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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第5章 二人の王子
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アレクシスの優しさ 1

お買い物に出ます。

 騎士団の庁舎前から馬車に乗り、わたしたちは街へ繰り出した。

 コトコトと馬車に十分ほど揺られ、一度乗り換えてから商業街の方へ赴く。騎士団から三十分も掛からずに賑やかな区画に出た。


 王都の街中をアレクさんと歩くのは、ここへ来た最初の日以来だ。あの時はまだ冬の最中で、みんな暗い色味の重いコートを着ていたが、今は春の訪れに合わせて華やかな色とりどりの服が並んで、本当に花が咲いているようだった。


 少し前を行くアレクさんは、相変わらず人並みから頭半個分くらいはみ出ているが、以前は人波が割れて道を譲られるようだったけど、今は道行く人の目を以前とは別の意味で惹いている。特に若いお嬢さんたちの目が、素通り出来ずにアレクさんを追っているのが面白い。

 わたしはまるで自分のことのように、「うちの隊長どうよ」と自慢したくなる。


 少し歩いて屋台街に出る。わたしが畏まった店ではなくて、こういうざっくばらんな場所で食べたいと言ったからだ。

 前回ヴィクター君と来た時に大変な目に遭った話をすると、いっそ食べてみたいとアレクさんは言ったが、わたしは全力で止めました。あれはあれで楽しいけど、今日はもっといろんな事をやってみたかった。


 屋台街は、朝の早い市場へ来る人達が利用するので、まだ八時前だったけどすごい賑わいだった。串に刺さったお肉を焼くお店や、パンにいろんなものを挟むお店、甘い物を売っているお店、飲み物に特化したお店など、本当に目移りするほどどの店のものも美味しそうだった。


 今回はベンチには座らずに、歩き食べをしようということになった。ベンチに座ってのんびりするのもいいけど、やっぱり数をこなすには歩きながら食べるのが一番だ。

 ちなみに、わたしとヴィクター君が水浴びをした噴水は、水道の故障か分からないが、あの日以降、噴水の水は止まっていたんだって聞いた。


 お肉や魚介類や主食を何種類か買い食いをして、時々二人で分け合ったり交換したりしながら朝食を終えた。

 ちょっと食べ過ぎた感もあるけど、残しそうになったものはアレクさんが食べてくれた。やっぱり大きな体を維持するのには、それなりに量も食べるんだよね。


 朝食を終えると、今度はどこへ行こうかと相談する。

 一応、馬車でわたしは今日の目的地を告げていた。今日はルナのリボンを買いたいとお願いした。

 ルナを王宮へ連れて行くようになって、女官さんやメイドさんが髪を結んでいるのを見て、最近ルナがリボンに興味を持ち始めたのだ。やっぱり女の子だね。

 試しにイライアスさんの贈物を包んでいたリボンをあげるととても喜んでいたけど、寝ぼけてむしゃむしゃしてしまい、かなり落ち込んでいたのだ。

 そんな訳でリボンが買えるお店が最終目的地となる。


 ただ、この二人で女の子用の可愛い雑貨屋に行くのはかなりの勇気がいるため、仕立て屋であればそういった服飾小物も取り扱っているだろうと、男女ともに扱っている仕立て屋を何軒か回ることにしたのだ。


 もういろんなお店は空いている時間だけど、すぐに目的地に行ってしまうのが勿体ないと思った。それで次に回る場所を尋ねたのだけれど、アレクさんも同じように思ってくれているのか、他にも見て回ってから目的地へ行こうと言ってくれた。


 食べ物の市を通り過ぎていくつか店を見て歩くと、工業街の入り口に差し掛かった。ふと思い出したように、アレクさんが立ち止まった。

「今日、時間があれば寄ろうと思っていたんだが、研ぎに出した短剣を取りに行ってもいいだろうか」

 聞けばここからすぐ近くのようだ。朝食を急きょ取ることになったから、ちょうど近くを通ることになったとのことで、わたしは断ることなど考えもしなかった。

 一流の軍人であるアレクさんの行きつけのお店ならぜひ行ってみたい。


 本当に少しだけ歩くと、すぐに目的地に着いた。剣だけでなく、旅装なども整えられる道具屋のようだった。厳つい扉は少し気合いを入れないと開きそうにもなかったが、アレクさんが軽く押すと簡単に開いた。……非力だ。少し鍛えようかな。


 中は扉よりもずっと間口が広く、丁寧に並べられた道具たちがキラキラして見える。わたしはその様子にきょろきょろするが、アレクさんは迷いなく奥へ進んでいった。

 こういうお店に来るのは、冒険者のおっちゃんと最後に旅に出て以来じゃないかな。


 王都へ来るときの騒動で、身に着けていた剣帯が少し緩んできていたので、ここで新調するのもいいかもしれない、と思っていると、ふと目に留まるものがあった。

 革紐に付けられた、とろりとした深みのある青い石だった。


 旅の守り石で、青い石は水の加護があると言われていて、天候や飲み水に困らないように持つ旅人が多い石だ。

 暗い場所では瑠璃っぽく見えたけど、手に取ると鮮やかになった。店先に無造作に置かれているから高価なものではないと思うが、青玉かと思うほど綺麗な青だった。

 まるで、アレクさんの瞳みたいだ。


「ノア」

「わっ」

 突然声を掛けられてびっくりした。本物のアレクさんが少し離れた場所から呼んだようだった。見ると、カウンターでお店の人とやり取りをしているようだった。


「もう終わりですか?」

「もう少しだ」

「じゃ、じゃあ、先に外に出ています」

 思わず変な態度を取ってしまったが、何故か分からないけどドキドキした。アレクさんの心配げな声から察するに、よほど変な顔でもしていたのだろう。外に出て、やけに火照る頬を扇いで冷ました。


