グリフォンの目的 2
ざわざわ続きます。
そして事件が……。
みんなが不穏な空気に押し黙る中、初めて見る大きさの魔石に、わたしは物珍し気に顔を近づけて見ていたが、ふと濁りの隙間から小さな光るものが見えた気がした。
「あの、ここ。何か光ってます」
わたしが指さすと、周りの人が同じように顔を近づけて見る。でも、わたし以外見えにくいのか、不思議そうな顔をしていた。
「これ、素手で触っても大丈夫ですか?」
魔石を持っているアレクさんは手袋をしているが、わたしは皮手袋を取りに行くのも面倒なので聞いてみる。すると、少しくらいであれば大丈夫とのこと。
光っているものの表面が曇っているように見えたので、わたしは指先でそっとその曇りを拭うように触れた。すると、なんてことでしょう。魔石の中に凝っていた濁りが薄れた。
皆が息を飲むのを感じる。
「ノア。もう一度魔石に触れてみてくれないか?」
オルグレン団長がいつもの落ち着いた口調ではなく、少し性急に頼んできた。
わたしは言われるがままに、今度は掌で魔石を撫でた。その度に魔石は濁りが消えていく。わたしとしては汚れを拭っている感覚なのだが、オルグレン団長もイヴリンさんも後から来たセドリックさんもびっくりしている。
「ノア、君は聖属性の魔力は無いはずだったのでは?」
「え、はい。ありません」
オルグレン団長が確認するが、わたしには今も昔もそんな高等魔力は無かった。
「だが、君のこれは、浄化だ」
「……はい?」
浄化は、希少まではいかないが珍しい部類の魔力だ。多くはない治癒魔法よりも珍しい。
この中の錚々たる面子でも使えるのはイヴリンさんだけ。それもこれほどの濃い瘴気は手に負えないらしい。
「もう一度それに触れてくれ。その間の魔力の流れを見せて欲しい」
「はい」
オルグレン団長の言っていることは、頭に手を置くアレをやりたいということだ。わたしは頷くと、アレクさんから魔石を受け取った。そして、オルグレン団長が手を置いてからまた魔石に触れる。
その濁りはわたしが撫でるごとにどんどん薄くなっていき、とうとうすべての濁りが取れ、中から綺麗な光が現れた。
これは、アビーちゃんに憑いたゴーストの魔石に宿っていた光と似ていた。
みんながその魔石の綺麗さに目を奪われていたが、オルグレン団長がため息をつくと皆は団長さんに注目した。
「どうでしたか?」
セドリックさんが代表して聞くと、オルグレン団長は難しい顔をしてわたしを見た。
「瘴気が君の中に入っていくのは見えた。だが、君から魔力は一切感じなかった」
あれ? この現象聞いたことがある気がする。っていうか、昨日聞いたばかりだった。
わたしの呪いが発動している時も、まったく魔力の動きはなかったという。
「この魔石の中の光は、完全に無垢なる魔石に宿るとされている生命の光だ。魔力が発動していなかったにも関わらず、この魔石は完全に浄化されたということだ」
「……それは、どういうことですか?」
またもセドリックさんが私に代わって聞いてくれた。
オルグレン団長は、無言で首を横に振る。
「分からない。ただ言えることは、ノアの中に入った瘴気は、一片たりともノアの体に残っていないということだ。ちなみに、ノア、君自身は何か身体に違和感はあるか?」
瘴気を取り込んで無効化するということかな? わたしは何も感じるものはなかったので、何もないことを告げる。
オルグレン団長はまた深い溜息をついた。
「分からないことだらけだ。とにかく、ここでは何も結論が出ない。王都に帰ったら、原因の解明が必要になるだろう。とりあえずは、今日は休もう」
先送りの結論だが、確かにこんな何も設備のないところでは何もできないだろう。
わたし、この先いったいどうなるのでしょうか。
辺りも暗くなり始めたので、みんな釈然としない様子ながらも、昨日の宿砦に戻る準備を始めた。
オルグレン団長が「大丈夫だ」と言って肩を叩いてくれて、イヴリンさんも「協力する」と言ってくれた。セドリックさんですら真面目に頷いてみせてくれて、みんなわたしを安心させてくれようとする。
最後にアレクさんが、わたしの頭を撫でようとして、自分の手がカトブレパスの血糊と脂で汚れていることに気付いて、慌てて手を引くと、苦笑しながら「心配するな」と言ってくれた。わたしも小さく笑った。
その時、突然突風が吹いた。みんなが一瞬顔を砂ぼこりから背けた時、わたしの身体が急に浮いた。
「え?」
痛みはないが、お腹に凄い圧迫感を感じ、視界が急に高くなったのだ。
「? ノア!?」
アレクさんが驚きに目を瞠って、すぐに剣を抜こうとする。でも、血糊で滑ったのか、剣を抜く前にわたしとアレクさんの距離がグンと遠ざかった。
「ええええええええええええ!?」
わたしは魔石を持ったまま、何故か上空へ昇っていた。後ろを振り返ると、そこには鷲の頭をした大きな獣がいて、わたしを咥えて空に舞い上がったのだ。
「グ、グリフォン!?」
ずっと探していた幻獣が、わたしをそっと咥えて空を飛んでいる。
地上にいた人たちが、何かを叫んだり攻撃のような動作をしたりしていたが、あっという間にそれも見えなくなっていった。
「にゃあぁぁぁぁ!」
自分でも何故上げたか分からない悲鳴を上げながら、わたしは幻獣に拉致された。
やってくれました。
ノアは事件を起こしてなんぼです。
グリフォンの目的はやっぱりノアでした。
ノアは無事に戻れるのか?
そしてノアの財産は帰ってくるのか?




