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ドラゴンズクラウン  作者: niku9
第3章 グリフォン
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わたしは珍獣ではありません 3

ノア、まさかの要因でいろいろとピンチです。

 やっぱり、知ってた! 団長もセドリックさんも言ってないはずなのに。いつから知ってたのか聞くのも怖い。


 わたしは不敬になることも構わずに、思わず殿下を凝視してしまった。すると殿下は、今度は非常に爽やかな笑顔をわたしに向けてくる。その口が小さく動いた。

〝思わず言っちゃった。ごめんね?“

 謝ってるようで全然謝っていない。思わずでもないだろう。完全に笑ってる。


 わたしの目が死んだ魚のようになりそうな精神状態を余所に、謁見の間が水を打ったように静まり返った。

 ヤダ、何この沈黙。


 謁見中だというのに、わたしの素性を知っているオルグレン団長とセドリックさん以外は、みんなわたしの方を見た気配がする。それも、「えぇぇぇ」って感じの残念な空気だ。

 逆にその二人は、わたしの視線に気まずくなって思いっきり顔を背けたけどね。その場のみんなの視線が突き刺さる。もはや珍獣になった気分だ。


「殿下。確か先ほど、『人品は確か』と仰せになられていたかと」

 新手の敵が現れた。今まで静かだったオーウェル公爵が発言する。ちょっと、どういう意味ですか、素敵おじ様!?

 しかし、どんだけ酷い評価なの、うちの一族!まるで、『人品が確か』な人間がいないみたいじゃない。うちの一族って評判良くないと思ってたけど、目の当たりにすると悲しすぎるんですが。


「……まさか、その顔。母は、ザラ・アシュベリーか?」

 正解です、陛下。っていうか、何で陛下がうちの母をご存じなのでしょう。我が母ながら、少し恐ろしくなる。

 そうかぁ、こんなこともバレるのかぁ。従魔の契約の前に泣きそうです。

 ん?陛下の顔がどんどん紙のように白くなっていくよ。


「金色の悪魔ぁぁぁ!」

 父ぃぃぃ! 陛下に何をした!?


 絶叫する陛下にみんなギョッとしている。

 金色の悪魔とは、魔術師団時代の父ユージーンのあだ名だ。呪いのようにわたしに纏わりつく名前だ、つくづく!

 これまでの経験から、母の容姿で素性がバレて、父とノエルの過去の所業でわたしが窮地に陥るようだ。もう、華々しいのは容姿と能力だけにしてほしいわ、うちの家族!


 チラッと見れば、オルグレン団長も「しまった」という顔をしている。そうだよね。団長も母の面影で分かったのなら、他の人もわたしの顔を見て素性分かる可能性あったよね。


 あれ? マズいよね。

 一族のことは仕方ないにしても、普通にわたしの性別が分かっちゃうよね? こっちは、全然バレる心の準備してないんだけど!


「陛下、ユージーンはおりませんから。落ち着いてください」

 公爵閣下が咳払いをして陛下を諌める。何やら事情に通じているらしいが、エドワード様も少し怪訝な顔をしているところを見ると、殿下も知らない父親世代の若かりし頃に何かあったようだ。

 父よ、本当に何をしてくれてるの?


 それよりも、父が王族と顔見知りになるような身分だったって知らなかったんですけど。父方の親戚とはまったく面識がないどころか、どういう家の出かもまったく教えてもらっていなかった。魔術師団にいたことは知っているけど、わたしが知っている父は、それだけだった。

 謎の多い父って、すごい迷惑だな。


 母の顔が売れてるのもアレだけど、わたしのこれまでの少年らしい振る舞いの努力が風前の灯火なんですが。いや、まだわたしが女の子だとはバレていない。大丈夫だ、きっと。


 公爵の言葉で多少の落ち着きを取り戻した陛下は、ちょっと荒い息を整えて、こほんと一つ咳払いをすると、居住まいを正してわたしに声を掛けた。

「取り乱してすまなかった。して、ノアと言ったか。そなたがグリフォンと絆を結んだ者ということか?」

 凄い。さっきの騒ぎがまるでなかったかのような落ち着きぶり。

 わたしは深く頭を下げることで肯定の意を示した。っていうか、それしかわたしに途は残されていないんだけど。


「もっと近くへ。お前の母には世話になった。顔を見せておくれ」

 何だか優しい言葉遣いになった。父の所業は恐ろしくて聞けないが、どうやら母の印象は悪いものではないらしい。

 わたしは「はい」と返事をして少し前に出る。それ以上進むなという所まで行くと、再び膝を突いて一礼すると、今度は請われたとおり陛下に顔を向ける。緊張の瞬間です。


「本当に似ているな。ノア、ノアか。……ん?」

 陛下がその青い目を眇めるようにしてわたしを見て、何が引っ掛かったのか首を傾げた。

「ザラの子供は確か、男児は一人だったと思うのだが……」

 ドキッ!


