わたしは珍獣ではありません 2
謁見です。
メンバーがおかしなことになってますね。
最初からノアは投げやりです(笑)
謁見て、普通では会うことが出来ないような偉い身分の人に、いろんな手続きを経て会ってもらうっていう厳格なものだと思ってた。
王太子殿下がお会いしてくれるってだけで、もう庶民からしたら一生に一度あるか無いか(いや無いね)のビックリな出来事なのさ。それがさ……。
「いろいろな日程調整を行った結果、今日、儀式をやってしまおうということになってね」
数段高い位置から王太子殿下が満面の笑みでのたまう。それにわたしたちは、オルグレン団長を筆頭に深々と頭を下げる。
「という訳で、陛下も見学されたいとおっしゃられて、お越しいただいている」
……そうじゃないかと思いました。殿下の左隣、三つある豪華な椅子の真ん中に位置する、特別豪華な椅子に人が座っているのに気付いたら、もうその人しかいないよね。
「という訳だ。滅多にない機会ゆえ立ち会いたい。まあ、余のことは気にせずにな」
殿下の気さくさはこの方似だね。
何か陛下本人は少しほんわかしているけど、下段にいる偉い人達からはムンムンとした敵愾心が発射されている。
いや、実際はめっちゃ怖い目で見てくるのは一人だけど。
陛下たちから一段下がった右側に控えているのが宰相さんで、下段の王族に近い位置にいる二人の偉そうな中年お二人が大臣らしい。大法官のオーウェル公爵、司法省の大臣ゲインズボロー侯爵だ。それと、大神殿から司教が来ている。
国でも上から数えた方が早いような地位の方々だ。あまりの顔ぶれに、跪くわたしの脚はガクガクである。
わたしの感覚では、儀式はちょちょいと騎士団の人と文官さんに立ち会ってもらって終わり、的な感じだった。偉い人は、いても王太子殿下くらいだろうと……。
それが蓋を開けてみれば怖すぎる!
わたしには、もう嫌な予感しかなかった。
「陛下、発言をよろしいでしょうか?」
金色が少し白髪交じりでプラチナっぽくなっている、陛下より少し年上っぽい素敵なおじ様のオーウェル公爵が発言をしたいらしい。鷹揚に陛下が頷く。
「急な招集につき詳細な説明を伺っておりませんが、グリフォンの従魔の儀式ということでよろしいでしょうか」
余程急いで掻き集められたようで、本当に触りしか説明していないらしい。
「私が先の会議で主張したグリフォンを王家に献上する案。あれは、王太子殿下により廃案となった気がしましたが、お早い撤回のようで」
今度の発言は、黒髪が少し薄くなってるけど、逆にお腹が豊かになっているゲインズボロー侯爵だ。何だか突っかかる言い方だなぁ。
「急ぎの要請にも関わらず出席に応じてもらったことに感謝する。ゲインズボロー卿におかれては、不快な思いをされたかと思うが、今回の件は前回の宣言を撤回するものではないことを言い添えよう」
エドワード殿下が、簡潔に説明をする。
今回は、力による服従を迫るものではなく、グリフォンからの自主的な恭順であり、幻獣としての本能を受け入れるものであること。また、王家の名において、私的公的な場での所有を一切行わないことを宣誓すること。むろん、幻獣とその主を拘束、懐柔、使役など、本人たちの意志に添わない強制の一切を何人にも行わせないこと。
それらを王命で発すること。
「もっとも、グリフォンは仲間意識の強い種族と聞く。愚かにも手を出そうとして、グリフォンの群れに報復を受けて、王都を灰燼に帰すような者は無いと思うが」
少し皮肉っぽい笑いを浮かべて殿下が言った。前にも聞いたけど、グリフォンってそんな怖い種族だったと改めて知る。
大人しくアレクさんの腕に収まっているうちの子をそっと見て、いやいやと思う。お母さんもこの子もめちゃくちゃ優しかったよ。個体差ってのがあるんだろうと思う。
「では、肝心の契約者を教えいただきたい。むろん、王家の所有とすべき程の瑞獣を従わせるにふさわしい家格の人間なのでしょうな」
キターーーーーー!
