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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第5章 二人の王子
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ノエルの約束

久しぶりの投稿です。

 ノエルとサイラスは、この春からそれぞれ魔術師団と騎士団に所属することになったようだ。


 ノエルは、卒業後ウェーンクライスの魔術師団を指揮するはずだったのだが、わたしの従魔契約後に王都の魔術師団への編入を目論んだらしい。


 恐ろしいことに、わたしの「家出」後すぐに、わたしの所在はバレていたらしいけど、母がすぐにでも吹っ飛んで行きそうなノエルを抑えていたようだ。

 わたしが王都に定住するかも分からない状況だったけど、従魔契約で王都に縛られることが分かったので、ようやくわたしの元に行くことを許可したという。


 もうその時期だと、魔術師団の新人の採用試験は終わっていたはずだが、何をどうしたのか、セドリックさんも知らないうちに魔術師団入りをもぎ取ったらしい。

 セドリックさんがある日、げっそりとした表情で帰って来たので声を掛けたら、国王陛下の一声で何やらねじ込まれたと愚痴っていた。

 今は、王都の領内で魔物の被害が聞こえ始まっているので、即戦力のノエルが入ったことは非常に喜ばしい事なんだそうだが。

 どうやら、評判は悪くないことだけは一安心だ。


 それにしても、王家とうちって、どこかで繋がっていたのか……。そういえば陛下は、両親のこと知ってるって言ってたしなぁ。本当に勘弁してほしい。


 そしてサイラスだが、こちらは正当な手続きをもって騎士団入りしていた。

 騎士団と言っても、なんとイライアスさんの後釜で、文官としての採用らしい。そういえば、とても優秀な文官を捕まえた、とイライアスさんが言ってたっけ。それでも、サイラスは領地経営の補佐をすると思っていたので、わたしにとっては驚きもいい所だけれど。


 そして、ノエルとサイラスがやって来てから、寮はちょっとザワザワしていた。

 サイラスは、伯爵家の次男であるから四階を宛がわれるのかと思ったけど、辞退して三階にいる。何でも四階は慣例で、伯爵以上の家柄で、隊長格の人が入るそうだ。

 ちなみに今は、三週間前にヘイデンさんがめでたく結婚して退寮し、アレクさんとイライアスさんしか入っておらず、一部屋は何故か誰も使ってはいけない部屋らしい。二人とも身分とかあまり重要視していないけど、いろいろとしがらみがあってその部屋を使っているようだ。


 あれ? でもセドリックさんは確か伯爵家の出で、魔術師団の副団長だから、実質アレクさんやイライアスさんよりも地位は高いはず。でも、四階にいてもいいのに、三階の角部屋にいる。

 本人が気に入ればいいようだから、別に必ず四階に入らなくちゃいけないことはないけど。

 まあ、そういうこともあるか。


 で、問題はノエルだ。

 身分は平民だけど、下手な爵位を持つ家よりも財力も魔術師としての地位もある「アシュベリー」をどう扱ったらいいか、王宮では相当揉めたらしい。魔術師団でも陛下の覚えめでたいノエルに、少なくとも三階の部屋を宛がおうとしたのだけど……。


「は? 何故僕が寮室に入らなくてはいけないんだ? ノアと一緒に決まってるだろう!」

 と言って、管理人室の余っている部屋に入ってしまった。

 管理人室は、家族で入ることもあるから、そういう意味ではまあ間違いではない。

 だけど、一応体裁ってあるじゃない!?


