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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第5章 二人の王子
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式典 1

 リリエンソールの王都ウルヴァートンは、朝から雲一つ無い快晴だった。

 王都を南北に貫く大通りでは、今朝到着した使節団を歓迎するパレードが行われていた。


 北門から入った一行は、王太子に出迎えられ、約二キロの距離をゆっくり練り歩いた後、昼前に王城へ辿り着いたらしい。

 花火が打ちあがり、大通りには滅多に見られない王族を見ようと、沿道には人が群れを成し、それには街の衛兵だけでなく騎士団も多く駆り出されたようだ。


 寮では、朝というよりも深夜から騎士さんたちが一斉に慌ただしく出かけて行った。わたしはそれを陰から見送ってから、数時間寝なおしておいた。わたしもノエルも休みをもらっている。

 何故なら今日は、午後の式典から夜会まで、拒否権の無い招集が掛かったからだ。


 わたしはいつもより一時間くらい遅く起きて身支度を整えると、その後にノエルが起き出した。ノエルの身支度を待ってから二人で早めの昼食を食べて、例のあの盛装に着替えた。

 最高級の肌触りのはずなのに、なんでこんなに気持ちがザワザワするのだろう。


 最終的な身だしなみの確認を行った後、兵団庁舎から出ている王城行きの馬車に乗って、わたしとノエルは主に殿下と言われる魔物の生息地へ足を踏み入れた。


 既に人はちらほら集まっていて、わたしたちは入り口の兵士と文官さんへ招待状を見せると、わたしたちの顔を二度見された後、広間へ通された。双子が珍しいのかなぁ。


 広間は、わたしがルナと契約の儀を行った謁見の間の数倍はあり、多少密になれば千は入れるんじゃないかと思われる。ちなみに、夜会が行われる会場はここよりももっと広いらしい。まあ、ダンスを踊るんだから広くないといけないんだろうけど。


 広間は、中央に横幅が三メートルくらいの赤い絨毯が、入り口から玉座の手前の階段まで敷かれていて、その両脇に五人掛けの長椅子が何十列か並んでいた。わたしたちが指定された席は、左側の結構前の方の席だ。ええと、前の方って偉い人が座るんじゃないの?

 上位貴族の侯爵以上の身分の人と大臣は、必ず後から入って来ることになっているけど、その他の人達は普通に来られる時間に勝手に来ていいらしい。

 本当なら身分の順に入場するものらしいけど、それは夜会の時にやるらしくて、とにかくこの式典は陛下への帰参の報告と使節団の解任を迅速にやりたいようだ。


 わたしはガチガチに緊張しながら待っているというのに、隣のノエルはドカッと椅子に座ってのんびりと構えている。不遜な態度にしか思えない姿勢でも、何故かノエルは自信満々でそれが当たり前の姿勢のように見える。


 わたしはそんなノエルの強心臓にあやかろうと、そっと上着の裾を掴んでいた。

「ノア。皺になるから」

「……待って。わたしの心の平安の犠牲になってください」

 わたしから裾と取り上げようとするノエルから必死に裾を取り返す。ノエルがため息をつきながらそれを黙認してくれたようで、また同じ姿勢に戻ってしまった。


「そろそろかな」

 わたしたちより後ろの席がぼちぼち埋まり出した頃、ポソッとノエルが呟いて後ろの席を振り返った。わたしもつられてノエルと同じ方向を見た。


 赤い絨毯の向こう側で見知った煌めく髪色を見つけた。魔術師団の青を基調とした制服と、騎士団よりも質素で飾り程度の式典用の軽鎧を付けたその姿は、知り合いのはずなのに別人のように見える。

 不本意だが、ちょっとかっこいいセドリックさんだ。


 セドリックさんはわたしたちに気付くと、こちらに近寄って来た。警備の方に駆り出されると言っていたから不思議ではないけど、持ち場とか離れてない? 大丈夫?


 わたしたちは立ち上がってセドリックさんに会釈する。

「やあ。相変わらずそれは殿下のアレかな? めちゃくちゃ目立ってるよ」

 挨拶もそこそこに嫌なことを思い出させる。わたしは曖昧に笑っておく。

 本当に殿下を想像の中で何度もけちょんけちょんにするくらい、この格好は目立っております。気にしないようにしていたけど、後ろの方の席からチクチクと視線が刺さって来るのを感じるもの。


 分かってはいたけれど、これは遠まわしなグリフォンと契約したわたしのお披露目なのだ。隠しすぎて、業を煮やした怖い人たちに変な接触をされないように、姿だけでも見せておけというのだと思う。

