お持ち帰り 2
今回の主役は団長です。
本隊は、また例の宿砦を拠点にしたようで、わたしたちは宿砦へ戻った。
グリフォンに攫われた時はあっという間だったが、巣から宿砦までは険しい森を抜けなければならないので、三時間ほど掛った。
直線にして十キロ程だったが、途中何度か魔獣にも出くわしたし、沢や崖もあり、とても真っ直ぐにだけ進めばいいという訳にいかなかったからだ。休憩を挟みながらも、それでも信じられないくらいの速さで宿砦に着いたと思う。
迎えにきて下さった皆さん、本当にご迷惑をお掛けしました。
隊を二つに分けたのも、あの後、街道にちらほらと魔獣が出没し、それを討伐する人員も残さなければならなかったからとのこと。オルグレン団長が言うには、この辺りの主であるグリフォンが普段行動しない場所に移動したことから、魔獣の縄張りが変化したのではないか、とのこと。
お母さん、かなりの大物だったんだね。
宿砦では、わたしたちの姿が見えると、全員で外まで出てきてくれた。
オルグレン団長がわたしの抱えるグリフォンを目敏く見つけ、突然盛大なため息をついた。なんで?
「団長、言いたいことは分かりますから、取りあえず説明を」
何故か自分を常識人みたいな感じに見せるセドリックさんが仕切り、皆を宿砦の中に促していた。
昼時ということもあったので、わたしを含めた若手は軽い昼食の用意をして広間に集まった。晴れた昼下がりなので底冷えすることはないが、温かいものがあると活力が違うので、簡単なミルクスープを作ったよ。時間が惜しいので、後は携帯食と干し肉を齧ってもらう。
グリフォンは料理の間、アレクさんが預かってくれた。どうも女の子らしく、お姉さまたちには気を許しているが、全般的に男の人が嫌いで寄っていかない。特にセドリックさんとエリオットへの態度はあからさまだ。だけど、何故かアレクさんにだけは懐いている。
皆が集まったところで、セドリックさんが、わたしが話したことと自分たちで見たことを交えて団長へ説明をした。
うん、分かりやすい。あの態度さえなければ出来る人なんだけど。
話が従魔契約に及ぶと、オルグレン団長は思慮深げにわたしを見た。
「私個人としては、グリフォンが人間と友好な関係を築いてくれることはとても嬉しいことだ。だが、国の中枢に近い身分から言えば、君を利用しようとする人間が出てくると危惧している」
団長が言うことは理解できる。
従魔士の女性騎士に聞いても、過去に数えるほどしか例の無い高位の幻獣との契約は、リリエンソールの国外にも影響を与えるものだ。過去の例から見ると、主以外の人間と再契約することは無いし、主を傷つけられた幻獣が城塞都市を一つ滅ぼしたこともあることから、わたしを害してグリフォンを奪おうとする人間はいないと思うが、武威行為に利用したり、わたしを他のグリフォン捕獲に利用したりするかもしれないと言うことらしい。
最悪は野生の他のグリフォンを捕獲し、この子の番にして従順な子孫を得ようとすることだ。これだけ人に慣れる様子を見せられれば、確かにそう考える人間は必ず出てくるだろう。
わたしは、グリフォンにそんなことはさせたくない。人間の女の子とは感覚が違うかもしれないけど、できれば自然に出会った番と結ばれてほしい。成獣になるまでには数年を要するだろうから、今すぐ起きる心配ではないだろうけど、王都に連れて行くことが本当に良いことか分からなくなった。
わたしは最初、グリフォンを養う場所の心配だけにしか頭が回らなかったので、そもそもの大きな危険に思い当たることすら出来なかった。セドリックさんはある程度気付いていたようだったが、それにしても問題は思わぬ方向へも飛び火しそうだった。
