鮮血の少女嗜好(ロリコン)
物凄いお久しぶりです。
久しぶりの投稿がこんなタイトルですみません。
ヴィクター君に連れられてやって来たのは、夜会会場の宮殿にあるエドワード様の部屋だった。
平民なら、一生どころか輪廻転生を繰り返したって訪れることの無い場所だ。
セドリックさんのお友達だけあって、殿下のお部屋の趣味は大変よろしゅうございます。男性らしい落ち着いた色合いで、じっくり読書して過ごしたい雰囲気だ。
だが、そんな雰囲気をしても、わたしはここから一刻も早く脱出したいと切に願っている真っ最中だ。
わたしとノエルが座るソファの真ん前には、いつの間にか式典服から盛装に着替えたエドワード様が、それはもうニコニコとした顔で鎮座されている。
「こうして並べてみると、同じ造作なのに個性豊かだね」
遠まわしに、同じ匠の作品でも傑作と駄作があるよ、と言われているように聞こえる。
いや、わたしの被害妄想では決してない。
魔力、知力、運動能力、女子力。その全てにおいて劣っていると、幼少のみぎりから事実を突き付けられてきたのもあるが、今隣にいる兄は、ニコッと笑い、何故かキラキラとした装飾効果が付いているように見える。
これは、俗にいう貴族仕様というやつだ。
「鳥肌が立つので、こっち見ないでください」
あ、全然猫被ってなかった。
「ちょ、ノエル。なんてことを……!」
怖い怖い怖い。なんで面と向かって王族に毒吐いてるの!
「ああ、ごめん。眼福だったから、ついね」
とりあえず、殿下の逆鱗には触れていない。命拾いしたな、ノエル。
「ならいいですけど、見るのは僕だけにしてください」
褒められたら即折れた。チョロいのか、兄よ。
あと、殿下の視線に怯えるわたしを庇って言ってるのは、わたしには分かるけど、「僕だけに」っていろいろと誤解を生むからやめて!
殿下も意味ありげに笑うのやめてください、ホント!
ほら、殿下の侍従の人が目剥いてるから。きっとあの人の中で、ドロドロの愛憎劇が繰り広げられちゃってるよ!?
「まあ、それはさておき」
殿下が何故かとても楽しそうに、そう切り出した。あんまりよくないけど、この不毛な空気から早く抜け出したいので、話題の転換は大切だ。
「今日のパーティではいろんな人に声を掛けられるけど、知らない人の話にホイホイ乗ってついて行っちゃダメだからね、ノア」
まさかの幼児扱い。それもわたしだけ。
そして、何故かノエルも同意するかのように深く頷いている。解せぬ。
「パーティー中は、多分イライアスがついていると思うけど、ノエルやイライアスから引き離そうとする人間には、特に注意してね。パクッと食べられちゃうかもしれないから」
どうやら貴族というのは魑魅魍魎、魔物の類が紛れ込んでいるらしい。翌日に、わたしの惨殺体発見とかの新聞記事になりたくない。
わたしは蒼褪めた顔でコクンコクンと頷いた。
「それと、一人私の親族を紹介しておくから。彼とは懇意にしておいて損はないよ」
殿下の親族って、派閥争いとかで殺伐としたイメージしかないけど、殿下が手放しで信頼する人っていったいどんな人なのか、少し興味が湧いた。
「君が所属しているコンラッド師団の団長だよ」
わたしの興味を悟ったのか、エドワード様が説明してくれた。
それを聞いて、ノエルが僅かに腰を浮かせた。どうやらノエルも気になったようだ。確かコンラッド師団長は、エドワード様の母君の従弟だった気がする。近くはないけど、確かに親族だ。
「ノエル。団長のこと知ってるの?」
ノエルは強い人間が好きだ。隣に座っていて、ノエルのワクワクが伝わってきたので、相当お強い人だと分かる。
そういえば以前、師団長はアレクさんよりも強くて、この国最強の武人であると聞いた気がする。納得。
わたしの問いに、ノエルがコクンと頷く。何だかそれが幼くて可愛い。
「ああ、あの伝説の『鮮血の少女嗜好』と話せるなんて、滅多にない機会だ。嬉しい」
「……え?……なんて?」
わたしの空耳だろうか? 英雄に憧れ口調から繰り出されるとは思えない単語が飛び出したような気がする。
いや、聞き違いだ。そうに違いない。
「ははは、ノエルは団長が気になるかい? 英雄『鮮血の少女嗜好』が嫌いな男子はいないからね」
いや、聞き違いじゃなかった!
『英雄』と『少女嗜好』って同列でいいんですか!?
「叔父上は気さくな人だから、いろいろ聞くといいよ」
はい。もう、なんか、いろいろと聞きたいです。『少女嗜好』って何ですかって。
いや、本人には聞けないよ。
もしかしたら、わたしが知らない間に、『少女嗜好』は特殊性癖ではなくて褒め言葉になったのかもしれない。きっとそうだ。
わたしは気分を入れ替えて話題を振った。
「殿下は、コンラッド師団長を叔父上とお呼びになられるんですね」
「そうだね。本当は母の従弟だけど、昔『トーリアの狂犬姫』と呼ばれた母のお目付け役で、姉弟みたいに育ったから。私にとっては叔父も同然なんだ」
……待って。王妃様の名前もおかしくない?
非常に行動的な女性だとは聞いていたけど、狂犬って、姫に付ける修飾語じゃないよね。
話はわたしが意図した方向と逆方向に流れていく。
それに、またしてもノエルが食いついた。
「あの、国境侵犯した隣国の先兵に激怒して、たった一小隊で突っ込んだ狂犬姫を助けるために、単身で百人の敵兵を退けたって逸話ですね」
突っ込みが追い付かない。姫が何で戦線に突っ込むの?で、それを師団長が単身で退けた?
ああ、よくある王族とかの偉大さをでっち上げるために、逸話を誇張し過ぎて化け物みたいになるやつか。王妃様も師団長も、そんな民衆心理の犠牲になったんだな。
「そうだね。実際は、母は護衛五人と突っ込んで、敵兵は百五十くらいいたらしいよ」
実話だったー!! しかも、誇張どころか随分控えめにされてた!
ノエルは殿下の話を聞いて、何だか目がキラキラしている。……楽しそうで良かったね。
まあ、師団長が苦労人ということは分かったよ。十分に。
「どうしたの、ノア。大人しいね」
ふと黙り込んだわたしに、ノエルが尋ねてくる。
「うん。……なんか、お腹いっぱい」
空笑いするわたしに、ノエルは「何を拾い食いしたの?」と怪訝そうに言うのも、もう言い返す気力もなかった。
心の中の突っ込みだけで疲弊したわたしに、殿下が「まだパーティも始まってないのに、大丈夫?」とニヤニヤしながら言ってくるのが気に障る。
まだパーティがあったんだ。
そうだ、空気になろう。壁の染みのような、ひっそりと誰にも気付かれない会場の風景の一部になろう。
誰か、このパーティが終わった未来へ連れて行ってくれないかなぁ、と、わたしはひっそりと現実逃避をするのだった。
このタイトルは別作の「セクハラ貴公子」の次に好きなタイトルです。
次は、パーティいかなあかんねん、ですが、作者自身もどうなるか分かりません。
不定期投稿かと思いますが、また閲覧よろしくお願いします。




