わたしは珍獣ではありません 1
王都です。
謁見の前に小休止……は、出来なさそうです。
あのお方の本領発揮ですね。
帰ってきました王都です。
そんなに留守にしていた訳ではありませんが、何故か懐かしさを感じます。
帰還の報告後、すぐに王太子殿下との謁見が叶うというので、みんな急いで身支度に戻らなければならなくなった。冬だし、日数も長くなかったけど、みんな森や岩場をガサガサしたり魔物を討伐したりしていたので、それなりにヨレヨレではあった。
普通は、団長とセドリックさん、アレクさんとイヴリンさんが謁見に出るらしい。しかしながら、今更ながらだけど、わたしもそれに参加するよう言われた。
ですよね、これ以上はないというほど当事者ですしね。
それぞれが準備のために自分の宿舎へ戻る時、別れ際にオルグレン団長がそっと皆から外れて、わたしに耳打ちした。
「先ほどは人の目があったから、言えなかったが、グリフォンの所有については、ノアの出自を問われる可能性が高い」
そうか、得体の知れない人間が、ひょいと伝説級の生き物と契約したら詮索されるよね。
わたしは、オルグレン団長に頷いて見せた。
例え出自が分かっても、グリフォンと離れることはない。
オルグレン団長は、わたしに「そうか」と言って、優しく目を細めた。
「その他のことは、出来るだけ私も助力しよう」
わたしの呪いの事ですね。ここに居られる可能性が上がるように、オルグレン団長はわたしを助けてくれると言う。
「ありがとうございます」
今のわたしにとっては、とても心強い言葉だった。
もし、全てが明らかになったとしても、それはきっと不可抗力の結果だろう。きっと後悔はない。
その後は、少しだけ心配そうな表情のオルグレン団長と別れ、イヴリンさんやお姉さまたちとは途中の女性用宿舎近くで別れ、残りは独身者のむさ苦しい野郎どもと宿舎に向かった。
あ! そういえばわたし、王族の前に出られるような服無いよ。
みんなは元々身分もあって慣れてるだろうし、騎士団の正装があるからいいけど、どうしよう。管理人の制服は、あくまでお使いであればどこに行っても恥ずかしくない程度のもので、王様に謁見するにはアレである。
周りを見て、わたしは愕然とする。皆さんの私服の趣味は良く知らないが、誰かに服を借りるにしても、どう見てもこの人たちの体型の服がわたしに合う訳がなかった。
業腹だが、一番そういうのに機転が利きそうなセドリックさんに聞いてみた。
「あの、僕、普通の街着の服しか持ってないんですけど」
くいくいとセドリックさんの袖を引っ張ると、しまった、と言いたげにセドリックさんは目を見開いた。
「アディンセル副長のならピッタリじゃない?」
エリオットが自信満々に言うが、すぐに「馬鹿」「アホ」とボロクソに全員から却下された。主にわたしが言った。
確かに唯一合いそうなのはイヴリンさんのものだが、少年っぽい人間が女性服を着て謁見って、どんな素っ頓狂なんだ、わたしは。
騎士さんたちもアレクさんも、盲点とばかりにお手上げの姿勢を取った。そしてセドリックさんは、わたしと同じく周りを見て、明らかにわたしよりガタイのいい人間しかいないことを見て取り、何か考え込むかのようにわたしを視線で上下になぞる。
「付け焼刃だけど、俺のガウンを貸せば何とかなるか」
ガウンは、マントに近い羽織で、下の服をうまく隠せるし、春近しとは言え、まだ暦は冬なのでその格好でも不自然ではない。騎士団ではセドリックさんは華奢な方なので、辛うじてガウンなら着られそうだ。わたしは有難くお言葉に甘えることにする。
こういう時だけは、何故かとっても頼りになる人だ。
「ありがとうございます。こういう時だけ頼りになりますね」
「……正直にも程があるね。いいよ、君がその気なら、メイド服とか着せちゃうからね」
「持ってるんですか?(軽蔑の眼差し)」
「貴族の嗜みだよ」
