お持ち帰り 1
やっと、やっとタイトル回収しました。
何が「ドラゴンズクラウン」やねん状態でしたが、何とか出せた!
わたしを始点に円を作って、皆さんは会議を始めた。
ちなみに、セドリックさんには、頭と肩を粉砕される寸前まで掴まれて、わたしが白目を剥いたところで許された。本気でお花畑が一瞬見えた。恐ろしいひと時でした。
わたしは、皆さんに事情を説明するため、巣の外の地面に腰を下ろして、昨日からの出来事を話した。もちろんヴィクター君のことは除いてだ。
「ふーん、なるほどね。文献によると、幻獣は大気中の魔素を取り込んで糧としているようだから、卵は何等かの理由で魔素が不足して孵らなくなってしまったのか。一匹は無事に生まれたようだけど、もう一匹が孵るのに不足した魔力を魔石で補おうとしたんだろうね」
セドリックさんが、わたしの話をまとめてくれた。
わたしが頷くと、魔術師さんと一緒に考え込むような素振りになった。
「で、魔石を集めたけど、瘴気で穢れていて使うことができずにいたところ、宿砦から連れてきたゴーストが落とした魔石をノアが浄化したところに出くわし、グリフォンの子供がそれを奪ってきたが卵が孵るまでに至らなかった、と」
わたしも気付かなかったが、ゴーストの魔石は最初穢れていたらしい。小さな魔石だったから拾い上げた途端浄化されていたので、最初から綺麗な魔石だったと勘違いしていた。
仔グリフォンは、たまたま近くを通りかかったところで、綺麗な魔石を持つわたしを見つけて、これなら卵が孵るだろうと持ち去った。でも、その魔石だけでは足りず、集めていた魔石を浄化してもらおうとわたしを探していたらしい。
街道でのグリフォン出没事件の真相はこうだったようだ。
仔グリフォンが肯定するように小さく鳴く。心なしかドヤ顔に見えるんだけど。本当に人間の話が分かるんだね。
その仔グリフォンは、現在お姉さまたちの膝を行ったり来たりしている。すっかりグリフォンの魅力の虜になっているようだ。本当に人懐っこいねぇ。
ただ、エリオットだけは、手を出して撫でようとしたら本気で噛まれてた。「何故!?」と言ってかなりショックを受けていた。野生動物は序列に敏感だからねぇ。
「それで、この後はどうなるんですか? 一応、人間に害をなすために街道に現れた訳でもないし、子供がはぐれた訳でもないので保護の必要もなくなりましたし」
わたしは、この捜索隊の目的を思い出して、ふと問いかけた。
アレクさんとセドリックさんが、お互いに顔を見合わせて頷く。
「今回は、物証の魔石だけ確保して引き上げることになるだろうね。一部では、貴重なグリフォンを捕獲せよという声もあったけど、エドワード殿下の一声で自然のままでいさせることになったし」
セドリックさんが、わたしが知らなかった裏事情を話してくれた。
何でも体色の白が勝っているグリフォンの種は珍しく、王に献上するのが相応しいという話があったけど、王族のエドワード様がきっぱりと断ったらしい。自然は自然のままにって。なんか、最初にあった時からちょっと迷惑……畏れ多いと思っていたけど、ちゃんと道理の分かった人だったんだなぁと考え直した。
「良かったね。君たちはこのまま暮らしていけるよ」
仔グリフォンにそう言うと、お姉さまたちから離れてこちらへ寄って来た。そしてわたしの前へ来ると、何故か悲しそうな声を上げてわたしを見上げる。
「どうしたの?」
尋ねると、急にわたしの右手首を甘く噛んだ。痛くは無いけど驚いたので「あ」と小さく声を出してしまった。そしてそのままわたしの袖を引っ張るような仕草をする。
「急に噛んでは駄目だ」
