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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第5章 二人の王子
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第二王子 3

王太子VS第二王子 あとほんの少しのアレク

 人払いをしたかのように人気の無くなった回廊で、兄弟間で一方的な威圧が続いている。


 白くなったマクシミリアン殿下の手が痛そうで、思わずそれを解したい衝動が起きたが、それはさすがに出会って五分も経っていない平民がやっていいことでないことは分かる。


 わたしの目線の先に気付いたのか、エドワード様が不意にわたしを見て微笑んだ。

 良くない方の微笑みだ。マクシミリアン殿下にとって。


「マックス。黙っていては分からないよ?」

 何を意図しているのかは分からないが、顔はにやけているのに声は詰問する響きになった。それは傍目から見れば一目瞭然なのだが、当のマクシミリアン殿下は俯いていてそれに気付かない。更に殿下の手がきつく握られた。


 マクシミリアン殿下は、どうやらエドワード様が怖いようだ。いや、怖いというより、極度に緊張していると言うべきか。

 それもそうかもしれないと思う。

 わたしはただ聞きかじっただけだが、以前結構大きな会議で失敗した部下の責を負って、その場でエドワード様に叱責された上に退席を命じられたという。それ以来、エドワード様の下風に立たされる事が多くなったと聞く。

 教えてくれたのはイライアスさんで、私見ではあるがと断った上で、あれは第二王子派の増長が目に余る程だったことから、止む無くマクシミリアン殿下を叱責しなければならなかったのだと言った。


 だが、それと今のニヤニヤは別物だ。従魔契約の時のわたしに向けた顔と似ているので、絶対にマクシミリアン殿下で遊ぶ気なのだ。なのに殿下は萎縮してそれに気付かない。


 アレクさんをちらりと見るけど、人の気持ちに聡いアレクさんも、肩を竦めて見せた。やっぱりエドワード様はアレなんだ、と確信した。ただ、アレクさんが止めないところを見ると、変な無体を働くつもりではないのかもしれない。


 ふん、とわたしは息をついて、サッと右手を小さく挙げた。

「あの、失礼を承知で、ちょっとよろしいでしょうか?」

 わたしが声を上げると、弾かれたようにマクシミリアン殿下が顔を上げた。突然何を言い出したんだと、半ば正気を疑われていると思われる表情になられた。

 まあ、ついさっき、ぽってり腹の毛根を精神的方面から摩滅させたと思われるあの氷の態度から、わたしみたいな平民が意見するなど王太子として罰を下すと思われたのだろう。

 いや、エドワード様はとっても怖いけど、何か企んでいること丸見えなので、マクシミリアン殿下が思うことは起きない。それに、とりあえずそんな顔で見られる程の礼儀知らずじゃないよ。


「何だい? 言ってごらん」

 わざとらしくわたしに向かってエドワード様が言う。

 わたしを罰する様子を見せないエドワード様に、マクシミリアン殿下は驚きを見せた。


 エドワード様は、公然の秘密としてわたしの後ろ立てであるのだが、それはわたしが一方的に利益を得ているのではなくて、エドワード様もわたしを利用して派閥のあれこれを有利に進めているから、お互い様の関係だ。わたしには何をしているか言わないけどね。

 多少不興を買ったとして、エドワード様は感情論だけでは動かないので、わたしは自分の言いたいことを我慢しないようにしていた。もちろんそんなことが許されるのは、王族ではエドワード様だけだけど。


「いくら弟君に構ってほしくても、そのような態度では伝わらないと思います」

「……そう来たか」

 何事かエドワード様が呟いたが、ちょっと笑顔が深くなった。あれ、失敗したか?


「はぁ?」

 思わず王族としてどうなの? という反応をマクシミリアン殿下に返された。

「え、違うんですか?だって、エドワード殿下、やけに楽しそうでいらっしゃいますよ」

 わたしの言葉に再びマクシミリアン殿下は絶句し、思わずエドワード様を凝視する。そんなに意外ですか?


「うーん、期待通りのマックスの反応だけど、これはちょっと恥ずかしいなぁ」

 エドワード様を見ると、ちょっと予想外という感じで、珍しくニヤニヤではなく口元を手で覆っていた。ぼそぼそ呟いているようだけど、掌に吸い込まれて良く聞こえない。


 やっぱりと言うか、殿下は嫌いな人間には爽やかな態度しか取らないから、わたしの目からしたらマクシミリアン殿下はお気に入りのような気がする。マクシミリアン殿下には不幸なことであるが。


 エドワード様は、その見た目からは想像もつかないほど、腹の中が真っ黒だ。だから、あのニヤニヤを見せる時は、大概その人で遊ぶ前兆である。ただし、腹が真っ黒でも決してそう見えないよう演技しているので、その腹黒さを見せるということはお気に入りということになる。気に入られた方はたまったものではないが。


 不意にエドワード様がわたしを見てニコリと微笑む。そうそう、こんな感じで気に食わない人間には微笑むんだ。

 ……って、わたしが嫌われているのか!

「まあ、ノアは後でお仕置きかな?」

 え、何で? エドワード様の表情は、わたしに「やれ」って言ってたよね!?

 何か分からないが、エドワード様の虎の尾を踏んでしまったようだ。もしかして、わたしって絶体絶命?