「エドガーよ。確か、前に何かの交流会で話題になったような気がするが」

 陛下は側に控えるオーウェル公爵に話しかける。エドガーというのか、素敵おじ様。


 すると記憶を触発されたのか、公爵も眉を顰めてわたしを見た。陛下がポソっと呟く。

「確か、三年前の学生の交歓会で、学舎の塀を吹き飛ばした少年がいたような。あと、あの小癪な学園長のかつらも」

 わたしは思わずサッとセドリックさんを見た。わたしの素性が最初にバレた時、確か兄がセドリックさんに絡んだような話を聞いた。それも三年前ではなかったか?

 セドリックさんも思わず口に手を当てて、あさっての方向を向いた。

 やっぱり心当たりあるんだな。そして、わたしの熱い眼差しから逃げる気だ。


 っていうか、塀を吹き飛ばすって、何してるのノエル!

 あと、他人様のかつらって!


「そうだった。前代未聞の出来事だったからな。ふふ、かつら……」

 よほどかつらが印象に残っていたようで。陛下はニヤニヤしていた顔を急に変えて、ポンと手を打った。

「おお思い出した! ……ん? だが、その者は確か、ノエル・アシュベリーではなかった?」

 心臓が、口から出るかと思いました。カタカタと震えだす足を制御するので精一杯のわたしに、ふと殿下が面白そうに笑いやがりました。


 かつらか? かつらで素性がバレたことがおかしいのか?

 もはや、わたしで遊んでいるのを隠す気もないようだ。

 一生恨みます。


「陛下、それは私から説明を」

 怒りのぶつけどころのないわたしを余所に、サッと小さく手を挙げて、オルグレン団長が発言した。ここまでくれば、もう説明をするしかないと、殿下を恨んで現実逃避しようとしているわたしの頭でも分かる。


「ローランドか。そういえばそなたもザラと親しかったな。許す」

 団長の様子に驚いた様子を見せたが、陛下は鷹揚に許可を与えた。団長はその言葉に続いてわたしの隣まで来ると、同じように膝をついてわたしの顔を見た。優しい笑みを見せて、「悪いようにはしない」と小さく囁いた。

 もう、わたし団長について行きます!


「この者は、ザラ・アシュベリーの一女であり、ノエル・アシュベリーの双子の妹でございます」

 とうとう、わたしが女の子であることを明言されました。

「……妹、とな?」

 陛下がわたしを見る。それはそうだろう。どう見ても男の子なんだから。


「はい。先日の、ダルトン侯爵家の一件、と申し上げればよろしいでしょうか」

 あ、それって言っていいことなんですか?

 周りがザワザワしたので、どうやらこの場にいる人達は、あの事件を知っているらしい。ノエルが「話は付けた」的なことを言っていたけど、それには国への報告なんかも含まれていたのか。


 自分の事なのに、そんな大切なことも知らないなんて、つくづく人任せだったな、わたし。だからダメなんだ。


「かの件で、この者は性別を奪われ、現在も元に戻る術もない状況にあります」

 その発言で、団長とセドリックさん、あとにっくき殿下以外は空気が凍り付いた。それも知っているのね、殿下。って、当然だよね、出自知ってたんだもん。


「……そなたの力でも、か?」

 陛下が探るように尋ねる。オルグレン団長はこの国の魔術師の最高峰に位置する人だ。陛下もその力を知っていて、それでもなお解決に至らない事態であることを確認したようだった。

「はい。すでに呪いの域を超えた事態と推察します」

「……それは、また、面妖な……」

 弁舌の立つ王族を持ってしても言葉を失う。わたしの呪いって、そんな常識はずれなものだったのね。


「ならば、その者は身分を偽ったことになるな。処罰に値するだろう」

 突然、ぽってり腹が声を上げた。そうだ、いたんだった。

「『ノア』とは男性名だろう。最初から騙すつもりで名を偽っていたのだろう」

 カチンときたが、侯爵の言っていることは正論だ。

 でも、違うんだ。わたしの言いたいことを察しくれて、団長さんがまた補足をしてくれる。


「恐れながら、そもそもこの者は、名前を偽ってはおりません。彼女の父、ユージーン・ギルモア、現在はユージーン・アシュベリーですが、かの者が名入れを行っておりますから」