 実際、変な秘密のお茶会のお誘いのお手紙とかがわたしに届くようになったが、ほとんどはイライアスさんの検閲と、春になってからはノエルが全て廃棄していたから、実数は把握していないけれど、きっと直接わたしを見たいと思う貴族の人が相当数いるのだろうと思う。

 なので、これは私自身の為でもあって、この視線は甘んじて受け入れなければならない。


 引き攣るわたしの顔を見て、セドリックさんはちょっとだけ苦笑すると、ふと何かに気付いたようで突然その笑みを引っ込めた。僅かに眉を寄せている。

「悪い。警備の途中なんだ。そろそろ失礼するよ」

 そう言って優雅な笑みを浮かべた。先ほど一瞬浮かべた表情が幻だったかと思えるほどの変わり身だった。


 そのまま踵を返そうとするセドリックさんだったが、その手をノエルが掴んだ。

「あなたは、こちら側の席には座らないのか?」

 あまりに脈絡のないノエルの行動に、わたしは咄嗟に何もできずにそれを聞いていた。


 ノエルがどの席を指して言っているのかは分からないが、それを聞いたセドリックさんは、仮面かと思うほど表情を消した。だけど、その表情もすぐに笑顔にすり替わる。

 わたしでも分かる、作られた笑顔だった。


「俺は兵団の警備で来ているんだ。来賓席には座る訳ないだろう」

 まるで用意されていたような言葉でセドリックさんが言うと、ノエルは小さなため息をついて、「そう」とだけ言ってセドリックさんの手を離した。


 セドリックさんは、するりとノエルの手から逃れると、一つ手を振ってその場を離れた。

 心なしか、その背中が苛立っているように見えた。


「ノエル。どういうこと?」

 ノエルが、突然友達意識が芽生えて、セドリックさんをこの席に座るように誘ったのではないのは確かだ。だったら何故あんな事を言ったのか。

 ただでさえわたしたちは目立っていたのだけれど、先ほどのことで注目はセドリックさんにも移ったように見えた。それはどんな意味を持つのだろうか。


「彼への抑止力。今はまだ、これ以上は話せない」

 小さな呟きは、きっとわたしにしか聞こえなかったと思われる。

 ちらりと視線を送った先に、わたしもそれとなく視線をやると、そこには見慣れたプラチナブロンドの髪が見えた。でもそれはセドリックさんではなくて、壮年の男性とわたしたちとそれほど年齢の変わらない若い男性のものだった。

 その方向は、セドリックさんが表情を変えた時に見ていた方向だ。


「じゃあ、いつかはちゃんと話してくれる?」

「うん。……必ず。そう遠くないと思うけど」

 多分ノエルは、わたしへの隠し事をたくさん持っている。

 だけど嘘は吐かない。これは絶対だ。

 だから、今は聞くべき時じゃないと思った。


 ノエルの隠し事は、わたしを軽んじている訳では無いから、ちゃんと待つことが出来る。

 わたしは、セドリックさんについて知らないことがあることを知っておく。多分、今できることはそれだけだろう。

 そしてそれは、きっとセドリックさん本人は、絶対に語らないことだと分かる。それを直接訪ねる権利も、わたしには無い。


 以前、騎士団に復帰する時にイライアスさんが、胸の内を言っていた。

 呪いを解く前に、自分は騎士であるべきか、侯爵家の人間としてあるべきかを選び間違えそうになっていた、と。アレクさんやセドリックさんとは違って、自由に選ぶことが出来る立場だったのに、と自嘲するようにイライアスさんが話しているのを聞いたのだ。


 それ以上のことは失言と思ったのか、イライアスさんに言葉を濁された。アレクさんの小さい頃のことは、少しイライアスさんから聞いたことがあったけど、きっとセドリックさんのこともそういうことだと思う。


 その時に思ったのは、アレクさんもセドリックさんも、わたしが目にする自分の意思をしっかり持っている二人の姿は、ほんの表面だけに過ぎないと。

 何も選ぶことの出来ない二人の立場とはいったいどういうものなのか、わたしには想像することも出来なかった。


 わたしは、ノエルの上着の裾を握っていた手に、無意識に力が入っていたことに気付いた。

 それをノエルも感じたのか、わたしが握った裾を見た。


「……握ってもいいけど、手汗を拭いてからにしてね」

 わたしの湿った掌で握られたノエルの裾は、それは深いしわが刻まれていたのだった。


 ごめん、ノエル。

セドリックに何やら影が……。

そしてヒロインは手汗で兄に引かれる……。


このサブタイトルは3話、1日1話ずつ投稿予定です。

また明日閲覧よろしくお願いします。

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