 マクシミリアン殿下を見ると、顔を赤くして口をパクパクさせていた。これは照れているんじゃなくて、何か怒っている? でも、全然怖くない。


「お前、いい加減な事を言うな! ここから摘まみだしてやる!」

 怒りの声と共に、腕がグイッと引っ張られた。が、やっぱり全然乱暴じゃない。あれ? もしかして、エドワード様の言動からわたしの身を案じて連れて行こうとしているのかな?

 何だかちょっとどころじゃなく良い人に思えてきた。


 フラフラとマクシミリアン殿下について行こうとするわたしの反対側の腕が、今度は強く引かれた。エドワード様が反対側を引っ張っている。いや、痛いんですけど!


「ダメだよ、マックス。コレは、私のお気に入り(おもちゃ)なんだから」

 いやー! なんか「お気に入り」に変な文字が付いて見える! こんなに嬉しくないお気に入りって言葉、人類史上あっただろうか。いや、無い!


 それよりも、殿下二人にそれぞれ腕を引っ張られて、わたしは出産とは別の意味で身が二つになりそうだった。


「あ、兄上、お離し下さい!」

「そういうマックスこそ手を離したらどうだい?」

「いだだだ」

 これは、イライアスさんに借りた東洋の伝記にあった、生みの母と育ての母が子供の手を引いて養育権を争う、あの名裁きではないか! わたしは手を離してくれた方について行くと決めた!


「兄上、そろそろお離しください」

「いやいや、お前こそ」

 あれ? どっちも離してくれないの!? ちょ、ちょっと、どちらも引かない時ってどうするの、オブギョウ様!?


 さ、裂けるぅ!


 わたしの耳に、ビリッと不吉な音がした。そうして殿下二人がスコンと後方にすっ転んだ。

 その二人の手には、わたしのお仕着せの上着の袖が握られている。


「うぇぇ」

 思わずわたしの目に涙が浮かんだ。まだシャツが残っているからマシだが、今わたしは上着の両袖が肩から無い珍妙な格好になっていた。


 こんな公共の場所で女性(今は無性別だけど!)の服を剥ぐなんて!

「殿下たちの破廉恥! バカ!!」

 涙声で訴えると、明らかに二人が狼狽えた。二人でポツリと「バカって初めて言われた」と呟く。今更仲良しか!


 それにしても、二人ともまさかこんな結果になるとは思ってもいなかったようだ。いや、二人とも頭いいんだから分かるだろう。

「いや、す、すまない」

「悪かった」

 王子に謝らせるって不敬? 知るかそんなの! 今は乙女心の方が大事だ!


 謝る二人を無視し、そんなジメジメするわたしに、ふんわりと温かいものが被さり、優しく包まれた。落ち着いたウッド系の香りが仄かにした。

「ノア、泣くな」

 えっと、すごい近くでいいお声がするんですが。ドキッとして、思わず涙が吹っ飛んだ。後ろを振り返ると、アレクさんが申し訳なさそうな顔で、自分のマントを脱いでわたしを包んでくれていた。

 ああ、王宮でのお仕事で正装していたんだ。あったかいなぁ。


「すまなかった」

 困った顔で謝罪するアレクさんに、わたしは首を横に振った。アレクさんはちっとも悪くないのだ。

「アレク、ズルいな」

「……」

 尻もちをついたまま、恨めし気にジトッとした目でアレクさんを見る兄弟に、わたしも二人に同じ目をし返す。


「反省してないですね、お二人とも。こんな公共の場で、嫁入り前の女性にこんな無体を働いておいて。お二人なんて頭髪全部枝毛になってしまえばいいんだ!」

 パサパサのモサモサになってしまえ!

 わたしが美形度を下げる全力の呪詛を吐くと、「……嫁入り前の女性」と呟いて呆然とするマクシミリアン殿下とは対照的に、エドワード様は顔を逸らして肩を揺らしている。……笑ってやがる。


「……エドワード殿下とはもうおしゃべりしません」

「そう言うな。反省しているんだ、これでも」

 まだ笑いの余韻のある声で言っても説得力が無い。おまけにわたしの千切れた袖を握ったままだ。エドワード様は身軽に起き上がると、軽く埃を払うようにしてからわたしの前に立った。


「それに、君には感謝しているよ。こうしてマクシミリアンと、数年ぶりに話が出来たのも君のお陰だからね」

 話はしてないような。何か、エドワード様が一方的に責めたてて、兄弟仲良くわたしの袖を引きちぎった覚えしかない。

 あれをして会話というエドワード様の神経を疑う。


 それは同じ思いだったのか、マクシミリアン殿下もギョッとした顔をしている。そして、剣が得意というだけあって、エドワード様よりも身軽に跳ね起きた。


「私は、会話した覚えなど……」

「そうだね。それでも私は、お前が私を見てくれたことが嬉しかったよ、マックス」

 ニコリと微笑むエドワード様に、マクシミリアン殿下はいよいよ耳まで赤くした顔を隠すように、腕で口元を覆った。


「私は、……失礼する!」

 そう言って、マクシミリアン殿下は、脱兎のごとくその場から走り去ってしまった。


 ……わたしの千切れた袖を持って。

またイライアスの本の影響が……。

いろんな説もあるようですが、時代劇で有名なあのお奉行様のアレを拝借しています。

しかし、服が破けたのに、お色気展開にならぬ不思議が。何故だ。

あと、美味しいとこ取りのアレク健在です。


明日もう一話投稿します。

閲覧よろしくお願いします。

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