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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第5章 二人の王子
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二人でのお出かけ

お出かけする日の朝のお話です。

本編ですが、ちょっと挿話ぽいかも。

 アレクさんとの約束の日が来た。

 何だか朝からソワソワしてしまって、早くから目が覚めてしまった。まだ約束の九時まで三時間近くもある。


 いつもより念入りに服の皺を伸ばし、髪を梳いて、姿見の前でくるくる回りながらおかしなところが無いか確認する。そんなわたしをルナは首を傾げて眺めていた。


 本当は朝食を一緒に、と思ったのだけど、昨日の任務はかなり深夜というか明け方近くまでかかったようで、朝廊下で行き会った第二分隊の人が、アレクさんはつい先ほど帰って来たと言っていた。それでは一、二時間ほどしか眠れないだろう。


 わたしは残念ではあるけど、取りやめか午後からにするか、アレクさんに提案するためにルナを抱っこして私室を訪れた。今なら帰ったばかりで、まだ就寝していないと思われる。

 アレクさんの部屋は、四階のイライアスさんの隣の部屋だ。


 扉をノックするが返事は無い。ルナとわたしは目を見合わせた。もちろん管理人はすべての部屋の合い鍵を持っているけど、イライアスさんの時のように非常識に開けることはしない。あれは本当に緊急的措置であって、わたしはその他の部屋の鍵には触れたことも無かった。

 だけど、少し不安になって、一階に戻って鍵を持ってくるか迷った。そんなことはあり得ないが、もしかして、中でアレクさんが倒れていたらどうしようか、と。


 二回ほど、扉を強く叩いて、名前を読んでみた。元々、任務外の普段の朝は普通に起きられるようだし、最近はどの任務中で寝入っても、自力で起きられるようになっているようで、本当はそんな心配はないのだけれど、一度起きた不安は消えない。


「朝からどうかしたか?」

 隣からわたしの声を聞きつけて、イライアスさんが顔を出してくれた。早朝と言ってもいい時間だけど、朝からきっちりと身だしなみを整えて、眩いばかりにお美しかった。


「あ、おはようございます。アレクさんに用があるんですが、お返事が無くて……」

 わたしが視線を扉にやりながら答えると、イライアスさんは事も無げに階下を指した。

「アレクは先ほど廊下で会ったが、風呂に行くと言っていたぞ。そろそろ戻ると思うが」

「ありがとうございます。じゃあ、近くまで行ってみます」

 首を傾げて言いながら、イライアスさんはわたしに目を向けた。


「何だ、いつもと違うな。服か?」

 そうかなぁ、いつもと同じ気はするけど、そんなに気合入っているように見えるかな? ルナも不思議そうにしていた。


「少しアイロンがけを頑張ったからかな?」

「どこか行くのか?」

「はい。今日お休みなので、アレクさんと街へ出かけるんです。でも、アレクさん、任務で遅かったみたいで、出発をずらすか相談しようと思って」

「ん?」

 正直に答えると、イライアスさんの眉がぴくんと上がった。そして、目を細めてわたしのことを見ながら近付いて来る。心なしか不機嫌に見える。


「アレクと出かけるのか? 二人で」

「ええ。この前、殿下に絡まれたお詫びにって」

 端的に事の顛末を話すと、すぐわたしの目の前まで来て、わたしを見降ろすようにイライアスさんが立つ。

「それで、こんなにめかし込んでいるのか」

「普通ですよ。服もいつものですし、今日は日差しが強くなりそうだからストールを巻いているくらいしか違い無いと思いますけど」

 自分の格好を見て、やっぱりいつもの自分だと思うが、目の肥えたイライアスさんがいつもと違うというのなら、それはいい事だと思った。


 そのわたしの左頬の近くに、スッとイライアスさんの手が伸ばされた。少し長くなった髪が、一房イライアスさんの長い指に絡めとられた。

 ん? 寝ぐせでもついてたのかな?


「……アレクは、普段のお前をこんなふうに変えられるんだな」

「え?」

 言った意味が良く分からなくて、わたしが聞き返すと、イライアスさんは「いいや」と苦笑するように首を振って、髪から手を離した。その手でルナの頭も撫でる。ルナが「きゅわ」と可愛く鳴いたのを見て、イライアスさんの顔からこわばりが消えたようだった。


「俺の部屋の前で、何かあったのか?」

 イライアスさんの後ろから、アレクさんの声がした。

「きゅうん」

「あ、お帰りなさい」

 わたしより先に声に反応したルナが飛び出す。

 と、うわぁ。


 声を掛けようとイライアスさんの横から顔を出すと、そこにはお風呂上りのアレクさんがいた。

 暑いからか、いつもはきちんと着ているシャツは半ばまでボタンが外れていて、少し癖のある黒髪が濡れて、今は掻き上げられていた。

 ルナは遠慮なくそんなアレクさんの腕に走っていった。それを身体を屈めて抱き留めると、ゆっくりと撫でてくれた。


 ヤバいです。朝から刺激が強すぎます。シャツからこぼれ出る彫刻のような胸筋とか、屈んだ時のチラ見せ腹筋とか、どんなご褒美ですか!?


 急に、わたしの視界が真っ暗になった。少し硬い手の感触がする。恐らくだが、イライアスさんが後ろからわたしの目を手で塞いでいる。

 そんなにわたしのアレクさんを見る目つきがダメだったのか……。


「アレク、とりあえずシャツのボタンを閉めろ」

「……暑いんだが」

「ノアの教育に悪い」

 何だ、わたしの教育って?

