんて考えたことも無い。イザベラだから婚約したのです」


 ……………………恥ずかしいです。


「そこまでイザベラを慕って頂いてるなら何も言う事ありません。」


 そう言って笑みを見せたお父様の隣で何度もうんうんと頷くお母様。

 お兄様は……まだ状況を飲み込めていないみたい。ポカンと口を開いたまま動かない。


「あ、ありがとうございます! イザベラをきっと幸せにしますっ!」


 ………………嬉しいけど恥ずかしい。


「イザベラ、これでようやく婚約を公表出来る! 公表したらすぐに結婚しよう」


 感極まったミハエル様に抱きしめられて、不意に見つめられて漂いだす甘い雰囲気に警鐘音が鳴り響く。


「良かったなミハエル殿。これで堂々と婚約したと話せるだろう。ともあれ、皆ずっと立ったままだ。座って茶会を始めよう」


 エリオン様のナイスアシストでミハエル様の甘い雰囲気は消え去った。


「イザベラが結婚?そうしたらミハエル殿が俺の義弟?俺より義弟の方が年上で家格も上?マジで?」


 お兄様……心の声が思いっきり聞こえてます。

 ……ミハエル様、申し訳なさそうにしないで。

 エリオン様、笑ってお兄様に声をかけないで!ああ。ほらお兄様がまた固まっちゃった。


 そんな感じで茶会を楽しみだした頃、ラスボスもとい国王陛下が姿を現した。


「エリオン茶会はどうだ?」

「父上。ミゲルネ殿がミハエル殿とイザベラ嬢の婚約を承認したところです」

「そうか。それは良かった。ミハエル辺境伯の婚約を早く公表したかったのでな。エリオンの妃候補を決めるにしてもミハエル辺境伯程の者が独り身だと色々と話を進められなくて困っておったところだ」


 エリオン様が立ち上がって上座の席を譲ろうとしたが陛下はすぐ戻ると言って席に着くのを拒んだ。


「楽しい時間をすまないがミゲルネ殿、この後残って我を手伝ってはくれないか? 今はとても忙しくてな。猫の手も借りたい程だ。」

「私で良ければお手伝い致します。」

「そう言ってくれるのはありがたい。夫人、数日程ミゲルネ殿を借りるが平気か?」


 ……お父様が王城で手伝い? 一体何を手伝うのだろう?


「勿論です陛下。それでしたら私も帰って夫の着替えを準備致します」

「有り難い。ではフェンデル殿、父上を借りてる間 領地の方を頼むぞ」

「ひゃ、は、はいっ! お任せ下さい陛下!」

「では少し早いが我が馬車まで送ろう」


 え? もうお開き?


「へ? あ、はいっ! 王太子殿下、辺境伯殿、お先に失礼致しますっ」


 陛下に声をかけられ促された兄上は勢いよく立ち上がって挨拶をする。


「イザベラ、いつでもいいからまた顔を見せてね。ミハエル様、娘をお願い致します」


 お母様も声を掛けるとお兄様と共に陛下に攫われるようにこの場を去って行った。

 ふと視線を戻すと、正面に座るお父様と目が合った。


「イザベラ……本当に無事で良かった。身体は大丈夫か?」


 ああ。そうか。

 陛下はわたしの身体を気遣って何も知らないお母様とお兄様を引き受けてくださったのか。


「……大丈、夫です」


 今頃になって、皆の気遣いに感極まって泣きそうになる。


「ミゲルネ殿。申し訳ないが失礼します」


 突然立ち上がったミハエル様がお父様に一礼すると、わたしを抱き上げてから椅子に座り直した。


「イザベラ無理をするな」

「……ミハエル様」


 それだけで涙腺が緩んでしまい、泣き顔をお父様に見せまいとミハエル様の胸に顔を埋めた。


「すまないなイザベラ。シャルミアとフェンデルには賊に襲われ怪我をした事は話したが、その後に何度と倒れた事は話せなかった。2人に心配をかけたくなくてな」


 お父様の優しい声に頭を左右に振る。


「あり、がとう、お父、様」


 だからお母様もお兄様も以前と変わらないでいてくれた。お父様の心遣いに胸を打たれ、余分に涙が溢れてしまった。


「……茶が、冷めたか。カミラ、茶を……」

「殿下っ!!」


 突然、カミラの悲鳴に近い声が響く。驚いて顔をそちらに向ければ、カミラがエリオン様の傍に駆け寄っていた。

 エリオン様は、テーブルに肩肘をついて顔を隠すように下を向き荒い呼吸をしていた。


「毒ですっ! ミゲルネ様、解毒薬は?!」

「なんだと?!」


 カミラの慌てる声にお父様が驚愕する。


「イザベラ様っ!! お願いします! 早くエリオン様をっ!」


 ……え? わたし?


「早く治療を!お願いします!」


 必死のカミラを余所に、その場にいた誰もが驚き困惑した表情で固まったように動かない。


「イザベラ様ならきっと治せますっ! 早く! このままではエリオン様がっ!」


 わたしなら? 何を治せると言うの?

 わたしは何も治せたりしない…………。


「イザベラ様はヒーラーです! きっと治せます!」


 ヒーラー? 何それ? そんなのゲームじゃないと……?


 そう思った時には身体が動いていた。

 ミハエル様の膝から跳び降りてエリオン様に駆け寄る。紫がかった顔色のエリオン様は呼吸が出来ないのか咽がヒューヒュー言っている。

 一刻を争う状況にエリオン様の手を両手で握り祈りを込める。


(お願い! わたしがヒーラーならエリオン様の毒を今すぐ消してっ! エリオン様を助けてっ!)


 目を閉じて必死に願っていると再びカミラの声が聞こえた。


「イザベラ様、もう大丈夫です。エリオン様の毒が消えました。ありがとうございますイザベラ様」


 感謝の声に目を開けると涙汲むカミラが見えてわたしの手を握った。

 さっきまで握っていたはずのエリオン様の手を確認しようと視線を向けると、エリオン様は驚愕した表情でわたしを見ていた。さっきまでの怪しい呼吸はもうしていない。

 お父様、ミハエル様を見てもエリオン様と同様に驚いた表情で固まっている。


 カミラだけが涙汲む状況に頭がついていかない。

 助けを求めるようにミハエル様を見つめたが変わらぬ表情に寂しさが込み上がった。


「ミハエ……さま……」


 そんな目で見ないで―――――

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