変態だ、ド変態だ、と周りからも小さな声が聞こえてくる。中には貴族の方もいらっしゃるので、一般的な貴族の嗜みではないようだ。グリフォンすら「ぴぴぃ」と非難を込めた声で鳴いている。
そんな声など聞こえていないかのように、セドリックさんはちょっと機嫌良く妄想を口にする。
「少しスカートが膨らむやつがいいかな?」
「誰得なんですか、それ」
「え、普通に俺は嬉しいよ。君ならギリで女の子の恰好いけると思うし」
「……ギリギリなんですね」
ヴィクター君あたりなら全然いけそうな気がするので、何故かとっても不満です。
「急ぎで一番綺麗な服を着て、俺の部屋においで。合いそうなの貸すから」
「はい。お願いします」
わたしがいろいろなむしゃくしゃを飲み込んで部屋に帰ろうとすると、宿舎の入り口に知っている影を発見した。
「あれ?ヴィクター君?」
あれからすぐに帰って来たのだろうか。森で会った時と全く違って、綺麗な装いでヴィクター君が立っていた。
「どこにでも出没する鳩だな」
あまり聞き取れなかったが、ボソッと言う声音から、セドリックさんが文句を言っているようなのは分かった。
あれ? 仲悪かったっけ?
「皆さま、遠路お疲れ様でした。エドワード殿下よりこちらをノア様にお渡しせよと申し付かっております」
事務的な声でヴィクター君が手に持っていた箱をわたしに押し付けた。箱の角が鳩尾に軽く入って、「ぐは」と声が出た。わざとかな? わざとだね。
でも、殿下からの預かり物ってそんな扱いでいいの?
「それでは皆さま、謁見の時刻に遅れぬようお願いいたします」
ちょ、何か一方的に渡されたんですけど。
戸惑うわたしたちなど知ったことないとばかりに、ヴィクター君はさっさとその場を去ってしまった。急展開にわたしたちは目をぱちくりさせるばかりだった。
「……とりあえず、開けてみなよ」
まさか危険物や呪いの品でもなかろうが、セドリックさんの言うことももっともなので、とりあえず蓋を開けてみた。
「…………服ですね」
「うん、服だね」
「殿下が怖いな」
雁首並べて箱を覗いて、ぼそりと言ったアレクさんと、みんな同じ気持ちになった。
で、着替えてきた訳ですが……。
「…………ピッタリなんですけど」
「うん、ピッタリだね」
「殿下が怖すぎるな」
みんな同じ気持ちですね。
いや、意匠凝らした素敵な服ですよ。ジレもひらひらのシャツもタイもトラウザーズもわたしにピッタリですとも。おまけに、高級革のような光沢のブーツも、わぁピッタリ!
でもね、最もわたしたちを恐怖に陥れたのが、謎のキラキラした石が嵌まったタイピンとかカフスボタンとかなんですよ。わたしの年収だと、何年で買えるでしょうか。エリオットなど、ガクガクブルブルと震えている。
「……これ、貸してくれたんですよね?」
「……ん、まぁ、そうだね」
「失くすなよ」
的確なアレクさんの指示にビシッと敬礼を返す。
謁見が終了し次第、完全無傷で全力返却いたします!
光物に魔石を思い出したのか、興味津々のグリフォンがわたしのカフスボタンにじゃれ掛かるのを、アレクさんが全力で抱えて止めている。
そうだ、決して触れることなかれ! わたしの命が掛かっているからね!
そしてわたし達は、イヴリンさんと合流した。
「ノア、いつ仕立てたの、その服。すごい似合ってるわよ」
善意の発言であろうイヴリンさんの意見に、その場にいた男性陣は更に凍り付いた。
そうなんです。まるでわたしのために仕立てたみたいなんですよね。
ははははは。
殿下、なんでわたしのサイズをご存知なんですか?
はい、殿下のやべえとこまた出ました。
いったい、いつ作らせたのでしょうね。
スリーサイズ、いつ測られたんでしょうね。
宝石類、いくらするんでしょうね。
というわけで、殿下は紛う事なき危険人物です。
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