わたしの隣に座っていたアレクさんが、仔グリフォンを抱いてわたしから離す。そしてグリフォンを膝の上に置くと、目を見るようにして小さく叱った。すると、グリフォンは反省をするようにアレクさんの大きな掌に頭を擦りつけた。悪戯を叱られた子供みたいで、アレクさんにごめんなさいしている。なんだか親子みたい。
微笑ましくて、わたしも仔グリフォンの頭を撫でる。
「ありがとうございます、アレクさん。でも急にどうしたの?」
仔グリフォンに尋ねると、わたしに一生懸命訴えてくる。
「え? 僕と一緒に行きたい?」
どうやらわたしに付いて行きたいらしい。先ほどわたしが言った言葉で、お別れを言われたと思ったらしく、引き留めるために袖を引っ張ったようだ。。
「でも、君はまだ小さいし、お母さんも心配するよ?」
決して嫌な訳ではない。むしろ嬉しい。
でも、わたしと一緒にくれば人間の社会の枠に閉じ込められて、自然のまま生きることはできなくなる。そう説得するが、仔グリフォンは一緒に居たいと言ってくれる。
わたしは困ってお母さんを振り返ると、お母さんがのそりと近寄ってきて、わたしの頬に嘴を擦りつけた。うちの子をよろしくって言われた。
「ねえ、ノア」
困惑するわたしに従魔士のお姉さまが声を掛けてきた。
「もしかしてだけど、その子、あなたとの従魔の契約を望んでるんじゃない?」
「え?」
従魔の契約。それは、力で従わせたり何かを与える条件だったりと様々な方法があるが、魔獣や時には幻獣と主従の契約を結ぶものだ。
幻獣を含めた魔獣には強い者に従う性質があり、主と認めた者には家族より強い絆ができるという。大半が力でねじ伏せて行う契約であるが、それでも主と認められれば服従するのだ。小さな魔獣なら庇護下に入ることを目的にそうしたこともあるようだが、それをグリフォンのような高位の幻獣から持ちかけるのは異例のことらしい。
最も有名な従魔契約は、この国の建国王であるアーサー王と古龍との従魔契約だ。
アーサー王は、「ドラゴンズクラウン」というこの世の最強種である古龍ですら従える強大な魔力を持った王で、時の竜種の長である聖竜と従魔契約を結び、この地で暴虐の限りを尽くしていた邪竜アルストラを共に封じ込め、混沌としていたこの大陸を一つの国にまとめたというものだ。
伝承では、この時のアーサー王と聖竜との関係は対等で、聖竜から持ちかけた契約だったと言われている。
人語を解し、魔法を使うような高度な知能を持つ魔獣や幻獣からの契約は、服従ではなく真に心を通わせた契約であるため、ただでさえ希少な種族で遭遇率も低いことから、滅多なことではこういう状況にならないらしい。
「ノアにはきっと、家族を助けてもらった恩を感じているんじゃないかな?」
私たちも初めての状況だから正確には分からないけど、とお姉さま方が顔を見合わせて言う。わたしはアレクさんの腕の中にいる仔グリフォンに尋ねた。
「ねえ、僕と従魔の契約を結びたいの?」
「ぴー!」
いささかわたしの語尾に被せ気味に肯定してきた。
「そうか。でも、僕は今雇われの身なんだけど、今の場所で暮らせなかったらどうしよう。セドリックさん、宿舎って幻獣を置いてもらえるんですか?」
問題はそこだ。実家なら敷地は無駄に広いし、獣舎もあるからお母さんサイズでも全然大丈夫だけど、宿舎は従魔を飼っていい規定なんて無かった気がする。仔グリフォンとは一緒にいたいけど、契約した後にやっぱり駄目でしたでは済まされない。
この中では一番宿舎に詳しそうなセドリックさんに聞いてみた。
「うん、まあ。従魔士も宿舎に入るから、絶対にダメということはないだろうけど、所属兵士以外の従魔を獣舎に置けるかどうかは分からないな」
やっぱり駄目か。わたしが肩を落とすと、セドリックさんが慌てて付け足す。