わたしが落ち込んでいると、オルグレン団長はわたしの不安を取り除くように、その穏やかな顔に優しい笑みを浮かべてくれた。
「だから、面倒なことをエドワード殿下に押し付けてしまおう」
「は?」
わたしが意味を捉え損ねて間抜けな声を出してしまった。
「エドワード殿下は既にグリフォンの所有を否定された。それはあくまでグリフォンの本来の生態を脅かさぬようにという意図だが、恐らくこのまますぐに契約を交わして王都に連れかえれば、それがいくらグリフォンが望んだこととはいえ、王家の意思に反したと貶める輩が出てこよう」
確かにそうだ。「自然のままに」と殿下がおっしゃったのは、グリフォンの望まぬ行為を禁止する言葉だが、魂を掛ける行為である契約はグリフォンにとって自然の理の一部とは言っても、「強制的に従わせた」と言われてしまえば証明する術はない。いくらオルグレン団長程の方が証言しても、口裏を合わせていると言われてしまえばお終いだ。いや、かなりの高確率で糾弾の材料となる。そこから難癖をつけられる可能性もあった。
そうなれば、わたしに直接の被害は無くても、団長やひいてはエドワード殿下にも飛びすることは必至だ。
「だから、契約自体を王家の立ち合いの下に行って、完全なグリフォンの意志であることを示したうえで、殿下に直接グリフォンの保護をしてもらう」
断言してからオルグレン団長は、わたしの後ろの方を見て、深い笑みを浮かべた。
「幸いにして、殿下への連絡手段は、銀の伝書鳩がいるから心配ないようだしな」
わたしたちが王都に戻るまでにその準備は完了しているだろうと言われた。
銀の伝書鳩って何だろう。魔道具全盛の時代に鳩を飛ばすの?
何が何だか分からないが、セドリックさんは深く頷いていたので、その手段とやらが分かるのだろう。魔術師同士の暗号かもしれないけど。
「迅速な手続きが取られるだろうが、全てが終わるまで油断は出来ない。そのグリフォンは君がしっかりと守りなさい」
オルグレン団長の手がわたしの頭に伸ばされ、ポンと勇気づけるように弾んだ。
「はい!必ず」
本当にこの人はわたしに信頼をくれる。わたしの声にもそれがにじみ出たのか、それまで大人しく話を聞いていた仔グリフォンが、追従するように「きゅん」と鳴いた。
それを見たオルグレン団長は、先ほどよりも急に神妙な顔になった。
「ところで……」
わたしの腕の中にいる仔グリフォンを見て、オルグレン団長は急にソワソワしたように切り出した。
わたしが不思議そうに首を傾げると、団長ははにかんだように上目遣いでわたしを見た。
「私もその子を、撫でてもいいだろうか」
わたしはオルグレン団長に殺されかけました。あまりの団長の可愛らしさに、息の根を止められるかと思いました。アレクさんといい、団長といい、いったいわたしをどうしたいというのだろう。見れば、従魔士のお姉さまたちだって、ポッと頬を赤らめている。
これだから大人の魅力がある人は困る。
仔グリフォンをそっと渡すと、仔グリフォンは男性が苦手だったが、オルグレン団長にはちゃんと撫でられていた。これが人徳というものだろうか。
アレクさんとオルグレン団長、友好的な態度を取る人間を見ていると、グリフォンはどうやら人柄で対応が違うようだ。セドリックさんへの塩対応からそれは明らかだろう。
エリオットは……、弱肉強食の自然の摂理だ。うん。
ほんわかと微笑みながらグリフォンを撫でる団長を見て、全員が胸を打たれた。
王都への帰り道が、それはそれは和やかな雰囲気となったのは、言うまでもないだろう。
団長、可愛いかよ。
でも本来の団長は、「殿下に押し付ける」とか言ってたように、結構シビアです。
じゃないと、人の上になんて立てないよね。
とりあえず、次回は王都に帰ってきます。
また閲覧いただけたら嬉しいです。