覚悟はしてきたけど、本当に言われた。この面々を見て感じた悪い予感は外れなかった。
このぽってり腹め!
これまでは只の「ノア」で良かったけれど、グリフォンとの絆ができれば、それは誰だということに絶対になる。危惧したとおり、もうわたしが「アシュベリー」であることを隠すわけにはいかなくなった。
グリフォンという希少な幻獣と契約を結ぶということはそういうことだ。全国民に知れるということはないが、少なくとも貴族と名のつく人間には周知されることだろう。もちろんうちの一族にも。
でも、もし殿下を通さずに契約をしてしまえば、恐らく人知れず連れ去られ、洗脳なり隷属の禁忌魔法なりで、人間の尊厳を蹂躙されていた可能性が高い。
それを防ぐことを考えれば、一族にこのことが知られるくらいどうと言うことは無い。
わたしはキッと顔を上げて、不敬と言われようとも殿下を正面から見た。
ふと、殿下が柔らかく微笑んだように見えた。それは一瞬のことで、次の瞬間には爽やかな、でもどこか演技にも見える笑みを浮かべた。
「グリフォンに人間の家格が通用するとは思えないが」
それを嘲笑と受け取ったのか、ゲインズボロー侯爵ははっきりと顔を歪めた。
ああ、殿下とこのぽってり腹は仲が悪いんだなぁ。派閥かぁ。やだなぁ。
「まあ、卿が納得するかは分からないが、人品は間違いのない人間だと保証する」
え? なんで、殿下が保証するの? ここからてっきりオルグレン団長が説明するものと思っていたのに。
「ほう。殿下がそこまでおっしゃるとは。そこな騎士団のどなたかが契約者ですかな?」
その言葉は、明らかにグリフォンを抱っこするアレクさんに向けられている。いやぁ、ごめんなさい。これはわたしのお衣裳を守るための措置なんですわ。
「おお、アレク。そなたが契約者か」
王様登場。やっぱりアレクさんって、王族の人ともがっつり知り合いなのね。そうだよね、王族と血縁の補佐官さんと家格が近いって言ってたし。
「陛下。恐れながら、エインズワース隊長ではありません」
淀みなく殿下が言う。やっぱり殿下には何でも筒抜けなの?
「ん? では何故アレクが抱いておるのだ? グリフォンは孤高の生き物で、主人以外には心を開かぬものと伝え聞いておるが」
「報告では、グリフォンを助けた縁で結ばれたため、人と友好的な意志を持った個体と聞いております」
「何!? それは私も触れられるということか?」
陛下が前のめりになった。あれ~、何かちょっとアレな雰囲気がするよ。
「陛下。その前に契約者を紹介してよろしいでしょうか」
「お、そうであったな」
居住まいを正した陛下に殿下は苦笑した。何かスチュワート陛下って、「陛下」より「王様」って感じだな。親しみやすいって意味でね。
「ノア。前へ」
名前を呼ばれてヒャッとなった。やーめーてー、緊張して足がガクガクですよ。
わたしは何とか全集中力を足に使用して、何とかふらつかずに立ち上がり、一歩みんなより前に出て、また跪いて深く頭を下げた。知ってるよ。わたしから発言しちゃダメなんだ。一応儀式の必要な時以外、喋らなくていい段取りだったし。
ジッとわたしは殿下の言葉を待つ。
「殿下、その令息はいずれの家の方でしょうか」
服、殿下に用意してもらっておいて良かった。とりあえず外見で侮られることは無かった。
「まあ、この者自体は平民であるが、家自体は卿らも良く知っているはず」
大臣や司教だけでなく、王様まで怪訝そうな顔をした。後ろからも数人の動く気配がする。
「平民とおっしゃられたか。なのに我らが知っていると仰せであったが」
まだ食い下がるぽってり腹。
殿下が「にやり」と効果音が付きそうな笑いを浮かべた。
「ああ、この者はアシュベリー一族の者であるからな」
王様可愛いですね。
殿下が優秀過ぎるだけで、陛下は普通にいい王様です。
陛下はみんなを引っ張っていく気質ではなくて、調整がとても上手いので、敵を作らず、相手にも作らせない人です。
王様やってるからにはそれだけの人ではないですけどね。
閲覧ありがとうございました。