 確かに、あのままでは痴女級の視線を送ってしまったかもしれないと思えば、イライアスさんの処置は適切だったと思う。わたしの名誉とアレクさんの胸筋を守ってくれたイライアスさんに感謝だ。


 少ししてイライアスさんの手が外れると、わたしの目には、ちゃんとシャツを着たアレクさんがいた。濡れ髪はそのままだったが、刺激物指数はかなり下がった。ルナも片腕に装備されたので、画的にはかなりほのぼのしたよ!


「それで、何かあったのか?」

 先ほどの問いを、またアレクさんが口にした。

「いえ、先ほどまで勤務だったと聞いたので、出発の時間か日付をずらした方がいいかと思って、ご相談にきたんです」

「ああ、心配させたようで済まなかった。向こうでも仮眠を取ってきたし、二、三日なら徹夜でも大丈夫だ」

 いくら楽しみだったからって、遊ぶために徹夜後の人を休ませないって、そんな鬼畜ではないですよ。……二、三日徹夜って。体が資本の職業だからって、無理も良くない。


「でも、少しでも休んでください。いくらでもお待ちしていますから」

 わたしがそう訴えると、あの聖母級の笑顔がさく裂した。

「そうはいかない。今日は、俺が楽しみにしていたんだ」


 わたしがアンデッドだったら、今頃跡形もなく浄化されていただろう。後ろにいたイライアスさんも流れ矢にあったようで、「……なんだ、あのアレクの笑顔は」と呟いている。取りあえず声がしっかりしているので、イライアスさんはセドリックさんの二の舞いにならなかったようだ。


「ノア、あれは本当にアレクか?」

「はい。最近あの笑顔攻撃を習得され、セドリックさんが新しい扉を開きそうになりました」

「そうか。私も久しぶりにアレクのあんな微笑みを見た。子供の時以来だが、アレクは無表情くらいで丁度いいな」

 子供の時のアレクさんがあの微笑みを!? ……天使か?


 イライアスさんの言葉が言い得て妙だった。確かに無表情なら、目つきも怖くないし心拍数も上がらない。イライアスさんは完璧に近い造形で微笑むので予測ができる危険なのだが、アレクさんは普段精悍なお顔立ちが聖母になる落差があるため予測が出来ずに危険だった。


 幼い頃とはいえ、アレクさんの笑顔にいくらか免疫のあるイライアスさんが早々に立ち直った。

「アレクのあの笑顔を引き出せるのも、ノアだからか……」

 独り言のように呟いた言葉は、わたしの耳に届く前に、イライアスさんの口の中で消えていった。そしてその後、ポンとわたしの肩を叩いた。


「本人も大丈夫と言っているし、そんなに楽しみだったのなら、早く支度をしてすぐに出かけて、早めに帰ればいいだろう。この時間なら外で朝食を食べればいいしな」

 おお、それは名案です。

「アレクさんは大丈夫ですか?」

 わたしが再度確認を取ると、アレクさんも嬉しそうに頷いた。

「ノアの準備も出来ているようなら、そうしよう。支度が終わったら迎えに行く」



 そういう訳で、わたしはアレクさんたちと別れて、ルナを連れて食堂へ行った。今日一日ルナをここで預かってもらうからだ。

 人懐っこくてちゃんと言うことを聞くルナだけど、やっぱり街中へグリフォンを連れて行く訳にはいかないからだ。ルナもちゃんと聞き分けてわたしを後追いすることは無い。知り合いも増えたここでなら、一日くらいなら一人でお留守番が出来るようになった。

 こうした時間がどんどん増えていって、ルナは大人になっていくんだろうな。


 イライアスさんにもとても慣れているので、たまに運動に鍛錬場に連れて行ってくれたりするので、ジッとしていることでストレスが溜まることもない。本当にみんなでわたしやルナを助けてくれるので、感謝してもしきれないくらいだ。


 二十分ほどしたらアレクさんが管理人室へ迎えに来た。

 先ほどのシャツ姿ではあるが、普段の見慣れた隊服とは違って、綺麗な形の上着を羽織っていた。イライアスさんもそうだったけど、背が高くて均整の取れた体型だからシンプルな形の服でも盛装のような雰囲気になる。

 どうしよう。格好良くてドキドキする。


 外に出ようとしたところで、イライアスさんに呼び止められた。

「二人とも楽しんで来い」

「はい」

 わたしが返事をしてアレクさんが頷く。

「だが、暗くなる前には必ず帰れ。夕食は必ずここで食べるように」

 え? お父さんですか? もう帰宅を心配されるような年ではないのですが……。


 わたしはキョトンとしてしまったが、アレクさんは微かに笑みを浮かべていた。

「分かった。善処しよう」

 そう言ってアレクさんが手を上げると、イライアスさんも苦笑しながら手を上げて見送ってくれた。


 外に出ると綺麗な青空が広がっている。

 振り返るとアレクさんが笑って、隣に並んでくれた。


 今日もいい日だ!

前タイトルでノアがお色気を発揮出来なかったので、アレクにやってもらいました。

ノアは遠慮なくガン見するタイプです。

イライアスの解呪の時も、照れはしてもしっかりと見てました。

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