「三階の部屋と同じ使用料を払えばいいだろう」

 と言って、即金で数年分の使用料を納めてしまったのだ。

 傲慢この上ない態度だけど、やっていることは、多額のお金を払って質素な部屋に入るのだから、誰も怒るに怒れない。それで本人は楽しそうにしているし、わたしを拘束する時間が長いだけで誰も迷惑を被っていないのだから、もう好きにしてくれという気分のようだ。


 そういえば、ノエルに何故か寮の人たちと一対一で話をするのは禁止されてしまった。特に、アレクさん、セドリックさん、イライアスさん、サイラスと話をしていると、どこからともなくやって来ては邪魔をするのだった。


 アレクさんの睡眠補助だけは、ノエルも渋い顔をしつつ容認してくれたが、あの日以来、アレクさんとの距離が近くなったように思えたので、少し話す機会が減って残念な気がする。


 サイラスとは、イライアスさんの後釜でここの管理で打ち合わせることもあるのに、兵団の事務室以外で話しているといい顔をしなかった。自分はサイラスとかなり仲良くしているのにだ。

 そんな失礼を連発する兄を、アレクさんとサイラスは「気にしてない」と言って、変わらず接してくれている。本当に出来た人たちだよ。


 セドリックさんとイライアスさんは、たまに噛みつくノエルと何かの勝負をしている時があって、喧嘩しているようでも別の意味で打ち解けているように見える。

 何か、男の人同士って、そういうとこあって羨ましい。


 結局ノエルは、傍若無人でも裏表もないし、雑用でも強引な飲み会の誘いでも断らないから、すぐに魔術師団や寮の人たちと仲良くなったように思う。


 一度仕事で魔術師団の庁舎へお使いに行った時、寮にいる魔術師の人にノエルのことを教えてもらった。自分たちの仕事を押しつけて新人いびりをしようとしていた先輩に「こんな雑用、僕たちは片手間でできますが。無能な先輩の面倒を見るのも僕たち新人の仕事なので任せてください!」と、同期を庇いながら、逆に先輩達をイビっていた。

 仕事は早いし完璧なうえ、こっそり他の同期の手助けもし、言われていない上級魔術師級の仕事も片付けての発言だったため、誰もノエルに口出しできなくなったようだ。

 それで、どうやら新人からはちょっと慕われてるらしい。相変わらずだなぁ。


 そんなでも何故か寮のみんなから、ノエルは大浴場だけは使わないでくれと懇願されていた。

 それを垣間見てしまったわたしは、ノエルが仲間外れにされているのでは心配したのだけれど、ノエルが大きなため息と共に、「回り回ってノアの為だから」と言ってわたしの肩を叩いてみんなを擁護していた。さっぱり意味不明だ。


 それ以外は特に大きな事件も無く、思ったよりも順調な日々を送っているのでは、と思う。


 ちなみに、ルナはアレクさんほどべったりじゃないけど、ノエルには結構懐いていた。わたしと兄妹だと分かっているようだ。ノエルもルナをとても可愛がっていて、たまにノエルの部屋で一緒に寝ていることがある。

 一度夜中に、ランプの消し忘れに気付いて、ノエルの部屋に入った時、一緒に寝ているルナとノエルを見て、「二人とも天使か」と思ったものだ。

 危うく絵師の手配をしそうになった自分を必死に抑えたのは記憶に新しい。



 そんな穏やかな日常だったけど、いよいよ第一王妃様の使節団が五日後に帰って来るため、今まで以上にどこもかしこも忙しくなった。

 帰国の準備もそうだけど、そんな中でも魔物の討伐も休むことは出来なくて、珍しくノエルでさえへとへとになって討伐から帰って来た日だった。


 ご飯も食べてお風呂も入って、後は寝るだけとなって、ベッドで眠るルナを撫でながら本を読んでいた時に、コンコンと寝室をノックする音がして、すぐにノエルの声が聞こえた。

 わたしはノエルを部屋に招き入れると、ノエルはわたしをベッドに座らせた。そして、ルナを起こさないように避けると、コロンと寝転がってわたしの膝に頭を置いた。女の子に戻っていたので、多分寝心地は悪くないと思うけど、いつもより甘えん坊なノエルに驚く。