「いや、グリフォンほどの幻獣を従魔にするなら、特例で認められる可能性が高いよ。元々瑞獣として王族へ献上を考えられていただけあって、王都に連れて行けば嫌とは言われないだろうね」
そうか。少し王都で一緒にいられる兆しが見えてきた。
「ノア」
うんうん、と頷いていると、従魔士のお姉さま二人がわたしを心配そうな目で見ていた。
「はい」
「魔獣や幻獣はね、強いものに従うのが本能みたいなものだから、従魔というものは珍しいものでもなんでもないけれど、その子のように自分から慕って従魔になると決めた子は、主を得られないと命すら縮めてしまうの」
突然の話にわたしは絶句した。周りの皆も初めて聞く話なのか、驚いた表情をしていた。
「本能よりももっと深く、魂に刻む行為だと私たち従魔士の間では言われているわ」
今回の任務では自分たちの従魔は探索の妨げになるため連れてこなかったというが、野獣と違って従魔たちには本能以外の心が芽生えるのだという。従魔士との絆を結ぶことによって、意思の疎通ができ、時には体の一部のように感じられると言うのだ。
「だから、私たちもあなたたちが一緒に居られるよう上に掛けあうから……」
その子を従魔にしてあげて。
そうか、と思う。従魔って、ペットだとか戦力だとかそういうことじゃなくて、魂を分かち合う自分の半身なんだ。
わたしは、胸が熱くなって力強く頷いた。
この子はわたしをそんな大切なものに選んでくれたんだ。嬉しさで胸がいっぱいになって、言葉がなかなか出てこなかった。
「はい。覚悟はできました。例え宿舎にいられなくても、仕事もこの子も投げ出したりしません」
最終手段は、実家に頼み込んで、学院の卒業まで親が管理してくれているわたし名義の貯金を解約してもらおう。一応、学生業の傍らいろいろな仕事を経験していて、特に冒険者のおっちゃんとの旅ではひと財産築いた。魔物の素材やら鉱石やら、上級者の潜るようなダンジョンにも挑んで、おっちゃんのお零れながら結構な額になった。郊外なら庭の付いた家を借りることも出来るだろう。
でもそうなる前に、家に連れ戻されてしまうかもしれないけど。
ちゃんと話をしよう。父さまも母さまも自立心の強い人たちだから、心を尽くして話せば分かってくれる、かも。
「取りあえず、一度本隊に合流しないか? オルグレン団長にも相談してからの方が、グリフォンの処遇も決めやすいだろう。それに、単に居場所だけを確保すればいいというものでもないだろうからね」
セドリックさんが建設的な意見を言う。少し不穏な言葉があったが、確かにその通りだと思う。このまま安易に話を進めても良くない。
全員一致した意見のようだったので、わたしは一つ頷くと、お母さんに挨拶をした。
「この子、大切にします。大事な子を預けてくれてありがとう」
近寄ると、お母さんは肩に嘴を擦りつける。わたしはたまらず、お母さんの首に抱き付いた。
「また、遊びに来てもいい?」
わたしが尋ねると、「くえ」と優しい声で許してくれた。
お母さん、大好き。
仔グリフォンは、野生の動物故の淡白さなのか、あまりお母さんとの別れを惜しむ様子も無く、わたしに早く行こうとばかりにコートの端を噛んで先を促した。
わたしは苦笑しながら仔グリフォンを抱き上げ、お母さんを振り返った。
「またね!」
お持ち帰りとは、グリフォンのことでしたね。
ノアは、家出で持ち出したお金は、本当にお小遣いでした。
郊外に広い庭付き一戸建てとか、サラリーマンの夢かよって感じですね。(古い?)
タイトル回収ですが、やっぱりまだ分かりませんよね。
いや、でもバレバレかな?
ブクマ、評価ありがとうございます。
また閲覧よろしくお願いします。