 ああ、とその場の年長者が納得の空気を出した。

 ぽってり腹ですら納得していた。娘に男性名を付けるくらい、ユージーンならやるな、と。

 その方向で父は信頼度が非常に高いようだ。絶対に良くない方向だけどね。


「また、呪い関係の繊細な事情と、その事象の特殊性から、魔力探査で知り得たグレンフィル副団長と私以外は、当面伏せておくことが穏当と考えました。かの醜聞で、女性と分かるとこの者の身にも危険が及ぶ可能性も皆無ではなかったので」

 殿下がチラリとぽってり腹を見た。ああ、ダルトン家は侯爵の派閥だったのか。

 って、わたしそんな危険だったの?


 そうか、一大臣の家柄を潰しかねない事態だったんだ。両親やノエルが話を付けたといっても、逆恨みや口封じなんかで、命を狙われた可能性もあったんだ。ダルトンの方では呪いの効果は知らなかったようで、「女性」のノア・アシュベリーでいることが危険だったということだ。


 わたしって、本当に考えが浅くて、本当に情けない。

 悔しくて表情が硬くなったわたしに、オルグレン団長は一度優しい目を向けてくれた。


「それにこの者は、自分の身に起きた不遇のために家族にまで類が及ぶのを恐れ、家を出たようです。一人王都を目指すには、本来の出自を隠すことはやむを得ないことでありました」

 確かに、家族に迷惑を掛けることが嫌だったのが最大の原因だ。その事は、セドリックさんから聞き及んでいるのだろう。


 それに団長さんは、女性が王都で自立するまでの道のりが険しいことを説明してくれた。

 女性は一人旅が制限されている。身の危険が男性の比ではない。職種も男性のように自由が無く、働き口も狭き門だ。すべての女性がそうではないが、大半の女性にとって世の中は不便なのだ。


 初めてはっきりと陛下がわたしに憐憫の眼差しを向けてきた。でも、それはまったく不愉快じゃなかった。だって、そこのぽってり腹の侯爵様のように、あからさまな侮蔑が微塵も感じられなかったからだ。


「ノアよ。辛くは無いか?」

 陛下が直接尋ねられたので、わたしは答えることが出来る。でも、咄嗟には声が出なかった。

 陛下の言葉が優しくて、不意に涙が出そうになったからだ。


「……はい、陛下。故郷を出て、何も持たぬわたくしを、ここにいる皆さまが支えてくださいました。これ以上、幸せなことはございません」


 言えた。いろいろと悪い結末を考えたりもしたけど、結局わたしは今幸せだ。


 それだけでいい。


 わたしが陛下に答えると、陛下は「そうか」と言って笑ってくださった。

前に、いろんなことがバレたらそれは不可抗力だから後悔しない、とノアはカッコいいこと言ってましたけど、まさかかつらでバレるとは。

ある意味、完全な不可抗力。

これには殿下も予想外だったようです。思わず笑ってしまっても仕方ないよね。


ダルトン家ですが、令嬢は何の呪いかを家族にも明かしませんでした。自分の性癖丸出しだからね。身内にバレたら恥ずか死します。

ノエルが関係者を締め上げてますが、それはダルトン家ではなく、魔道具関係者です。ダルトン家自体は別口で締め上げてます。

このことはノエルも口外しませんでしたので、ノアの呪いの効果を知っているのはノエルと両親だけです。その3人が徹底的に情報を封鎖しました。

本家は、呪いの効果を知らなくても、呪いを掛けられた事実だけでこれ幸いと破談を言い出したので、別に内容を知らなくても良かったので、深く詮索してないようです。

直接ノアと接触したセドリックと団長と、特殊な情報網を持っている殿下は知り得ましたが、普通の手段ではまず知ることは出来なかったです。

ノアがずっと家族の庇護を受けていれば、いずれは違和感から周囲は気付いたでしょうが、その前にノアはスパッと家出してしまったため、誰も知らない状況になっていましたとさ。

結果、自立の決断が早かったため、ノアは自分の秘密と共に暗殺の危険からも自分を守れました。

野性の勘ですね。


後書きが長いですね。

書き忘れたことに後から気付いて捕捉するからなんですよね。ちゃんと本文で説明できるように頑張ります。

反省。

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