「どうしたの。今日は疲れたでしょ? 眠れないの?」

 最初横を向いていたノエルの髪を梳きながら尋ねると、ノエルは仰向けになってわたしを見た。


「ノア。女の子に戻りたい?」

「え?」

 わたしと同じ茶色の瞳が見上げてくる。

 ノエルはいつだって自信に溢れていて、いつだって迷いが無かった。それが今、わたしを見つめる瞳が揺れていた。


「戻れるの?」

 逆に問い直したわたしに、ノエルは口を引き結んだ。自分で言った言葉を後悔しているような、そんな表情だった。

「完全じゃないけど、戻れる」


 ノエルが言うのには、形骸化した呪いを有効にしている力を抑える魔道具が出来たとのこと。それを身に着けている間は、以前オルグレン団長が言っていたように、男性化を促している太陽の力を無効化して、無性別への変化を抑えられるらしい。


「それをすぐ渡さなかったのは、わたしに不利益があるんだよね?」

 そうでなかったら、ノエルはすぐにわたしを女の子に戻しただろう。そうしないのは、女の子に戻ることで、わたしにとって良くないことがあるから。


「王都に来るまでは、何が何でもノアを元に戻せばいいと思ってたんだ。でも、ここに来て考えが変わった」

 ノエルが手を伸ばしてわたしの頬を撫でる。


「ノアの周りには、力を持った人間がたくさん居る。居すぎるくらいに。ノアが女の子としてその中の誰かの手を取ったら、この国の勢力図が変わってしまうくらいに、ノアは権力の中枢を担う人間に囲まれているんだ」

 初めてノエルは、わたしに権力に関わる話をしている。


 これまでウェーンクライスにいた頃は、わたしを絶対にそういう話に近付けなかった。真綿で包むように、嫌なこと全てから守ってくれていた。

 でも今は、わたしを庇護の対象ではなく、対等な立場で話をしてくれている。


「うん。何となく分かるよ」

 今の中途半端な身体であることで守られているものがある。

 わたしが頷くと、ノエルが一度目を大きく見開いて、そしてその目を細めた。


「そんなのには関わらせたくないけど、僕はノアが幸せじゃなかったら嫌だ。だから、ノアが何を選んでも、必ず僕が、ノアが幸せになれるようにしてみせるから」

「うん。ありがとう」

 頬を覆うノエルのもう少年とは言えない大きな手に、自分の少し小さな手を重ねた。


 ノエルは絶対に約束を違えない。だからわたしも自分の半身に告げる。

「でも、わたしの幸せには、ノエルの幸せも必要なんだからね」

 私の言葉に、ノエルが破顔した。

「もちろん、そんなの当たり前だ」

 強気に戻ったノエルの言葉に、わたしはクスクスと笑う。それを見てノエルも笑う。


 ノエルがいれば、何でも大丈夫なような気がしてくるから不思議だ。

 わたしは笑いの余韻に身を任せていた。


「でも……」

 アレ? 何か、ほっぺが痛い。

「ノエル……、い、痛いよ?」

 ノエルが掌を当ていた頬が、びよーんと伸ばされる。


「ノアに、色恋沙汰は百年早い!!」

「ええええええ!」


 わたし百年後、生きてないよね!? いつ恋していいの!?

「僕がいいと言うまでだな!」


 どこまで行っても、やっぱりノエルは理不尽の塊だった。

目的のためには手段を選ばない男、ノエル。(90%ノアのこと)

同性からお風呂を断られる男、ノエル。(70%ノアのせい)

妹の恋愛を邪魔する男、ノエル。(100%自分のため)


アレクが前回頑張ったのに、ノアにはあまり爪痕を残せてないようで不憫。

ノエルの妨害で、出る杭は打たれております。


さて、体調不良と遅筆でなかなかお話が進みませんが、少しずつ書いております。

ブクマ、評価、ありがとうございます。

皆さんの閲覧で元気をもらっております。

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