 ちょっと、あの石、欲しかったかも……。

 そう思うが、アレクさんがいる前で買う勇気は、何故か持てなかった。


 それほど待たずに、アレクさんは用事を済ませて表に出てきた。

「待たせたな」

「いえ、全然」

 わたしが首を振ると、アレクさんはふと笑ってわたしの頭に手を置いて、元来た道を戻るように促した。ここから先の工業街は特に店舗もなく、業者か特注したい人とかくらいしか行かないそうだ。


 また人混みのある方へ戻りしばらく歩くと、不意にわたしのズボンがくいくいと引かれた。立ち止まって下の方を見ると、三歳くらいの男の子が、わたしの服を握っていた。

 顔は涙と鼻水でべとべとになっていて、不安そうな大きな青い目が見上げてきた。


「おかあたん、じゃない」

 どうやら迷子らしい。

 わたしのことを母親だと思ってしがみついたようだが、違うことが分かって泣きそうになってしまった。男の子の髪の色がわたしとそっくりなので、おそらくこの子のお母さんもこんな色をしているのだろう。

 まあ、珍しい色でもないけど。


 わたしはこれほど小さい子供と接したことがあまりないから、正直戸惑った。

 王都に来る時に一緒だったアビーちゃんは、この子よりもずっと大きかったしかなりおませだったので、あまり小さい子という印象はなかった。

 取りあえずしゃがんで目線を合わせると、男の子は口をギュッと結んでいたけど、涙は我慢してくれたようだ。


「迷子か?」

「……そうみたいです」

 戸惑っていると、わたしの様子に気付いたアレクさんが、人並みに飲まれないように道の端の方へ連れて行ってくれた。突然視界に現れた大きな男の人に、男の子はびっくりしてまたべそべそしてしまったけど、アレクさんが頭を撫でるときょとんとして泣き止んだ。


「さすが男の子だ」

 そう言って褒めると、男の子は少し得意げな顔になった。その子をひょいと抱き上げて左腕に乗せると、男の子はようやく緊張を解いてくれたようだ。

 なんか、アレクさんって小さい子の扱いに慣れてる?


 鼻水が出ている顔が可哀想なので、わたしは持っていたハンカチで男の子の顔を拭おうとしたら、アレクさんが身体を屈めてわたしの手の届きやすい所に男の子を下げてくれた。わたしが男の子の顔を拭い終わると、そのハンカチをスッと取って、自分の上着のポケットに入れてしまった。

 ……紳士。


 いや、アレクさんに感動している場合じゃなかった。わたしは男の子に尋ねる。

「お名前は?」

「てお」

「そう、テオ君か。お母さんと一緒に来たの?」

 泣かないように頑張って頷くテオ君に、わたしも「えらいえらい」と言って両方の頬っぺたを撫でると、ようやくテオ君は笑ってくれた。


 テオ君はそれからいっぱいおしゃべりをしてくれて、彼が言うには、「お母さんが迷子になった」らしい。それから、はぐれてからまだそれほど時間は経っていないようだった。テオ君は、お母さんが可哀想だから一緒に探してと言う。

 わたしとアレクさんは顔を見合わせて笑った。


 それがちょっとテオ君にはご立腹だったようだけど、アレクさんがテオ君を肩車すると、迷子であることを忘れてキャッキャと喜んだ。大人でもその目線はなかなか体験できるものではないので、男の子なら相当嬉しいのだろう。

 これなら目立つから、きっとお母さんもすぐに気付いてくれるはずだ。


「ちゃんと探すんだぞ」

「うん!」

 肩の上ではしゃがれても嫌な顔一つせずに、ちゃんとテオ君に注意力を持たせた。子供の扱いが上手いと言うより、もしかして一人や二人育て上げてる?

 そんなアレクさんがいいお父さんに見えてきて、ちょっとわたしの乙女心がキュンとなった。


 程なくして、一人の女の人がテオ君の名前を読んで駆け寄ってきた。アレクさんはそれを見てテオ君を肩から下すと、テオ君は一目散にお母さんの元へ駆けて行った。お母さんは駆けてきたテオ君をしっかりと抱き締めると、振り返ってこちらを指さすテオ君に釣られてこちらを見る。


 わたしより何歳か年上だけど、とても女性らしい綺麗な人で、肩にかけたスカーフがわたしのと同じ色だった。それに、わたしと似た亜麻色の髪を一つに緩く結んで横に流していたから、確かに下から見たら、わたしもお母さんと同じような髪形に見えたかもしれない。

 体型はあまり似ていない(今は少年寄りだからね!)けど、テオ君のお母さんとわたしはパッと見で似ているかもしれない。


 そのお母さんは、テオ君を抱っこしながらこちらに近付いてきた。

「息子が大変お世話になったようで、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げたけど、顔を上げた時、お母さんの表情が固まった。

 その視線の先にはアレクさんがいる。


「……アレクシス様」

 思わずといった感じで、アレクさんの名前を呟いた。

 それを見たアレクさんは最初訝し気な表情をしていたが、何かに思い当たったのか僅かに目を大きくした。


「アデラか」

「はい。……お久しぶりでございます」

 アデラさんと呼ばれた女性が、アレクさんに笑いかけながらそう言った。


 アデラさんの笑みは、何故か傍で見ているわたしの胸が痛くなるほど、切ないものだった。

アレクシスに女性の影?

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